第五十六話 報告
俺は、呼人。なんの因果か、ある日、突然拉致られて何処とも知れない大陸に、船で連行された不幸な男。
しかも船の中では、ボーイミーツオッサンしてしまうという不幸のズンドコを味わった俺は、拉致られ先の大陸で使い魔を作り箱庭を得て、意外と「ほのぼののんびりのほほんライフ」を満喫していたりする。
そんな俺が今、唖然として立ち尽くしている。
朝食を終えて居間に移ろうと立ち上がった時のこと、突然、パッと目の前にモニターが現れたのだ。勿論、仲間はみんないる。俺達は、急なことに言葉もでない。
厚みの無いモニターは、100インチはあろうかという程大きく、画面にはニューススタジオのような、小洒落た空間が映し出されていた。
カウンターのような机に、スーツをきた男が座っている。男は、パーティーグッズの馬の被り物を被っており、とてもまともな人間には見えない。
そう、この馬は、最初の船の中でも会った、あの馬野郎だった。つまり、すっかり忘れていたゲーム側からの接触なのだ。俺は、驚きと今更感に少し不機嫌になる。
「ではでは~、異世界生活半年目を記念して、大報告会を~始めます」
「う、馬野郎。なんであんたが、こんな所にいるのよぅ。私の幸せな家庭を壊させないわよぅ」
「ここで~ゲストの登場で~す」
「無視なの! しかもいきなりゲストって……」
何とも懐かしいやり取りが微笑ましい。だが説明もなく始まったゲスト紹介に、俺もマリアも驚いた。
いやマジ驚いた。
なんと俺達の家族が登場したのだ。俺のじいちゃん、それと共に現れたマリアの家族は、俺でも知ってる超有名人だった。
第79代 和賀国首相、鍋信子
まさかの和賀国トップの登場に、俺は心底驚いた。おっさんとどういう関係なんだ? 兄弟か? 家族には見放されてるって聞いたけど、テレビを見て心配したのかな?
「あら、お鍋ちゃんじゃないのぅ。久しぶりねぇ」
「あなたって人は、『久しぶりねぇ』じゃないわよ。まったく」
「事実じゃないのぅ。プリプリしちゃって、しわが増えるわよぅ」
「お黙りなさい! 事実と言うなら、囚人になった事を何故連絡しないの! 私の力でどうとでも出来たのに」
うーん、かなり親密な感じだが、関係性が見えないなぁ。やはりお姉さんか妹なのかな? でもお鍋ちゃん、って名字で呼んでいるし違和感あるなぁ。
「何故、連絡しないの! 何故、黙って出て行ったの!」
「だってぇ、政治家の元旦那が逮捕されたらスキャンダルじゃなぁい。すでに別れたのだから、迷惑は掛けられないわぁ」
旦那? なんとマリアとお鍋ちゃんは結婚していたようだ。
和賀国の首相がマリアのヨメとは世も末だな。それにしても、特殊趣味のおっさんに嫁さんがいたとは衝撃の事実だ。
外見といい、性格といい、およそ家庭向きではないと思っていたが、案外おっさんも、まともな人間だったようだ。
「別れたって言うけど、離婚届に印鑑を押して、勝手に出ていっただけでしょ! 私は受理してませんよ」
「お鍋ちゃん、ダメよぅ。これもテレビに写っているのでしょう。マスゴミの餌食よ。炎上よぅ」
「そんなのは構いません。事実を隠す必要などはありませんよ。それにこのやり取りは、オフレコ(録画しない)です。テレビには映りません」
「それは良かったわぁ」
「まったく、呑気なのは相変わらずね。それで何故出ていったのかしら?」
「だってぇ、あなたが政治家になるって言うのに、私みたいなのが近くにいたらマズイじゃない。だからよぅ」
