第四十三話 後始末
翌日、王子と宰相がまたやってきた。
俺は、面倒だから会わないと言ったが、おばば様が顔を見せるだけでも良い、と言うので仕方なく付き合った。
王子達は目にクマを作り、憔悴しきった顔をしている。
「今までの無礼はお詫びしよう。呼人殿、この国を救ってくれんか」
「初めからそういう態度なら、建設的な話も出来ただろうけど、今更遅いんじゃないか? 脅しか本当に斬るつもりだったのかは知らないけど虫が良過ぎだろ。
俺が協力しないと、困るのは自分たちなのに馬鹿なことをしたな。良い勉強になっただろう」
「あ、あれは、あの者が勝手にやったこと。厳罰に処したので、ご容赦願いたい」
「そんな誤魔化しが利くと思うのか? 上司である、あんたらも同罪だぞ。反省していないみたいだし話すことは無いな」
悪いが忙しいんだと言って、俺は部屋を出た。ハルナは「あたい達とやる気なら、へなちょこじゃなく強い奴を用意しろよ」と捨て台詞を吐き、エルゴは「まったく愚かな人達です」と冷たく言った。
残された第一王子たちは、顔面蒼白で項垂れている。
その後、おばば様は、呆れるように声を掛けたそうだ。
「じゃから言うたであろう。『厄災』に縁のある者で『伝承』とも関係があると。通信施設で話した時に、宰相もいたのじゃ。聞いていないとは言わせんぞ」
「か、関係あるかもしれないとは聞いたが、じ、実際にこちらにおわすとは聞いておらん。しかも両方とは…」
「同じことじゃ。平民と思って侮るな、態度には気を付けろ、周りの人外が厄介じゃと、あれほど言ったではないか。
宰相ともあろう者が、国を滅ぼす言動をとるとは嘆かわしい」
「ぐうっ」
「呼人殿がヘソを曲げたら梃子でも動かんぞ。もっとも流行病以前に、呼人殿の仲間も神もクロールミア殿も、やる気満々のようじゃし、国自体が危ういようじゃがな。
どうするのじゃ? さっさと帰って、陛下に相談した方が良いのではないか?」
「おばば、何とかならんか?」
「わしに人外が御せるわけなかろう、まったく。
ドラゴン1匹でも国が滅ぶと言うのに、『厄災』どころか『伝承』まで敵に回しおって、陛下にどう申し開きするつもりじゃ」
「…」
なんでも今回のお願いには、国王自ら来る予定だったらしい。だが王位継承権を磐石にするため、功績が欲しい第一王子が、自分が行くと言い張ったのだとか。
俺を使って病を癒し、民の人気を得る絶好の機会だと思ったらしい。俺を脅して言うことを聞かせるだけの、簡単な仕事だと考えていたのかもしれない。
しかし国王も、こんな結果になるとは思わなかっただろうな。どうするのだろう。
更に翌日、おばば様の家に国王が現れた。
俺は面倒だから会わないと言った。約束も無しに毎日毎日来やがって、鬱陶しいったらない。友達じゃあるまいし、礼を尽くすと言うことを知らないのかよ。
俺がプンスカしているとルミアが、妾が話してやろうと、おばば様についていく。ではあちきもと端末神様とウーテがそれに続いていった。
おばば様にあとで聞いた話では、国王と第一王子と宰相の3人だけできたらしい。3人とも悲壮感漂う顔で、ルミアと神様に対峙して泣きそうな顔だったと言う。
だが神様が、終始ニコニコ威圧を掛けていたが、最後まで耐えたそうだ。気絶している間に、国が攻められては堪らないと必死に耐えたのだろう。
「久しいのう。人の王よ。クロールミアじゃ。人型で合うのは初めてじゃな」
「お久しぶりです。竜の姫君」
ここで神様の威圧がブワッと溢れ、3人の顔が更に青ざめたらしい。王は脂汗を吹き出しながら耐えていたと、おばば様が言っていた。
「ずいぶん汗をかいておるようじゃが、病かの」
「ははは、し、心配ご無用に願いたい」
「そうか。して今日は何用じゃ。呼人は忙しくて会えんと言うておる。妾が代わりに聞こう。
だが度々、約束も無しにやってくるのは関心せんぞ。呼人が平民じゃからと言って、王族の威光を押し付けるとはどういう了見じゃ」
ルミアの嫌みと共に、ニコニコ顔の神様の威圧が膨れる。おばば様は生きた心地がしなかったらしい。国王以外はすでに空気と化していたとか。
「ううっ、それも含めて謝罪にきた次第、呼人殿にはよろしくお伝え願いたい」
「うむ、しかと伝えておこう。して妾と戦う軍隊はいつ集まるのじゃ」
