7話『拠点』
十時間ほど休憩を挟まず移動を続けると盗賊のアジトから三つの山を越え、森の中にいる。
これ以上の移動は体力的な限界と森から抜けられなくなることから断念した。
「コアを置く場所を決めようか」
この辺りに人が来るのかもモンスターが出るのかもわからない二人はできるだけ離れず、ダンジョンの入り口となる場所を探していた。
「この黒い木の根元なんかいいんじゃない?何かが住み着いてるわけでもなさそうだし」
「そーだね。時間いっぱいに探してもいいけど、どこかいい場所を知ってるわけでもないしね」
特に悪い点があるわけでもなかったので鈴花の提案を受けることにした。
木の中には丁度二人分が入れるか入れないかの空間があった。この中から下にダンジョンを作ることに決めたのだ。
「よし、ここにするよ」
『リョウカイマスター、デイリグチヲツクルバショニリョウテヲアテテクダサイ』
ダンジョンコアの指示に従い木の根元の中に両の手の平をつけると、光とともに大地の揺れを感じた。何秒光っていたのか、揺れていたのかは分からない。
光が収まり目が開けられるようになると、階段ができていた。
ダンジョンコアから指示を待つが、しばらく待っても来ない。おそらくダンジョンが出来たことにより僕の中にはもういないのだろう。
僕の中で合図らしき音が鳴り始めたところで、鈴花と目を合わせ階段を降りていくとただの洞窟の迷宮が出来ていた。
明かりは道の隅にある結晶の輝きだけだ。
歩いても聞こえてくるのは二人分の足音と呼吸音だけ。
鈴花は初めてのダンジョンに緊張していた。
しばらく歩くと次の層に降りる階段を見つける。
一層目をあっけなく終え、階段を降りていくと大きな扉の前に出た。
扉の前に立つと扉が勝手開き始める。
「マスター、オ待チシテオリマシタ。ココハ王ノ間デゴザイマス」
王の間には人の頭ほどの水晶とその奥に椅子が一つあるだけだ。
「喋り方からしてお前はコアで間違いないんだよな?」
「ハイマスター、私ガダンジョンコアデス」
「少し聞き取りやすくなったか?」
「ハイマスター、ダンジョン二コアガ移動シタタメ性能ガ上ガリマシタ」
十一日間という短い間だったが、僕の中では相棒と言えるほどに大きな存在になっていた。
猛暑に照りつけらているとき、盗賊に捕まり心細いときいつも唯一の話し相手として励ましてくれた相棒の存在に安堵しながらも、自分の中にはもういないという虚無感に戸惑ってしまった。
そのように思い少し間が空いてしまったが、自分の表情を見て、静観を通しているスズに紹介することにする。
「スズ?こいつはダンジョンコアでさっきのダンジョン作るとこまでずっと僕の中にいたんだ。僕はコアって呼んでるから仲良くしよう」
「コアさんよろしくお願いします。私は後藤鈴花と言います。ふふっ、レン君ってたまに独り言してたけどコアさんと話してたんだね」
「ハイ鈴花、コレカラヨロシク願イシマス」
鈴花は今までの変な言動に納得がいったように微笑する。
二人の自己紹介を終えたところでこれからのことを話すことにした。
「コア、これからのことなんだけどその前に僕たち真っ直ぐここまで来れたけど、今見つかったらやばくね?」
「ハイマスター、今見ツカルト王ノ間マデ簡単ニ来ルコトゴデキマス」
その瞬間、僕は気がつくと出入り口で完璧なカモフラージュをしていた。
瑛蓮の横では鈴花も手伝っていた。
カモフラージュを終えると話を再開した。
「ふぅ、とりあえずこれで暫くは安心だな」
「ハイマスター、デハコレカラダンジョンニツイテ説明シテイキマショウ」
ダンジョンとは本来知性を持ったモンスターの上位種、変異体などが身を守る為に造るものであり、ダンジョンマスターとしての力に目覚めるのはごく稀だそうで五十年に一度、そのようなモンスターが現れるかどうからしい。しかも僕のように人族にスキルが現れるのは五百年に一人の確率だ。
モンスターの上位種や変異体は配下のモンスター達を使い防衛をして、溜まったDPで新たなモンスターを生み出し、階層を増やしていくそうだ。
そこまで聞いて僕は疑問に思った。
「あれ?僕配下にモンスターなんかいないけど?」
「ハイマスター、ダンジョンポイントーーDPノ確保ニハサマザマナヤリカタガアリマス」
DPの増やし方は、
・ダンジョン内での討伐
・ダンジョン内での侵入者の二十四時間以上の滞在
・ダンジョン外への撃退
・ダンジョン外のモンスターの魔石吸収
の四つが基本的な増やし方だそうだ。
しかし、最初の三つはダンジョンの場所がバレるのが前提なので自ら魔石を集めるしかない。
それ以外では特定の条件を達成することにより、増えることがあるらしい。
DPで増やせるモンスターは配下のモンスターと同種か、その種族と身体の作りが近いモンスターだけらしい。属性も近い。
つまりモンスターの種類を増やす為には、身体の作りが近いモンスターを作ることを繰り返し自分の種族から枝分かれしていくように増やしていく。
ここでまた、僕みたいな奴の救済処置なのか魔石を集めることで召喚できる方法がある。この方法はゴブリンの魔石ならゴブリンを作ることが出来る。