まったく勝手な。と呆れる鍋首相。私達ばかり話してすみませんと、じいちゃんに謝っている。俺は、気になった事を、いろいろ突っ込んでみた。
なんでも学生時代から、マリアはオカマで、お鍋ちゃんはオナベだったらしい。ふたりは、特殊趣味どうし意外と気が合ったので、結婚したと言う。
そのうちお鍋ちゃんは、政治に興味を持ち始め、本格的に政治家を目指すことにしたので、マリアは、迷惑を掛ける前に身を引いたということだそうだ。
うーん、スキャンダルどころの話じゃないだろ? まあ、隠すと勘ぐられるのは事実だが、大っぴらにしたところで、騒動で終わる話じゃないのも事実だ。
和賀国、初の女性首相で最年少の総理大臣。話題が尽きない人物だ。
しかし鍋首相がオナベで、オカマのおっさんと結婚って……軽々しく話せる問題じゃないだろ。和賀国中を巻き込んで大炎上するぞ。
「呼人、久しぶりだの」
「じいちゃん、元気そうだな」
「孫の活躍が活力源だわい。呼人を送り込んで良かった。毎日、ばあさんと一緒に笑い転げておる」
ええー! 俺を送り込んだのは、じいちゃんだったのかよ! 孫いじめはダメじゃないか! 無茶苦茶だぞ!
なんでも、マリアの消息を追っていた鍋首相が、偶然にこのゲームの事を知り、じいちゃんに相談したそうだ。
異世界がからんでいる案件だ。絶対に人間の仕業ではないと考えたじいちゃんが、ゲームの参加者に俺をねじ込んできたと言う。
「おかしいぞ。国が絡んだゲームのはずだ。首相が知らないはず無いじゃないか」
「そうよぅ」
俺達には、各国主催のゲームと聞かされていたが、実は、和賀国は巻き込まれただけらしい。知らない間に、他の国がグルになって始めたゲームなのだとか。
そしてその裏には、絶対に神がいるはずだが、正体はつかめていないそうだ。他次元の神か、行方不明のこの世界の神か、はたまた違う存在なのか、全然わからないと言う。
和賀国以外の各国トップは、黒幕から、この世界が近いうちに滅びる運命にあると知らされ、世界樹があれば助かると聞かされ、黒幕の言うままに、ゲームを開催することにしたようだ。
それにマリアが巻き込まれ、出発直前に鍋首相が発見して、じいちゃんに相談したら、どうせこの世界は滅びるのだから、ついでに俺をつけて、異世界で生き延びる道を選択した方が良いとの結論に至ったのだとか。
鍋首相はじいちゃんから、呼人なら必ず生きる道を選ぶはずと説得され、おっさんも必ず呼人に助けられると言われたそうだ。
俺がその根拠を聞いたら、それが運命だ。とじいちゃんが胸を張っていた。無茶苦茶だろ!
鍋首相がなりふり構わず自衛隊を動かし、俺を拉致して船に乗せたと白状した。まったくこいつら俺をなんだと思ってるんだ。
「説明も無しに勝手に人を拉致るなよ! 今は何とか楽しく生きてるけど、最初は国を恨んだぞ」
「本当よねぇ。馬を殺してやりたかったわぁ」
「ヒヒーン!」
「相変わらず、ムカつく馬だわぁ」
じいちゃんも鍋首相も、クスクス笑っている。笑い事じゃないだろ。まったく
「なんで、じいちゃんは首相に相談されたんだ? あと神の存在を知ってる風だけど、じいちゃんは何者なんだ?」
それは、あちきが説明しましょう。と神様が出てきた。
「お久しぶりでござんす。放浪神様」
「久しぶりっす。前主神様」
「おお、主神にウーテも久しいのう」
端末神様が、相変わらずの変な口調でしゃべり出す。ウーテもじいちゃんを知っているようだ。まあ、前主神と言っているので、今の主神が代替わりする前は、じいちゃんが主神をやっていたということだろう。
俺は神様の孫ってことか?
