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腹が減っては戦ができぬ  作者: 藤桃利汰
二度目の人生
9/11

9話『感触』

 僕達のいた前世とはまるで違う倫理観。その戸惑いは手を震えさせてしまう。


「僕が殺すよ」


 このゴブリンはまず僕が殺すことにした。

 そもそもゴブリンは基本複数で行動する。

 殺すのも早くしないと近くに来るかもしれない。

 昨日読んだモンスター図鑑にも載っていた。

 僕はゴブリンの腰にあった少し大きめの短剣を持つ。

 武器の持ち手を握りスズの顔を見ると不思議と手の震えが収まり、そのままゴブリンの喉に垂直に突き刺した。

 ゴブリンは「グェッ」と呟き絶命する。

 しかし殺す感触を体験した手はまた震え始める。先ほどとは違う理由だ。

 鼓動が速くなる。


「おぇぇぇ」


 その結果、吐いてしまった。

 しばらくの間鈴花に背中をさすってもらう。


「ごめん、もう大丈夫。何とか殺せたみたい。この感覚に慣れないといけないんだな」


「うん、次は私がやるよ」


 その様子を見て鈴花も決意を固める。

 モンスターも生きている。奴らは死にたくないし、僕達も死にたくないんだから当たり前だ。

 今回は偶然にも気絶した状態で殺すことができたが、そんなことは滅多にないだろう。


「多分次は戦いながら殺すことになると思う。躊躇しちゃダメだよ」


「分かってるつもり」


 ゴブリンの亡骸を見てると胸の辺りから石がニキビの芯を取るように出てくる。

 おそらくこれが魔石なのだろう。微弱だが魔力を感じる。モンスターの核なのだから当たり前だ。

 ゴツゴツとして形は歪だ。決まった形をしてるわけではないのだろう。

 魔石を拾うとスズの背負っているリュックから鏡を出してもらった。

 鏡に魔石を押し当てると魔石は水に落ちていくように吸収されていく。


「「おーー」」


 初めての魔石の転送に二人は感嘆の声を漏らしてしまう。

  ゴブリンは集落を作る知能があり、武器も使う。なのでそのままゴブリンの持ち物を物色していく。

 腰布はとてもじゃないが臭すぎて使えるものではないのでそのままにしておく。


「やっぱこの剣しかもってないか」


「この近くに根城でも作って偵察でもしてたんじゃない?」


「かもね。とりあえず周りを気にしつつこのまま街道めざすか」


 ゴブリンが唯一持っていたのは短剣よりは大きい剣だけだった。『体術』もある瑛蓮には丁度いい大きさだ。

 なのでこの剣は僕がもらうことにした。せっかく『剣術』を手に入れたのだ鍛えない選択はない。それにスズは立派な細剣を既に持っている。気に入っている様だししばらくはこの細剣を使い続けるだろう。




