閑話 精霊合体プラスワン
「ハアーッ」
「どうしたにゃ呼人、ため息なんか吐いて」
午後の木漏れ日がポカポカと暖かい窓際で、俺は悩んでいた。思わず吐いた ため息に監視ゴーレムの1匹が、窓から声を掛けてきた。
「やあ猫さん、サボりかい」
「失礼にゃ、ちゃんと仕事してるにゃ、だから魚よこすにゃ」
「ははは、わかった、わかった」
俺は呼人。なんの因果か、ある日突然、拉致されて、何処とも知れない大陸に、船で連行された不幸な男。仲間のマリアと共に、生きるために頑張った結果、いつの間にか農園のオーナーになっていた。
「ちっちゃいにゃ、ケチケチするにゃ」
「はいはい」
俺の農園は、普通とちょっと違う。亜空間に形成された農園なのだ。エルクの街の薬師ギルドの顧問をしている、おばば様に弟子入りした俺達は、おばば様の家の庭の片隅を間借りして、小さな掘っ立て小屋を建てた。ゴーレムハウスと名付けたその小屋は、スライムの体組織をゴーレムの魔法陣で制御して、外観を形作っている。
そしてこの掘っ立て小屋の入り口の扉を開けると、中には広大な土地が広がっている。地平線が見えるほどの広さだ。
「呼人、今日も平和にゃ。魚が旨いにゃ」
「そうだな、猫さん達が監視してくれるおかげで、今日も平和だよ。ありがとう」
「こっぱずかしい事言うにゃ、我輩の仕事にゃ当然にゃ、魚をもっとよこすにゃ」
「ああ、いっぱい食べると良いさ」
ある日、俺の使い魔が魔物たちと友達となった。ざっと60匹はいる魔物は住む場所がないと言う。ゴーレムハウスの亜空間内に住みたいと言うが、亜空間内は、あまり良い環境とは言えない。そんなおり精霊さんが「箱庭」の話をしてくれた。
箱庭は大地を切り取ったようなもので、擬似太陽があり、天候が存在する。いわば小さな世界だ。森の低位精霊を7人借りて、箱庭の改造と管理をしてもらい、そこに農園を作った。
こうして俺は、農園のオーナーとなったのだ。これで大好きなビールを作れる環境が整った。ビール片手に新大陸でのほほんと暮らすのも悪くない。
「なに、考え事しているにゃ」
「いやあ、意外と幸せだなぁと思ってさ」
「ニヤニヤしてキモいにゃ」
「猫さんだって、これからポカポカ陽気に照らされて、ニヤニヤしながら昼寝するんだろ」
「そ、そんな事無いにゃ、仕事にゃ」
「バイバイ猫さん、しかしお魚くわえたドラ猫が去っていくけど、追いかける気にはならないな」
初めは、俺とマリアの、2人から始まった新大陸での生活だったが、精霊さんと共に戦い、使い魔のスライムゴーレムを5人作った。ひょんなことから、幼竜クロールミアが同行することになり、60匹の魔物たちと知り合った。
成り行きでおばば様の弟子となり、孫のアロンとも友達となった。そして魔物たちの住み家として「箱庭」をもらい、精霊7人が貸し出された。マリアの暴走で、孤児を70人引き取ることとなり、良くわからない間に、神様の端末と天使が住み着いた。
今では、総勢150人ほどの大所帯になっている。監視ゴーレムを入れたらそれ以上だ。
まだまだやる事もやりたい事もたくさんあるので、ほのぼののんびりのほほんライフのために頑張ろうと思う、午後のひとときであった。
って違う違う、なに完結してんねん。俺の悩みの話でしょうが!