その通りだとじいちゃんが胸を張る。と言っても、じいちゃんは、人間の体を借りて和賀国に住み着いたので、神の力は封印しており、ただの人間と変わらないそうだ。そうしないとENMAシステムを誤魔化せないのだとか。
「放浪神様は、こちらの世界にいた頃から放浪癖があって、補佐役のあちきは苦労したでありんす」
「本当っすよ、呼人っち。平気で千年二千年と留守にするんすから、困ったちゃんもいいとこっす」
「ウーテはん!」
「ごめんなさいっす」
「じいちゃん、人に迷惑かけたらダメじゃないか」
「わははは、一本取られたわい」
まったく恥ずかしいなぁ。血を引いてる俺まで、困ったちゃんだと思われるじゃないか。
「よぶちゃんの自重の無さは、遺伝だったのねぇ」
「「「あははは!」」」
ぐぬぅ! やはりそうきたか。
じいちゃんは、放浪の果てに和賀国にたどり着き、アイドルの追っかけにハマったらしい。当時アイドルだった ばあちゃんを口説き落として、主神を辞めて結婚したと言っている。
阿保過ぎて、聞いてるこっちが恥ずかしい。
「あちきが、いくらお慕いしても振り向きもしなかったのに、悔しい限りでありんす」
「鬼ばばに恋愛は無理っす」
「ウーテはん!」
ちなみに、主神様の元の役職は、悲哀の神だそうだ。自分の恋愛もぶち壊してしまうとは、ゴッドパワー恐るべし。
「じいちゃんの体は借り物なのか?」
「ああそうだ。中身の魂を転生させて、そっちの世界に送り込んだ。説明したら、嬉々として受け入れとった。かなりの変わり者だったわい」
「じゃあ、その人は、この大陸にいるって事か?」
「いや、その者はすでに宇宙に出ているでありんす」
宇宙?
この世界は地球と違って、他の星にも人間がたくさん住んでいるらしい。もっともこの星は宇宙の辺境にあり、近くの星に異星人はいないそうだ。しかもこの星の人類が成長するまでは、異星人からは隠されているらしい。
「おおー、スペースアドベンチャーかよ。胸踊るなぁ」
「左手に銃を持つ男はいるかしらぁ」
「この大陸の各地を旅したあとは、宇宙旅行するのもいいなぁ」
「ぜひ、行ってみたいわねぇ」
俺とマリアが遠い目をしていると、じいちゃんが本題だと言って話始めた。
「わしは元神だから、この世界に神がいないことは知っておった。隠れているのか、他の次元にいったのかはわからん。だが神に見放された人類の末路も知っておる」
前に端末神様が言っていた。神様に見放された世界は、他の次元の神様によって蹂躙されてしまうと。
「そこでわしは、この世界を隠した。他の次元に気付かれぬように、気配を消したのだ。時間を稼いで解決策を模索しておる。しかしいつまでも隠せるわけでもないのも事実」
「そろそろマズイのか?」
「もってあと数十年というところかの」
「どうするんだ?」
集団転移するつもりだ。
と、じいちゃんは言った。地球の人類を、別の次元の空きスペースに転移させて逃がすそうだ。
ただいろいろ問題もあるそうだ。
◆まず全人類を転移させるほど力は、今のじいちゃんにはないそうだ。そして全人類を転移させるとなると、ENMAシステムにも邪魔される可能性が高いらしい。
故に転移できる人数は限られる。100万人が限界だろうと、じいちゃんは言う。他の大部分の人間は見捨てられるが、どうにもできないのだから仕方がないと、悲しそうに語っている。
◆DNAがなるべく近い人間じゃないと、集団転移は上手くいかないそうだ。
和賀国人なら和賀国人、メリカ人ならメリカ人に絞らないとダメらしい。メリカ人は混血が多いので厳しいだろうと言う。ハーフが混ざると失敗する可能性が上がるのだとか。
