第三十五話 かんき
翌日、空はまたも曇天だった。俺の気持ちも霞み掛かって一向に晴れない。乾期なのか湿気はあまり感じないので、本来なら過ごし易い日なのだが、降って湧いた騒動に気持ちが沈む。
やはり神は、今日も温泉に来るようだ。先程、精霊さんから知らせがあった。昼食後のまったりタイムが台無しとなる。
午後の作業は中止して、子供たちと魔物たちを子供ハウスに避難させる。俺以外はみんな、箱庭の外で待機だ。出来るだけ遠くに行くように指示を出した。
勘気をこうむるのは、俺ひとりで十分だ。
大人達は緊張した面持ちで、唇を噛み締めている。やりきれない表情で佇む使い魔たちを、箱庭から追い出すのに苦労した。
こんな大袈裟なやり取りが、笑い話で終われば良いと思う。しかし「存在の格」が違う珍客が来る以上、油断はできない。絶対強者相手に上手く立ち回らないと、デリート(消去)されてしまうのだ。
そう、子供のように悪意の無い、しかし大きな災いを含んだ種が、今日もやって来る。せっかく整えた環境が、一瞬でパァーになるほどの、火種を抱えた爆弾を遠避けねば、いずれ問題が起きるのは、火を見るより明らかだ。
人間は古くから、神を畏れ敬ってきた。なにせ神は、人間の理屈やルールの通じない、埒外の存在なのだから。そんな存在が近くにいて、問題が起きないはずは無い。事前に危険を察知して、子供たちから遠避けるのは大人の役目だ。
俺は温泉ハウスを魔石に戻して、プリンなどのレシピと一緒に桐の箱に入れる。
神様への献上品だ。根本的に考えて、俺達のやっていることは大袈裟だし、おかしいのは分かっている。俺だって馬鹿らしいと思っているのだ。だが未知との遭遇には覚悟が必要だ。俺の持つ素材なども全部マリアに渡して、必要なら換金してくれと言ってある。
ああ、本当に馬鹿らしい。
箱庭の景色を眺めながら心底そう思う。箱庭との付き合いは短いが思い出は多い。箱庭の風景を眺めて、感慨に耽っていると、空から神様と精霊さんがスーッと降りてきた。
「精霊はん、あちきの好む場所が無いとは、どういうことでありんすか?」
「尊き我が君に、お願いの義があって、このような趣向になっているようだよ」
神様は、今日もニコニコ顔で綺麗な女性の姿だが、残念な方だった。廓言葉か? 京都弁か? おじゃる言葉か? なんかおかしなしゃべり方だ。
まあ実際は、この大陸の言語でやり取りしているのだが、「言語パック」の影響なのか、変ななまりみたいに、俺の脳には認識されるから不思議だ。
変なのは語尾だけだから、意味は通じる。神様の語尾がおかしくて、「言語パック」が無理矢理、俺のわかる言葉に訳している感じなのだろう。
「神様、少しお話しさせて頂いても宜しいですか?」
「おお、あんたはんは、この温泉を造りし者、発言を許しなんす」
「ありがとうございます。ではまずお願いがございます」
「あんたはん、あちきにお願いするという事が、どういう事かわかっているんどすか」
「ええ、重々承知の上です」
「わかりんした。奏上することを許しんす。言ってみりゃれ」
どこで習ったんだ? 語尾がバラバラでまとまりが無い。全体的に標準語なんだけど、語尾だけ俺に馴染みのない訛りに聞こえる。
確か神様は、人間と話が通じないのだったか。人間への神託は、格の低い眷属に任せていると聞いた。直接話せるだけでも奇跡なのだが、有り難みが半減だな。だからと言って、「なんか変ですよ」と注意を喚起するわけにもいかず、俺は話を進める。
「我が温泉での飲食は、ひとり1日に1品までと決まりがあります。神様もそうして頂けるでしょうか?」
