第四十七話 北の街
エルゴが先行して都に行き。亜空間転移の扉を設置して帰ってきた。俺達は夕食後に、居間でお茶を飲みながら打ち合わせをしている。
「エルクの街は、都から見て南東の辺境にある。地図でいうと、この右下だな。アロロクとヘーデは、エルクから北上して都の東側担当だ」
「ん、わかった」
「優雅な空の旅。シッシッシッ」
「ルミアと班長たちも、エルクから出発して南部担当だ。公爵の家を壊す時は人を殺すなよ」
「任せておくのじゃ。ブレス一発で燃やし尽くすのじゃ。勿論、治療も忘れずやるのじゃ」
「プラスワン出動でし」
「マリアとハルナと五郎は、一端都に転移してから、西部を担当してもらう」
「治療が終われば、2~3日ゆっくりして良いのよね。楽しみだわぁ」
「マリア、さっさと終わらせて遊ぼうぜ」
「おで、頑張る」
「ウーテは、都担当だ。転移の後は、都に残って城の破壊と治療を頼む」
「呼人っち、任せるっす」
「ウーテはん、神の威光を存分に知らしめるでありんす」
「俺とエルゴは、都から北部を担当する」
「呼人様、北には温泉地が多いそうです。良い骨休めになるでしょう」
こうして俺達は、流行病の治療のために移動を開始した。夜のうちに患者のいる街を回って、街全体に治癒魔法を掛けるためだ。昼間は、患者を個別に訪問して、治癒魔法を重ね掛けするつもりだ。
一気に片付けるか、順番に泊まり掛けでやるかは、それぞれの判断に任せている。みんな騎獣で高速移動出来るので、一気に片付けるつもりのようだ。
一応、一週間の期限を切ってある。仕事が終われば自由に旅を楽しむ気満々なのは皆同じだ。
エルクのドワーフ村から、アロロクとヘーデが東部へ、ルミアと精霊たちが南部へと、飛び立つのを見送ったあと、残りのみんなでゴーレム扉をくぐり、亜空間転移で都へとやってきた。
転移扉のある地下室から出て、案内係の薬師ギルドの職員に案内されて、ギルドの2階のベランダに出る。
夜だが、店から漏れる灯りで結構明るい。エルクの街とは大違いで、大きな街だと感じた。夜なのに人通りも多くて、喧騒が絶えない。
遠くにうっすらと、城らしき大きな建物が見える。
「ずいぶんエルクとは雰囲気が違うなぁ」
「そうねぇ、都会って感じねぇ。私は、エルクの静かな夜の方が好きだわぁ」
「その通りだなマリア。しかし、おばば様とアロンまで都に来なくても良かったのに」
「わしが言い出したことじゃ。顔繋ぎくらいはさせてもらおう」
「そうか、俺達は西と北に行くからウーテのこと頼むよ。薬屋の方は留守にしていいのか?」
「薬師ギルドから人を借りておるから大丈夫じゃ」
流石、辺境の女はしっかりしてるな。
「呼人っち、相談があるっす」
「ん? なんだ? ウーテ」
「どうしたら、派手に威光を示せるっすかね」
天使のウーテは早速、城に神の鉄槌を落とすつもりらしい。
城の王族や城の周りの貴族街の住人は、すでに避難していると報告を受けている。都は今日から三日三晩、神の鉄槌に晒されることだろう。
貴族たちは縮み上がるに違いない。とばっちりの街人は可哀想だが、神様は人間のことなど気にしていない。神様も神界の神々も、モニターの前で手に汗握っていると言う。
神の慈悲はないのか?
「色付きとかどうだ? 虹色は神の色なんだろ?」
「良いっすねぇ、どうやるんすか?」
「こんな感じだ」
俺は、左右の手の平に「青い稲妻」と「赤い稲妻」を出してみた。バチバチと光る2色の稲光が夜の闇を派手に照らす。
エルゴやウーテが真似するが、上手く出来ないらしい。イメージが合わないのかな?