「こ、今回の件、兵や民には関係はありません。厄災が暴れれば、兵だけでなく民にも被害が出ます。我々王族の首のみで許して頂きたい」
「無関係な兵や民の命まで取るのは、理不尽じゃと申すか」
「その通りです」
ルミアは、やれやれという様に首を左右に振る。
「呼人は、お主らが手をこまねいていた病から、この街の民を救ったのじゃぞ。その呼人に王族が理不尽を突き付けようとしたのじゃ。
同じく力を持ってあたって何が悪いのじゃ? 呼人には良くて、そなたにはダメとは理屈に合わんぞ」
「この者たちの不始末、国王として深くお詫びいたす。ただ呼人殿ひとりの命と、民全ての命では重さが違うと存じます」
「たわけめ、妾から見れば、人など1人だろうが万人だろうが変わらぬわ。
呼人は妾の大事な友じゃ。おばばが伝えたであろう。それを知っていて喧嘩を売ったのは、そこの馬鹿者共じゃ。今更何を言うておる。
そなたは、王族の威光を呼人に押し付け、その上、人間の理を妾に押し付けるのか?
その傲慢さが、国を滅ぼすと知れ!」
ルミアは、小さな女の子の姿をしているが、国王はタジタジだったらしい。
「そ、そのようなつもりは…」
「では、どのようなつもりじゃ。昨日は偉そうな態度で、今日は端から逃げ腰とは、都合の良いことじゃ。
呼人たちのように、妾と正面からぶつかる勇気もない者が、偉そうに上からものを言うでないわ。
呼人の命を民より軽いと言うその口、妾は不快でならんぞ。
呼人を害すものは、徹底的に排除するのみじゃ。この国の人間など滅ぼしても、妾は痛くも痒くもないわ。妾達を舐めた報い確と受け止めよ!」
「……」
「言葉も出ぬか。では帰って戦支度でもするが良い。王族の威光とやらで、どれだけ民を守れるのか見せてもらおう。
呼人の仲間は、ここにいる者だけではないぞ。グリフォンなどの魔物とも親身な間柄じゃ。呼人が作るゴーレムもおる。呼人本人も奇妙な魔法を使うから強いぞ。
この国の人間は何人おる? 100万か? 1000万か? 呼人に掛かれば1日もたぬであろう。せいぜい足掻いてみるが良い」
「何卒……」
「知らぬ。厄災とは人にままならぬもの。恨むなら厄災を呼び込んだ王子を恨むのじゃな。それにこんな馬鹿者に育てた、そなたにも責はあろう。
のう王子よ、昨日の威勢はどうしたのじゃ。いきなり騎士が呼人に斬り掛かったと聞いたぞ。宰相も、しおらしいのう。呼人に食いついたように妾も怒鳴りつけたらどうじゃ。無礼なのであろう?」
「ご、ご勘弁を…」
ルミアが3人を見据える。そして静かにこう言った。
「お主らの傲慢のツケを、命で払わねばならん民は哀れじゃのう。
それで良く、国を統べているなどと言えるもんじゃ。片腹痛い」
ここでも神様が同意だとばかりに、威圧の大盤振る舞いをしたそうだ。
国王はフラフラになりながら、助けを求めるように、おばば様をチラリと見たらしい。
「神様、少し威圧を緩めてくだされ。ばばにはキツイ。
……陛下、何故このような者たちを寄越したのじゃ。対応に気を付けろと、あれほど注意したではないか」
「済まぬ。恐い思いをすれば、こやつも少しは成長するかと思ったのだ。まさかこれ程とは思わなかった。ばばの忠告を、素直に聞くべきであったと後悔しておる」
「お主は、相変わらず馬鹿じゃのう。舐めて掛かると、足元をすくわれると言うたじゃろうに、まったく。
…ちと待っておれ。呼人殿を呼んでくる。わしでは彼女等を止められん。ルミア殿、神様、暫し休憩にして下され。呼人殿を呼んでまいる」
「よい、妾が念話で呼んでやろう」
ここまではあとで聞いた話だ。
俺が、ルミアに呼び出され国王の前にきた時には、国王達はすでに息も絶え絶えと言う感じだった。
「何をしたらこんな状態になるんだ?」
「呼人はん、あちきは少し威圧しただけでありんす。何も悪くありんせん」
「呼人よ、妾も少し脅しただけじゃ。何も悪くない。こやつらが弱すぎるのじゃ。良くこんな体たらくで、呼人に喧嘩を売ったもんじゃ」
「ルミアはんの言う通りでありんす」
「妾たちを舐めて掛かって、まだ命があるのだから良いではないか」
「「あははは」」
笑い事じゃ無いだろ? お前らの少しは、人間にはキツイんだよ。何度言えば理解するんだよ。このバカちんが!