「あちきは、よろしゅうおす。そもそも、あちきは『ひとり』と言える存在ではござんせんが、秩序は大事どす。あまんじて受け入れるでありんす」
やった、条件を飲んでくれた。チョロいじゃん。さっきは、お願いって言っただけで釘を刺してきたから、てっきり人が作った決まりなど関係無いと、怒られるかと思ったよ。
「ただ、あちき以外の神への貢ぎ物は、持ち帰るでありんす」
「どれくらいの数でしょうか?」
「あるだけどす。全ての神の数だけ揃えろとは申しまへんえ」
…ダメじゃん。これでも譲歩してるんだぞ的な言い方だぞ? 感覚の食い違いが激し過ぎる。一度条件を飲んで、断り辛い状況を作るところが、ドSの交渉テクニックだ。意図せずやっているところが、生まれついての強者という感じか。
だが負けられん。
「全てを捧げたら、我々の楽しみが無くなってしまいます。どうか楽しみを奪うのは、勘弁願えないでしょうか?」
「奪うとは、けったいな物言いでありんすな。この世に生を受ける以上の楽しみがあるんどすか」
ただ生きてるだけなんて何が楽しいんだよ。そりゃ「生」は、金で買えない尊いものだけど、それだけあれば良いというものでも無いだろう。本当、感覚が違い過ぎて話にならないよ。頼むから帰ってくれよ。
「尊きお方、彼らにも生だけでなく衣食住が必要だよ。欲もあるし、少しくらい娯楽があっても良いと思うよ」
「あちきへの供物以上に、重要なものがあると言うでありんすか? あちきに我慢しろと?」
精霊さんがとりなしてくれたが、逆に場の空気が一気に冷える。顔は変わらずニコニコしているが、発する威圧が急速に増えたのが俺にもわかった。最後の手がダメなら、最悪の結果になりそうだ。
「神様、この箱の中に、昨日の温泉と飲食物のレシピが入っています。これを捧げますので、神界にてお役立て下さい。我々には、尊きお方を持て成すことは難しいと存じます。何卒、お慈悲をお願いします」
「あちきを愚弄するかえ」
神の身体から、更に神気が溢れ出す。ただ俺には、一陣の風が吹いたようにしか感じない。
だが精霊さんは、このままではまずいと思ったようだ。神と俺の間に割り込み、神気を抑え込んでいる。
「尊きお方、存在の格が違うものと、これ以上、共に過ごすのは無理があるよ。過去、何十億年もこんなことは無かったはず、何故、今になってこの様な振る舞いをするんだい?」
「黙らっしゃい! 何十億年も探した、あちきの場所を諦めてなるものかえ」
「では神様、この箱庭もお返し致します。神界にて先程の温泉を展開すれば、この場所はあなただけの物です」
威圧が少し緩んだようだ。
「子供たちもかえ」
「いけないよ! 子供たちは神界では生きられない。死んだら魂になるだけさ」
ボンッ
という音はしないが、そんな感じで精霊さんが破裂した。神が何かしたようだ。俺は一瞬の出来事に呆然としたが、次の瞬間には我を忘れて叫んでいた。
「精霊さん、精霊さああん!」
キョロキョロと辺りを見回すが、勿論精霊さんの姿は無い。
「てめえ、何をした。精霊さんは悪くないだろう。許さないぞ。許さないからなー!」
「五月蝿いハエを消したまで、何を騒ぐ必要がありんすか? それに許す許さないは格上の理。あんたはんが言うべきことではござんせん」
ちくしょー! 精霊さんをハエ呼ばわりしやがって、ムカつく奴だ。しかも子供たちにも、目を付けていたとは思わなかったぜ。これはますます排除しないとヤバいぞ。俺はどす黒い感情をあらわにして神を睨む。
だが精霊さんでさえ一瞬だ。俺の攻撃なんかどうせ効かないんだろう。ちくしょー! 一発くらい殴らせろ!