俺は、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の七色の稲妻を作ってから、ウーテにインストールさせた。俺は1色ずつしか出せないが、魔法陣があれば改造して使うと言う。
神の鉄槌は、一回放つと半日くらいもつらしい。神様がOKを出すまで何回か鉄槌を落とすが、その合間に都の患者の治療をしてくれるそうだ。
「エルゴ、ウーテの魔法をちょっと見てから北に行こう」
「ハルナちゃん、私達も見学してからにしましょうか」
「呼人っち、神や天使が使うのは魔法じゃ無いっす。より優雅に『奇跡』と言うっす」
「そうなのか? どう違うんだ?」
「字が違うっす」
「「「そんだけかい!」」」
実際は大きく違うらしいが、今は置いておこう。
ウーテが、単独で飛翔して城に向かった。すぐに城の上空に異変が起こる。夜なのにモクモクと黒い雲が動くのが見えた。黒雲は時折ビカッと内部を光らせながら、凄い勢いで増えていく。
ドッドオオオン。
閃光が走り、同時に雷鳴が轟く。赤い稲妻が城に落ちたのを皮切りに、次々に青や緑の稲妻が交差しながら、城に降り注ぐ。雷が城に当たる度に、石造りの外壁が弾け飛ぶ様が、稲光に映し出される光景は凄まじい。街の住人も不安気に見守っている。
『この国の民に告げる。王族は神の怒りに触れた。よって三日三晩、神罰を与える。心して罪を受けるが良い。己の心を見つめ、省みることを促すものなり
民を指導する為政者よ、三度目は無い。努々忘るること無きよう、確と伝承するが良い』
頭の中に念話が響く、聞いたことのない老人のような声だ。街中の人間に聞こえたようだ。キョロキョロと、首を動かしている住人の姿が見える。俺は事の大きさに、いたたまれない気分だが、今更仕方がないと思うことにした。
「じゃあ、私達もさっさと終わらせて、のんびり休暇を楽しんでくるわぁ」
「ああ、そうしてくれ。俺達も温泉でのんびりしてくるよ」
しばらく神の鉄槌を眺めたあと、俺は北にマリアは西へと飛び立った。
その後、都では告知通り、神の鉄槌が三日三晩、降り注いだらしい。王族は、国中の貴族に向けて「御触れ」を出したと言う。
『この国に禍つ種三つあり、そは「伝承」「厄災」「法度」なり、軽々(けいけい)に触れるべからず。触らずば、良き守護者となるであろう』
という文面で始まる御触れには、伝承、厄災、法度について、詳細が記されていたようだ。
俺については、「触れずの短剣」という短剣の図が添付され、その短剣を持つ者を王族の如く扱うべし。と書かれていたとか。
これで貴族に、偉そうにされることも無いだろう。良かった良かった。だが貴族は馬鹿が多いからなぁ。また何かありそうな予感がする。
俺とエルゴは、都から騎獣を飛ばし、日付も変わろうかという時間に、第一目標の街に着いた。マニュアルのマップ機能が久しぶりに役に立ったのは言うまでも無い。
北部で最大の街だと言うケールの街は、エルクよりも大きな街だった。北の玄関口として申し分のない偉容を誇っている。
俺はここで街の住人が寝静まった頃を見計らって、街全体に治癒魔法を掛けるつもりだ。
薬で流行病が治らなかった患者がいる街は、他にも感染者がいるかもしれない。
潜伏期間など、わからない病気だ。予防措置は、講じておくべきだと思う。本当は昼間に患者を治した後にした方が完璧だが、多少順番が逆でも問題無いだろう。
「じゃあエルゴ、俺はこの街と西側の2つの街に魔法を掛ける」
「私は東側の3つに向かいます。何かあれば念話でお知らせ下さい」
「ああ、わかった。あとで落ち合おう」
エルゴが、騎獣のアメリカンバイクで去ったとあと、太ったロバに股がった俺は、街の中央付近の上空で「治癒魔法セット」を発動する。俺を中心に段々と広がった魔法陣が、街を覆うほどに大きくなると、ポロポロと崩れて光の粒となり街に降り注ぐ。
「おおおー!」
「ん? 微かに声が聞こえるぞ。夜勤の警備兵くらいしか起きていない時間なのに変だな」
俺達の予定は、事前に薬師ギルドに通達してある。ギルドは街の住人に事情を説明して、今日の夜は家にいるように言っているはずだが、どうやら街の住人が起きていたようだ。
空に浮かぶ大きな魔法陣に感動したのだろうか。もしくはエルクの街のように、流行病以外の病気が治って喜んでいるのかもしれない。
俺は西に進路をとり、太ったロバを急がせた。残りの2つの街に同じように魔法を掛けて、ケールの街でエルゴと合流する頃には、地平線が少し白んでいた。
俺とエルゴは、薬師ギルドの一室のベッドで酒を交わし、少し話してから就寝した。明日は、少し寝坊してから患者の治療に向かおう。
次の日の朝、朝食の匂いに誘われて起床した。ベッドの横にテーブルが置かれたハクサイのミルク煮が、何とも言えない良い香りを漂わせていた。その横にエルゴがかしずき、朝の挨拶を優雅に言の葉に乗せる。
「おはよう、エルゴ。今何時だ」
「三の鐘が鳴ったあとです」
「10時か? 寝過ごしたな。起こしてくれよ」
「私も先程、帰ってきたのです」
寝る必要の無いエルゴは、早朝からこの街の患者の治療をして、東側の3つの街に行き治療を終わらせたと言う。亜空間転移の扉の設置も終わらせたと言っている。
流石はスーパー執事だ。仕事が早い。残りは俺の担当の西側2つの街だけだな。
「エルゴ、街の様子はどうだった?」
「エルクと同じですね。あらゆる病が治って興奮状態です。私は何度も群衆に囲まれて、その度に薬師ギルドの職員が苦労していました」
「うわー、引きこもりたい病になりそう。でもエルゴがやったと思われているなら俺は大丈夫だな」
「それは無理にございます。呼人様の威光は、夏の太陽の如く隅々まで行き渡り闇を払いますれば」
「はいはい」
俺が遅い朝食を終えてギルドの外に出ると、群衆が集まっていた。仕事しろよ!
