表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腹が減っては戦ができぬ  作者: 藤桃利汰
二度目の人生
5/11

5話『カジノの沼』

 時は遡り八日前。

 後藤美鈴花は城を出たが、まだ王都にいた。

 瑛蓮は王都に目もくれず城から門まで一直線に進みその日の早朝に出たが鈴花は違った。

 それは剣を買うためである。けして瑛蓮が王都にいると思ったわけではない。むしろもう王都にいないだろうと鈴花は判断していた。瑛蓮ならばと。

 その上で剣を買うために残ったのだ。

 理由は自分には剣が必要だと分かっていたからだ。


 スキル:『異世界語』 『剣姫』 『剣術』 『家事』


 鈴花は前世の地球では武道などやったことはない。つまりこの世界に来て手に入れたスキルは『剣姫』と『剣術』である。

 いきなり二つは周りと比べて多いと感じたが、『剣術』は『剣姫』によって開花されたスキルだと考えれば不思議ではなかった。

 鈴花は自分の戦闘スタイルは剣だとスキルを見た時理解した。

『家事』については家のことを一人でできていたので当然だろう。料理については食べることが好きな瑛蓮のため、料理本が出せるくらいには習得していた。

 城で渡されたのは旅の資金と道具だけだ。スキルのことは言ってなかったので剣は準備されるわけがなかったのだが。

 城の門の脇でリュックを漁りまずは剣を買わなくてはいけないと判断したのだ。

 しかし城での授業を受けていない鈴花には買い物すらできなかったのだ。

 とりあえず買い物ができない鈴花は広場の噴水に座りながら「お金(リヤ)の使い方」というページを読み込んでいた。



 この世界のお金の価値は


 王金貨=光金貨×十枚


 光金貨=白金貨×十枚


 白金貨=金貨×十枚


 金貨=銀貨×十枚


 銀貨=銅貨×十枚


 銅貨=銭貨×十枚


 で銭貨は日本の十円相当で上に行くほど桁が一つ増えていき最終的に王金貨の一千万相当が最高額だ。

 王金貨は一般には出回っておらず貴族の間くらいでしか使われない。

 単位はリヤといい銅貨一枚百円相当で百リヤという。 

 鈴花がこの簡単な内容を理解するのに三十分。残りのページには商品の相場の例がズラーッと載っているだけだ。


 パタンッ


 本を脇に挟みながら城で渡されたリヤを見る。

 使いやすいように両替をしてくれているが十五万リヤ。普通の宿を使えばちょうど一ヶ月ほど泊まれるだろう。丈夫な剣を買うには少し足りない。鈴花は剣を買うために何をするか...カジノにいた。



 一日目


 昼までにはリヤの使い方を理解し宿をとり、鍛冶屋、武器屋を回り気に入った剣をいくつかチェックし、必要なリヤを確認しカジノにいった。

 異界人が多いのかカジノの中は前世のイメージ通りだ。

 この日はいい感じに勝ち続け持ちリヤは一.五倍に増えた。

 だがまだ足りない。




 二日目


 この日も順調に行き最終的な持ちリヤは最初の三倍まで行った。




 三日目


 しかし、神様は三日目も味方してくれることはなかった。この日は負けに負けを重ね残りは十万リヤになった。




 四日目


 二日連続負けることはない。鈴花にはそんな確信があった。なぜか?自分は早く王都を出て瑛蓮に追いつかなければいけないからだ。四日目最初の勝負こそ負けはしたが次は勝つ。まぁいい、次は勝つ。いや、次こそ。これが最後の勝負!と気がつけば残金三万リヤ。




 五日目


 だめだ。買えない。カジノは諦めよう。何か手はないか。自分が前世で培ってきたもの。前世では読モをして小遣いを稼いでいた。けどそんな文化この世界にはない。...ふと閃いた。握手だ。鈴花は自分が恵まれた容姿だと、かわいいと自覚していた。それでも化粧を勉強したり、トレーニングをしていたのは瑛蓮に一番可愛い自分を見て欲しかったからだ。自意識過剰と言われるかもしれないが、そのための努力を怠ったことはない。それからは噴水の広場で一握手銅貨一枚で始めた。しばらくするととんでもない行列ができていた。それはもうフィーシャ様が騎士を連れて様子を見に来るほどに。道を塞いでしまった迷惑料などで所持金は十五万リヤを超えていたが四万リヤになってしまう。「後藤さん。とりあえず明日お城に戻ってきてください」「はい」と。




