1話『中島のせい』
光に包まれて目が覚めたせいでまだ視界が霞む中、僕――生田瑛蓮――は自分の状況が理解できずにいた。クラスメイトを取り囲む騎士達。すごく完成度の高いコスプレ。しかし、僕達はなぜここにいるのか、あのコスプレ集団は僕達を拉致したのか、疑問が積もるばかりである。そんなとき聞こえてきたのは、
「おい!お前ら俺達を拉致ったのか⁉︎ここはどこだ!このコスプレ野郎ども!」
嫌でも分かる、僕をいじめる三人組のリーダー高田直也だ。僕にいつも絡んでくるせいで声だけでこいつだと分かってしまった。高田の一言がみんなの硬直を解き、ざわつき始めた頃そいつはやってきて自己紹介を始めた。
「すみません。お待たせいたしました。リオネル王国第二王女フィーシャ・E・ヴォン・リオネルといいます。みなさんはこちらの世界に転生させていただきました」
誰が見ても、美人だと評するだろう銀髪の女――フィーシャ――は転生と言った。転生……転生⁉︎まさかこれは異世界転生だと⁉︎
「やはり、転生と言われて驚いているでしょうが、この世界は英雄を欲しています。どうか皆様にこの世界を救って欲しいのです」
あまりにも真剣な眼差しにみんな戸惑いを隠せないが中には異世界転生に歓喜しているオタク連中や明らかに不満を隠せていないヤンキー達、状況についていけず泣いている女子など、さまざまな反応をしている。ちなみに僕はラノベ愛好者なのでちょっとワクワクしたりしている。しかし「ふざけんなぁ!」や「家に帰りたいよぉ」など元の世界に帰せという声の方が上がった。
「すみません。それはもう出来ないのです。なぜなら皆様は皆様の世界で亡くなっているからです。転生時は記憶があやふやになる傾向がありますからね。よく思い出してみて下さい」
死んでる?そうだ、思い出した。僕達は遠足の帰り途中のバスにいたんだ。
七月十五日
遠足としてきた山奥のアスレチック場の帰り道、危険な山道を揺れながらバスは走っていた。
高校生にもなると、体を動かすのは部活か体育くらいしかないし、運動部じゃなければ体育だけだ。普段は使わない体を、筋肉を使ったことでバスの中は徹夜でもしたのかとぐっすり寝ているのが半分。起きてるのは普段から体を動かしてる運動部か僕みたいにアスレチックをしないで森林浴してた奴くらいだ。普段僕をいじめてくるいじめグループも寝ている。なので誰にも邪魔されずゲームをすることができていた。
クラスメイトはみんな後部座席を取り合い後ろに固まっていたので僕は、一番前の二人席を一人で使っていた。やけに揺れると思いながら大丈夫かと運転手を見た。すると眠そうに運転している運転手。こいつ大丈夫か?そう思い通路を挟んで反対側にいる先生に「運転手さん寝そうじゃないですか?」と報告すると先生は慌てて叫んだ、
「ちゃんと起きて下さい‼︎このバスには大事な生徒が乗ってるんです‼︎」と。
「んあ?あっ、しまっ」
いきなり目を覚ましたせいで慌ててハンドルを右に切る。そう。ガードレールしかない崖に向かって。最悪だこいつ。ガタンッとガードレールを突っきりバスは宙を浮いていた。先生の怒号で運転手だけでなくはっきり覚醒していたクラスメイト達はガードレールを突き破る直後から叫び合っていた。通路の座席を広げて座っていた僕の元幼馴染の後藤鈴花――元というのはが今では読モをしていたりで太っていて、いじめられてる僕とは疎遠になってしまっていたからだ――は座席から弾き飛ばされ、前の僕の方まで飛んできた。
緊急事態で思わず抱きしめてしまった。
急に止まった勢いで鈴花の髪が僕の顔面に当たる。ふわっとではない。ファッサと地味に痛い。
僕はバスが地面に衝突するその時まで守るように抱きしめていたのだ。
そうか、あの高さだ僕達はクソ運転手の居眠り運転のせいで死んだんだ。周りを見ても運転手はいない、そのことに気づいたのは僕だけでなく委員長こと川上学も気づいたみたいだ。
「あの時死んだ人がここに呼ばれたのなら、なぜ運転手の中島さんはいないのですか?」
「そうですね。いくら死んだ人を呼べるといっても条件があります。まず今回は集団が転生魔術によって転生されましたが、集団がくるということは皆様の世界で集団で死ぬということです。つまり原因が必ずあります。その原因を作った人はこれない決まりなのです。その中島さんはおそらく死の原因だったのではないですか?」
みんなで一斉に頷く。
「この際なので転生魔術も説明させていただきますね。今回の転生魔術はこの世界とは違う世界からその世界の死んだばかりの人を呼び寄せることです。今、皆様は皆様の世界の輪廻から外れています。ですので今の皆様は記憶を持ったまま第二の人生を始めたといっても変わりはないと思います。皆様がこの世界で天寿を全うしても皆様の世界の輪廻に戻るだけです。なので第二の人生楽しんだもの勝ちと思ってこちらの世界で冒険者をしてもらいたいのです」
