表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/69

第四十八話 休暇

 俺達は流行病(はやりやまい)の治療を終え、昼食を取っていたが、ひょんなことから片足のランドルと知り合った。ランドルの奥さんが切り盛りする宿屋に一泊することにしたが、今は3時過ぎくらいか中途半端な時間だ。

 

 

「ランドル、この街には温泉は無いのか?」

「ああ呼人(よぶと)、このヨルクの街は北で唯一(ゆいいつ)温泉が無いんだ。金が無くてな地質調査もままならない。俺は、適当に掘って温泉を探したんだが、この(ざま)さ」

 

 温泉が無いのか。少しガッカリだな。

 

 俺は宿屋の裏庭に土魔法のソナーを撃ってみる。いろんな情報が頭の中を(めぐ)る。いくつかの透水層(とうすいそう)岩盤(がんばん)があり、井戸は掘れそうだ。

 段々と深い部分の情報が頭に浮かぶ、1000mほどの深さに帯水層(たいすいそう)があり、水温60℃と情報が出た。解析(かいせき)の魔法を掛けないと、泉質(せんしつ)まではわからないが温泉で間違いないだろう。

 

 ちょっと熱いかな。その前に1000mなんて、人力じゃ(きび)しいな。途中の帯水層の水と混ざらないようにしないと、井戸水に影響が出るからな。元の世界だとパイプを打ち込んで遮断するんだけど、パイプを1000m繋(つな)げるのも容易じゃない。街ぐるみで掘削しても無理だろう。

 

「ランドル、土魔法で調べてみたが、温泉は1000mほど下にあるみたいだ。とても人力(じんりき)では掘れないと思うぞ」

「そうか、残念だがそれじゃあ無理だな。呼人いろいろありがとう」

 

 現実は箱庭と違っていろいろと大変だ。魔法で地面を掘削(くっさく)する場合、穴の周りの土は、圧縮されて固まるので崩れないだろう。途中の帯水層の水を、遮断(しゃだん)することも可能なはずだ。だが人力ではそうもいかない。

 源泉(げんせん)のお湯と、浅い層に流れる水を混ぜてしまった方が、温度が下がって都合が良いのだが、水の方は温泉が混ざるので、飲み水としては使えなくなる。その層で井戸水を()んでいる人がいれば迷惑となるので、下手に混ぜ合わせることは出来ない。

 

 そもそも1000m下までは、掘削(くっさく)魔法は届かないだろう。技術の未熟な世界では人力で1000m掘るのは至難(しなん)の技だ。

 

「呼人様、魔力の糸を試しましょう」

流石(さすが)に1000mは無理じゃないか?」

「ダメなら私が小さくなって、(もぐ)れば良い話です」

「そうかエルゴなら小さく変形出来るし、空気がなくても、地中でも、熱い温泉が吹き出しても耐えられるか。エルゴ良い案だな。いっちょ温泉を掘ってみるか」

 

 俺達が何やら話し合いを始めたので、ランドル家族は家に入っていった。

 

 魔法は魔力とイメージを混ぜて、現象(げんしょう)や物質を具現化(ぐげんか)する。攻撃魔法を飛ばせるのは、せいぜい100mほどだろう。それ以上離れると魔力が霧散(むさん)してしまう。

 

 余談(よだん)だが、全周囲の探知(たんち)魔法は、半径50mほどが限界だった。今回の地底ソナーの魔法は、1㎞以上の射程(しゃてい)があった。意識していないが魔法発動時のイメージに、用途別(ようとべつ)の射程の設定があるのかもしれない。

 今度ソナーの魔法陣を研究してみれば、攻撃魔法の射程も伸ばせるかもしれないなと思いついたが、今は置いておこう。

 

 話は戻る。魔力は人間から離すことができるが、イメージは魔力に乗せないと人間から離せない。

 前に俺は、イメージを遠くに作用させる、遠隔(えんかく)魔法を試したことがある。

 超能力のパイロキネシスのように、離れた人間に直接火をつける魔法があれば、対人戦で有利かと考えたのだ。その時に試したのが魔力の糸だ。

 

 魔力の糸は、文字通り魔力で作った糸だ。俺に(つな)がった状態で、先端を離すことができる。これにイメージを乗せれば、離れた場所にいきなり魔法を具現化できるわけだ。魔力の糸の先端に魔力溜(まりょくだ)まりを作り、風船のように遠くに飛ばして、イメージを送り込む感じだ。

 繋がっているから、魔力とイメージが追加できるので射程を伸ばすことが出来る。

 