「エルゴ、今日の夕食はなんだ?」
「今日は炊き込みご飯です」
「ほう、それはさぞ、美味いだろうなぁ」
「舌もとろけるほどかと」
「そうかそうか。今日はふたり分少なくていいぞ。神様とルミアはいらないそうだ」
「何故そうなるのじゃ。炊き込みご飯とはなんじゃ」
「そうでありんす」
「エルゴ、明日もいらないらしい」
「わ、わかったのじゃ。やり過ぎたのじゃ。済まん」
「ウ、ウーテはん、早く呼人はんに謝るんどす」
「呼人っち、ごめんなさいっす」
調子いいなぁ。本当に反省してるのか?
「ルミア、神様、俺のために怒ってくれたのは嬉しい。でもおばば様が悲しい顔をしているぞ。
ルミア達が俺を思うように、国王にも家族や友がいるんだ。それを忘れないでくれ」
「わかったのじゃ」
「承知したでありんす」
しかし中途半端だな。ルミア達のストレスが無くならないと、どこで暴れるかわからないぞ。
「陛下、王族の命と引き換えに、城と公爵の家を頂きます。よろしいですか?」
「人の命には代えられん。好きにしてくれ」
城とは都の王城のことだ。王族が住まう場所だが、今回の慰謝料代わりに接収させてもらう。
家具などの荷物や人は、事前に出て行ってもらい、神の鉄槌(雷)を降り注ぐのだ。貴族たちに「伝承」を、その目に焼き付けてもらおう。高い授業料だが死ぬよりは良いだろう。
公爵の家は、前にルミアに喧嘩を売った「馬鹿息子お仕置き事件」の馬鹿息子の実家だ。これも人を排除して、ルミアに好きに壊してもらう。「カプドヴィエルの厄災」だ。あんな馬鹿息子を野放しにしていた公爵には、たっぷりと反省してもらおう。
「ルミア、公爵の家は好きなだけ潰していい。ただし人は殺すなよ。あと好きな料理を5品付けよう。どうだ」
「な、なに? 5品もか? 仕方がないのう。妾の怒りは、そんなに安っぽくないのじゃが折れてやろう」
「神様、好きなだけ城に神の鉄槌を落としていい。それと糠漬けを5樽渡そう。今回はこれで手を打ってくれ」
「ウーテはん、王族の威光とやらに負けない。神の威光を示すんどすえ。跡形も無く潰すでありんす」
「わかったっす、神の鉄槌を思い知らせるっす」
これで何とか収まったか。
「旦那、あたいは王子と爺さんのハラワタ、引き摺り出すぜ。あとあのへなちょこおやじもだ。爺さん、昨日生きて帰さねぇって言ったの忘れてねぇだろうなぁ」
「呼人様に害をなす者は、生かしておけません。私は首を落として、髑髏を盃に酒盛りでも致しましょう」
……収まってなかった。
ハルナとエルゴの言葉に、王子と宰相が項垂れながらビクッと震える。やっと終わったと思ったのに難儀なことだ。
国王が、慌てた様子で仲裁に入る。
「な、それだけは、何卒ご容赦下され」
「はあ? なに寝ぼけたこと言ってんだおっさん。旦那には何も言わずに斬り掛かっておいて、それはねぇだろう。
まだ自分達だけ特別だと勘違いしてんのか? こちとら王族なんざ関係ねぇんだ。うだうだ言う前に、旦那に喧嘩を売った、自分の馬鹿さを悔やみやがれ!」
「呼人様と同じく部下を使って、我々を排除すれば良いだけの話。あなたに文句を言われる筋合いは無いですよ。それに先程、王族の首で手を打てと言ったのはあなたです」
「ぐっ」