 六日目


 フィーシャに連れられお城に戻ってくるとクラスメイトに見られるのが恥ずかしく、縮こまっていた。「後藤さん、いえ、鈴花ちゃん!剣が欲しいなら先に言ってください。一様こちらでは旅立ちの準備はすることにしてるんですからね!いいものとはいかないけど使われていない武器ならわたすことにしてるんです」そう案内されたのは武器庫の剣のコーナーだ。「ここから一本好きなのを選んでください。」鈴花が王都で剣を見定めている時に気に入る剣は全て細めのレイピアと呼ばれる細剣だった。武器庫にもあったが何本か選んでいると、ふと気になる細剣があり握るとしっくりきたのでこれにした。剣を触ったことのない鈴花ではおかしい感覚だった。これは『剣姫』のお陰なのか、そんな風に考える鈴花であったが気にすることをやめた。「ありがとうございました!」「うん。いいのよ、ただね旅立ちの資金として渡せるのは白金貨一枚と金貨五枚の十五万リヤまでなの。それだけはごめんなさいね」「ゔっ、分かってます」「それでは行ってきます!」「はーい!頑張ってね!」残金三万リヤ。



 なんとか剣を手に入れることができた鈴花は城を出て七日目の朝、門を出た。




 門を出て一日は瑛蓮と同じで何事もなく暑さに耐えながら歩いていたが瑛蓮と同じく盗賊に遭遇したのは二日目だ。

 街道を歩いていると馬車が横を通過し少し先の道脇で休憩を始めた。

 盗賊たちは剣を持っていることから最初は通り過ぎたが目敏い盗賊たちは異界人に配られる本を見たのだ。

 盗賊たちの判断は正しく、四人でゴリ押せば倒せる相手だ。しかし、居残りメンバーの盗賊たちはどう戦いを回避して怪我をせずに相手を拘束するかを考えてしまい結果的にうまく行かなかった。

 理由は馬車に乗ってかない?と街の中ならナンパのような発言をしたことだ。

 読モをやるほど見た目が整っている鈴花はよくナンパされては躊躇なく嫌な顔をすることが癖になっていた。

 それは親切心から来たかもしれない馬車に対しても同じだった。


「そこのお嬢さん!俺達次の町まで荷運びの仕事してるんだけどよかったら乗ってかない?」


「結構です」


 顔を逸らし、両の手の平を突き出しながら拒否を示した。

 その反応にイラッときた一人が「やめだっ」と叫ぶと同時に飛びかかってきた。

 思わず踵を返し逃げ始めた鈴花だが荷物もあり、すぐに追いつかれ戦闘に入る。

 本番の緊張感や一対多数に慣れていない鈴花は構えたまま待ち構えてしまった。

 その結果、相手に時間を与え、四方を囲まれ、後ろの一人に気づかず首を殴られ気を失ってしまった。




 目が覚めた時には揺れる馬車の中だ。

 身体は縄でぐるぐる巻きにされていた。

 近接系と判断されたのか口は何も縛られておらず発言をしてしまった。


「んぁ?ここは?」


 寝惚け眼のまま周りを見ると四人の盗賊がいた。


「お?起きたか」


「嬢ちゃん異界人だろ?」


「だ、だったらなによ」


「おっしゃー!こいつは高く売れるぜ!」


「おう!しかもこの見た目だこの前捕まったやつなんか目じゃねぇ!」


「あの二人散々自慢してきやがってな!」


「俺達の方が先に出世だぜこりゃあよ!」


 売れるという言葉にゾッとした鈴花は聞きたくない質問をすることにした。


「う、売るってどうゆうことよ」


「あん?奴隷だよド!レ!イ!」


「違法だけどな。嬢ちゃんの見た目なら間違いなく金持ちが競り合うぜ」


「しかも異界人だ。かなり珍しい!」


「もし処女ならもっとだ!嬢ちゃん処女か?」


「言うわけないでしょ。そんなこと」


「ま、隷属の首輪をつけて質問すれば一発だけどな」


「あ、あんたたちそんなの持ってんの?」


 ブシッ


「さっきから舐めた口聞きやがって舐めてんの?死ぬの?」


「す、すみません」


 発言を終えると同時に殴られ、反射的に謝ってしまう。


「ま、そんな首輪盗賊にはまず出回らねぇけどな」


「でもお前を奴隷商人に売るときにつけられて質問するんだよ」


「でもよー、こんな上玉なら処女じゃなくても高く売れるだろうし俺らで遊ばね?」


「ば、バカよせ!頭にバレたら俺達終わりだぞ!」


「そうだよ。それに頭達って自分たちはするくせに下の奴らにはやらさないんだよな」


「あ、それ俺も思ってた。処女だった場合値段が下がるからってな?」


「ま、とりあえずこの大空の銀鷲(メタル・イーグル)で真面目に上目指そうぜ」


「「「そだな」」」


 なぜか四人だけの会話になりそのまま身動きの取れない鈴花はアジトまで喋ることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