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腹が減っては戦ができぬ  作者: 藤桃利汰
二度目の人生
4/11

4話『盗賊』

「はぁー、暑ーい。この世界季節とかあんのかな」


 王都を出発してから二日目。猛暑に照らされながらも瑛蓮は草原を歩いていた。

 王都でもらってきた教材を見れば季節が春夏秋冬あることはわかるが宿で休めるときにでも読もうとしていた瑛蓮にはまだ知らないことだ。


『マスター、スキルツカッテクダサイ。ソシタラマスターノムダナゼイニクナクナッテアルキヤスクナリマス』


「まじで?つってもこの街道遠くから見えるし後ろの方でもなんか商隊みたいなのぼんやり見えるし見られたらまずいからまだいいよ」


『ワカリマシタ』


「それとさぁ、ずっと思ってたけどお前って何?」


『ワタシハダンジョンコアデス』


「へぇー、喋れるなんて変な奴だな。一人旅も寂しいし話し相手には丁度いいかな?」






「おーい、坊主一人旅か?」


 休憩がてら道の隅によっていると先程まで点のようだった商隊がすぐそこまで来ていた。


「あ、はい。まぁそんな感じです。冒険者始めようかなって」


「おぉーそうか。つっても坊主その肉で冒険者はきついんじゃねーか?」


「はははは、まぁマイナスからのスタートってことで頑張りますよ」


「おおっ!その意気だぜ。気に入った!俺達もちょっとしたら休憩すんだが荷台に乗るか?」


 こちらからお願いしたいくらいの申し出に「お願いします!」と答えてしまった。さっき痩せます発言したばかりなのに。








 荷台に乗ってる間雑談などをしていると開けた道に出てきた。隅に馬車を止めると夕食の準備を開始する。荷台に乗せてもらったこともあり、二人分くらい手伝った。その甲斐あって早めに夕食の時間になった。


「そーいえばおっさん達は商人なのか?二人しかいないみたいだけど」


「まぁな。緊急の納品があって別行動さ」


「へぇー、大変ですね。護衛とかもいないみたいだし」


「まぁな。俺らは元冒険者だったんだよ。それで護衛もいらなくていいってわけ」


「元冒険者って言っても現役の時と比べると大分衰えちまったけどな」


「違いねぇ」


 夕食が終わり明日に備え早めに寝ることになるが疑問に思ったことを聞いてみた。


「こんなところで寝ちゃってモンスターの心配はないんですか?」


「坊主は珍しいくらい何も知らねぇな」


「ほら見てみろ街道の休憩広場みたいなところの柵に綺麗な石がついてんだろ?あれは魔除けの結晶つってなあれのおかげでここら辺にはモンスターは近寄らないんだよ」


「へぇ、便利なもんですね」


「まぁ、強いモンスターなんかには効かねぇけどここら辺にはそんなモンスターいないからな」


「つっても安心のしすぎもよくねえぜ?モンスターがいない分盗賊が多くなるからな。それに強いモンスターがいないなんて保証はどこにもねぇ」


 瑛蓮は二日も歩き続けたために物音などでは起きない深い眠りについてしまった。





「へへっ、やっぱりだ」


「あぁ、お前の言う通りこいつは異界人だ」


「この本は異界人が最初に配られるっつうもんだからな。本当にいいカモだよ」


「しかしよぉ〜、こいつ強いのか?こんなだるんだるんな肉をつけちまって」


「確かにな。でも異界人は決まって珍しかったり強いスキルを持ったりしてんだ。奴隷としての価値はそこらのやつよりはあるはずだぜ」


「だな。さっさと縛り上げるぞ」


「おう」






 ガタガタと揺れに気づき起きる瑛蓮は身体を起こそうとすると縄に縛られていることに気づかず、


 ドンッ!


 と、壁に頭をぶつけてしまった。後頭部にくる痛みに思わず声にならない声を上げてしまう。


「んーーー!」


「お?やっと起きたか坊主」


「この状況に理解できてねぇみたいだな。俺はこのまま手綱もってっからお前説明してやれよ。しなくてもいいけど反応見たいし」


「しゃーねーな。おい坊主、昨日の話覚えてっか?魔除けの結晶の話だよ。あん時話してた盗賊ってのは俺らみたいなやつだよ。お前はこれから奴隷として売られるんだ。異界人ってだけで金持ちには高く売れるからな」


「ん〜!ん〜!」


「ははっ。いい顔してんじゃねぇか。なんか喋りてぇみたいだけど。お前が魔術系の戦闘タイプだったら詠唱されちまうからな。特にお前動きとかとろそうだから近接とかのスキルより魔術とかのスキルの方が使いそうだしな。悪いがお喋りはさせねぇよ」


 そういうと男は御者台に戻り二人で瑛蓮の反応を肴に談笑を始める。


『マスター、ツカマッテシマイマシタネ。メチャクチャタノシソウニマスターノコトハナシテマスネ』


(うるせーよ!つか縛られる前に起こしてくれよ!)


『マスター、ソレハムリデス。ワタシハマスターノナカニイルノデマスターガオキテナイト、ワタシモイシキハアリマセン』


(え?そうなの?そっかー、じゃあどうしよ)


『イマハスコシデモニゲルタメニジョウホウヲアツメマショウ。アノフタリノカイワヲヨクキキ、バシャノナカニナニカツカエルモノハナイカ、カンガエテクダサイ』


(なるほど。了解)





 御者台と荷台の間には荷物が積もっており、御者台のすぐ後ろにいるが、荷物は大きな木箱に入っており、木箱しかなかった。縄を木箱で削ろうにも御者台の一人はこっちを見ているため動けそうもない。


(やべぇ、逃げれねぇよ!あいつがあっちを見た隙に縄で締め上げるってのは、どうだ?)