俺は無我夢中で飛び出した。飛翔魔法で神様に向かって一直線だ。神自体は霊体だろう。だが今は依り代に入っている。依り代は物質の可能性が高い。
精霊さんの仇だ。絶対、一発殴ってやる。神に届く前に消滅させられたら、それまでだが関係ない。
俺は自分を弾丸だとイメージして、頭から神に突っ込んだ。魔力ではない何かが、身体から溢れる感覚があったが、考えている暇はない。とにかく殴りたい一心で飛んだ。
ドウッ
衝撃が頭に響く。神がグエッと、えずくのが聞こえた。胃なんか無いだろ! 言いながら俺は、神の腰に手を回して掴み地面に向かって方向を変えた。
ドオオンッ
地面に神と2人でバンジーだ。神は背中を打ち、俺は首に衝撃を受ける。2人共によろよろと起き上がる。あれ? 効いてる?
「な、なぜ、あちきの攻撃が効かないんどす」
「はぁ、はぁ、さあな。神の加護でもあるんじゃないか?」
俺は、ふらふらしながらも神に近づき、大きく一歩を踏み出すと共に、ありったけの力を込めて、正拳突きをお見舞いしてやった。俺の拳が、神の顔面に見事にぶち当たり、鼻が潰れる感触が伝わってくる。
「精霊さんの分だ。思い知ったか!」
死ぬまでに、一度は言ってみたいと思っていたセリフを口にして、俺は満足気に笑う。
「ぬっ! 小癪なり狼藉者」
神がよろよろと立ち上がりながらそう叫ぶ。
今度は武家言葉かよ。と思っていると神が膝から崩れ落ちた。なんだ? と思ったら、神が依り代を脱いだらしい。地面から1mのところに、うっすらと輝く神がいた。
ちくしょー! アストラル体(霊体)に戻りやがった。これでもう物理攻撃は通じない。一発殴れただけでも御の字だが、どうせ死ぬなら玉砕してやると、神に向かって走り出す。
ガッ
あれ? 殴れる。俺の渾身の右ストレートが、神の顔を再度歪める。神はよろめきながらも俺を睨み付けた。
「な、なんと非常識な!」
唖然としている神に、また一発、俺のフックが炸裂する。神も混乱しているのか殴り返してきた。神気が乗ったパンチは中々にこたえる。
俺は、使い魔たちみたいに頑丈じゃ無いんだぞ。ちったあ手加減しろよ。神の慈悲はどこ行ったんだよ。身体強化の魔法を掛けたところで、普通の人間だから大したこと無いしハンデあり過ぎだろ!
神との戦闘で、まさか殴り合いになるとは思わなかったが、ヤバいなこりゃ、じわじわなぶり殺しにされるぞ。精霊さんみたいに、一瞬で消滅させられた方が、楽かもしれないな。
神は意外とテクニシャンで、お互い足を止めての近接戦なのに、緩急を付けた鋭いパンチを繰り出してくる。殴られては倒れ、立ち上がっては殴る。
俺達は、ガッ、ゴッと鈍い音を立てながら、お互いの顔に拳を打ち込んだ。見る見るうちに、神の顔も俺の顔も腫れ上がっていく。
「はぁ、はぁ、なぜ、霊体のあちきを殴れるんどす」
ガッ
「ぜぃ、ぜぃ、知らん。神にわからないことが、普通の人間にわかる訳ないだろう」
ゴッ
「はぁ、はぁ、普通やて? また愚弄しんすか」
ガッ
「ぜぃ、ぜぃ、普通だ。あんたは、なぜこの場所にこだわる」
ゴッ
「はぁ、はぁ、あちきが好きなのは、この場所の雰囲気でありんす。心地良い気の流れどす。それに酒やプリンは神界で配れば、喜ぶ神が多いどす。
はぁ、はぁ、あんたはんが作らないなら、他の者を召して作らせるまで、邪魔はさせまへんえ」
ガッ
