8話『スキル』
スキル:『暴食ノ咎人』『嫉妬ノ咎人』
「へぇー、僕は暴食の方か。やっぱ七つの大罪って言ったら強いでお馴染みだけどどーなんだ?しかも二つも」
「ハイマスター、大罪系スキルハ一代ニ七人シカ持ツコトハデキナイスキルデス。人間ハ持ツコトガデキマセン」
「え?僕達人間じゃないの?」
「ハイマスター、マスターニナッタ時点デ魔族トナッタト考エテイイト思イマス。ソモソモ『魔窟創造ダンジョンマスター』ハ人間ガ持ツスキルデハナイノデテキオウスルタメニヘンカシマシタ」
「え?じゃあスズも僕の眷属ってことでなっちゃったのか。なんかごめん」
「ん?気にしてないよ!寧ろお揃いで嬉しい」
最初は気を使ってくれたのかと思ったが、モジモジと頰を染めながら返事してくれたので本当に気にしていないらしい。
「まぁ、ダンジョンが成功すれば何年も生きるんだし、ある意味人間なわけないか。って人間意外にどんなのがいんの?」
人間以外だと獣人、エルフ、ドワーフを始めとする亜人がたくさんいるらしい。
魔族と言われると人間の敵かと思ったがそうでもないらしい。
「でも亜人達が人間の敵ってわけじゃないんだろ?」
「ハイマスター、ソウデス」
「じゃあ、魔族ってどんな種族なんだ?」
「ハイマスター、魔族トハ魔人達ガ先祖トイワレテイマスガソノ詳細ハ不明デス」
魔人と言われてピンとこないので魔人について詳しく聞いてみる。
魔人とは何千年も前にいたとされ、今ではお伽話で聞くくらいだそうだ。しかし、その存在は確かに在たと言われているらしい。争いを好まない魔人達は一騎当千の力を持ち、その力を戦争に利用しようとしてくる人間に呆れ、姿を消したと言われている。
魔人の純血ではないもの達の総称を魔族と言うらしいが、わからないことの方が多い。
「なぁ、『暴食ノ咎人』とか『嫉妬ノ咎人』の条件ってなんだったんだ?」
「ハイマスター、少々オ待チクダサイ」
コアは何でも答えてくれたので何でも知っていると勘違いしていたがそうではなくこの世界の常識ばかり聞いていたらしい。
なので名前くらいしか文献に載らないような、大罪系のスキルはよく分からない。しかし、ダンジョンのモンスター扱いの僕達を詳しく調べることはでき、今はその解析中だ。
「ハイマスター、モウイイデスヨ」
スキル
『暴食ノ咎人』:満腹時の身体能力1.2~1.5倍補正。ご飯の恨みの戦闘時の身体能力超高補正。消化速度上昇。胃袋拡大。
条件
・数年の暴飲暴食。
・食事が好きであること。
・人間ではないこと。
『嫉妬ノ咎人』:嫉妬時の身体能力1.2~1.5倍補正。恋敵との戦闘時の身体能力超高補正。嫉妬しやすく、その感情は高確率で隠蔽不能。
条件
・嫉妬狂いしたことがあること。
・嫉妬で周りを巻き込んだことがあること。
・人間ではないこと。
「「…」」
大罪系スキルとはその名の通り過去にその罪を犯したことがあるのが条件らしく、しかしその条件は考えていたよりも難しくないと思ったがそもそも大罪系スキルの条件を知る術を持つものが少ないので、取得できなかったのだろう。
二人とも思うところがあり、条件を見てあまり嬉しく思うことはできなかった。
とくに『嫉妬ノ咎人』の条件の心当たりを聞くことはとてもできない。
ついでということで他のスキルの詳細についても教えてもらった。
スキル
『異世界語』:召喚魔術によって付与される。召喚者が主に使っている言語のみ。
『体術』:体術の熟練速度1.3~1.5倍補正。
『剣姫(称号)』:剣を大事に想う程自剣との親和性に高補正。剣術を持っている場合獲得可能。強くなりたいと願うほど剣術の熟練速度1.1~2.0倍補正。
『剣術』:剣術の熟練速度1.3~1.5倍補正。
『家事』:『料理』と『掃除』と『洗濯』の統合スキル。
条件