俺は悩んでいる。先日、精霊7人から悩み事を聞かされた。精霊たちは、魔法乙女戦隊に入って活躍して、新聞に載り、インタビューを受けたいと言う。
俺達に、箱庭を提供してくれた精霊たちの願いだ。恩返しの意味も含めてなんとかしたい。
「カアカア、猫ばかりズルいカァ」
「そうだぢゅ呼人、ネズミにも魚出すだぢゅ」
「わかった、わかった、大きいのあげるから邪魔しないでくれよ」
精霊達の悩みを何とかしたいのは やまやまなのだが、精霊は霊体だ。自分たちが信用した者の前にしか姿を現さない。そのため魔法乙女戦隊と一緒に戦っても、写真に写らない。というか写真に写っても、俺達以外、誰も認識できないのだ。
これでは新聞に載ったとは、言い難いし、インタビューなど出来ない。
それ以前に戦えるのか? という疑問もあるが、それは大丈夫だと言う。霊体なのに物質に干渉できるのか? というと出来るのだそうだ。
「お前たち、主に集るとは、どういう了見でしょう。リセットされたいのですか」
「まずいカァ」「エルゴだぢゅ」「逃げるカァ、魚に乗るカァ」「わかったぢゅ、よし飛び立って良いぢゅ」バサバサー「カアカア」「チュウチュウ」
「ははは、正に飛ぶように逃げていったな。以外と、強かに生きているようで安心したよ」
「呼人様、監視ゴーレムを甘やかさないで下さい」
「まあ、たまには良いじゃないか」
難しい話で良くわからなかったが、精霊は次元の移動が容易にできるらしい。次元の狭間にいる時は、こちらの次元の物質には干渉出来ないが、こちらの次元にいるときは干渉できるのだとか。
しかも霊体の性質を変えれば、干渉させたり、させなかったり、姿を見せたり隠したり、壁を通り抜けたりと、いろいろ可能らしい。流石は神の眷属だ。
「電気も光もただのエネルギー体だが、人間をビリっと痺れさせたり、体を温めたりできる。それと変わらないでし」と言っていた。精霊は、意外と科学知識を持っていたりする。
そんな精霊をロボットに載せて戦えば、依り代に入ったような状態で、人にも認識できるし、スピーカーから声を出せるかもしれない、ということに話が決まった。当然作るのは俺だ。
俺は前に、重機ゴーレムというロボット風のゴーレムを作ったことがある。体長3mのロボットのような外観のゴーレムだ。
ゴーレムなので機械のロボットのような、余計なギミックも機械も一切無い。そんな、骨格と外装だけのロボットが動くのだから魔法は面白い。
ゴーレムは魔法生物である。科学技術で出来ないことも魔法でなら可能なのだ。元々、軟体であるゴーレムには関節の機構など必要ない。だから関節を動かすギミックがない。単一組織を動作、制御するゴーレム魔法陣があれば、魔力を糧にイメージ通りに動いてくれるので、姿勢制御するための機構も、余計な機械も一切必要ないのだ。
通常のゴーレムは、単一組織で体が埋まっている。だが重機ゴーレムは、丈夫な骨格だけで構成された骸骨のようなゴーレムだ。これに外殻を後付けして、見た目をロボット風に仕上げた。
だから中身はスカスカだ。そこに乗り込んで操縦するわけだ。エルゴ達と同じスライムゴーレムなのだが、知識や自立プログラムは入れていないので、勝手に動くことはない。ゆくゆくは、簡単なプログラムを入れて、呼んだら飛んでくるとか、機能を加えるのも良いと思っている。
やっと本題の俺の悩みなのだが、精霊たちが載るゴーレムの外観で悩んでいる。角々したロボットにするか、丸みを帯びたサイボーグ風にするか迷っているのだ。
俺は、昔ながらの角々したロボット、今風のシャープで格好良いロボット、丸みを帯びたサイボーグ風の、3枚の絵を見ながら悩む。
「呼人さん、それはなんでしか?」
精霊たちが集まってきた。答えはわかっていると言うように、目がキラキラ輝いている。
「班長たちが載る合体ロボットのデザインだよ。どれにしようか悩んでいる」
「どれどれ、どれも格好良いでしねぇ」
「ぼきは、これが好きでし」
「ぼきもー」
主任とお頭は、男の子型の精霊だ。昔ながらの角々したロボットが気にいったらしい。
「あたちは、こちらのデザインも捨て難いと思うでし」
「あたちも、こっちが好きー」
班長とシェフは、女の子型の精霊だ。今風のシャープな、ロボットが良いと言う。他の下級精霊3人も、こっちがあっちがとふたつに別れてる。サイボーグ風のデザインは人気が無い。
「だけどな班長、班長は魔法乙女戦隊に入りたいと言っていた。そのふたつのデザインだと、戦隊服が着れないし、似合わないと思わないか?
