6話『仲直りで脱出』
「「え?」」
目の前にいたのは後藤鈴花であった。
あまりの驚きに頭が回らず十秒ほど目が合ったままだったが硬直を先に解いたのは鈴花だ。
「瑛蓮君なの?」
「うん」
シーン。
二人は相手が誰なのか理解した上で五年近く挨拶しかしてこなかったことから会話が見つからなかった。が、そんなことより業務的な話の方が先だと判断した瑛蓮は口を開けた。
「なんでここにいるの?」
「捕まっちゃった」
「そーじゃなくてなんで城から出てるの?」
「瑛蓮君も出たじゃん」
「いや、僕はスキルとか不遇だったし、鈴花はむしろすごい!って盛り上がられてたよな?」
「うん」
「なんで出てきたんだ?」
「瑛蓮君が出たから…付いてきちゃった」
「そ、そうか」
「うん」
目が慣れて顔以外も見えるようになると顔以外のボコボコにされている場所に目がいくようになる。
「瑛蓮君、大丈夫?怪我とかしてる」
「最初はきつかったけど今は平気だよもう七日もこの体勢だからね。それにあいつら売る前にポーションで見える怪我は治そうとしてたみたい」
「そう、なんだ。よかった」
本当に安心したような顔を見ていると今までこじらせてしゃべれなくなっていた自分が馬鹿らしくなり、気がつくと自分の気持ちを打ち明けていた。
「…てると思ってた」
「ん?」
「嫌われてると思ってたんだ僕達話さなくなったから」
「ち、違うよ!そ、その話さなくなったのは、っていうかスズから声がかけれなかったのは瑛蓮君が私のせいでたくさん傷ついて、その…スズと関わったせいで怪我しちゃたから関わるのが怖くなって…」
慌てて否定する様子を見ていると気が抜けてしまった。
「なんだ…僕も待ってたんだ声かけてくるの」
「え?」
「僕鈴花のお父さんに負けただろ?なんか合わせる顔がないなって思っちゃって声かけずらかったんだ」
「そ、そうだったんだ。でもさっきもいったけど「うん。もう分かってるよ」」
「それとあともう一つ、あの時ほとんど裸見ちゃったしね」
急激に顔が真っ赤になる鈴花は「うぅ」と唸っているが続けて言う。
「僕小っちゃい頃から今までずっと鈴花の事が好き。いろんなやつに告白とかされてるのよく聞いてたけど、そんな奴らより好きな自信ある」
「スズも。スズもずっと好き。学校もこっそり同じところ選んだし、後ろの席からずっと見てたし、好きじゃなかったらここまで追いかけてこないよ」
「ねぇ、昔みたいにスズって呼んでいい?」
「は、はい!じゃあスズも昔みたいに読んでいい?レン君」
「もちろん」と言うと脱出へとシフトする。
「じゃあこんな所とっとと出よっか」
「え?」
極限まで真っ赤な顔になった鈴花は瑛蓮の言葉を聞くと呆けていたが気にせずスキルを使う。
「やってくれ」
『ハイマスター』
身体が光に包まれ、気がつくと僕の身体は完全に痩せていた。そのお陰で緩んだ縄を解き、鈴花の縄も解き始める。
「ぅ、うそ。丸々して可愛かったレン君が、痩せるなんて…」
「え?太ってたほうがよかったの?」
「い、いや、今もめっちゃかっこいいし。ただ見納めちゃんとしとけばよかった」
「なにそれ」
痩せた瑛蓮は童顔だが顔立ちはそれなりに整っていた。
笑いながらも一週間も同じ体勢をしていて固まった身体をほぐす。
服のサイズも着づらくなっていたので服を結びサイズ調整をする。
「スズも立てる?」と手を差し伸べる。
「うん。私は平気だよ一発しか殴られてないよ」
そう言いながらも立ち上がるが手は繋いだままだ。
「今からのことなんだけど、多分食事のタイミングとかと考えると今は夜で警備は手薄なはずだ。このまま脱出するけどいい?」
「すごい調べてるね、さすがだよ。あ、でも剣とか荷物が…いや、奴隷よりましか」
「まぁ一週間もここにいたからね。でも確かに荷物を置いていくのは惜しいし…よし!下の階層には行かないで出口目指して途中に荷物あるかだけ確認しながら行こう」
「うん!」
縛ってさえいればいいと考えていたのか昼間はちゃんと警備をしているのか、ドアは簡単に開けることができた。
馬車で入ってきた出入り口からは二回しか降りていないので現状は三層にいるはずだ。
下の階層から騒ぎ声が聞こえるので宴会でもやっているのだろう。
二層への通路を通り、一層への道を探していると、鈴花が「剣がらこっちにある」といい、少し離れるがそこのドアを駆け足で寄り躊躇なく開けた。見張りが一人おり、鈴花に気づいたのか部屋の中から飛びかかって押し倒した。
瑛蓮のことは気づいていなかったのか、無防備な首を後ろから思い切り殴ったら気絶した。
「ごめんなさい」
「まぁ、うまくいったしいいよ。それにほら、この部屋で当たりみたい」
部屋の中にあった荷物を取るとそのまま一層まで登った。
荷物の横には安物のポーションもあり移動速度も大分速くなった。
「ねぇスズ、馬の乗り方知ってる?」
「分かるわけないじゃん。まだこの世界きたばっかだよ」