 この風船自体を動かすのは、中々難しかった。しかし「空気の手」で操ることができた。

 空気の手は、風魔法の派生(はせい)だ。空気を強固に結合して空気を固体化する。自分の周りの空気を、魔力とイメージで、大きな「手」のように固めて操るのだ。

 この手で、相手を掴んだり殴ることはできるが、エアハンマーのように飛ばしたり、空気の手の先から炎を出したりすることは出来ない。

 

 魔力の糸と同じ発想だが、魔力の糸が純粋な魔力なのに比べて、空気の手は具現化された魔法であるという違いがある。

 純粋な魔力が形を変えた魔力の糸や魔力の風船は、イメージで動かすのに苦労したが、魔法として具現化した空気の手は動かし(やす)い。

 空気の手で、風船を持って動かすとすんなり動くのだ。同じ魔力から出来ているからか、親和性(しんわせい)が高いようだ。

 

「ちょっとやってみるか。土魔法での掘削(くっさく)は、1回で5mくらい掘れるから200回で1000mか。エルゴと2人で100回ずつなら、なんとかなるかな。ダメならエルゴに中に入ってもらおう」

 

 俺は地面に掘削魔法を放ってみる、直径1mの穴が開いた。深さはわからない。砂を押し退()けて固めるイメージをしたので、穴の周りの土はコンクリートのように固まっている。

 更に土魔法で、穴の周りの土を盛り上げて、井戸のようにした。子供が間違って落ちないようにだ。そして何度も掘削魔法を放つ。放つ度にガコッガコッと音がしていたが、20回も魔法を放つと音が無くなった。

 どうやら魔法の射程の限界のようだ。掘削魔法の射程も攻撃魔法と同じくらいだった。

 

「エルゴ、100mくらい掘れたみたいだ。ここからは魔力の糸と風船だ。上手くいけば良いが、わざわざ(もぐ)るのは大変だぞ」

「呼人様、ちょっと中を(のぞ)いてみましょう。蜘蛛型監視ゴーレムがあります」

「便利なもの作ったなぁ」

「王族の馬車に一緒に乗せて、王宮の偵察をしています。王族や貴族の情報が多く手に入りました」

「抜け目ないなぁ、エルゴは」

「現在、王宮で100匹ほど稼働中(かどうちゅう)です」

 

 親指ほどの蜘蛛が、敬礼(けいれい)したあとに穴の中に入っていった。エルゴが魔法でモニターを出す。蜘蛛には念話の魔法だけでなく、照明の魔法や撮影の魔法がセットしてあるようだ。穴の内部を照らしながら、カサカサと凄い速さで進んでいる。

 モニターを見ると、穴の壁は湿っているようだが、水漏れはあまり無いようだ。温泉の帯水層以外は、遮断(しゃだん)されていると思われる。蜘蛛が底に着いた。水は()まっていないようで安心した。

 

 穴の底に空気の手で魔力の風船を送り込む。そして掘削魔法を放ってみた。

 

 ガコッ

 

 穴が掘り下がる。成功だ。どこまで行けるかわからないが楽しくなってきたぞう。

 こうしてモニターを見ながら「空気の手」を操作して、魔力の風船から魔法を放つことを繰り返した。

 

「いやあ、手も糸も意外と遠くまで伸びるなぁ」

「我々と繋がっていれば、融通(ゆうづう)()くようですね。なかなかに有効な手段です」

「これを素早く運用できるように訓練すれば、相当使えるな」

「まったくです」

「「あははははは」」

 

 新しい技術の開発は楽しいなぁ。エルゴと二人で肩を組んで笑ってしまった。

 

 その後、途中で穴堀りはエルゴに任せて、俺はゴーレム倉庫を出して、フタやポンプやパイプを作った。温泉が、上まで()き出してくれれば必要ないのだが、そこまで圧力が掛かっているとも思えない。

 

「呼人様、温泉の帯水層(たいすいそう)(たっ)しました」

「おお、モニターの映像がグルングルンしてるな。お湯が()き出して、蜘蛛ゴーレムが流されているのか。ゴーレムは大丈夫かな?」

「大丈夫ですよ。しかし凄い勢いですが、ここまで来ますかね」

「どうだろうな、あまり勢い良く噴き出されても厄介(やっかい)だぞ」

 

 俺達の心配をよそに、穴の途中で温泉の()き出しは止まった。蜘蛛ゴーレムも無事に帰還(きかん)した。ソナーの魔法を撃ってみると、地下30mの位置に水面があるようだ。

 

 ついでに解析(かいせき)の魔法を掛けると、泉質は「アルカリ性単純泉」とわかった。美肌効果のある優しい泉質らしい。

 

 すでにすっかり暗くなっている。俺達は一端(いったん)宿に入り、夕食を食べることにした。

 ローストビーフにサラダ、スープにミートパイと、華かな食卓だ。食堂にはランドル親子や近所の人、薬師ギルドの職員が集まっていた。

 