だから俺はサイボーグ風にして、戦隊服を着れるようにしようかと悩んでいたんだが、班長たちがロボット風が良いなら、その方が良いのかな。
でも大きさはせいぜい2mくらいだぞ。班長たちが考えているロボットと、ずいぶんイメージが違うように思うけど大丈夫か?」
「「「「ガーン!」」」」
「……」
「確かにそうでし、魔法乙女戦隊の服が着れなければ、意味がないでし」
「本末転倒でし、ぼき達は反省しなくてはならないでし」
「呼人さんが、あたち達のために悩んでいるのに、あたちは浅はかでし」
「ごめんなさい、ぼきはダメな精霊でし」
いやいや、お頭。そんなことはないぞ。
「自分の好みを曲げる必要はないと思うぞ」
「いやいや、呼人さん。ロボットと言う心地良い響きに騙されていたでし、ロボットより魔法乙女戦隊の方が大事でし」
そうでしそうでし、目から鱗が落ちたでし、さすがは司令官でし、目の付け処が違うでし、と精霊たちが言い合い、ロボットのデザインは、丸みを帯びたサイボーグ風のデザインに決定した。
いつの間に俺は、司令官になったんだ? またマリアの入れ知恵か? 勘弁してくれよ。
「色はどうする? 神の眷属らしく七色にするか? 機械っぽく銀色か?」
「そうでしねぇ、派手な色が良いのでしが、隊員は一色に統一するのが掟でし」
いや、俺が勝手にやっただけだぞ。掟なんてないぞ。
「サイボーグだからボディは、銀色か黒いメタリックにしようかと思っていたんだが。服はその逆にするか?」
「それは格好良いでし、司令官は天才でし」
「あ、ああ、ありがとう…」
こうしてボディ色は「銀色」、服の色は「黒」に決まった。
魔法乙女戦隊の戦隊服はドレスアーマーだ。
ゴスロリ風で幾重にもフリルを重ねてある。足にはニーハイソックス。靴は動き易いスニーカーが履かれている。
頭には髪飾りが煌めき、首にはチョーカーがつけられており、手には当然、魔法のステッキだ。
そして顔バレ防止のために、目元にはアイマスクがつけられている。こまかいレース編みになっているアイマスクは、顔にピタリと張り付き、まるでタトゥーのようだ。仮面舞踏会に参加した貴族のイメージだ。
俺はこれを元に、大人っぽいデザインに改造した絵を作り、黒く色を塗る。ステッキの先の飾りとか、髪飾りなどもシックな感じにした。
合体ロボ(サイボーグ)は、背が高くなる予定なのでシックにまとめたのだ。
「とりあえず基本はこんな感じだな。どうだ?」
「ワンダフゥ~ル」
「ファンタスティ~ック」
「マ~ベラス」
「ファビュラ~ス」
なんでやねん!
こうして数日後、魔法乙女戦隊の支援ユニットと言うべき、「精霊合体ロボ:プラスワン」が完成した。今日は御披露目だ。
穏やかな日差しの下で、みんなでワイワイと昼食を食べたあと精霊たちが準備を始める。
「エルゴー、ハルナー、撮影の準備はいいかー」
TVの魔法は戦闘時しか発動しないが、俺達は魔法陣を改造して、いつでも撮影できるようにした。精霊たちの発表会を撮影する親の気分だ。精霊さんに送ってあげよう。
「ジャカジャカジャーン~♪」
俺の用意した景気の良い音楽が鳴り、身長が40㎝に成長した班長たち、精霊7人組が正義の見方のように、マントをなびかせて飛んできた。
班長たちは、ステージにストンと降り立つと、それぞれにポーズを付けて
「精霊!」「合体!」「ロボット!」「プラス!」「ワン!」「見~!」「参!」
と言いながら、収納庫から専用機を出す。専用機と言っても右手、左手、右足、左足、腰、胸、頭の各部位に別れているだけだ。
専用機はプカプカと宙に浮かんで、班長たちが、その上にちょこんと載っている形だ。
班長は、生首に載っている感じで、ちょっとあれだが……
「敵は強い。合体するでし」
「「「おおー!」」」
と俺が演出した芝居が続く、
