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腹が減っては戦ができぬ  作者: 藤桃利汰
二度目の人生
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2話『僕は決めた』

 水晶に手をかざすとなんとも言えない淡い光を放つ。それから光は強まることもなく終わってしまった。他の人と比べるとどうにも物足りない。


「おいおい!見ろよ町田(マチダ)!生田の光ちゃっちーぜ」


「高田だめだよそんなこと言っちゃ、ぷぷっ」


「そーだよ直也!こうゆうのは見なかったことにしてやるんだよ」


 などと言いやがる。結構くるぜ、心折れそう。


「むむむ、おかしいですね。この輝き…えー、と生田さんでしたね。スキルの方はどうでした?」


「とくになにも…」


「まぁ、その、あれですよ!戦闘向きじゃなかっただけですよ!気にしないで次行きましょう!」


 ぐふぉっ、そのやさしさが辛いよ。いや、しかしスキルはおかしいと思う。なにもないならともかく『Unknown』だ。おそらくなにかしらの条件じゃないと発現しないのか、見ることができないのだろう。


 ジーーーーーーーーーーー。


 強い視線を感じた僕は思わず後ろを振り向いてしまった。

 鈴花がめっちゃこっちを見てる。鈴花は目立つのですぐに見つかった。髪は肩甲骨あたりまであり藍色がかった黒髪だ。純粋な黒髪ばかりの日本人のクラスメイトから探すのはそれだけで簡単だ。しかもウルフカットである。そして何よりかわいい。綺麗というよりはかわいいよりの美人だ。これだけそろえばクラスメイトから見つけるなど秒だ。

 やっぱり死ぬ直前に抱きしめてしまったのをやっぱ怒ってるのか?

 先生は心配そうだ。

 高田達は爆笑しているだけだ。先生の前だからあれでもおさえてやがるな。


「さて、今日はこれくらいにして明日から本格的にこれからの話をしていきましょうか。ふふ〜今日はパーティですよ!皆様の召喚祝いです!自分の部屋の案内が終わったらパーティ会場に集合です!では騎士の皆様案内よろしくお願いします!」


 準備でもあるのかフィーシャは走って行く。最初の凛としたイメージは崩れつつある。

 こうして僕達は騎士に案内されて個別の部屋に案内された。










「あ〜、最悪だ〜、なんだよあの魔力の光。一般人より少し大きめなだけらしいじゃねーか。ちくしょう。はぁ、母さん元気にやってるかな」


 《シュウイニヒトガイナイコトヲカクニンシマシタ。スキルヲヒョウジシテクダサイ。》


 え?なに今のもしかして人の前だから『Unknown』だったのか?思っていたよりも『Unknown』の謎は簡単だったみたいだ。


(え〜っと、念じるだけだったよな。スキル!)


 スキル:『体術』『魔窟創造ダンジョンマスター』


 これがスキル…ってやつなのか。

 それと『体術』はわかる。一時期近所のおっさんに鍛えてもらったからな。

 第二の人生とか言ってたし前世で使えたこともスキルとして追加されてるってとこかな。

 そして気になるのが『魔窟創造ダンジョンマスター』だ。なんでかは分からないけどこれがUnknownの原因だろうな。


 《『ダンジョンケンノウ』トネンジテクダサイ。ソウスレバスキルノショウサイガワカリマス》


 また頭の中で声がする…なんなんだよ。パーティまで時間あるし試してみるか、(ダンジョン権能!)…












 三十分後。

 正装に着替えた後、メイドさんが迎えにきてくれたのでパーティ会場に行く。メイドさんが次々に部屋へ呼びに行き、男子が全員集まった。女子は塔が違うらしいので会場集合とのこと。

 男子の最後尾を歩いていた僕だが、みんなが入口でいきなり足を止めるせいで会場がよく見えない。

 やっとの思いで会場に入ると、みんなが止まっていた理由がわかった。

 床に広がる深紅の絨毯。何十メートルもあろうかという高い天井。天井を彩るさまざまなシャンデリア。天井近くから垂れ下がる巨大なカーテン。素人目でもわかる年代物の置物。そして何よりもテーブルの上に並べられた豪華なご飯。本当に異世界なんだ…

 すごすぎる…そりゃ足が止まるわ。

 驚きながらもパーティの様子を伺う。まだ女子は来ていないが、うん。立食パーティか、悪くない。

 男子は女子が来ていないのでパーティを始められなくてイライラし始めていた。そうこうしていると、


「お待たせー!いや〜女子のレベル高いねぇ〜、さぁ男性諸君!刮目せよ!」


 みんなのフィーシャへの第一印象がどんどん崩れていく中、フィーシャの後ろを見ると十五人もの女子達と伊藤先生。

 僕達は驚きを隠せずソワソワしてしまった。女性陣達はパーティドレスを着て来たのだ。異世界のドレス。前世とはデザインから違う。しかし、どことなく前世の要素もある。おそらく召喚された人たちのアイデアも入っているのだろう。