 歩き続け僕達は高台にある丘にいた。

 遠くを見ると街道が見える。

 街道までの道を見ると丘のすこし前方にゴブリンの集落を見つけた。


「レン君あれってゴブリンの集落じゃない?」


「うわー、本当じゃん少し遠回りして街道に行こっか」


 丘から集落を迂回して街道に進む。

 少しすると川のせせらぎの音が聞こえ、既に空になっている水筒を取り出し音のする方へ走る。

 このまま荷物を降ろし二人で水を掬い飲む。


「ふゎ〜、生き返る〜」


「このまま身体も洗いたいけど、顔だけで我慢ね」


 水筒に水を入れ、パシャパシャと顔を洗う。

 横で顔を洗うスズを見ていると水面に影が映り込み、なんだと後ろを見ると二体のゴブリンが僕達に向かって武器を振り上げていた。


「スズッ!」


 僕はおもわずスズの脇下から背中の服を掴み「キャッ」と声を出すスズを無視してそのまま前方の川に飛び込む。

 川が膝下よりも低い浅瀬がせめてもの救いだ。


「っぶねー」


「な、何?いきなり」


「ゴブリンだよっ!」


 後ろを振り向くと追撃をしようと今にも飛びかかってこようとしているゴブリン達がいた。

 そこで鈴花も状況を理解し、気を引き締める。

 僕と同じサイズの剣を使うゴブリンがスズを、石斧を使うゴブリンが僕を狙っている。


「ギャギャッ」


「ギィギャァー!」


 追撃を左右に避け、僕達は腰にある武器に手をかける。

 僕は水を蹴り上げ視界を潰し一気に仕掛けようとする。偶々蹴り上げた水の間からゴブリンの手だけが見え、そこから石斧を投げようとしているのが見えた。直撃したら致命傷と判断した僕は全力で身を低くすると、頭があった位置を石斧が回転しながら通り過ぎた。今しかないと判断し、低い姿勢からゴブリンへ飛び跳ねるようにジャンプしてゴブリンの腹に剣を突き刺し、腹を抑えるゴブリンを蹴り飛ばしそのままゴブリンにまたがり右胸を深く刺す。その時パキンと音がし、その瞬間ゴブリンは糸が切れたように倒れた。

 生き物を殺した感触は吐き気を催すが戦いはまだ終わっていない。

 鈴花を見るとまだゴブリンとの戦闘が続いていた。急いで加勢に入ろうとするが、


「来ないでっ!一人で倒す!」


 僕はその言葉に戸惑ってしまったがスズは一人で倒しきった。

 最初こそ押されていたが、横で先にゴブリンを倒した瑛蓮に鼓舞されるように、攻め始めた。ゴブリンの振り下げてくる剣を躱すと態勢を崩したゴブリンに一気に詰め寄りそのまま連続の突きをして、最後は腹を横から切り裂きながら倒す。馬乗りになりながら細剣を逆手に持ち変え刺す。ゴブリンが抵抗をやめるまで震える手で何度も刺す。何度も。何度も。何度も。何度も自分が嗚咽しながら刺す。やがてゴブリンは抵抗を止め動かなくなる。


「おぇっ、う゛おぇぇぇ」


 吐き気に逆らうことはせずそのまま腹から上がってくるもの嘔吐する。

 瑛蓮は自分がしてもらったように泣いている鈴花の背中をさする。

 落ち着いた鈴花は出てきた魔石を拾うと鏡に入れる。

 僕も鏡に入れようとゴブリンを見ると魔石がなかった。どうやら僕は魔石ごとゴブリンを刺したみたいだ。次からは気をつけよう。


「スズ?なんで一人で倒そうとしたんだ?二人の方が確実だろ」


「ご、ごめんなさい。もうこんなこと言わないし、その、次からは一緒に戦ってください」


「いや、ちゃんと一緒に戦うけど、謝るんじゃなくて理由が知りたいんだけど」


 僕の質問に申し訳なさそうに謝罪して次からはしないと言うが僕が知りたいのは理由だ。


「だって、今一緒に戦ってたら多分トドメはレン君に任せてたと思う。それでその次もその次も任せっきりにしちゃう気がして、レン君が助けに入ろうとした時は嬉しかったけどこいつを今自分で倒さなきゃダメだって思ったの。足手纏いになるつもりはないの」


