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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第32話 あなたたちに捧げる愛の詩。♪リーンゴーン(くてり)

 城のバルコニーからは、広場にぎっしりと人々が詰めかけて、こちらの様子を窺いながら、俺が現れるのを今か今かと待ち構えているのが見える。

 体が強ばって声が裏返りそうな緊張に逃げ出したくなるけれど、約束したことは守らなくちゃいけない。


 俺は自分が新たに与えることにした歌の意味を考える。

 皆が暮らしを守るために戦うことの役に立てるなら、それは素敵なことじゃないか?

(よし、皆に届けるぞ。)

 俺は深呼吸をしてゲイズさんの準備ができていることを確かめて、ビアルヌ男爵に頷いた。


「ビアルヌの民よ、静粛に。

 これよりはるばるガルテム王国より見えた王太后様とセイラ様よりご挨拶がある。皆の心からの歓迎を以てお迎えするように。」

 男爵の短い挨拶があり、母様が進み出ると大きな歓声と呼び声が上がる。

「本日は熱烈なご歓迎を頂き感謝に堪えません。」

 母様の堂に入った挨拶が続いたが、母様は長々と話すことはせずにすぐに話を切り上げた。

「今夜の皆様のお気持ちが我が息子の婚約者であるセイラに向かってることは承知しています。

 我が王国の未来を担う私の娘にぜひ皆様の暖かい声援をお聞かせください。」

 そう言って、俺の方に手を差し出されて、俺はバルコニーの前へと歩を進めた。


「皆様、初めまして、セイラと申します。

 今回は義母に同行して皆様とお目にかかれる機会を得ましたことを大変嬉しく思います。

 実は私がテュールに渡した歌が、皆様から”セイラの恋歌”と言われていると聞いて驚いています。

 実はあの歌は、敵との戦いに男性を送り出した女性のともに戦う気持ちを歌うもので、私がある方々から教わったものです。

 私は、あの歌は、魔獣と戦ってこられた皆様にこそふさわしい歌だと思っています。

 今日はその歌を皆様に捧げたいと思います。」

 

 俺が挨拶を終えて間もなく、ゲイズさんがジャガルを弾き始めた。

 打ち合わせどおりに、遠くから聞こえるような静かな弾き始めから、だんだんと音を大きくしていく。

 イントロで時折入る三連符はテルガに伝わる音楽の特徴で、ゲイズさんが地唄らしいアレンジとして追加したものだ。


 演奏がお祭りらしいイントロを演出して少し音量を落としたところで、俺は歌い出す。

 最初はありふれた景色の中に見え隠れするように季節ごとの2人の影を映し出して恋人との思い出を形作っていくのだが、以前に歌ったときとは違ってゆったりとした歌い方を心がけて、あまり思い詰めたものとならないように気をつける。

 それから一転して戦地で戦う戦士の描写となって生きながらえようとする男の心情が描かれるのだが、合間合間の伴奏にアスモダの演奏に多いタ・タータというワルツのような明るいリズムが織り込まれて、そのリズムが高揚感を感じさせて、歌の方も戦闘の激しさを強調しないように、からりとした描写を心がけて、恋人への思いが希望と響くようにあまり声量を上げないように注意する。


 そして、男性が女性とともに居たいと思いを口にした一瞬にぷつりと音が途切れて、一瞬の空白をおいて、歌い出しはとにかくきれいな響く声で、恋人の男性に対する思いが救いとなるようにと俺が歌い始めて、声を優先させた後からわずかに遅れて伴奏がついてきて、俺の声を押し上げ歌を力強く支えていく。

 そして2人で未来を築く夢が叶うように、だんだんと声に力を込めながらたっぷりと歌った。

 歌い終わりに余韻を込めてそっと声を絞ると、伴奏も併せて音量を下げて、小さくエンディングの数音を響かせる。


 歌が終わった後に、広場はしんとして、物音一つ聞こえなかった。

 俺は歌いきったと感じたが、どう受け止められただろうかとどきどきしながら聴衆の反応を待つ。


 どわあ、と割れるような拍手と歓声が上がって俺はほっとしたのだが、拍手と歓声はいつまでも止まらなかった。

 俺が困って周りを見ると、母様が苦笑していて男爵が恐縮した面持ちで、あの、このまま終わっても彼らは止めそうにないのですが、と申し入れてきた。

 俺はふと思いついて振り返り、ティルク、行ける?、と打診する。


 この間、母様から踊って歌うのを止めるように言われてから、ただ煽るのではなくて、聴衆の興奮を落ち着かせるようなことができないか、こっそりティルクやゲイズさんと相談していたのだが、試してみるには絶好の機会だ。