もっともじいちゃんは、自分の家族を守るためにやっていることだ。和賀国人意外の選択肢は無いと言っている。
◆転移先には、何もない。原始時代さながらの生活を強いられるだろう。その事に納得して、開拓していけるだけの強い意志が無いと務まらない。今の和賀国人には過酷であろう。
そんなところに行くくらいなら、死んだ方がマシだと思うかもしれない。人選はかなり難しいと思う。
◆転移には、じいちゃんの封印した力の他に、世界樹が必要である。手元に世界樹の枝を用意して、術を施さないといけないらしい。
しかもその世界樹の枝を、転移先に運ばなければならない。事前に転移先に枝を刺して、その枝を頼りに集団転移魔法を発動するのだとか。
「世界樹の枝は、こっちの神様にもらうのか?」
「それでも良いし、呼人の持つ世界樹から枝を分けてもらっても良い」
「俺は、構わないよ」
「そう言ってくれると思ったわい。すぐに持ってきてくれるか」
「「はあ?」」
俺とマリアの声がハモった。俺達は現在、地球とは違う次元の世界にいるのだ。持ってきてくれと言われて、「はい、すぐにお持ち致します」とはいかない。と思っていたが、
「あちきが、サポートするでありんす。いろいろ抜け道はあるものどすえ」
「主神様がルールブックっす」
「その通りでありんす」
「そんな簡単な話なの? だったら早く帰してくれたら良かったのに」
現状を聞いたら帰りたいとは思わないけど、最初の頃はホームシックで何度泣いたことやら。
「呼人はんを帰したら、料理が食べられまへん」
「そうっす。漬け物の味は、まだまだ改良の余地があるっす。逃がさないっすよ」
「私も店を持ったばかりだから、帰るのは嫌よぅ。滅びる世界に帰りたいなんて、よぶちゃんは、ドMさんなのかしらぁ。子供の教育に悪いわぁ」
お前が言うなー!
まったく仲間達は、遊園地だの、マックだの、漬け物工場見学だの、ワイワイ騒ぎ始めているし。本当、自重の無い奴等だ。トホホ
じいちゃんは、100万人転移計画を数十年も前から進めていたらしい。鍋首相を政治家にしたのも、計画の一端だと言う。
今は人間とは言え、いろいろチートな力を持つじいちゃんは、経済界の裏の首領となり、ばあちゃんは社交界の華となったそうだ。そして鍋首相を表のトップに押し上げた。
全人類の中の、たった100万人しか救えないのだ。救われない人から横やりが入るのは当然だ。いざとなったら強引にゴリ押しできる力がないと、どうにもならない計画なのだ。
「お鍋ちゃん、そんな大事なこと、なんで話してくれないのよぅ」
「イワさんなんかに話したら、お酒の勢いですぐに客に話すでしょ」
「ひどいわぁ」
「事実じゃない」
なんか二度とじいちゃんとは話せないと思っていたけど、モニター越しに話ができたし、帰省する計画まで持ち上がった。久しぶりの地球を思い浮かべて、ワクワクする自分がいる。
「呼人君、イワさんの事をよろしくね」
「お鍋ちゃん! イワさんなんて、呼ばないでちょうだい。私は、乙女ピンクのマリアよぅ」
「あなたが楽しく暮らしているようで良かったわ。これも呼人君のおかげね。いつかあなたの宿にも行ってみたいわ」
「あら、大歓迎よ。いっぱいサービスするわぁ」
なんか周りに普通じゃない人々(人外多数)がいて、普通じゃない事をいっぱい聞かされたが、動じていない自分が不思議に感じた朝だった。
作者のつぶやき:いつも読んでくださる皆様、ありがとうございます。私事で恐縮なのですが、所用でしばらく更新出来ません。
次回更新は7/10を予定しています。
それと、少し前に新作を投稿しましたので、そちらもよろしくお願い致します。
悪党の輪舞~悪党が銃弾をばらまき、やがてファンタジーに至る物語~