「ぜぃ、ぜぃ、雰囲気が気に入ったのか、なら残念だったな。すぐに無くなるさ。この場所の雰囲気は俺達が作っている。俺と仲間、魔物や精霊、子供たち、全てが信頼しあって自主的にやっているから、出来ている雰囲気だ。
ぜぃ、ぜぃ、あんたの存在は、それを邪魔している。俺を殺せば、同時に今の雰囲気は崩れる。殺さなくてもこのままなら、すぐに雰囲気は壊れるだろう。
ざまあみろ! ビールの無い生活なんざ、糞喰らえだ!」
ゴッ
「ぬっ! 子供たちだけでなく、あんたはんも、あの雰囲気を作る部品どすか」
ガッ
「ぜぃ、ぜぃ、俺達はパーツでは無いし、雰囲気を作るには自主性が大事だ。命令や脅されてやっても意味は無い! てめえの傲慢さが、てめえの好きな場所を壊していることを思い知れ!」
俺は、神にパンチを入れようとして、足がもつれた。倒れて地面に大の字になる。立ち上がろうとするが足に力が入らない。
ああ、ここまでか。もう動けん。なんか思っていた勝負とは違ったが、善戦したよ俺。マリアあとは頼むぞ。
神が冷めた目で、俺を見下ろしている。神の顔が腫れ上がっているから、そう見えるのかもしれない。
たかがプリンのために、馬鹿なことをやっているものだ。ふいに俺は、可笑しさが込み上げてきた。
「はぁ、はぁ、なぜ、笑うんどすか? あんたはんはこれから、神の鉄槌を受ける身でありんすよ」
「ぜぃ、ぜぃ、人間だからだ。死の淵に立って、生を感じているのさ」
兄ちゃーん、子供たちの声が微かに聞こえた。
いよいよ、走馬灯が見えてきたようだな。子供たちがワラワラと、俺に駆け寄ってくるのが見える。
子供たちが俺を囲んで泣き始めた。俺の葬式の風景かなぁ。子供たち、泣かなくても大丈夫だ。マリアや使い魔が、きっと幸せにしてくれる。最後にこんな光景が見れて、俺は幸せだ。
アロンとトンキたち3人組が、神に向かって手を広げ通せんぼしている。「意地悪ばばあ、あっち行け!」と、叫んでいる子供がいる。神に向かって石を投げている子供がいる。「お兄ちゃん、死なないで」「兄ちゃんがいないと俺達、また飢えちゃうよ」子供が泣いている。「よぶちゃん、しっかりなさい」
そんなに心配するなよマリア、殴られたくらいで死なないよ。俺は思いを伝えようとするが、口がモゴモゴと動くばかりで言葉にならない。
ハルナが竹箒で、神に打ち掛かるが、スカッとすり抜けるばかりだ。エルゴの大刀、アロロクの忍者刀、ヘーデの雷撃、五郎の爪、ルミアのブレス、隊長の噛みつき、グリさんの引っ掻き、攻撃は全部素通りしているのに、何度も何度も同じことを繰り返している。
もういいよ。所詮、神には敵わない。俺の頬をスーッと涙が流れる。
神は、ずっと俺を見下ろしたままだ。
ブワッと威圧感が膨らみ、周りのみんながバタバタと倒れていく。子供たち、マリア、魔物たち、使い魔たちの順で、全てが倒れてしまった。
ちくしょぉおお!
俺はよろよろと起き上がり、バリアを張った。神の神気はどんどん膨らんでいくが、バリアの中はどうやら大丈夫みたいだ。みんな多分、気絶しているだけだろう。しかし箱庭は閉鎖したのに、どうやって入ってきたんだ? しょうもないことを考えていたら、神が肩で息をしながら話だした。
「はぁ、はぁ、そろそろ終わりにするでありんす。あちきに手を上げたことを後悔しながら、みんな仲良く、裁きを受けるが良いどす」
最後通告かよ。ちくしょー! どうしたら良いんだ。このままじゃ、子供たちまで殺されちまう。元の世界でも理不尽に晒され、こっちでも理不尽な暴力に抗えない。なんてちっぽけな存在なんだよ、俺は!