「ええっ? こんな大勢の前で?、ムリだってば! 」

 ティルクは尻込みしていたが、構わずに、行くわよ、と言って風魔法でベランダの外、右側へと飛んで停止する。

 後ろからは、もうっ!、という声が聞こえて、ティルクが間隔を置いて左側に停止するのが視界の隅に入った。


 観衆からは、俺がベランダから飛び降りたと見えたのか、一瞬悲鳴が上がったが、俺が空に浮いたままなのを見てそれもすぐに収まった。


「それではもう一曲だけ、2人で歌ってお終いにいたします。」

 短く挨拶をして、ゲイズさんの方へ振り返るとゲイズさんがジャガルを弾き始めた。

 今度の歌は、本来は男女2人でデュエットして、明るくアップテンポで困難なんか振り切って頑張るぞと決意を鼓舞する歌だ。

 ドレスを着ているのであまり大きな動きはできないが、ティルクと鏡映しの動作で緩く踊り始めながら、男パートをティルクが、女パートを俺が歌う。

 本来なら男女が逆なのだが、声質がティルクの方が幼く響いて男の子っぽく聞こえるんだから仕方がない。


 さっき大まじめに歌った後でノリが全然違うし、聴衆がついてきてくれるか少し不安もあったのだけど、ティルクは男の子の動作を、俺は女の子の動作をオーバーアクションで取りながら、手拍子を誘う動作をすると、しばらくして手拍子が起き始めた。

 広場の狭い空間でパン、パン、パン、という拍子が木霊してドン、ドン、ドン、という太鼓のような音に変わって、そのリズムに乗ってジャガルが軽やかに旋律を駆け上がり、旋律の頂点でティルクと2人でヤー、と声を上げてからコミカルに歩く動作をしながら広場をぐるりと回り、それから大きな光魔法の回りに小さな光魔法20ほどセットにしたものを花火のようにあちこちに打ち上げる。


 わあーっ、と驚きの声が上がる中で、最後のサビの部分をもう一度リフレインさせて、大きく手を振りながらエンディングを歌い終える。

 それから、ゲイズさんが曲を終わらせることなく静かな旋律へと移行し、ムーディなメロディを繰り返して聴衆の興奮を冷ましていき、俺とティルクは広場を三等分する位置に浮かんで四方にお辞儀をして聴衆に歌のお終いを告げる。

 聴衆はもうお終いだと納得してざわめきが小さくなる。


 俺はベランダに戻ると最後に挨拶の言葉を述べて頭を下げた。

「皆様の戦いがビアルヌに勝利をもたらし、アスモダの未来を切り開くことを祈念します。

 本日はありがとうございました。」


 聴衆は名残惜しげに、だがだんだんと広場から帰っていく。

 振り返るとビアルヌ男爵がつかつかと進み出てきて、俺の両手を握り締めた。


「感動しました!!

 ビアルヌの民にこれ以上ない励ましをいただきました、ありがとうございます! 」


 ビアルヌ男爵は興奮した面持ちでしゃべり続けようとしたが、俺の後ろで帰って行く領民を見て考えを変えたようだ。

 俺の手を離すと母様に向かってこの後の予定を尋ねる。

「そうですか、お食事がまだでしたら、たいしたもてなしもできませんがご一緒にいかがでしょう。」


 母様がにっこりと微笑んで申し出を受けるのを見ながら俺は解放された気分になって、ミッシュに最大威力で念を送った。

『ミッシューッ! 終わったよーっ、大変だったんだからね!! 』

 ミッシュからは微かに、お疲れー、という言葉が返ってきただけだった。


 ふんっ、たったそれだけ。

 人使いが荒いぞーっ。



ああ、歌で話を作ろうなんて馬鹿なことを考えた自分を呪ってやりたい。

グダグダのグデグデです(×。×

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