「がははは、排除か、そりゃいいぜエルゴ。ルミアじゃねぇが万人こようが、あたいは止められねぇ。せいぜい気張るこったなおっさん。
爺さんも何とか言ったらどうだ。不敬なんだろ? まったく張り合いのねぇ奴等だぜ」
「ハルナ、呼人様の前では、王族の威光など塵に等しいと知らしめるのです。クククッ」
やり過ぎだぞ、お前達。王子も宰相も項垂れて、完全に屈服してるじゃないか。しかし相変わらずハルナは男前だなぁ。
「ハルナは、出番があったんだから、もういいじゃないか。格好良かったぞ」
「そ、そうか? 旦那。がははは、旦那が言うなら許してやるか。へなちょこ過ぎていじめ甲斐もねぇしな。旦那に感謝しろよ爺さん」
「エルゴも咄嗟に、ルミアと神様を呼ぶなんて流石だな。王子達も反省しているみたいだし、もういいんじゃないか?」
「ハッ、有り難き幸せ。お前達、呼人様に感謝するのですよ」
フーッ!何とか誤魔化せたか。
「おばば様、ちょっとやり過ぎだけど、これでいいか?」
「良い薬になったであろう。呼人殿は良い薬師じゃ。ファーファファファ」
「フフッ、師匠が良いからな」
「呼人殿、いろいろ済まんかったの。元々はわしが、病を治せなかったのが原因じゃ。呼人殿には、たくさん不愉快な思いをさせた。本当に申し訳ない」
おばば様は悪くない。本当はこいつらが対処すべきことだ。と思ったら腹が立ってきた。
「なあに、お互い様さ。流行病は、おばば様ひとりではどうにも出来ないことだ。国が頼りないとくれば、仲間に頼るしかないじゃないか」
「そう言ってもらえると助かる」
「そして陛下、今更だけど俺達は、無闇に国と争う気は無いんだ。そっちが絡んで来なければ、特に問題無いはずだ。
だから二度と、力の使い所を間違えるなよ。弱い者を虐げるだけの力なんて害意しか生まないぞ」
もうなんか、敬語を使うのも馬鹿らしくなってきたので、タメ口で今までの鬱憤を吐き出してやった。
「良くわかった、肝に命じよう」
「王子と宰相も、これがいつもあんたらが、弱者に対してやっている事だとわかったか。どうだ? ツラいだろう?
自分のやったことを良く噛み締めるんだな。城という高い授業料を払ったんだ。良く勉強することだ」
「…」
黙ってうつむく二人に、ハルナがバァァンとテーブルを踏みつけ「無視してんじゃねぇ」と凄み、エルゴが「やはり首を切るべきですね」と冷ややかに睨む。
王子達は、首を左右に振って涙を流すのみだった。
あ、そうだ。ついでにおねだりしちゃおうかな。
「陛下、あと王家の紋章みたいなのないかな? 今度、旅に出る時に関所を、顔パスできるようなのがあると楽なんだけど」
「呼人殿には謝罪も含めこの短剣を渡そう。王家の証だ」
「ありがとう、助かるよ。それと他の貴族にも、俺達に関わらないように言っておいてくれないか。
俺はまだしも、人外の者たちは、何をするかわからない。この短剣を持つ者に関わるべからずと、通達できないかなぁ」
「今回の一件で、わしも懲りた。隅々まで通達しておこう」
こうして「舐めた王族ボコリ事件」は解決した。
王子も俺も「虎の威を借る狐」と言う意味では同じ様なもので、力のゴリ押しはあまり褒められたものじゃないけど、なんとか丸く収まって良かったと思う。
でも馬鹿貴族は、まだまだいるんだろうなぁ。嫌だ嫌だ。