ここまで説明されて僕達の方針は決まった。
・ダンジョンを強化する為にDPを増やす。
・DPを増やす為にダンジョンを出て魔石を集める。
・召喚するモンスターを増やす為にも魔石を集める。
・魔石を集める為に強くなる。
より詳しくいくと、DPに換算する魔石と召喚する為の魔石は別々でないといけない。
例えばゴブリンを十体召喚したいならゴブリンを十体倒し、その魔石を使うことでその魔石と全く同じ能力値のゴブリンを十体召喚できる。
ここで重要なのはモンスターの種類によって召喚できる数に上限があることだ。ゴブリンの上限が百体ならそれ以上は召喚できないことだ。
さらに大変なのはDPに換算できる魔石は、モンスター数の上限により使えなくなった魔石しか使えない点だ。コア曰く、「ハードモードデス」らしい。
ハードモード唯一の利点はリポップすることだけだ。
上限はDPによって増やすこともでき、前の魔石よりもつよい魔石は登録の交換もできたり融通は利く。
因みにDPでモンスターを増やす場合も上限はある。
魔石を集める、強くなる為に僕達は冒険者になることにした。
「めちゃくちゃ大変じゃねぇか!」
「だ、大丈夫よ!私も協力するし!」
これからのことに文句を言う僕に、鈴花は励ましの言葉をかけてくれる。
DPの初期段階は1000Pあったが、痩せることに使った為残り200Pしかない。
三人で相談した結果、残りの200Pは「転送の鏡」、使い捨ての「帰還の扉」にした。
僕と鈴花は二人で冒険者をしつつ魔石を集め転送の鏡を使い、ダンジョンに居るコアがその魔石を使いモンスターを召喚していくことになる。
帰還の扉はコアだけでは決められないことができたり、DPが増えて使える権能が増えたら、コアがドアを開け、僕たちを呼ぶことになった。
それ以外は、DPが圧倒的に足らず、使えそうなものはなかった。
「もし、僕がいない間に侵入者が来たらどうするんだ?」
「ハイマスター、王ノ間ガ開クトマスターハ、強制的に王ノ間マデ帰還サレルデショウ」
僕の心配事に答えてくれるが、微妙に噛み合っていない。
コアが言っているのは王の間まで辿り着かれたらの話だ。
なので侵入者が来たらその時点で合図を送り、すぐに帰還の扉を使うように決めた。
「ねぇ、扉を使うと帰れるんでしょ?部外者の私もそのドアに入れるの?」
その質問に何も答えることができない僕の代わりにコアが答えてくれた。
「ハイ鈴花、マスターノ眷属ニ成ルコトヲススメマス」
眷属とはダンジョンの王、ダンジョンマスターの眷属として十人まで僕と同じようにダンジョンの恩恵が与えられるというのだ。
眷属になるにも、DPを使うのかと思ったがコアに眷属となる者の血を吸収させるだけだった。
そして驚くことに最初の死だけは誰が死んでも一分までなら蘇生できるらしい。
鈴花はそれを聞いてすぐに眷属となった。
「えへへ〜」
嬉しそうに鈴花はニヤついている。
「マスター、眷属トノ契約ヨリ条件達成トシテDPガ増エマシタ」
「マジか!」
思っても見なかった収入に、まだニヤついていた鈴花とハイタッチをする。
増えたDPは1000Pもあったが何に使うか、鏡と扉と交換するときも思ったがとても悩ましい。
DPで交換できるものは本当にたくさんあり、ダンジョン作成、ダンジョンでの住居作成、日用品からダンジョンアイテム、スキル、前世の物まであった。
僕が転生者なのか前世の物も交換できることに二人で歓喜したが、高いし勿体無いので当面は諦めることにした。
旅道具にしても、城でもらったものが便利だったし、高価な物を僕達が持っていても奪われるだろうということでそれも諦めた。
スキルは全てのものと交換できるというものではなかった。
スキルとは後天的に身につけることが大半だが、先天的や種族特有のものや、何かしらの条件を達成して身に付けるものもあり、交換出来なかったものはそういうものだ。
それにスキルとの交換とは都合のいいもので、その分DPは高かった。
しかも交換できるスキルは、既に身に付けつつあるスキルしか交換が出来ず、早く取得するためにDPを使うか使わないか、というものだった。DPに余裕のない僕達は地道に取得していくしかなかった。
また、それ以外だと条件を達成していくスキルも交換が出来た。僕は達成してるなら交換しなくても取得できるんじゃないか?と思ったがそうではないらしい。本来条件を達成して得ることができるスキルはスキルを得るために条件を達成するのであって、知らぬ間に条件を達成している場合はそれに気づかない限り取得ができないのだ。つまり、DPで交換できる条件達成のスキルは情報料ということだ。なのでDPを交換するまで何のスキルかもわからない。
何事にも例外はあるようで条件を達成すれば勝手に取得できるものも少ないがある。
そんな説明をコアにしてもらいながら見ていると僕と鈴花に一つずつ条件を達成しているスキルがあった。
それも情報料は均一で一つ500Pで丁度1000Pなので交換することにした。
スキル:『暴食ノ咎人』『嫉妬ノ咎人』