11話『暴食』
夢の話をした。スキルについて。あれが本当にただの夢とは思えないからだ。確認のしようがないので言っていたことが本当か転生特典の教材を読む。本当に一夫多妻制だった。
ビリビリ
瑛蓮と自分の教材のそのページだけ破って捨てておいた。もちろん内緒だ。
「モリナロ?僕にもそういう人がいるのか…」
「多分ね。全部の大罪スキルが同じ感じだと思う」
鈴花が自分でもよく理解していないことなので話は盗賊に戻る。
「アド村には小さいけど冒険者ギルドがあるし報告だけしてアクセルまで行きたいと思うんだけど、どう?」
「おっけ!」
「じゃあ行こっか」
報告者が多いに越したことはないので鈴花も一緒に来ることになった。被害届があるならそれも出したい。
盗賊は三手に分かれて捜索していた。
「ちッ、いねぇな…ん?おい!あの嬢ちゃんじゃね??見っけちまったなー!」
盗賊の一人グダは鈴花を見つけ気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
冒険者ギルドに入る前から外まで騒音がしていた。僕達は武装もしているし、新顔と勘違いされて絡まれる可能性もあるので一般人用カウンターまで一気に進む。
「こんにちは。本日はどういったご用件ですか?」
「すみません。盗賊の情報の報告をしたいんですけど」
「盗賊の目撃情報ということでよろしいですか?」
「いや、んー…話せば長くなるんですけど……」
今まであったことをすべて話した。転生者だということ、盗賊のアジトと場所、その盗賊三人組をこのアド村で見たこと、その特徴まで。そうすると受付嬢は少しずつ真剣な面持ちになり応接室まで通してくれた。
「なるほど……。今回の場合は被害届の受理が成立するかもしれません」
「今回は?」
「はい。そもそも盗賊に拉致され自力で脱出する方も少ないですし、目撃情報など頻繁にあるんですが慰謝料目的が多く確たる証拠がなければ冒険者も領内の兵も動かないんです。もちろん積み荷を奪われて見逃してもらい無事というパターンもあるのですが証拠がなければ動けないんです。その点に関して被害者の方には大変申し訳ありませんが」
「僕達の証拠っていうのはこの場合アジトの場所ですか?」
「はい!盗賊大空の銀鷲はここ二、三年にできた団なのですがその勢いは凄まじくこれ以上大きくなる前に潰したいのですが足取りが摑めずにいたんです!」
受付嬢の物腰は好機を見つけたと言わんばかりだ。
「情報の確認次第で情報料がお支払いできますがこの村にはどのくらいの滞在ですか?」
「オリエントまで行く予定で明日の朝一で行こうかと思ってたんですが」
「正規で入るのですね意外です」
「正規って何よ」
「お二人は装備がある程度整っているので裏口登録かと」
裏口登録とは地位の高い人からの推薦であり、本来二人が王都で合格を貰えるまでやっていれば貰えた物だ。
「情報料はオリエントで支払われるようにしておきますね」
「ありがとうございましたー」と部屋を出てギルドを後にすると買い物の続きを終わらせ宿に戻る。
準備を終わらせる頃には夜になっていた。旅などしたことのない二人からすれば旅に何が必要か分からないので苦戦しながらの買い物だったのだ。
小さな宿なので水浴び場は少なく鈴花が水浴びをしている間、瑛蓮は一人で時間を潰していた。
コンコン
部屋の鍵は一つしかないので鈴花が戻ってきたのだろうと疑いもせずドアを開けた。
バタンッ!と勢いよく向こう側から押されたと思ったらナイフを持った男がこちらに向けて刺してきた。
勢いよく押されたのが幸いして横腹をかすめる程度ですんだが…痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。横腹が熱くなっていく。
「なんなんだよ!ってお前あんときの」
「その反応はやっぱりあの時のくそデブで間違いないなあ!」
僕の顔面をボコボコに殴ってくれた男だ。名前は確かグダ。
逃げるように部屋の奥へ行き、近くにあった毛布をグダめがけて投げ、くるまっている間に部屋から逃げようとグダの後ろにあるドアへ行こうとするが、
「オラッ!」
グダは毛布など関係なしに毛布ごと右肩を刺してきたが毛布から出てきた手首を掴んで押し倒し、
「お前らのことは通報させてもらったからこんなことしてもすぐ捕まるからな」
「知ってるはデブ!お前らがギルドに入るのは見たし仲間と合流する間に村の出入り口はすでに見張りがいる!だがなぁどうせ捕まるなら俺はその元凶のお前らを殺す!ぶっ殺す!お前を殺したら次は女だ!今は水浴びだろ?人が並んでたから後回しにしてやったが死んだお前を見たらどんな顔するだろうな?」
二人は膠着状態にいた。毛布から出させないよう抑える瑛蓮と毛布から出ようとするグダの図だ。しかし右肩を刺されている瑛蓮は少しずつ力が抜けていく。横腹と肩から血がどんどん流れており膠着状態をいつまでもこうしてはいられない。
僕は思い切って叫んだ。
「だれかー!盗賊が出た!助けてくれ!」
「ッのやろうが!」
誰かが来る前に何とかしなくてはと言わんばかりにグダは毛布の中で暴れ始める。
『チッ…オイ、窓から飛び降りろ。四階だが死にはしねぇよ』
頭の中から声がする。
「またこの声か…」
村に入るときにも聞こえた声が僕の頭で聞こえ、頭をズキズキ痛める。
『察しの悪い野郎だな、鈴花とかいう娘が言ってたろ。スキルだ、俺は暴食』
「じゃあ夢に出てこい!分かるわけねぇよ!それにここ四階だぞ⁉けがじゃすまないわ!」
『戦いに身を置くつもりなら自分を知れ。その出血であとどんだけもつと思う?死にたくないなら自分から助かりに行け、それともここでこいつを倒すかだ。俺なら倒すけどな』
「だったら僕だって」
『無理だな』
食い気味に否定しながら苛立ちを含めて続ける。
『お前に人を殺せるか?ゴブリン殺してゲロするお前に?気絶させるんだってそれなりに技術はいるんだ。間違えりゃ殺すんだ。人を相手にするっていうのはそういう覚悟があるやつだ』
僕は何も言い返せない。
頭がズキズキするのは頭に直接話しかけられてるからだけじゃないだろう。
「だったら…」
『ん?』
「だったらこれでどーだバーーカ!!」
情報提供から冒険者ギルドは慌ただしくなっていた。
アド村の冒険者ギルドのギルド長は人がいいことで有名だ。同じくらいの規模の村よりも冒険者の人数が少し多い理由はそこにある。
そんな慌ただしい中、ギルド長が出した命令は情報提供者の護衛だ。ギルド長に依頼という形で命令された二人の冒険者は瑛蓮と鈴花の泊まる宿の前に来ていた。
「ここの宿であってたよな」
「おう」、そう言おうとした瞬間、
――パリィン!