「なるほどね。もう吹っ切れたみたいならいいよ、次から協力してこ」


「うんっ!」


 鈴花は全力で首を縦に振り返事をする。

 モンスターとはいえ最初は殺すのを戸惑ってしまい攻めあぐねていたが瑛蓮の助けが入ろうとして、自分の甘い考えに気づき鈴花は甘い考えを捨てるために助けを断ったのだ。

 二体の死体を物色するが、この二体も偵察だったのか、武器しか持っていなかった。

 石斧は使わないので放置。

 僕は今の剣よりスズと戦っていたゴブリンの剣を使うことにした。サイズは同じだが腹の部分が広く僕好みだったからだ。

 前のゴブリンの剣は予備として捨てずにリュックに入れる。


「ふぅー!まぁ、初めての実戦で怪我なしなんだからよかったね」


「だね!ってポーションも持ってないのに一人で…」


 瑛蓮は安堵の息を吐き、鈴花は自分のした事に今更恐怖する。


「とりあえず反省点としては二人で川に夢中だったことかな」


「次から交代ずつだね。二人で川にがっついちゃってたね」


 奇襲を受けたことは笑い話になり、反省点と改善点はしっかりと話し合う。


「よし、街道まで行けばもうゴブリンと合わないだろうし、休憩なしで行こっか」


「りょーかい。さっさと街道まで行っちゃいましょ」







 一時間ほど歩くと街道にでた。


「はぁ〜、とりあえずこれで一安全だね」


「本当にこんな結晶でモンスターが来ないなんて驚きね」


「らしいよ。盗賊の言ってたことだけど嘘つくようなことでもないだろうし」


「え?盗賊とそんな会話してたの?」


「いや、僕のときは最初仲良くしてたんだよ、って今思えば演技だったんだなー」


 僕は思わず空を見上げながら自嘲してしまう。そこでスズの質問に違和感を覚えた。


「その言い方だとスズは騙されなかったの?」


「スズの場合ね―…」






 しばらく二人で拉致され談議をすると村が見えてきた。

 村の入り口には「カサ村」と書いてあった。


「カサ村だって。僕が王都から出た時目指してたところとは違うみたい」


「そういえばレン君どこか目指してたの?」


「いや、目指してたっていうかダンジョンの場所探しの途中で通ろうとしただけだよ」


「そうゆうことね。あの時は時間なかったしね」


「うん。だからカサ村に入ったら地図で場所確認して西の冒険者ギルド目指すからね」


 王都でフィーシャ様から貰った身分証を見せると通行料を渡しすぐに入ることができた。

 通行料は冒険者カードを見せれば無料だが、他はそこに住んでいるもの以外は通行料が発生する。

 僕達はこの村に入るとまず宿を探した。

 カサ村は小さく民宿しかなかったが普通の宿より安いので助かった。なぜ助かったかというと鈴花の所持金が王都から旅に出たばかりとは思えないほどに少ないからだ。


「リヤのこと教えてもらってる時様子がおかしいと思ったら一体どこにそんなお金使ったの?」


「ゔっ」


 唸る鈴花は観念してカジノで擦ったことと剣のことを話した。


「えーー、城で貰えたなら本当に無駄じゃん。しかもカジノで泥沼にはまってるし」


「ごめんなさい」


 所持金が少ない理由を聞き呆れる瑛蓮に鈴花は謝る。


「ま、いいけど。もう共有財産なんだからちゃんとしてよね」


 ボフッ


 共有財産という言葉に煙を出しながら「はぃ」という鈴花。

 自覚してから四年近く瑛蓮を遠巻きにしか見れず、恋人になれたらなと妄想していた鈴花は恋人扱いされることに飢えていた。その結果こじらせてしまい共有財産という言葉に噴火したのだ。それがたとえ仲間としての共有財産という意味だとしてもだ


「とりあえず体でも洗って、村でも散策しよっか」


 村では消耗品の買い足しや瑛蓮の腹を満たした。

 やることがなくなると夜まで民宿の庭を借り剣の練習をする。

 日が落ちると汗を流しご飯をいただく。食べる量を民宿の人に驚かれた。

 一日だと大したことはないが毎日続くと食費は結構掛かるかもしれない。

 その後は寝るまで勉強をして寝る。

 ちなみに部屋は二人部屋だ。まだ実力がないので離れると不安と言う鈴花の願いのためだ。盗賊に拉致されたのが一番の原因だろう。

 好きな人が隣で寝ている。

 しかしあまりに安心しきった顔で寝ているために少しでも邪な気持ちを抱いてしまったことに罪悪感を覚えてしまった。

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