・『料理』『掃除』『洗濯』の三つを取得。
『料理』:コツを掴みやすくなり、作業効率が上がる。
条件
・毎日料理をすること。
『掃除』:コツを掴みやすくなり、作業効率が上がる。
条件
・自分の家を常に清潔に保つこと。
『洗濯』:コツを掴みやすくなり、作業効率が上がる。
条件
・洗濯物を溜めず毎日洗濯すること。
瑛蓮が思うスキルとは持っているだけで剣が使えたり、レベルを上げれば強くなるものと考えていたが、この世界のスキルとはあくまで冒険者の手助けでしかなかった。そう思っていたが、コアによるとそれは普通のスキルのことで、実際に持ってるだけで強くなれるものもあるとのことだ。
そして一番驚いたことは僕に『剣術』のスキルが増えていたことだ。
ダンジョンマスターはモンスターや眷属を増やすとごく稀に同じスキルを得ることがあるらしい。
最初から得ることができたから調子に乗ったら、コアに注意された。
『マスター、コノ先後ニ、三回アレバラッキーナクライナノデアマリ期待ヲシスギナイデクダサイ』
どうやら後二、三回あればいい方らしいのでテンションは下がってしまった。
あまり期待のしすぎは良くないらしい。
DPもモンスターもゼロのこのダンジョンを強化するたの第一回ダンジョン会議は終わり、明日から旅立つので王の間で野宿用の寝袋を出し、就寝の準備を整えてから少しの間この世界の勉強をすることにした。
お金のことは既に勉強したスズに教えてもらい、それ以外にも勉強をした。
この世界エルシェオンには大陸は一つしかなく、その大きさはとても巨大でドーナツ型をしている。正確にすると、島などはたくさんあるらしいが大陸と呼べるのはこのドーナツ型の大陸グラフィアだけらしい。
西に四割が人間が暮らしており、東に六割がモンスター達の巣窟だ。その六割の中には少ないが城壁を築き、冒険者達の拠点としている城壁都市がいくつかあり、腕利きの冒険者達は大体そこで活動をしているらしい。つまり、西から東へと冒険者は旅をして、留まり、鍛え、強くなり、ランクを上げ、旅をしてを繰り返しモンスターを減らしていくのだ。
冒険者ギルドは登録を大陸の西端と推奨しており、東へ送り込む形で冒険者のバランスを図っている。その冒険者達の繰り返しが時代を超え、波となり二割しかなかった人間の領土を四割にまで増やしたのだ。
冒険者達は英雄への憧れや、名声、富を手にするために、また使命感などから西から東へと冒険する。
その例外の冒険者は金で雇われたり、忠誠を決めた主人の元に仕えたり、ダンジョンに夢を見たりなど様々な理由で冒険の途中で定住を決めるもの達だ。
つまり、召喚魔術を使うのはこの世界エルシェオンで人生を送ってもらうことにより、この大陸に貢献してもらうということだ。
冒険者の数だけ安心が増え、次の世代へバトンを増やし、少しずつ人間の領土を増やすのだろう。英雄などと言っていたが大袈裟だなと思った。
次第に夜が更けていき僕の欠伸が出たところで僕達は瞼を閉じた。
前世で現代っ子してた僕達は山や森をぶっとうしで移動したせいか、起きるのは遅かった。
ギラギラと照らしてくる太陽。
太陽の高さからもう昼近くだ。
このエルシェオンでも、四季はあるらしく今は夏。前世も夏だったが暦は被っているのだろうか。
そんなことを考えながら僕はダンンョンの出入り口でスズを待っていた。
コアとは数分前に暫しのお別れは済ませた。
何かあったらすぐに扉を使うよう言っておいた。
「レンくーん!おまたせ!」
「おう、じゃあ出入り口隠してから行くぞ」
木の根元にある出入り口を草や落ち葉で隠した後、何も住みつかないよう岩も塞ぐように置いておく。
「この森昨日は気づかなかったけどこうしてみると木は高いしデカイしすげーな」
「そうだね。このデカイ葉っぱなんか日傘にピッタリだよ」