班長たちが、一斉に上に向かって飛び上がった。手や足、生首が、黄色いジェット噴射を出して、空を飛んでいる様は、俺から見ると滑稽なのだが、やっている精霊や、見ている子供たちは真剣だ。当然、ジェット噴射は魔法で作ったギミックだが、その迫力に子供たちが「おおぅ!」と唸る。
俺は「どんな茶番だよ」と自分で提案しておいて恥ずかしくなるのだが、マリアは「なかなか良いじゃない」と嬉しそうだ。おっさんは、とにかく派手で可愛いければ良いようだ。
5mほど上空で、7つのパーツが交差する。
「「「合体!」」」
ピカッと光ったあと、手足を大の字に広げた人間の姿が現れた。太陽の光が、こちらからは逆光で黒いシルエットしか見えないが、上手くいったようだ。すぐにギュンと飛び立ち、軽く一周回ったあとに再びステージに降り立った。
「「「プラスワン見参!」」」
子供たちがワーワーキャーキャー言いながら、班長たちに近づいていく。
ヘーデが羨ましそうに、プラスワンをペチペチ叩いているのは見なかったことにしよう。
精霊たちは、プラスワンのひざや頭に乗っていたり、二の腕につかまっていたり、お腹や胸のところにちょこんと座っていたり、と何かシュールな感じだが、皆誇らしげだ。
プラスワンは、ロボットと言っても身長2mで、マリアより少し大きい程度だ。女性型のサイボーグなので、マリアより細く見える。合体と言っても、そんな機構を組み込んでいる訳ではなく、魔法の不思議で部分部分がくっついたり離れたりするだけだ。
「なかなか良いじゃないのぅ、黒い服が大人の魅力満載だわぁ」
「顔は目と鼻の凸凹だけで、無表情なサイボーグって感じだけど変じゃないか?」
「迫力があって良いのではないかしらぁ。クールビューティーなところがイカスわぁ」
顔はメタリックな銀色で、目と鼻の造形だけがある。目球や黒目や鼻の穴、口は無く、すべて銀色だ。数本の線を入れて機械っぽく見せている。髪も白っぽい銀色にして、左右でまとめてある。指は人形のようなボールジョイントになっている。ひじやひざもそうだが、服に隠れて見えてはいない。
服は、黒いゴスロリ風のドレスアーマーだが、ロングスカートにしてシックな感じにしている。靴はピンヒールだ。浮かんで移動するから大丈夫だと班長は言っていた。
「中に精霊たちが座るところはあるのかしらぁ?」
「いや、中身はスカスカで骨しかないよ」
「あらあ、椅子くらい付けてあげたらぁ」
「班長がいらないって言ったんだ」
例によって中身はスカスカなのだが、中に乗り込む機構は無い。精霊たちは物質をすり抜け自在なので、戦闘時は頭や胸にみんなで入る。
操縦は頭担当が行い、順番にやるそうだ。他は魔法攻撃をするのだとか。プラスワンの頭の上から、顔を出して操縦するそうだ。
因みに操縦は、自分の手足の動きに、ゴーレムが追従するので簡単だ。
口の辺りにスピーカーを仕込んで、人間の言葉をしゃべるようにしてある。天使のウーテに頼んだら、精霊の言葉を誰もが聞けるように変換器を作ってくれた。
「早く事件が起きないかしらぁ」
「おいおい、変なフラグ立てるなよ。平和が一番だぞ」
「そうだけどぅ、早く活躍させてあげたいわぁ」
マリアの言うように、早く精霊たちが活躍できれば良いと思う。
彼らがどういう思いで「新聞に載りたい」とか「インタビューを受けたい」とか、言い出したのかはわからない。何千年も生きる精霊には、今までこんな事があったのだろうか。
精霊たちに、人間への忌避感は無いように思う。人間に精霊を害すことはできないので、敵対心も無いだろう。だが人間との接触を、あえてして来なかったのは確かだ。
俺と付き合うことで、心変わりしたのかもしれないと思うと、嬉しい反面、心配になってしまうのは、小心者ゆえなのか、なんとも微妙な心持ちだ。
そんな俺とは裏腹に、マリアははしゃいでいる。
「魔法乙女戦隊プラスワン出動よぅ!」
「「「おおー!」」」
