第三十一話 花火
魚を釣ったあとは、素潜りでウニやエビでも採ろうか? ということになった。
素潜りと言っても、空気魔法で小さなボンベを作って、口に咥えている。水中メガネは自作だ。ゴムは、ゴムの木から採った生ゴムから、ゴーレム工芸で作って、ガラスを嵌め込んだ。
ハルナとアロロクは、人魚に変身して泳いでいる。俺は、魔法でウォータージェット推進だ。
グリフォン隊長達は、優雅に海の上をプカプカ浮いて、休憩している。まるで水鳥のようだ。クロールミアは、人間形態になって一緒に潜るらしい。相変わらずフリフリの姫衣装だ。その服、水の抵抗あり過ぎだろ? スライム服は、水を吸わないから良いけどね。
俺とハルナとアロロクで、自分の担当の子供を、海の底まで引っ張って行く。精霊たちは、普通に付いてくる。
子供たちには、熊手を渡してウニを捕るように、指示してある。手袋着用で海の底を、這ってもらうつもりでいたが、海底の景色に圧倒されて、食材採取どころではない。
ハルナは竹箒で、アロロクは刀で、伊勢エビ捕りだ。俺は、シャコ貝を見つけたので、ナイフで掘り出している。ホタテも見つけた。
そのうち真珠養殖も良いかもしれないな、と思いつつ海産物を採取した。
浜辺に帰ると子供たちに囲まれた。また勝手に映像を撮っていたのだろう。みんな興奮している。浜辺に釣果を並べて披露する。
「お婆ちゃん、ただいまー。見て見てアロンが釣ったんだよ。ビビビってきて凄かった。釣り楽しいー!」
「TVで見ていたよ。頑張ったね。流石、わしの孫じゃ」
「ヘヘヘッ」
おばば様はアロンに優しい。アロンの頭を撫でながら褒めている。
「おで、頑張った」
「ヘーデ、変なの釣った」
「二人とも偉いわぁ」
マリアも親馬鹿だ。
おばば様に、ギガントゼブラフィッシュを見せたら、やはり驚かれた。「神の魚か?」「文献でしか見たことがない」「これで多くの者が救われる」だの言っていた。
「呼人殿、神の魚は、ギルドでは高価過ぎて買い取れまい。都までいかねば、買い手は付かぬぞ」
「おばば様は、この魚を薬にできるか?」
「昔の文献を見ながら、何とかなると思うが自信はないな」
「そうか。俺からおばば様に指名依頼だ。この魚を薬にしてくれ。失敗しても構わない。報酬は、出来た薬の半分だ。どうだ?」
「呼人殿は、わしのようなババにも、勉強の機会を与えてくれるか? ファーファファファ、愉快じゃわい。その依頼受けさせて頂こう」
「ありがとう、おばば様。ヘーデ、そういうことだ。構わないか?」
「ヘーデ、いらない」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
後々の話になるが、おばば様は、ギガントゼブラフィッシュや、その他、希少素材を使った薬の、研究論文を書き上げることとなる。作成可能な薬の種類、薬の効能など、そして本来は、秘密にするべき薬のレシピや、調合方法をまとめた書物だ。
この本は世界的に評価され、おばば様は世界一の薬師として、各国から称賛されることになる。
今の呼人達には、知る由もないことだが、ここに記しておく。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ずいぶん日も傾いてきた。だが海遠足は、まだまだこれからだ。俺は、美味しい料理が食べたいのだ。花より団子なのだ。
「エルゴ、サケは釣れたのか?」
「キングサーモンが入れ食いでした。すでに解体して、いつでも食べられる状態です。イクラも仕込んで時間経過させています。ウニも解体しましたし、子供たちが作った海苔も、乾燥して焙っておきました」
「私も子供たちと磯遊びのついでに、いろいろ食材をゲットしたわぁ」
「そうか、二人ともありがとう。何から何まで任せたようで済まないな」
マリアとエルゴは、サケ、ウニ、昆布、天草、海苔、ワカメなどを採取していた。海苔は抽出の魔法で、大量ゲットできたそうだ。
「いえいえ、どういたしまして。でも子供たちに指示を出してしまうと、あとは見ているだけだから、意外と暇だったわよぅ」