なにやら俺を「司令官さま~」と拝んでいるお爺さんや、これはお礼だと野菜を押し付けてくるおばちゃんなどがいる。俺は、勘弁してくれとばかりに「お気持ちだけで十分です」と立ち去ろうとすると、メモ帳を持った女性に呼び止められた。
「北部新聞の記者です。司令官、質問よろしいでしょうか?」
「俺は司令官じゃありません。次の街に行かなくてはならないので、短めでお願いします」
「流行病の治療をして頂きありがとうございます。今回の報酬は、国から出ているのでしょうか?」
「いや、報酬は、薬師ギルドから頂いています」
「国中で同じ活動をしているとの情報があります。とても薬師ギルドに、報酬が払える規模には見えませんが?」
「魔法乙女戦隊の活動の一環です。エルクの街の薬師ギルドの顧問と、魔法乙女戦隊が知り合いなので頼まれました。知り合いからの依頼なので、多くの報酬をもらうわけではありません」
「やはりあなたが、魔法乙女戦隊の司令官なのですね」
「いや、俺は、たまたま知り合いになった冒険者です」
なんだよ司令官って。誰が広めた噂だ?
俺と使い魔のエルゴは、ドロンと騎獣を出して北の街から飛び立った。
「エルゴ、変な噂立てるなよ。司令官ってダサ過ぎだろ」
「いえいえ、戦隊は注目されていますから、自然と噂に登ったのではないでしょうか?」
俺は太ったロバに股がりエルゴを睨む。エルゴはアメリカンバイクの上でニマニマしている。
確信犯だろ。俺を司令官に仕立て上げて何の意味があるんだよ。この調子で他の奴等も変な噂流してるんじゃないだろうなぁ。
隣の街で、また群衆に囲まれたが薬師ギルドの職員に任せて患者を2人治療した。そして次の街でも同様な感じだったが、何とか治療をして担当分の仕事を終えた。
「エルゴ、やっと終わったな。ちょっと遅いが昼食でも取るか」
「呼人様、そこの食堂にしましょうか」
群衆はギルド職員が説得してくれてすでにいない。俺達は適当な食堂に入って食事をした。北の街はどこも寂れた感じだ。都のような華やかさは無いが、落ち着いた雰囲気が好ましい。
北は酪農を細々とやっているようで、牛乳を使ったホワイトシチューが絶品だった。家畜を飼育して、冬の保存食にしているらしい。魔物じゃない肉を使っている。
ギルドの職員にいろんな話を聞きながら食事をしていると、3人の子供たちが俺達のテーブルにやってきた。男の子2人に女の子が1人、兄弟かな? 粗末な身なりで痩せている。
「司令官、うちの父さんを助けて欲しいんだ」
「「お願いします」」
「俺は司令官じゃないぞ。お兄ちゃんって呼んでくれ。何か食べるか?」
「…」
「店員さん、シチューとパンを3つ追加で」
子供たちを座らせてシチューを食べるように言うと、話を忘れてシチューに食らいつく。子供の食べっぷりはどこも同じだなと、エルゴと顔を見合わせて笑う。
「で、何をすれば良いんだ?」
「父さんの病気を治して欲しいんだ。お金は無いけど働いていつか返すからお願いします」
昨夜の治癒魔法では治らなかったのか。魔法が効かない病気かもしれないな。俺はギルドの職員に情報がないか聞いてみた。
「この子たちの父親のランドルは病気ではないのです。温泉を掘っている時の事故で足が欠損しています」
温泉掘削中の事故で、岩盤が崩れて足が潰れたらしい。治癒魔法は怪我にも効き目があるが、大きな欠損は治らない。せいぜい小指の先や抉れた筋肉が元に戻る程度である。
欠損部位が残っていれば繋げることは可能だが、既に傷のふさがった欠損は治せないと聞いている。
こればかりは、いくらゴネられてもどうにもならない。
どう説明するかと俺が考えていると、店に杖をついた片足のおっさんがヒョコヒョコと現れた。足はひざから下が無いようだ。