『ソレハヤメマショウマスター、ウマクイッテヒトリヲタオシテモゼッタイニモウヒトリニヤラレマス。ソシテマスターハツヨクナイノデタオセルカモビミョウデス』


(お、ぉうん。僕の評価低い)


『マスター、ゲンジョウヲリカイスルノハタイセツナコトデス。アセッテレイセイサヲカクノハジサツコウイデスカラネ』


(おう。サンキューな、もっと確実に逃げることを考えるよ)


『ハイマスター、シカシヨワイノハイマノハナシデス。マスターハツヨクナレマスヨ』


(とりあえず二人の会話でも聞いとくよ)






 しばらく二人の会話に耳を傾けていると大人し過ぎたのかよからぬ話が聞こえてきた。


「こいつさっきから大人しくなったな。諦めたって割には暗い顔もしてないし」


「確かにな、まだどっかで諦めてねぇんだよ。ボコっとけよ」


 男は二つ返事で御者台からこちらへ寄ってきて殴り始めた。しばらくして目も開けられないくらい顔が腫れ、骨は折れないくらいで打撲痕をたくさんつけられた。

 そこに二人の誤算があったとするのなら、瑛蓮はボコボコに殴られても諦めることをしなかったことだ。

 顔の表情がわかりづらくなると諦めているのかいないのか分からなくなったのだ。

 二人は瑛蓮が気を失ったのかと勘違いをしたまま話を始めた。


「骨は折ってねぇよな?安物ポーションじゃ治せなくなるぞ?」


「おう、何回この仕事やったと思ってんだ舐めんなよ。でも気は失ったかな」


「それもそうだな。しかし、今回は異界人だしそろそろ俺らも美味しい汁吸えるんじゃねぇか?」


「違いねぇ、頭達は結構遠くに仕事しに行ってんだろ?帰ってきたら驚くだろうぜ異界人なんていい値で売れる」


「俺らが大空の銀鷲(メタル・イーグル)に入ってからもう一年、信用も得てきてるだろうし、これを機にのし上がるぜ」


「おう!」


『マスター(分かってるよ、盗賊の名前だろ?結構大きいみたいだし頭達がいないって言ってたしアジトに連れてかれてもまだチャンスはあるはずだ)…ハイ』


「あいつらも驚くぜ、俺らが先に出世しちゃったらよぉ」


「だな。あいつらとの奴隷狩り勝負もこれで終わりだ」


 馬車は既に街道を走っておらず、山の中を走っていた。

 獣道を通り、山を登り、見晴らしのいいところまで登ると馬車から降りずにそのまま坑道へと入ってゆく。

 瑛蓮が先ず驚いたのは馬車も通れる道の大きさだ。もう使われていない坑道なのだろうが、灯もついており完全に盗賊のアジトと化していた。

 坑道の一層目は馬車などの置き場なのだろう。下の層まで連れていかれ少し手作り感が滲み出ている牢屋にぶち込まれた。


「おい、坊主ここでしばらく大人しくしてな」


「頭達が帰ってくるまであと半月はここにいてもらうからな」


「魔術を使おうとしても無駄だからな。この檻は元々犯罪者用に作られたものだから魔術が使えないようになるんだ」


 男達は留守番をしていたメンバーに自慢しながら部屋を出て行った。


『マスターコノナワデスガダンジョンケンノウヲツカイマスターガヤセレバウデガホソクナリユルムトオモイマス』


「おぉ、まじか太ってて良かった。早くしてくれ」


『シカシマスター、イマツカッテモカラダガウゴカナイノデウゴケルクライマデヤスミマショウ』


「でも、ちんたらしてたら人が増えるかもしれないじゃん」


『タシカニフエルカモシレマセン。シカシヤツラノボスハアトハンツキハイナイノデシュセンリョクハイマセン。アセラズカクジツニダッシュツシマショウ』




 縄がずれたのか、瑛蓮が慣れたのか、喋れるようになっていた。

 それから五日の間瑛蓮は見張りが来る時間を覚えることに集中するのだった。

 捕まって七日目、体も動くようになりそろそろ逃げようとしているとここにきて七日目にして次の奴隷が連れられてきた。


(そういえば僕以外に奴隷にされるやつ今まで来なかったな。忘れてたわ)


『ハイマスター、オソラクイマアジトナイノメンバーハシンイリカアシデマトイカト。シゴトヲイッコスルノモカナリオソイノデショウ』


「そだね」


 自分はそんなこと考えてもなく素っ気なく返してしまう。

 ドアを開ける音が聞こえ瑛蓮咄嗟に気絶してるふりをする。


「ほらよ!()()()同士仲良くしときな!」


 バタンッとドアを閉め盗賊は出て行った。


 ――シーン。


 異界人同士と聞こえ思考が正常に回らなくなって数分がたちそーっと瑛蓮は顔を上げた。

 薄暗い部屋の中、音を頼りに新しく連れてこられた人の方を見ると相手も同じタイミングで瑛蓮の顔を見つけたのか目が合った。


「「え?」」


 目の前にいたのは後藤鈴花であった。

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