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第三十四話 対策会議

 そんな感じで、久しぶりに理不尽(りふじん)(いきどお)りを感じながら、俺達は温泉ハウスを出てきた。

 

 

 今は子供ハウスの一室に集まっている。俺とマリア(おっさん)、使い魔たち、クロールミアだ。

 

「しかし神とは、ああも傲慢(ごうまん)じゃったとはのう」

「本当、腹が立つわぁ。子供の楽しみを(うば)うなんて許せない」

 

 マリア(おっさん)とルミアの言葉に、一同が(うなず)いている。

 傲慢かどうかはわからない。今日は話していないからだ。意外と話せば気さくなのかもしれない。だが精霊さんが、神はこの世の物は全て、自分への(みつ)ぎ物と思っていると言っていたから、それは無いだろう。

 しかし神様は楽しそうだったな。他人に迷惑掛けている自覚がないのだろう。悪意が無いことは(うかが)えた。

 そんな人間の理屈が通じない相手と、どう交渉するか頭の痛い話だ。何せ下手したら、一瞬で消される可能性があるのだ。他の仲間には頼めない。

 

「俺は今日だけじゃなく、明日も来るような気がするよ」

「よぶちゃん、神様だって、そんなに暇ではないんじゃないかしらぁ」

「マリア様、最悪の事態(じたい)想定(そうてい)して、対策を取っておいた方が良いかと思います」

「エルゴちゃん、最悪って、たかがプリンじゃない。もし明日も同じ事をするなら、ひとこと注意すれば良いのではないかしら。意外と話せば、わかってもらえるかもしれないわ。今日の分も返してくれるかもぉ」

 

 マリア(おっさん)は相変わらず呑気だな。下手に注意したら消されるんだぞ。たかがビールだが、他人にくれてやるために苦労して作った訳では無い。俺達の(いや)しタイムを邪魔される(いわ)れも無い。その辺はハッキリさせないと今後も面倒だ。

 絶対強者に、俺達の存在が(はずかし)められていることを知らしめ、権利を主張し、俺達の尊厳(そんげん)を勝ち取らないといけないのだ。

 

 決してプリンやビールのためではないんだから!

 

 

 俺達は神様に、酒やフルーツ牛乳を取られない方法について意見を出しあった。

 

 まず第一段階は、正直に話して人間のルールを理解してもらうことだ。俺達は温泉の後のビールや牛乳は、ひとり1日1本と決めている。これを神様や精霊さんに、わかってもらえれば問題は無い。(ごう)に入れば(ごう)(したが)えだ。

 

 俺達は大所帯(おおじょたい)なので、酒も牛乳もプリンも、生産が追い付かない。酒は原料を増産すれば、なんとでもなるが牛乳と卵はそうはいかない。牛さんや鶏さんから採れる量は決まっている。毎日の消費量を考えると、フルーツ牛乳やプリンなどの嗜好品(しこうひん)に回せる量は、今以上増やせないのだ。

 

 この大陸では、水魔法で水がジャバジャバ出る。鉄などもジャバジャバでは無いが魔法で出る。牛乳や卵も出るのでは? と試してみたが出なかった。理屈的には上手くいきそうなのだが、何かが足りないようだ。組成が複雑過ぎるのかもしれない。

 ゴーレム工芸も試してみたが反応しなかった。ゴーレム魔法陣は無機物(むきぶつ)だけでなく、スライムの体組織や木にも反応したので、大丈夫かと思ったがダメだった。

 

 話を戻そう、第一段階が受け入れられないと、第二段階は全部取られないようにすることだ。神様へのお(そな)え物として、酒を1本ずつ、フルーツ牛乳を10本、プリン10個を冷蔵庫に入れて、他は子供ハウスに隠すか、事前に飲んでしまう。事前にと言っても、神様がいつ来るかわからないのが難点だ。

 正直、ビールは温泉後の楽しみなので、事前に飲んでしまうと、楽しみが半減なのだが飲めないよりはマシだ。

 

 しかし、これが上手くいかないと後は厳しい。

 まず取られるくらいなら、作らないという意見だ。神様も無いものは奪えない。だが俺達もビールが飲めないのだ。これでは、今までの苦労が台無(だいな)しだ。それに神様の勘気(かんき)をこうむる確率も高い。なぜ作らないのだと怒られるのは明らかだ。