「うちの子供が、迷惑を掛けたようで済まない。食事代は俺が払おう」
「いや、それは構わない」
「そうか。お言葉に甘えさせてもらう。お前達もお礼を言いなさい」
「父さん、俺達は司令官…じゃなくて兄ちゃんに相談していたんだ」
「俺の足のことはあきらめろ。どうにもならんこともある」
俺は、治癒魔法を筋肉質なおっさんの足に掛けてみたが、やはり足の欠損に変化はなかった。子供たちはガッカリしている。おっさんは、わざわざ申し訳ないと恐縮しきりだ。
「エルゴ、スライムボディを少し分けてくれ」
「呼人様、何をなさるおつもりですか」
エルゴは、怪訝そうにしながらも、片手でソフトボール大の透明なスライムボディを作り、テーブルに置いた。
俺は、ゴーレム魔法陣を書き込んだ魔石を、スライムボディに乗せてイメージと魔力を流す。
手の平大の小さなゴーレムが、テーブルの上で動き出したのを見て子供たちが唸った。
おっさんもギルド職員も、何が始まるのかと注視している。俺は更にイメージと魔力を注ぎ込んだ。ニュ~ッとゴーレムの手が変形して長細い物体が現れる。
スポーツ義足だ。
パラリンピックなんかで良く見掛ける、Jの字に曲がった板バネがついた義足だ。足に嵌めるソケットの部分もある。
「ランドルさん、ズボンをまくって足を見せてもらって良いか?」
「あ、ああ、ランドルでいい。呼人と言ったか? なんだそれは?」
「義足だよ」
ランドルを椅子に座らせて、義足のフィッティングや長さを調節して、ゆっくり立たせる。まだ杖をついたままだが、体重が乗りバネが沈む。もう少し硬くしないとダメだな。
座らせては義足に魔力を流して調節し、立たせて様子を見る。
「大体、こんなもんか。ランドル、杖をつかないで立てるか? エルゴ、後ろでサポートしてくれ」
ランドルが杖に掛けている力を、ゆっくりと減らしていく。ふらつく度にエルゴが支えて恐怖心を無くさせる。
しばらくすると慣れたようで、自力で立てるようにはなった。フィッティングは痛くないか、違和感はないか、確認しながらゆっくり歩かせてみる。
1時間ほど、立ったり座ったり、歩いてみたりと調整を繰り返して、ようやく納得するものになった。
「いいかランドル、この義足は魔導具だから、少しだけど調節機能がある。魔力を流しながらフィット感や、長さなんかをイメージするんだ。
足が痛む時や長さに違和感を感じたら、やってみてくれ。何かあったら薬師ギルドを通じて、俺に連絡をくれて構わない。俺も初めての試みだから心配なんだ」
「呼人、ありがとう。杖をつかずに歩けるなんて…」
「兄ちゃん、父さんは治ったのか?」
「いや、俺では大きな怪我は治せないんだ。ただ杖をつかない分、生活は楽になるだろう。慣れてくれば、元の仕事も出来るかもしれない。あとはランドルと君達の頑張り次第だ」
「いや、呼人十分だ。いつか義足の代金を払いに行くから待っていてくれ。ありがとう」
「代金なんていらないな。別に商品を売ったわけじゃないんだ。本人の承諾も無く、勝手にやった俺の気まぐれだしな。俺は、もの作りが好きなんだ。楽しませてもらったよ」
うわー! パチパチパチパチ。
いつの間にか、店の周りに群衆が……勘弁してくれ。また群衆をギルド職員が散らすのに苦労して、俺達はランドルの奥さんがやっている宿屋に来ている。
せめてものお礼にと、一泊してくれと言われたのだ。ギルド職員は、食事が美味しくて良い宿屋ですと言っていた。宿屋に着くと奥さにもお礼を言われて、俺達は苦笑いだ。
ランドルは、子供たちと裏庭を走り回っている。もっと様子を見ながら、慎重にリハビリしてくれよ。と思ったが奥さんも嬉しそうなので黙っていた。