 僕は気がつくと鈴花のドレス姿を見ていた。思わず見惚れてしまった。鈴花のドレスは鈴花の魅力を十二割出していたのだ。

  そう思っていたら鈴花と目があってしまった。反射的に目を背けてしまった。もう一度見ると、また目が合ってしまう。今度はムスッと頰を膨らませている鈴花と。

 藍色がかった黒髪に合う藍色のドレス。谷間が見えてしまうくらいにはデコルテは開いており大人な色気がでている。

 忘れよう。怒ってるし。ドレス姿だけ覚えておく。


「ごほん!では僭越ながら(わたくし)フィーシャが音頭をとらせていただきます。が、その前に私がこの世界の代表として謝らせてください。この世界に勝手に呼び、勝手に戦えと、言っていて調子のいいことだということも分かっております。ですが戦いを強制することはこのフィーシャ・E・ヴォン・リオネルがさせませんので安心してください。不満を持っていたりしたら遠慮なく言ってください。以上です。え〜、皆さんの転生記念兼これからの明るい未来にカンパ〜イ!」


 友達のいない僕はご飯をたらふく食べた後、人けのいないテラスに移動して城下町の夜景を眺めていた。


「おやおや?生田さんではないですか」


 陽気なフィーシャが近寄って来た。


「あぁ、フィーシャ様でしたか。ずいぶん楽しそうですね」


「まぁね。たくさん友達できたからね!生田さんも気軽にフィーシャって呼んでいいよ!」


「いきなりですね。じゃあ僕もエレンでいいですよ?」


「おぉ!そうかエレン君よろしくね!」


「えーと、フィーシャにお願いがあるんだけど」


「ん?なにかねお姉さんにいってみな?ホレホレ」


「おねーさんって何歳ですか?」


「むぅ、女性に年齢を聞くなんてまだまだ紳士には程遠いみたいだね。37歳だよ」


「えぇぇ⁉︎」


「まあね!エレン君達はまだ知らないから当然だけどね。魔力が洗練されればされるほど老いってのは遅くなっていくのさ」


「へぇ〜そんな効果まであるんですか。てことは結婚とかもしてるんですね」


「そういえば頼みってのはなんなんだい?」


(あれ?結婚って聞こえてなかったのか?)


「王女だし、相手も偉い地位の人なんですか?」


「で!頼みってのはなんだい?」


 フィーシャは結婚のことは話すなと、威圧してる気がする。まぁ…いいか。


「僕、ここ出ようかなって」


「ふぇぇっ?なぜだ、マイフレンド…やっぱり魔力測定とスキルのこと気にしてるの?」


「端的に言えばそうですね」


 そう言いながら僕は服をめくってたくさんの痣をみせる。


「僕いじめられてるんですよ。今日は先生がいるから表立ったことはされてないけど、みんなはこれから力を手に入れるからね。その前に出ていかないと冗談抜きで体が壊れちゃうよ」


「いじめってクラスメイトにかい?」


 さっきまでそのクラスメイトと楽しくしていたので信じられない様子だ。


「いじめか…していることは気に入らんが、本気みたいだねエレン君」


「うん。あぁ、そうだ僕がいなくなったからっていじめの標的変えたりはしないと思うよあいつら」


「分かったよ。エレン君はもう決めてるみたいだしねその方がよさそうだし。エレン君自身が言ってるのはちょっと怪しいかなってお姉さん思うけどまぁいいよ。ただし二つの条件付きだ」


「じょ、条件?」


「あぁ、条件さ、あたりまえだろ?そうだね一つ目はちゃんとエレン君の先生に挨拶すること。あの先生は一人でもいなくなったらとても心配しそうだからね」


 確かにと思い、頷く。


「そして二つ目は一年間使ってもらうつもりだった教材を持っていってくれ。そしてニ年後かな…うんニ年後だニ年後にちゃんと教材を返しに来てくれ。君自身で五体満足で返しに来てくれ。君を安全にさせるのはこの世界に連れてきたお姉さんの義務だ。ちゃんと元気でいてくれ。約束だぜ?」


「あぁ。分かったよ」


「うん。じゃあお姉さんはみんなのところに戻るよ」


「お元気で」


(よし。部屋に戻るか)







 コンコン


「鍵なら空いてますよー」


 ギィィとドアの軋む音だけが聞こえる中、伊藤先生は入ってきた。


「出て行くって聞いたの。本当?」


「はい。本当です。僕の能力じゃあ冒険者は向いてなさそうなので、どっかに弟子入りでもして身を固めようと思いまして」


「身を固めるのは賛成だけど速すぎない?先生心配しちゃって」


「やぁ~なんとかなりますよ」


「そうね。べつに危険なことをするわけじゃないだもんね?」


「はい。一様そんな感じです」


 先生は涙目ながらも僕のことを抱きしめる。


「先生はいつまでも先生だから、相談があったら帰ってきてね」


「もちろんですよ。職にあぶれでもしたら帰ってきますね」


 それから三十分ほど前世のこと、この世界のことで少しだけ盛り上がった。


「そろそろ遅い時間だから戻るね?」


「はい。変な関係と勘違いされちゃいます」


「こら、じゃあ体に気をつけてね」


「はい」


 めっちゃいい先生だな。先生の鏡だよ。


 コンコンッとまたこの部屋を訪ねる音が聞こえてくる。


「生田殿、教材をお持ちしました」


「はい。今開けますね。騎士さん」


「私の名前はドータルです。こちらが教材です」


「では生田殿、ご達者で」


「はい。ありがとうございました」


 バタンっと、閉まるドア。

 やっと寝れるようだ。








 チュンチュン、と鳥のさえずりが聞こえるのは、王都の門の前。エレンは夜明けにはすでに、王城から出ていたのだ。教材と一緒に身分証もあるので無事門をくぐることができた。

 異世界に来て二日目にしてエレンは日の出よりも早く旅立つのだった。

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