楽しんだもの勝ち。冒険者と聞いて喜んでる者や、生き返ったと思えば気楽に行けばいいんじゃないか?と思っている者、さまざまな反応を見せている。どこか最初とは違い前向きな顔になっている。
「元の世界に戻りたいという方はすぐにでも送還魔術で元の世界の輪廻に戻れますがどうしますか?送還魔術を使えるのは転生魔術を使って一時間以内なので今決めてください」と。
転生されてから話が急な展開をしていたのは条件があったからだそうだ。しかし元の世界の輪廻に戻る送還魔術といえば聞こえはいいが死ぬということだ。
送還魔術に名乗り出るものはいない。
「決まりみたいですね。では質問はありますか?」
またもや委員長が聞く。
「英雄を欲しているとか、冒険者とかこの世界で私たちにしてほしいことがあるみたいな感じですけどそこらへんはどうなんですか?」
「いい質問ですね!というのもこの世界の人口の何十倍も魔物がいるとされています。なので皆様には冒険者として活動し、魔物を少しでも倒して欲しいのです」
オタクの棚田光一が、
「魔王はいなのですか⁉︎」と楽しそうだ。
「魔王ですか、異世界の方のよくある質問ですね。事実だけを言うと魔王はいます。しかし討伐対象というわけではありません。彼らは王ですがべつに魔物を引き連れてるわけではありません。仲間はいますけどね。友好的な魔王さんもいますしね。魔王というのは魔物としてその種の頂点の存在というだけなのです。だからこちらから手を出す気は無いのです。まぁ、味方でもないんですけどね」と。
どうやら魔王は何人かいるみたいだ。
すると担任の伊藤先生は反対の声をあげる。
「あの、生徒たちに戦わせるのは反対です。危険なんですよね?冒険者って。先生としてはそんなことさせたくありません。普通に生活するだけじゃだめなんですか?」
「伊藤ちゃーん、ズピッ」「先生、僕たちのことをそこまで、グスッ」などみんなの伊藤先生コールが止まらない。
「ふふっ、いい先生みたいで羨ましいですね。まず冒険者を始めるにしても王城で最低でも一年は研鑽を積んでもらうつもりです。もちろん普通の生活もありです。しかし、転生された者は上級以上のスキルを身につけるのです。そこが転生の理由です。強いスキルを持っていれば最終的にBランク以上の冒険者にはなれると思います。皆様の魂は元の世界の輪廻の魂を浄化する前の魂なのです。つまり二回生まれたということです。ということは一般人と比べると単純計算で二倍の強さの魂を持っているということなのです。なので上級スキルを持っていることが多いのです。それでも戦闘未経験ということでこちらで合格を出すまで冒険者をしてもらうつもりは基本的にありません。しかし、大変身勝手ではありますが冒険者となったら命の保証はしかねます。それに皆様を勝手に連れてきているのでこちらから強制もしません。なので普通の生活もありですよ?」と。
相変わらずよく喋る人だ。スキルと聞いてますます盛り上がるクラスメイト。僕も楽しみだ。一番乗りは棚田だ。
「スキルはどうやってみるのですか⁉︎」
「心の中で念じれば見れるはずです」
「おぉーっ!」「本当だ!」「すごーい!」など聞こえる。
よし、僕もみるかと意気込んだが結果は、
『Unknown』
は?まじで?嫌な予感しかしない。
するとまた棚田が出しゃばる。
「ステータスはないのですか⁉︎」
「またもや異世界人らしい質問ありがとうございます。皆様の世界でいうステータスとは力や速さ、耐久といったものと聞いています。しかし、この世界でそれを知るすべは今の所ありません。ですがそこは安心してください。人にはそれぞれ魔力というものがあります。これは私達の見解なのですが異世界人の言うステータスとは魔力の質ではないかということです。結局は目では見えないのですが、魔力に隠れていると思われます。例えですがガタイのいい人は力持ちです。しかし見た目の筋肉量よりも遥かに重いものを持つことができたのです。これはおそらく筋肉量×魔力の質ということだと思われます。筋肉はただ単にトレーニングをしただけですが魔力はいろいろな経験をもとに洗練されていきます。なのでステータスを上げるのは冒険あるのみですね!」と本当に長い。
しかしなんとなくわかった。要は魔力が隠れパラメータのような感じだろう。しかし、まずい。さっきの流れだと僕の魔力…大したことないんじゃないか?
「魔力!測ってみましょー!」
と騎士に水晶を持って来させる。
そして次々に測っていく。「ほぉー。いいですねこの輝き。」「おぉ!一番じゃないですか?」「またもや記録更新。さすが異世界人です。」など言っている。
そしてやってくる僕の順番。