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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第40話 うふふ、私たちの仲を邪魔する者は…って、勝手に話を進めるなーっ!

 俺は所長だと名乗ったドグニゴーという男に向き直りながら状況を整理した。

 最初、この部屋を出たときにはティルクもマーモちゃんもいたのに、振り返ったときには誰もいなくて、次に部屋に戻ろうとしたときにはドアが消えた。

 つまり、俺が認識したことを状況が後追いで対応している。

 奴は俺に同化していて、俺が認識したことに対して何らかの能力で俺の認識を歪めている訳で、ティルクを警戒しているのは、神聖魔法を使われるとドグニゴーの魔法の効果が削がれてしまうか反撃されるか、重要なマイナスの影響があるということなんだろう。

 つまり、この魔法は同じ神聖魔法には結構脆いのかもしれない、


 現在、ドグニゴーの周りに仲間がいるのか分からないが、もし仲間がいるならこんな後追いで戦力の分断なんかやっていないはずだし、神聖魔法が使えないと勝ち目がないなんて意味のないネタばらしのようなことも口走っていないはずだ。

 だが、分断されてしまった後にどうなるかが分からないのだから、今はとにかくティルクのことが心配だ。

 だって、ティルクはさっきの戦いで結構消耗させられてあんまり魔力が残っていないのに、確保対象だとドグニゴーが明言してしまっているのだ。


 ──後から考えると、この時の俺の頭に血が上っていたのは幸いだった。

 どうしようかばかりを考えていて、何ができるのかを考えていなかったからだ。

 俺が最初から強力な神聖魔法が使えることを前提にどう対応しようかなどと考えていたら、きっとドグニゴーに考えを読まれて先手を打たれていただろう。


 俺はまず、俺が完全にドグニゴーの魔法にかかっているのはレベルの差がありすぎるからだという話に抵抗して、ドグニゴーへの攻撃を開始した。

 風魔法を纏って視界に入るエリア内を飛んで確認しながら土魔法で作った弾を風魔法でそこら中に撃ちまくり、めぼしい構造物に雷魔法を落とした。

 そして、収納空間でそこらの目に付く岩場を片端から異空間へと収納して回った。


 最初は何ごとも起きなかったのだが、いきなり周囲の景色がなくなって、何もない乳白色の空間がただ広がっているばかりとなり、そこにティルクが現れた。

 ティルクは宙に浮いたままキョロキョロと周りを見回していたが俺を見つけると飛んできた。

「姉様、さすがです! 」

 さすがです? 何が。


 俺が訝しんでいるとティルクが説明してくれた。

「あの男、神聖魔法の上位魔法に当たる神性魔法が使えるとかで、私をイヤラシい雰囲気の空間に閉じ込めて私が新世界の聖女になるんだとか、よく分からないことを言い始めていたの。

 碌なことを意味していないだろうことは分かっていたから早く姉様と合流したいと思ったんだけど…… 」

 ティルクが掌を上に両手を上げて処置なしといったポーズを取った後で近寄ると、するりと俺の腕を取って頬を腕に擦りつけた。


(???? )

「私、さっき魔力を吸われてまだ疲れていて、思うような抵抗ができなかったんだけど、姉様が暴れてくれたせいで戻って来れました。

 姉様、嬉しいっ。」


 ティルクが俺に抱き付いてきて、顔を上向けてきて……

(ちょっと待てっ! ティルクは絶対にこんなことはしないぞっ。)

 近づくティルクの唇を前に、俺はどういうことか一生懸命に考えて、そしてオートモードセーブをオンにした。

 触れているティルクの唇を通して、狼狽(うろた)え混乱しながら、それでも何故かもうちょっと、などと考えているティルクの意識が頭いっぱいに伝わってきて、俺は一気に息が荒くなった。


 なんでティルクは、と考えて、ティルクは俺が本来は男なんだと認識し始めたことを思い出した。

 ティルクとデートの約束をしたのは今日のことだ、きっとティルクの意識にそのことが残っていたのを見つけたドグニゴーが俺たちの関係を誤解したのだろう。

 俺はティルクの意識を探って、意識の隅に下卑た愉悦を漏らす男の意識が溶け込んでいるのを見逃さなかった。


 俺はドグニゴーの意識に集中してオートモードリバースを振り向けて、ドグニゴーが使った神性魔法とやらをしっかりと記録して分析を始めた。

 そして分かったのは、神性魔法は確かに神聖魔法の上位魔法なのだが、この男の魔法の練度はそんなに大したものではなく、神性魔法の使い手の中では最下層に位置するだろうということだった。

 きっと上位魔法を覚えてほかの魔族よりも優位に立ったところで安心してしまって、それ以上の鍛練を積むのを怠ったのだろう。

 昇華魔法は元になるものがあるからほかの魔法に比べると習得が簡単そうだし、この男の練度くらいならすぐに超えられそうだし、覚えてさえしまえば魔法適性に恵まれたこの体なら後は難なく押し切れる気がする。


 ドン、ドン、ドン、と、俺はドグニゴーに向けて叩き付けるように神性魔法を起動させようと試みる。

「なんだこの魔法の威力は!