マリアの掛け声に、ヘーデリア達が次々と変身して、飛び立っていく。箱庭の空をV字編隊で、飛んでいく魔法乙女戦隊の姿を、子供たちがキラキラとした目で見守っている。自分たちを助けてくれた時の事を、思い出しているのだろうか。
茶番だと思った俺は、いつの間にか汚れた大人になってしまったのだと実感させられた一幕であった。
今夜の夕食はオムライスだ。ケチャップでチキンライスを作り、フワトロ玉子焼きを上に乗せる。玉子焼きに切れ目を入れて、中身がトロリと溢れると、端末神様のよだれもジュルりと溢れる。
大人組は、湯豆腐にした。昨日、海で海水を汲んで、火に掛けて煮詰めて「にがり」を作った。豆乳ににがりを混ぜると固まって豆腐になる。
土鍋に昆布をしき、水と豆腐を入れて温めたものを、ネギとショウガと醤油を掛けて食べる。当然お供はビールである。熱々の豆腐と冷えたビールがたまらないのだ。
クロールミアが「プリンか?」と聞いてきたので、少し食べさせたら微妙な顔をしていたので、俺とマリアが大笑いした。やはり、まだまだ子供舌のようで濃い味付けの方が良いようだ。
「これは、良いツマミじゃのう」
「おばば、本当に酒に合うよなあ。あたいは好きだ」
おばば様は湯豆腐を食べながら、冷酒をチビチビ飲んでいる。ハルナもその横でグビグビとポン酒をあおる。
隊長とグリさんには豆腐は食べ辛いので、サイコロステーキをツマミにウィスキーを飲む。と言うか舐めている。
夜の自由時間には、俺はいろいろな研究をする。エルゴは、スライムゴーレムの性能向上を主体に研究しているので、俺は魔法などの研究をしている。
「エルゴ、魔法の遠隔操作は難しいかなあ」
「イメージだけで飛ばすことは出来ないですし、魔法も放ってしまえば、条件を書き換えることはできません。熱源追尾のような条件付けは、事前に出来ると思いますが、自在に遠隔操作するのは難しそうですね」
今、研究しているのが魔法の遠隔操作だ。相手の魔力に直接作用するイメージを叩き込めないかと考えている。
つまり視線の先に直接魔法を具現化させるのだ。
相手の脳や心臓が突然、燃えたり爆発したら避けられないだろう。超能力で言うところのパイロキネシスだ。
もはや魔法というより魔眼だが、大きな魔物などに有用だと思う。
魔法は、自分の中でイメージと魔力を混ぜ合わせ、手の平に火を作ったり、飛ばした魔力が途中で具現化して炎の壁になったりするのだが、まず自分の近くで魔法の種(魔力+イメージ)を作る必要がある。魔力は飛ばせるが、イメージは魔力に乗せないと飛ばせないからだ。
「時限爆弾みたいな、設置型の魔法も条件付けでできそうだけど、相手次第なところがあるからなぁ」
「設置型の魔法を、任意に爆発させられれば楽なのですが、なかなか難しいです。追加のイメージを、魔力に乗せてぶつければ良さそうですが使い勝手が良くないですね」
魔法の種を飛ばして、自分から離れた場所に炎を出すのは簡単だが、炎が発生する時間は事前に設定したイメージであり、放った魔法を任意のタイミングで起動して、炎を出せるわけではない。自分から離れてしまえば変更は難しい。
例えば、着火の魔法で指先に火をつける事があるが、これを指先から10㎝離れたところに点火させようとするとかなり大変だ。自分から離れてしまうと、イメージによる操作が効かなくなるのだ。
着火の魔法を離れたところに灯す訓練をやっているときに、魔力の糸を考えついた。指先から魔力の糸を出してイメージを運ぶのだ。
「この魔力の糸と風船が、もう少し使い勝手がよければ良いのですが…」
魔力の糸の先に、風船のように魔力溜まりを作り、これを自分の体から離す。魔力の糸は繋がったままだ。1m離すのにも苦労するが、今までに比べれば楽な方法だ。離れた魔力の風船に糸を伝ってイメージを流すと、俺の思っていた遠隔操作に近い魔法が発現した。
ただこれを使うには訓練が必要だし、常に意識していないと、魔力の風船は消えてしまう。風船を自由に動かすのも難しいし時間も掛かる。