 でも俺達は神様の奴隷じゃないので、自分が飲めないものを作るような、無駄なことはしたくないというのが本音だ。

 

 次は温泉ハウスを(たた)んで、プリンなどのレシピを付けて神様に渡すという意見だ。つまり神界にハウスを建てて、自分たちでビールやプリンを作って楽しんでくれ、と言う訳だ。この案は、あっちがどう出てくるかわからない恐さがある。神はプリンなど作らんと怒られるかもしれない。

 しかしこれが上手くいけば、神様からの干渉(かんしょう)を排除出来るので万々歳だ。

 

 あと俺だけの思いが一つある。神様と戦うことだ。ビールくらいで馬鹿馬鹿しいと思うかもしれないが、勘気をこうむって消されるくらいなら戦うことを選ぶ。一応覚悟はしておこうと思う。

 

 マニュアル情報では、神はどんな攻撃も効かない、絶対的存在らしい。だが前に精霊さんと邪神の欠片の話をした時に、邪神の欠片は、太古の神々の戦争に敗れた神の一柱が、この世を呪いながら、爆散(ばくさん)したものの1つだと聞いている。完全に(めっ)することは出来ないが、爆散させることは出来るということだ。

 神と言えば聖魔法だろう。聖魔法を暴発させれば、爆散するかもしれない。いざとなったら殺るしかない。

 

 そんな物騒(ぶっそう)なことを考えていたら、壁から少年が生えてきた。精霊さんが壁をすり抜けてやってきたのだ。

 

「こんばんは、呼人(よぶと)

「こんばんは、精霊さん。聞きたいことがあったから、丁度(ちょうど)良かった」

「やはり問題があったのかい? 何か別れがよそよそしいと思ったから、あのお方を送った後に寄ってみたんだよ」

 

 俺は精霊さんに事情(じしょう)を話した。精霊さんの感覚だと、たかがビールくらい我慢すれば良いじゃないか。と言われるかもしれないが話をしないと始まらない。

 

「そうだったのかい。それは済まないことをしたね。これは返そう」

 

 精霊さんが収納庫からフルーツ牛乳を10本出す。

 

「いや、これは森のお土産に持って帰ってくれ。精霊たちには世話になっている。せめてものお礼だ」

「マリア、呼人はこう言っているけど良いのかい?」

「ええ大丈夫よ。1日なら子供たちも我慢してくれるわ。遠慮(えんりょ)せずに持っていってちょうだい」

「そうかい。ありがとう」

「精霊さん、今後はひとり1本に協力してくれるか? 足りなければビールや料理でもてなすよ」

「僕は大丈夫だよ。それと森の精霊も温泉に来ても良いかい? 10人位の単位で来るから、フルーツ牛乳は1本あれば十分だから」

「ああ、大歓迎さ」

 

 俺とマリア(おっさん)と精霊さんは、「俺達の友情は不滅(ふめつ)だ」と言わんばかりに握手を交わした。分かり合えた瞬間が嬉しかったからだ。他の仲間もウンウンと(うなず)いている。神様も正直に話せば大丈夫なのかな?

 

「ほらぁ、よぶちゃんは心配性なのよ。神様だって話せばわかってくれるわぁ」

「そうだなマリア。心配し過ぎたな。あははは」

「いや、呼人の心配は正解かもしれないよ」

「嫌だ、精霊ちゃん。(おど)かさないでよぅ」

 

 精霊さんは、さっき神様を送った後に神界で(うわさ)を、いろいろと聞いてきたらしい。それによると神様は、たまたま俺達の温泉のことを知り、温泉やビールにひどく感心していたらしく、かなりご執心(しゅうしん)だということだ。

 今まで主神が、こんなに感情を(あらわ)にしたことが無いので、神界の他の神々も今後何が起こるか予測できず、楽しんでいる神もいれば、(うれ)いている神もいるのだとか。

 