何かの割れる音。反射的に上を見上げると四階の窓から二つほどの人影が落ちてくる。
二人は目を見合わせどっちを受け止めるか決めると着地地点に行きキャッチした。
「ッのガキがぁ!!」
人目の多い大通りに落ちてきたというのにグダは気にすることなく瑛蓮を襲おうとするが二人の冒険者によって止められる。
「おい!そいつを任せる、情報と同じ格好ならそいつが盗賊でこっちは護衛対象のガキだ。出血がひでぇ、今すぐ治療してやらないと!」
「おう!こいつは僕に任せろ!」
薄れゆく意識の中で頭にズキズキと痛みが走る。
『クハハハ!まぁ、倒せてないが折衷案にしてはいいんじゃねぇか?』
冒険者ギルドの中で治療を受けた瑛蓮はそのまま医務室のベッドの上にいた。
「まだかな」
瑛蓮の手を握りながら鈴花は呟く。
「後は目を覚ますだけだって、大丈夫だ」
安心させるようにギルド長は励ますが仕事が残っているため訓練場へ向かう。
「よし、お前ら離れとけよ」
野次馬となりつつある冒険者達に注意をすると気絶しているグダを起こす。
「んぁ?ここは…って手も足も動かねぇし」
「おい、大空の銀鷲の一員ということは既に分かっている。今から洗いざらい話してもらうからな」
「いろいろバレちまってるって訳かじゃあ知ってんだろ?俺ら大空の銀鷲は情報を話したら爆発しちまうってよ」
これがわざわざ訓練場というたくさんの人に見られた場所で尋問をする理由だ。
「分かっている。しかし頭領のお気に入りにはその魔術はかけられてないということもな」
何かを悟った顔をしたと思ったらグダは冷たい目をする。
「あっそ、じゃあ死ね」
半径一メートル程を巻き込み爆発し、爆発音が村中に轟く。
グダはどうせ死ぬならと少しでも近くに人がいるうちに自決したのだ。
ここで誤算があったとするならグダという男の性格を誰も理解していなかったことだろう。
「ちっ、自決もできたのか。おい!怪我人はいるか!」
爆発した時のために予め水魔術で結界を張っていた為に爆発に巻き込まれたのは内側にいたギルド長だけですんだ。
「すげぇよギルド長爆発に巻き込まれたのに無傷だぜ」
「え?ギルド長確かにくらってたよね?」
「これが元Aランク冒険者ってやつなのか」
当たり前のように無傷のギルド長に周りのは称賛を送る。
「さっさとこいつらのアジトへ乗り込む準備するぞお前ら!」
グダから情報を取ることはできなかったが大空の銀鷲のアジトへ乗り込むためギルド長は指示を出す。
グダが爆発した直後。
爆発音は医務室にも聞こえていた。
「きゃっ」
「何だ今の音…ってここどこ?」
驚く鈴花の隣で寝ていた瑛蓮も音に驚き、目を覚ます。
「レンくーん!」
目を覚めて最初に見たのは嬉しそうな顔の鈴花だ。
「おはよ、あれ?怪我が治ってる…?」
「ここは冒険者ギルドの医務室で怪我は治してもらったんだよ」
ここにいる経緯を教えてもらているとギルド長が来る。
「どうやら目が覚めたみたいだな」
「えっと…ありがとうございます?」
「自己紹介がまだだったな俺はギルド長のキルヒャーだ」
こいつ誰だ?という顔を察していたら自己紹介をしてくれた。
立ち上がろうとするがふらついてしまう。
「おっと、気をつけな。傷は治っているが血は戻ってないんだ。食うもん食って休んどきな」
キルヒャーは様子を見に来ただけのようですぐに仕事に戻る。
残り二人の盗賊が見つかっていないためそのままギルドに泊めさせてもらい、明朝出発することにした。
「なんとか村から脱出はしたな」
ここまでこれば一安心とばかりにユナは言う。
ユナともう一人の盗賊カフはすでにアド村の外にいた。
「グダの野郎暴走なんかしやがって、逃げられたのにはムカつくかもしれないが命が一番だろ」
「あいつが騒ぎを起こした間に村から脱出したことを考えればよくやったって感じだけどな」
グダの行動に悪態をつくユナと冷めてるカフはギルドに情報がバレたのを少しでも早くアジトに知らせるため急いで帰る。