まだまだ実用段階ではないなと思っていたときに、良い情報を得たことを思い出した。
「そう言えば、精霊が、空気魔法を手のように使って、包丁で野菜を切っていると言っていたな」
「ええ、かなり自在に操っています。魔力の糸を操るのはこんなに難しいのに…、やはり精霊だからでしょうか?」
「うーん、でも練習すれば、俺達にも出来るんじゃないか? もしかしたら具現化した魔法の方が、操り易いのかもしれないな」
空気魔法は、風魔法の派生だ。空気を強固に結合して空気を固体化する。自分の周りの空気を、魔力とイメージで大きな「手」のように固め、操るのだ。魔力の糸と同じ発想だ。
だがこの手は、相手を掴んだり殴ることはできるが、エアハンマーのように飛ばしたり、空気の手の先から、炎(魔法)を出したりすることは出来ない。
因みに、エアハンマーは空気を固めた、事務机ほどの塊を相手にぶつける魔法だ。
俺とエルゴは物は試しと「空気の手」をやってみた。やってみると意外と簡単だった。魔力の糸と同じく体と繋がっているので、視線や思った方向に反応してすぐに動く。ただやはり爆発させたりは出来なかった。
「おお、意外と簡単だな。本当に自分の手のように動くぞ。やはり具現化することで扱い易くなるようだな」
「そうですね。ただこれで殴るのなら、エアハンマーを飛ばした方が威力はありそうです」
「魔力の風船を、空気の手で動かすのはどうだ?」
結果は大当たりだった。魔力の糸や魔力の風船は動かすのに苦労したが、空気の手で持って動かすとすんなり動く。同じ魔力から出来ているからか、親和性が高いようだ。空気の手で、魔力の風船を窓の外まで持っていき、炎のイメージを流してみる。
ぼおおっ
窓の外で火の手が上がる。成功だ。
相手の魔力に直接作用するイメージを叩き込み、心臓を破裂させるという、最初の発想とは大分違うが、少し前進したようだ。これで相手の顔前から「炎弾」を発射するくらいはできそうだ。
突然、マリアがドタドタと部屋に入ってきた。隣の部屋で窓の外を見ていたら急に明るくなって、びっくりしたらしい。
俺は、パイロキネシス構想をマリアに話した。
「あなた、それ無敵じゃないのぅ?」
「まあ、そうだな」
「シレッと言うんじゃないの!」
「俺は小心者だぞ。これくらい高い優位性を保持してないと安心できないの!」
「とにかく夜中に、危ないことはしないでちょうだい。わかった?」
「…はーい」
チェッ、危ないことってなんだよ。危ないことから身を守るためにやっているんだぞ。
だってそうだろう。この前の神様だって、全然歯が立たなかったじゃんか。殴り合いになってなければ瞬殺だったぞ。
まだ敵になるかわからないけど、邪神だぞ、ラスボスだぞ? 神相手にこれくらいで勝てると思う方がどうかしてるぞ。
機械人間なんか、基板に直接雷撃でも食らわせないと、俺には対処のしようがないし、他国の軍人だってヤバいじゃないか。拳銃だぞ、マシンガンだぞ、対戦車ミサイルだぞ、これくらいないと安心できないよ。
「うーん、早くダンジョンに行って、バジリスクを倒さないといけないな」
「呼人様、バジリスクの持つ、石化の邪眼はパイロキネシス構想には、うってつけではありますが、ただ……」
「ん? ただ?」
「固有魔法の可能性が高いです」
「バジリスクにしか使えないと?」
「ええ、バジリスクだけではありませんが、数種の魔物しか使えないのではと思います」
「がっかりだな。そういえば精霊しか使えない魔法とかもあったなぁ」
バジリスクの石化の邪眼は、目で見たものを石化するという。バジリスクの魔石の魔法陣を解析して、流用すれば、劇的に研究が進む気がしていたんだが、ダメっぽいな。
しかし、目で見たものが石化するって反則だな。聖水が無かったら防ぎようがない。ゴーゴンの石化能力を、鏡で反射する話があったけど、試してみようかな。鏡の盾を作ってみようか。でも邪眼は、目に見えないから上手く反射させて、バジリスクに当てるのは難しそうだし、石化耐性もありそうだ。