「僕も、あのお方の今日のような姿は見たことが無くてね。喜ぶ顔が嬉しくて、君たちへの配慮(はいりょ)が足りていなかったようだね。済まなかった」

「精霊ちゃんが悪い訳ではないわ。謝らなくても大丈夫よぅ」

「そうだぞ、精霊さん。それで神様は明日からも温泉に来るかな?」

「ありがとう。呼人、マリア。それと温泉には間違いなく来ると思うよ」

「うわー、迷惑な話だわぁ」

「神は、何十億年も生きているからね。たまに刺激が欲しくなるのさ」

「毎日来るつもりじゃ無いだろうなぁ」

「すぐに()きるさ」

「否定しないのかよ! それでどれくらいで飽きるんだ」

「1000年もしたら飽きると思うよ。ああ、でもその前にENMAが働くから、100年もしたら来れなくなるんじゃないかな?」

 

 ENMAってなんだ? 閻魔様(えんまさま)かな? 何にしても100年経ったら俺達は死んでるから、そんなに我慢出来ないぞ。

 

 (ちな)みにENMAとは、世界間のバランスを(たも)つシステムなのだとか。次元の違う世界間で、大きなエネルギーの増減があると、バランスが崩れて、下手すると両方の世界が崩壊(ほうかい)するらしく、世界間のエネルギーの移動を取り()まっているそうだ。難しくて良くわからないけど、大きな力を持つ神が、頻繁(ひんぱん)に下界に降りると、エネルギーの変動が起きてまずいということだ。ENMAが働くと、神であろうと強制的に元の神界に戻されるらしい。

 

「精霊さん、神界に温泉は無いのか? 箱庭があるなら同じ環境は整えられるはずだよな」

勿論(もちろん)あるさ。ここの温泉より広いし、泉質(せんしつ)も選び放題(ほうだい)だよ」

「じゃあ、お酒にご執心なのかしらぁ」

「マリア、それがわからないんだよ。神界にも神酒がある。それはそれは美味しいお酒さ。僕も他の神々も、何があのお方を()き付けているのか、まったくわからないんだ」

「精霊さん、さっきも話したように、俺達はビールなんかを、全部持っていかれると困るんだ。それで俺達が出来る対策を考えたのだけど、アドバイスをくれないか?」

 

 精霊さんの話では、ひとり1日1本は、まず受け入れられないらしい。目の前にあるものを我慢するという考え方は、主神には無いと断言(だんげん)していた。

 それに主神が、人間に配慮(はいりょ)することなど、今まで無かったらしい。神が人を助け人を教え導くなど、人が勝手に作った妄想だと精霊さんは言う。

 

 主神の仕事は、この世界を(ぎょ)すること。世界とは銀河よりずっとずっと大きい、この次元そのものだそうだ。神にとって銀河単位がひとつの生物であり、星など人間で言うところの、細胞のひとつに過ぎないのだとか。そこに住む人間など、顕微鏡を覗いて楽しむ微生物程度であり、それほど神と人間には「格」の違いがあると話てくれた。

 

 とは言え、ペット感覚で、神が気まぐれに人間にちょっかいをかけるのも事実であり、意外と人間好きな神様もいるらしい。

 

 うーん、銀河という生物の細胞に住む人間という微生物を、気まぐれに()でる?

 

 良くわからん。しかしマクロの世界のことを、ミクロの住人である俺に説明するのは、難しいのだろうな。ちぐはぐな説明だが、俺に伝えるための語彙(ごい)が無いのかもしれないし、そう単純でも無いのだろう。

 

「微生物ってひどいわぁ。でも精霊ちゃんに、顕微鏡の知識があるところが凄いわねぇ」

「これでも控えめに言っているつもりだよ。それと僕は長く生きているからね。君達の世界のこともいろいろ知っているのさ」

「しかし神とは、人にわかる範囲の言葉では言い表せないって感じか。そんな格の違う存在が、ヒョイヒョイやってくるなよなぁ。迷惑この上ない存在にしか見えないよ」

 

 主神は今まで人間界に、こんなに長く顕現(けんげん)することなど無かったそうだ。お(そな)え物も精霊が集めて、神に届けていたので、神が直接出向いて全部持ち去るなど無かった。

 そして、この場所への執心ぶりも異常なのだとか。()(しろ)に存在レベルを落としてまで収まって、温泉に入りにくるなど、前代未聞(ぜんだいみもん)の出来事だと言う。神界の神々も精霊さん達も異例づくしで困っているそうだ。

 