 この女も神聖魔法が使えて、しかもはるかに強力だと?

 嘘だ、嘘だ嘘だ、そんなこと、あり得るはずがない! 」

 ティルクに巣食うドグニゴーの意識を一撃で弾き飛ばすと、ドグニゴーは用意の追いつかなかった何もない仮想空間に倒れ込むように放り出されて、素早く四つん這いになりながら恐怖の視線を俺に向けて叫び、ティルクのことは放り出したまま逃げていく。

「私から逃げられると思ったら、大間違いだよ。

 ティルクを甚振(いたぶ)ろうとしたことを死ぬまで後悔するんだね! 」

(あ、また母様の口調が入っちゃった。)

 口にしてから気が付いたけれど、取りあえずはこいつをやっつけるのが先!


 俺は逃げるドグニゴーの意識を同化を発動しながら追いかけて、その同化を神性魔法によるものに昇華させてドグニゴーを捕らえようと、とにかく可能な限りの数を発動する。

 ドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガン……!!

 けたたましい破壊音とともにドグニゴーを追いかけているのは魔法を発動した際の俺の精神的なイメージに過ぎないのだけど、イメージでしかないだけにその迫力は追われる者に言いようのない恐怖を掻き立てさせているようだった。


 バシュウッ!

 ついに神性魔法を獲得した俺がドグニゴーの精神に同化して、逃げるドグニゴーを壁で囲んで袋小路に追い詰めると、ドグニゴーは壁に背を張り付かせて俺から少しでも距離を置こうと無駄な努力をしながら(わめ)いた。


「魔族以外で神聖魔法が使える者はごく一握りで、私たちは神聖魔法が使える異民族を漏れなく確保したはずだ!

 それがなぜ、私の把握していない神聖属性持ちの異民族がこんなところに2人もいる!

 しかも、たちまち神性魔法を覚えたお前のその魔力適性は何だ!!

 あり得ん!

 我らが神はお前の存在を認めないぞ! 」  


(へえ、良いことを聞いちゃった。

 魔族以外の神聖魔法の属性持ちは、何かの目的に使うために魔族が掠っている訳だ。

 これ、魔族は全種族の共通の敵だと認めたことになるよね。

 どれ、もっと詳しいことを吐いてもらおうかな。)


 俺がドグニゴーへの同化を強化しようとしたときだった。

『セイラ、そいつから離れて結界を張れ!! 』

 ミッシュの思念が飛び込んできて、俺は反射的に同化を解くと周囲を見回して、階段を上がってきたところでドグニゴーが倒れていて、自分とティルクはまだフェアリィデビルの監禁部屋の前にいて、フェアリィデビルは部屋の中で転がっていることを確認して、ドグニゴーと俺たちの間にできるだけ張れるだけの結界を張った。


<<ドゴンッ!! >>

 ドグニゴーの体が爆発したのは俺が結界を張り終えてすぐだった。

 ああ、これ、ダゲルアさんと同じだ。


 ドグニゴーはサクルクの所長だと言っていた。

 任務が失敗したときに自分たちの情報が漏れないように、責任者は体に何かを埋められているのだろう。

 俺は敵の指導者の非情さに怒りを覚えていた。

 私たちの仲間にはジューダ君がいて、彼も魔法に高い能力適性がある。


(私たちがきちんと対応しないと、ジューダ君のように敵対する意思のない子も犠牲になるかもしれないんだ。)

 俺は魔族の扱いが新たな迫害を生むものになったりしないように、いずれ必ず母様と相談しようと思った。


 結界を解いて、母様と合流しようと思いながら皆の方を振り返ったときだった。

「ひょわややや、あぎゃらたっ! 」

 ティルクが意味不明の声を上げながら頭を左右の腕で覆ってそっぽを向いた。

(ああ、先ほどのキスの件かあ。)

 俺は耳から首筋に掛けて真っ赤に染まっているティルクを軽い溜め息を吐きながら見詰めて、くすりと笑った。


(まだ男の俺とは会ったこともないし、男に戻れるかも分からないのに、ティルクったらデートなんて言葉を使ったものだから意識しちゃったのをドグニゴーに察知されちゃったんだな。

 そんな雲を掴むような話に振り回されちゃって、ティルクも純情なんだから。)

 俺は先ほどの出来事なんかなかったような態度でティルクに近寄ると、マーモちゃんたちの様子に聞きを配りながら、ほら、行くよ、と声を掛けて手を握った。

 手の中で、ピクリ、と微かに震えたティルクの手は、すぐにいつもの温もりを取り戻した。



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