「呼人、ヨルクの街の病を治してくれてありがとう。みんなが食事や酒を持ち寄ってくれた。たくさん食べてくれ」

「なんかわざわざ悪いなぁ。皆さんありがとうございます」

 

 俺とエルゴは、自前のドラゴン肉のステーキやビールを、収納庫から出してみんなに振る舞った。

 同じ国に住んでいるが北と南の辺境どうし、異文化交流だ。味付けもずいぶん違う。お互いの料理を食べ合う機会など、あまり無いので楽しい。

 

「呼人、この酒は(うま)いなぁ。ドワーフのエールより、断然(だんぜん)旨い」

「本当だな、どこの酒なんだ。この街からでも買いにいける場所なら、買いに行きたいくらいだ」

「ランドル、これは俺達が作ったんだ。売るほどあるけど保存が難しいから、まだ売りに出してない。この容器が特殊なんだ。今日飲む分には大丈夫だけど、量販となると容器ごと売ることになる。高いぞう」

「がははは、流石(さすが)は司令官殿は凄いな。酒や容器まで作っているのか」

「ランドルよ、旨いビールを飲むためだ。妥協(だきょう)は出来ないのさ」

「わはは、ちげえねぇ」

「しかし北の肉料理は旨いな。調味料とか買って帰るかな」

「呼人様、レシピはいくつか教えて頂きました」

「おおエルゴ、でかしたぞ。奥さん悪いな。本当は秘密なんだろ?」

「呼人さん、気にすること無いよう。お金以外なら何でも持っていきな。なんなら亭主(ていしゅ)も付けるよう」

「「「がはははは」」」

 

 辺境の女は、北でも強いようだな。良いことだ。

 

「ところで呼人は、裏庭で何をやっているんだ? 井戸みたいな物を作っているようだか」

「ああ()まない。楽しくて熱中してしまった。ランドルの了承(りょうしょう)を得てなかったな」

「いや、庭の片隅だから問題ないが……、あんたら疲れてるんじゃないかと、みんな心配してたんだ」

「温泉を掘ってたんだ」

 

「「「温泉?」」」

 

「ああ、やっと温泉が()き出してな。これから配管作業だ。夜中にうるさくしても良いか? 楽しくて止められそうにない」

「ちょ、ちょっと待て、1000m堀らないと温泉は出ないって言ってたじゃないか」

「1000m掘ったんだ」

 

「「「ええー!」」」

 

「やはり迷惑だったか? エルゴ、残念だがあとで()めよう」

「呼人様、仕方がないですね。迷惑は掛けられません」

「違う、違う、そうじゃないだろう。たった数時間で1000mも掘れないだろうー!」

「そうか? 魔法を使えば簡単だったぞ。なあエルゴ」

「やってみたら意外と簡単でした。良い訓練になりましたよ」

 

 夜も遅い時間だが、配管など1時間もあれば終わるだろう。夜中にビールでも飲みながら温泉に()かり、星空を眺めるのも(おつ)なもんだろ? とみんなに説明した。

 

「本当に温泉が出たのか? 呼人」

「地下30mのところで()まっているな。ポンプで()み上げる必要がある」

「ポンプ?」

「お湯を汲み上げる装置だ。さっき作った」

「簡単に言うが簡単じゃあ無いだろう? そんな高そうな装置と言い、俺の義足(ぎそく)と言い、良いのか? そんな無駄遣いして」

「材料は自前だからな無料(ただ)だよ。料金を払えとは言わないさ。逆に良い訓練になったし、新たな発見もあったからな。こっちは得した気分だ」

「ハァーッ、何とも司令官殿は豪気(ごうき)だな」

「そうか? これで温泉に入れれば良いじゃないか。なあエルゴ」

「せっかく遠くまで来たのです。温泉とビールを味わうのは当然です。土地によって風情(ふぜい)も違うことでしょう」

 

 新たな発見とは、空気の手と魔力の糸についてだ。今は別々に作って使っているが、一体に出来ないかと考えている。つまり「空気の手」に、「魔力の糸」を血管のように張り巡らせるのだ。

 これなら魔力の風船をいちいち運ばなくても、空気の手から直接魔法が放てるかもしれない。まだ構想(こうそう)だけで、試していないが上手くいく気がする。この発見だけでも俺にとってはこの上ない報酬だ。

 

 

 本当、魔法は楽しいなぁ。

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「わりのん、おもれ~!」と思う方がいらっしゃいましたら、ポイント評価と↓下をポチっとして頂けたら幸いです。

小説家になろう 勝手にランキング

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