 それ(ゆえ)に、精霊さんが思っている様な行動をしないかもしれない。あっさりと要求が通る可能性もあるそうだ。

 神様自身はご機嫌(きげん)なので、人間が話し掛けても大丈夫だと思うが、意見するとどうなるかわからないとのこと。

 

 正に、神のみぞ知るという感じだな。

 

「意見したらダメとか、交渉にならないじゃないか」

「そうだね。そもそも、人間に交渉できるような存在では無いしね」

「そんなの横暴(おうぼう)だわぁ」

「マリア、そうは言っても仕方がないんだよ。例えば人間が、アリを知らずに()み潰しても、アリは文句を言えないのと同じさ。存在の格が違うんだよ」

 

 他の案も精霊さんに見てもらったが、上手くいく可能性が無い訳ではないが、勘気(かんき)をこうむる確率は高いと言われた。中でも隠すのが一番悪手らしい、すぐにバレるし、イッパツで勘気をこうむるだろうと精霊さんは言う。作らないと言うのも、怠惰(たいだ)の罪で懲罰対象(ちょうばつたいしょう)だとか。

 

 もうどうしようも無いじゃん。

 

 何せ、この世界を簡単に滅ぼすことが出来る存在だ。お願いという名の強要(きょうよう)や、(おど)しをされたら、(したが)わざるを()ないとのこと。

 

「ハァー、精霊さん、俺達は奴隷じゃないんだ。脅されて働くとかしたくないぞ。俺達大人はまだいいけど、子供には絶対そんなことさせたくない」

「そうよ、よぶちゃんの言う通りだわぁ」

「そうは言っても、主神を止められる者はいないよ。悪意があってやっていることでも無いし、(いさ)められないのさ。飽きるまで我慢するしか方法はないと思うよ」

「精霊ちゃん、悪意が無くても、他人に強要しちゃダメじゃないのぅ」

「マリア、神には強要という概念が無いのだよ。全てが善意(ぜんい)と思ってしまうのさ」

「……」

 

 そこまで感覚が違うのかと、みんな(あき)れている。

 

「わかった。俺がダメ元で交渉する」

「ダメ元って、ほとんど手が無いじゃない。ダメだったらどうするのよぅ」

「そうだぜ旦那、あたい達でも威圧だけで動けなくなったんだ。守り切れる自信がねぇぞ」

「いやマリアもハルナも聞いてくれ。交渉は俺ひとりで行く。子供ハウスに魔物と子供を入れて、箱庭の外に出す。温泉ハウスも(たた)んで、神様に献上(けんじょう)する。全ての案をぶつけて交渉する。箱庭には誰も入れないように、一時登録は削除する。交渉がダメでも、俺と箱庭が破壊されるだけで、済むかもしれない。そうなったら、みんなはマリアに従って、子供たちを頼む。俺は奴隷のように働かされるくらいなら、戦うことを選ぶ。異論は認めない。わかったな」

 

 場はシンと静まり返っている。誰もが言いたいことを言えずにいる感じだ。

 

「仕方がない。僕も一緒に行くよ」

「精霊さん、済まないが俺ひとりに任せてくれないか。もし外まで被害が及ぶ場合の対処をお願いしたいんだ」

「いや、呼人。僕の方が、あの方との付き合いは長いからね。何か助けになるかもしれないよ。対処は他の精霊でも出来るから、安心してくれて(かま)わない」

「ダメでし。(とう)たま。神に逆らったら邪神認定されるでし。精霊は駆逐(くちく)されるでし。この世界は、大きくバランスを(くず)すでし」

 

 いつの間にか、班長たちが集まっていた。

 

「我が子らよ。箱庭の責任者の呼人が決めたことだ。それを与えた僕が行かないわけにはいかないよ。わかってくれるかい」

「あたちは、父たまも呼人さんも好きでし。失いたく無いでし…」

「僕はね、今とても心地良いんだ。呼人を中心に、何か心地良い波動(はどう)が流れている。これを壊しちゃいけない気がするんだよ。僕がいなくなっても大丈夫だから、心配しないでおくれ」

 

 精霊さんの(いつく)しみが痛い。俺達が我慢すれば良い話なのだ。だがそんな選択肢は無い。俺達にも俺達の(ことわり)がある。容易には曲げられない。

 

 

 俺は決意を新たにした。

 

 

 

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