「え?」
僕はあまりの大きさに驚愕した。
鈴花が持っている葉に目を見たような気がしたのだ。
もし…もしもここにある葉っぱが全て生き物だとしたら、僕たちは囲まれているのかもしれない。
そんな嫌な想像が頭で理解する前に鈴花の手から葉っぱを離し、その手を握り走った。
「スズッ、全力だ!走れー!」
「ぇ?え⁉︎まだ心の準備がっ」
鈴花は頰を染めながら勘違いを続けていた。
ガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサ
明らかに何かたくさんの生き物の音にようやく理解した鈴花も全力で走り出す。
僕は引っ張っているスズの方を見て青ざめた。
そんな僕の顔を見たことで後ろの状況を察したスズも同じく青ざめる。
「な、なにがいるの⁉︎レン君⁉︎なにを見たの⁉︎」
「ダメだ!振り返るなよ?前を見て走ることだけ考えろ!」
ガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサ
僕達は前だけを見て全力で走った。
後ろからの音が聞こえなくなるまで全力にだ。
しばらくして音が聞こえなくなり僕は膝を支えながら、鈴花は四つん這いになりながら息を整える。
ハァハァハァハァ、ハァハァ
「つか、ハァ、疲れた。ハァ、僕達、ハァハァ、走ってばっかだな」
「た、ハァハァ、確かに。ハァハァ、でも、ハァ、結局、ハァ、なんだったの?」
僕達はエルシェオンに来てひたすら走っている。
盗賊然り、葉っぱ然り。
息が整い説明を始める。
「さっきの葉っぱ、スズが持ってるやつ目があったんだよ。同じ葉っぱがそこら中にあったからもしかしてと思って全力で走ったんだ」
「嘘...あれはモンスターだっってこと?」
「んー、どうなんだろ巨大な虫って言われても納得しちゃうかも。前世にも擬態する虫って結構いたし」
「モンスターだったら倒せばよかったかな?」
「スズ、お前は後ろを見てないからそれが言えるんだ。あれはもう壁だったよ。あの擬態葉っぱが津波のように僕達を追いかけてたんだ」
「ヒィッッ!」
僕達は名前もわからず、虫かモンスターかも分からない葉っぱを擬態葉っぱと名付けた。
僕の言ったことが想像以上の量だったのか今更ながらに鈴花は悲鳴を小さく上げた。
「とりあえずあの量はまだ対処できないよ。あんなのに囲まれて何をすれば正しいのか全然わかんないし」
「うん、そうだね。でも私達もいつか、モンスターを倒さなきゃ行けないんだよね」
「魔石集めが目標だからね。そのためには強くならないといけないし、モンスターと戦わなきゃいけないんだ。いつかじゃなくてすぐにでも戦えるようならなきゃ」
「うん!」
「よし、行こう」と声をかけて僕達はまた歩き始める。
すると横から一体、僕の腰ほどの高さの緑色の小鬼――ゴブリンが通学路でバッタリ鉢合わせするかのように茂みから現れた。
僕とゴブリンは思わずギョッとなり驚いたが僕は驚きながらも丁度蹴りやすい位置にある顎を思い切り蹴り上げた。
そのまま曲線を描いたゴブリンはそのまま気絶した。
「びっくりしたー、これってゴブリンってやつだよな」
「本当だよ!私が気づいた時には綺麗に飛んでたけど」
「思ってより醜悪な顔してんだな。まぁモンスターなんだから当然ちゃ当然か」
「ね、ねぇ?気絶してるだけだけど殺して魔石を取らないといけないんだよね?」
「うん。そうだよ」
僕達は生き物を殺したことがない。
せいぜい小さい頃に虫を殺したくらいだ。
冒険者になれば殺しなんて当たり前だ。
なにせこの世界は命が軽い。
ダンジョンマスターになってできると思ってた。
僕達はこんなにも大きな生き物を殺さなきゃいけないんだ。
今まで二人の頭の中で考えないようにしてた現実が唐突にやってきた。