神気が更に膨れる。俺はバリアを維持しながら、神に向かって聖魔法を打ち込む。太いビームの様な光りの束が、神に当たるが、神の周りの光の幕に吸収されてしまう。
俺は、神の力が暴走することに掛けた。ありったけの魔力を込めて、聖魔法を放ち続ける。神の神気が飽和して、暴発するとはとても思えないが、もう手が無い。
俺の背中を冷たい汗が流れる。
カッ
突然、天上から光の塊が降ってきて、空間がホワイトアウトする。俺は、とっさに腕で目を隠していた。
なんだ? 神界からの支援攻撃か? そのわりに俺は生きているな? 神が爆散したようには見えなかったが、威圧も消えているぞ。どういうことだ?
光りは瞬時に消え、辺りに静けさが漂う。
俺は恐る恐る、目を開けた。
地面には、マリアや子供たちが倒れている。「マリア、大丈夫か?」と揺すってみるが反応は無い。ただ、しっかりとした温もりはあるので、死んではいないようだ。
辺りを見回すと、大地は見慣れた箱庭だが、空が違っている。快晴の空に雲が漂い、この箱庭と同じくらいの大きな大地(岩塊)が、空にいくつも浮いているのだ。明らかにさっきと違う風景だ。一陣の風が俺の髪を揺らす。
一際大きな大地が近くにあり、これまた大きな神殿の様な建物が見える。
リィィィンゴォォォォン、リィィィンゴォォォォン
先程から、鐘の音のような、ゴスペルの合唱のような、なんとも厳かなメロディが、微かに頭の中に響き渡っている。耳では無く脳内に直接だ。
俺達は死んでしまったのだろうか。神に逆らったのに天国に来たのかな。俺は神と戦っていたときと、あまりにも違う雰囲気に圧倒され、雑多な思いに心が潰れそうになる。
「ここは神界さ。呼人」
急に後ろから声を掛けられて、ビクッとするが、聞き慣れた口調に嬉しさが湧き上がる。
「精霊さん、生きていたのか」
「精霊は、神が望む限り死なないよ。心配掛けたようだね」
「ああ心配したよ。俺はてっきり、神に殺されたのかと思って、絶対に仇を取ってやるー。って頑張ったんだが、死んでしまったようだな。ははは」
「あははは、これがマリアの言っていた。突っ込み所が満載ってやつかな。いろいろ言いたいことはあるけど、先にこれだけは言っておくよ。呼人は死んではいないよ」
「死んだから、神界に送られたんじゃないのか?」
「いや、君も他のみんなも生きているよ。ただ他のみんなは、神界では生きられないから、仮死状態だけどね。後で元の次元に返してあげるから、安心して欲しい」
「そうか。ありがとう。精霊さんが助けてくれたのか?」
「助けたのは、こちらの神々だよ」
精霊さんの後ろに、スッと神が現れる。2人とも凄い美人さんだ。アルカイックスマイルがゾクゾクするほど魅惑的なのが、存在の違いを際立たせている。
背中に白い鳥の羽は生えていないんだな。うっすら輝いている以外は、人間と変わらないぞ。
あっ、2人じゃなくて2柱か。面倒だから2人でいいや。
「こちらのお二方は、慈愛の神と、親愛の神だよ。お二方が、人間界に顕現したことで、ENMAシステムが作動して、箱庭ごと神界に飛ばされたというわけさ」
「助けて頂き、ありがとうございます」
俺は、2人に丁寧に頭を下げる。身体の治癒もしてくれたそうだ。どうりで死にかけだった身体が動けるわけだ。
「神には感謝を伝えたよ。お二方は人間とはしゃべれない。僕が通訳をするからね。お二方とも、日頃の呼人の行いに感心しているよ」
「孤児を救った件かな? あれはマリアだけどな」
「まあ、良いさ」
「主神はどうしたんだ?」
「あのお方は大丈夫だよ。ピンピンしている。今は、他の神々から、お小言を頂いている最中さ」
それから俺は、なぜ神を殴れたのか? なぜ俺だけ神界でも平気なのか? を聞いてみたが、神々にもわからないと言われた。
今後のことを聞いたが、俺達に神罰は下らないそうだ。主神は、ENMAシステムが作動したことで、下界に降りることは禁止されるらしい。半ば監禁状態で、後始末をさせられているとか。