因みに、俺が使うゴーレム召喚も固有魔法みたいだ。召喚と言ってもゴーレムの魔法陣に魔力を通すだけなので、誰もが出来る事だと思っていたが、エルゴもマリアも、ゴーレム魔法陣からゴーレムを作ることは出来なかった。
そして俺も、ゴーレム以外の魔法陣から、魔物を召喚することは出来なかった。オーガやゴブリンなどの魔石はたくさんあるのだが、魔法陣の一部を活用することが出来ても、ゴーレム以外の魔物を動かすことは出来ないようだ。
余談だが、俺が作ったゴーレムを、エルゴ達が操ることは可能だ。俺が許可した人間の命令は聞いてくれる。
「エルゴ、魔法陣を改造して、固有魔法を解除できないかな?」
「神代文字の解析が進めば、可能かもしれませんが、今は無理でしょう」
「端末神様もウーテも、神代文字を教えてくれないからなぁ」
「人間が工夫するものだと言っていましたね。手は貸せないと」
この大陸で使われている魔法は、そもそも魔法の神様が、人間に授けたものらしい。だから魔法陣は神代文字で描かれている。魔法の神様は、この魔法陣を元に人間が工夫して、威力を変えたり、新しい魔法を創造することを望んでいると、ウーテが言っていた。
人間に親身な神様も少しはいるんだな。だけど神様は、俺達と感覚が違うから困るんだよなぁ。というか結構いい加減だから困る。
だいたい魔法陣の神代文字なんて、読めるようになる気がしない。今も、多くの魔法陣を比較したり、適当な予測で改造しているだけだ。
ついでに、いい加減といえば端末神様の能力だ。主神本体は神界にいて、主神の欠片で作った人形が、端末神様らしいのだが、能力は人間と大して変わらないと言っていた。しかし怪しいものだ。ウーテを怒っている時などに、凄まじい威圧を感じることがある。
それと、勾玉の能力値も怪しい。勾玉は、政府の支給品と思われる、バッグに入っていた物だが、元の世界の物では無いのは確実だ。多分、どこかの神様が作った物だろう。
マニュアル情報では勾玉は、一般的な魔法使いの数倍の能力を持つと書いてあったが、もっとチートな能力に感じてならない。なぜならいくら魔法を使っても、全然魔力が減っている気がしないからだ。
魔力が数値化されている訳ではないので、感覚でしか言えないが、おばば様と比較しても、数倍では収まらないと思う。
まあ、今考えても仕方がない。俺達に損な話でもないし、神様の言うことは疑って掛かれということだろう。
魔法研究の話に戻るが、研究をしていると、魔法は不思議だと、つくづく思う。まだまだわからない事、理屈に合わない現象が多い。なかなか理解が進まないのが現状だ。
たとえば魔法の射程距離や作用時間も不思議だ。
射程が魔法によって違ったり、作用時間が違ったりする。
攻撃魔法を飛ばす場合、射程は、せいぜい100mほどだろう。それ以上離れると、魔力が霧散してしまう。
100m行かなくても、敵に当たれば消える事が多い。
だが全周囲の探知魔法は、半径50mほどが限界だったり、地底ソナーの魔法は、1㎞以上の射程があったりする。
作用時間も攻撃魔法は、比較的早く消えてしまうが、魔法で具現化した水や金属は消えない。意識していないが、魔法発動時のイメージに、用途別の時間設定や、射程設定があるのかもしれない。物質の具現化と現象の具現化でも違うのだろう。
ソナーの魔法は、魔力を音波のように発射して、情報を得ているのだろうか? 仕組みはまだ良くわかっていない。
だが射程がとにかく長いので、今度ソナーの魔法を研究してみれば、攻撃魔法も射程を伸ばせるかもしれないなと思った。
こうして俺達は、日々研究や考察を繰り返している。何か新しい技術を開発することは楽しい。それが自分のためになるなら都合が良い。頑張ってチート能力を手に入れようと思う。