「だよねー。走ろっか」
「ゔっ、ぉ、おー!」
そのまま無事隣の山まで走り続けこの辺でいいかというところで休憩を取ることにした。
川の水を飲みながらふと自分の臭いに気づいた。
「ごめん。ちょっとこのまま水浴びしていい?一週間も洗ってないから臭いんだけど」
「え?ああ、いい匂いだったけど。まぁレン君が気にするなら水浴びしたら?」
「は?」
「え?」
「じゃ、じゃあ浴びとくね」
「え?ま、まってあっち行っとく!」
変態なのか純粋なのかわからない反応をしながら木の裏の方に逃げていく。
『マスタースミマセンダイジナコトヲツタエワスレテイマシタ』
「お、おい。大事なことってなんだよ。怖いこと言うなよ」
『スキルヲツカッタラニジュウヨジカンイナイニコアヲセッチシナケレバイケマセン』
「え?つまりアジトから逃げて三時間くらい経ってるとして、あと二十一時間くらいで行ける場所でダンジョンを造らないといけないの?」
『ハイマスター、ソウイウコトデス』
「まじかよ!…でも仕方ないかこれ以上ないくらいに使うタイミングだったし」
『ソウイッテモラエルト、ツタエワスレテイタワタシモヨカッタデス』
「おい」
今から僕のスキル『魔窟創造ダンジョンマスター』のことをスズに伝えなければならない。人類の敵のこのスキルのことを。
水浴びを終えると交代で水浴びをするか申し出るが今はいいと断られた。
「ちょっと僕のスキルとこれからのこと話しておきたいんだけどいい?」
「え?うん!」
「まずは僕のスキルなんだけど『魔窟創造ダンジョンマスター』っていってダンジョンを造るスキルなんだ」
「ほぉ〜!すごいね、てっきり『ダイエット』みたいなスキルかと思ってた」
「ははっ、そんなスキルじゃないよ。けどここではっきりさせたいのは僕のスキルは人類の敵になるってことなんだよ。そ、そのそれでもこれからずっと一緒に来てくれる?」
「もちろんよ!これから死ぬまでずっと一緒!それに前世では最後の死ぬ直前レン君スズのこと抱きしめてくれたでしょ?」
「ぁ、そういえばそうだったね」
「あの時思ったのもっと一緒にいたかったって。もうあんな後悔したくないから追いかけてきたの。それに前世でも今でも助けられたし。だ、だから私はレン君のものよ」
とまたもや顔を真っ赤にさせながら震える声で最後まで言いっ切った。
「それに無差別で殺すならともかくダンジョンなんて自己責任よ。むしろ愛の巣となるダンジョンに入ろうだなんて不届きよ!不届き!」
前半は嬉しかったので後半はスルーしながらお礼を言う。
「ありがと。スキルの細かいとこはこれかは少しずつ話していくよ。話すと長くなりそうだからね」
「いいのよ。それでこれからについては?」
まずあと二十一時間以内に場所を決めそこでダンジョンを造らなければいけないということを説明した。
「成り行きとはいえそれは大変ね」
「うん。とりあえず最初のうちは人に見つかるのが怖いからね、このまま山賊たちのアジトから離れるようにむこうの山まで行って隠せそうな場所に造ろうかと思ってるんだ」
「いいんじゃない?ここら辺の山って街道に挟まれてるから人に見られたらたくさん集まりそうだし」
「まぁ、安全確保で隠しながら行くつもりだけどね」
安全確保と言われすこし曇った表情をしながら鈴花は聞きづらそうに聞いてきた。
「あー、そうだよね。最初の内は攻略なんて簡単にされるわよね。...そのことなんだけどやっぱり攻略されたらペナルティとかあるの?」
「うん、あるよ。攻略されたら僕は死ぬ」
予想はなんとなくしていただろうがそれが事実に変わると声にならない声で驚いた。
「っ!そんなことさせないわ!張り切ってダンジョン造りましょ!っていうかなんでみんなダンジョンに来るの?やっぱりモンスターとか溢れるの?」
「いや、この世界のダンジョンからモンスターは溢れないよ。けどね生死がかかってる分見返りも大きいんだ」
「ふーん。ハイリスクハイリターンってわけね」
「うん、宝箱だってあるしそれには財宝も珍しい道具に素材だってあるよ。それになによりダンジョンコアは不老の薬を造れるからね。出来立てのダンジョンなんか狙われ放題だよ」
「え!不老ってすご!あれ?てことはひょっとしてレン君不老だったりする?」
「うん、する。コアを守り続ける限りね」
「そ、そんな、つまり私はおばあちゃんになってもレン君は若いままで死ぬ時とかも今の姿のまま最後を看取られるのね」
「いや、考えるの早すぎ。それにスズも不老になってもらうよ?」
「えっ⁉︎なれるの?」
「うん。人間より魔物寄りのスキルみたいだからね、数は少ないけど眷属を作るんだ」
「魔物寄りなんだ、びっくり。それに何人か眷属作れるんだ」
「作れるっていっても信頼関係が前提だからね?それにスズはもう僕のものなんでしょ?」
「は、はぃ」
顔をすぐ真っ赤にする鈴花を見ながらこっちまで真っ赤になる瑛蓮であった。