今回の事件のお詫びにと神様から、数枚の葉っぱがついた「枝」をもらった。精霊に渡して、箱庭の中心に植えると世界樹となるらしい。
ん? 世界樹? ゴールじゃないか。まあ、今は置いておこう。
こうして「神プリン事件」は、いったん幕が降りた。馬鹿馬鹿しい1日だったが、死なずに済んで良かった。
箱庭ごと、神界から下界に転送してもらい。箱庭は、いつもの景色が戻ってきた。もう夕方だ。曇り空が大分暗くなっている。
精霊さんに、みんなの仮死状態も解いてもらい。「半日も寝ていれば元に戻るよ」と言う精霊さんの言葉に、ホッとした。全員をハウスに運ぶのは無理なので、このまま大地に寝かしておく。箱庭に寒気があるわけではないが、夜は寒くなるかもしれないなと思った。しかし精霊さんが、周辺の気温を上げてくれるらしい。獣などの危険への対応も任せて良いようだ。
うっすらと、柑橘類の匂いが漂う農園で寝るのは、天然アロマテラピーのようで、意外と気持ちいいかもしれない。子供たちに、変なトラウマが残らなければ良いと願うばかりだ。
俺は、精霊さんと2人で食事を取った。今日のメニューは、俺の特製ハンバーグだ。
「最近は、いつも賑やかな食事だったから、こんなに静かな夕食は久しぶりだよ」
「そうかい、みんな早く起きると良いね」
「精霊さん、そう言えば、班長たちはどうしたんだ」
「ちょっと神気にあてられてね。森で休んでいるよ。明日には元気になると思うよ」
「そうか、済まないことをしたな。俺が、神様に喧嘩を売ったもんだから、みんなに迷惑を掛けてしまった。俺は責任者失格だ。みんなを生かす方法を取るべきだった」
「僕もみんなも自主的にやったことさ。大事なんだろう? 自主性が」
「映像でも見てたのか? 恥ずかしいなぁ」
「それにあの場合、仕方がなかったと思うよ。僕でも止められなかったしね」
それから精霊さん自身が、知り得たことを「しかし、このハンバーグという料理は、美味しいねぇ」と、口をモグモグさせながら語ってくれた。
精霊さんの話では、精霊さんが爆発したあと、精霊さんは、箱庭の外に追い出されたらしく、外ではマリアたちが、心配して騒いでいたと言うことだ。俺の要求が、やはり神には受け入れられなかったことをマリアに告げて、早く逃げるように言ったらしい。
精霊さんは、そのまま神界に行ったそうだ。神界で他の神々に、なるべく被害が少なくなるように、助力を請い。映像を見ながら、俺を心配していたらしい。TVの魔法は、戦闘が始まると自動的に撮影される。だが神界では戦闘に限らず、見たい映像をいつでも見れるのだとか。映像は神々の言葉に同時通訳されるらしい。
なんか神々とこの大陸の関係って、街作りのシミュレーションゲームみたいだな。と俺は思った。
精霊さんは映像で、俺の他にマリアのことも見守っていたらしく、無事に逃げられるか確認していたと言っていた。だがマリアたちは逃げるどころか、班長たちが亜空間にパス無しで入れることを利用して、中から扉を開けて箱庭に侵入したのだとか。
精霊さんには、「君にしろ、マリアにしろ無茶し過ぎだよ」と怒られてしまった。
「いくら頑張ったって、仇なんか取れる訳ないんだよ。相手は神なんだから。まったく、脅されたら、退くと思ったのに、神相手に喧嘩を売るとは、どういうことなんだい。肝が冷える思いだったよ」
グチグチとお小言を言われたが、気分は悪くない。みんながみんな、お互いに心配した結果だから、仕方がない。全員生きて帰れたことだし、悔いも無い。
神界の神々も、俺と主神のやり取りを、手に汗を握って観戦していたらしい。娯楽の少ない神々にとっては、演劇を見る様な感覚なのだとか。
ただの観客と化した神々が、主神の戦い振りに固唾を飲む中、始まったのは殴り合いであり、まさかの泥仕合に神界全体が、狂喜乱舞の大騒ぎになったらしい。
魔法での派手な戦闘ではない。殴り合いという原始的な戦いが、逆に神々の目には新鮮に映ったようだ。
わあああああ!
感泣する神、拳を振り上げる神、歌い出す神、興奮する神、そして主神が久方ぶりに、感情を顕にした様に、神界が感喜に包まれた。と精霊さんが珍しく興奮して語っていた。「こんな事件は初めてだよ」と、興奮が抑え切れない様子だ。
歓喜に湧く神界から、神気が満ち溢れ、俺に加護の波が流れそうになったらしく、とても俺ひとりでは受けきれないと思った神々が、俺の代わりに箱庭に加護の波を流したのだそうだ。
その波に乗って、今回の騒動を憂いていた、慈愛の神と親愛の神が下界へと降りてきて、急激なエネルギー変動が起こり、ENMAシステムが作動したのだとか。
今、箱庭はものすごい神気に満ちていて、精霊さんが抑え込んでいる状態らしく、見た目は変わっていないが、ものすごくパワーアップしているのだとか。班長たちもその影響で寝込んでいるとのこと。今は農閑期だし、ゆっくり休んでくれ。
それから俺は、ひとりで温泉に入った。昨日からの鬱憤が、まるで換気をしたように失せている。温泉ハウスは、屋根と壁の1面が透明だ。晴々とした気分で、夜空を眺めながら入る温泉は心地良い。
ひとりなので、ビールを持ち込んで飲んでいる。至福の時に乾杯だ。肝機能がやられるほど、飲みたい気分だけど、マリアたちが起きるまではお預けだな。
『作者のつぶやき:タイトルの「かんき」は、変換ミスではありません。初めは神様の勘気と、最後に歓喜する事を掛けていたのですが、どうせならトコトン行こうと、柑橘類の「かんき」とか「かんき」を含む漢字を、あちこちにちりばめました。そんなくだらない理由で、本文にいつも使わない様な言葉を、無理矢理入れ込んだので、違和感があるかもしれません。そんなわけでいつも以上に、文が乱れているのところが、本末転倒な心意気です。
神様の言葉もいまいちでした。キャラが固まらない感じで、違和感満載ですが、このままいこうと思います。外国人が話す日本語に、違和感があるように、神様が人間の言葉をしゃべると、変に聞こえるという設定です。
喧嘩の原因もひどいこじつけで、書いていて、これは無いなと笑ってしまいました。雨降って地固まるじゃないですけど、何かを乗り越えて、成長する感じが欲しかったのですが、ジワジワ盛り上がって、ストーンと落ちる爽快感は出せませんでした。
善良な人を殺したり、女性に乱暴したりするクズをでっち上げて、ザマァすれば良いのかもしれませんが、作者自身、あまり胸くそ悪いのは、好きになれないので、中途半端になってしまい困りものです。
ジワジワストーンと爽快感。言うは易しで中々難しいです。また機会を作って試してみるつもりなので、『あっ、これだ』と思ったら、見なかったことにしましょうw』