「子供と一緒に、採取しなかったのか?」
「最初はね。だけどウニを解体したり、海苔をみじん切りにしたりしていたら、エルゴちゃんが帰ってきて、仕事取られちゃったわぁ」
「まあ、遊びに来たのだから、暇なのは良いことじゃないか」
「そうね、あまりに暇だったから、天草を煮て寒天を作ったわぁ」
「ほう、乾かせばゼリーが作れるな。でかしたぞマリア」
「でしょう」
「俺は、乾かさないほうが、海のミネラルが豊富で好きだけど、磯臭いから好き嫌いがでるよな。ところてんは美味しいけど子供には早いだろうし、今日は使えないかな」
「そうね、試してダメなら、乾燥しても良いのではないかしらぁ」
「うーん、やってみるか」
大人達は、食材の話が尽きない。子供たちは、釣りの自慢話に花が咲いている。みんな1日たくさん遊んだ。そろそろお腹もすいているはずだ。
少し休んだら、夕食の準備をしようと言うことになって、俺は浜辺に座り、しばし休憩する。小さな女の子が近寄ってきた。
「お兄ちゃん、これ何だか分かる?」
海苔のシートを、両手で大事そうに持っている。
「なんだい? 黒い布かな?」
「これは海苔っていう、食べ物なのよ。マリア様に教わって、私が作ったの」
「へえ、お手伝いしたのか。偉いな」
頭を撫でてあげたら、海苔をちぎって食べさせてくれた。火で焙ってあるのでパリパリだ。磯の香りがほんのりとする、美味しい海苔を食べて、コンビニのおにぎりを思い出した俺は、微かに自嘲しながら、女の子にお礼を言った。
「マリア様は、何でも知っているのよ。私も勉強して、マリア様のようになりたいの」
「そうかい。勉強頑張るんだよ」
「うん、でもお兄ちゃんも、海苔を知らないようではダメよ。勉強しなさい」
周りの大人が一斉に笑い出す。年長組の女の子が焦った顔で飛んできて、「馬鹿!」と言いながら、女の子の頭を軽く叩く、女の子はキョトンとした顔で、周りをキョロキョロ見回していた。
なんで俺の周りには、お姉ちゃんぶる子供が多いんだ?
「よぶちゃん、勉強と自重が足りないみたいねぇ」
「マリア、お前ばっかり、良い子キャラでズルいぞ。どう見ても、マリアの方がヒールキャラだろ? 坊主頭で筋肉ムキムキのおっさ「何かしら?」」
最後まで言わせろー!
「呼人よ、精進せい」
「呼人、追試」
「旦那は、女心の勉強も足りてないしな」
「彼も同じだ」
「呼人、反省。シッシッシッ」
お前らなぁ! グリさんまでかよ。
「呼人様、私はわかっておりますよ」
「おでも」
「わははは、我も同じか。愉快だ」
お前達は、ニマニマすんな!
ちょっとしたやり取りだったが、子供たちにも、それぞれに夢があることがわかった。俺は、そんな夢を叶えてあげられたら、良いだろうなと、夕暮れの水平線を見ながら思った。
みんなも、同じような事を考えているのだろう。夕日に照らされた顔には、どこか決意のようなものが、感じられたひとときであった。
赤い夕日に照らされながら、俺達は夕食の準備に取り掛かった。
鍋用に野菜を切るもの、魚のアラや昆布を煮て、ダシを取るもの、サラダにドレッシングを掛けるもの、温野菜にマヨネーズを掛けるもの、漬物を切るもの、スプーンとフォークを並べるもの、みんなずいぶん慣れてきた様だ。ワーワーキャーキャーかしましい。
「じゃあ、そろそろ夕食にするぞー。この位置にみんな並べー」
「「「はーい!」」」
精霊班長に、土魔法で作ってもらった長いテーブルの上には、短冊形に切られた刺身が並んでいる。
照明に照らされた刺身は、どれも美味しそうだ。
前日に作った酢飯に、マグロ、ハマチ、タイ、ウニ、エビ、イカ、サケ、イクラ、きゅうり、具は盛りだくさんだ。
子供たちがテーブルの前に、どんぶりを持って列を作る。そのどんぶりに、マリア達が酢飯を盛り、使い魔達が刺身を盛り付け、海苔を揉み掛ける。そして仕上げに醤油を垂らすと、海鮮丼の出来上がりだ。
子供たちは、刺身が一品一品、ごはんの上に乗せられる度に、目をキラキラと輝かせている。エルゴが味噌仕立ての、あら汁をお椀によそって配って、準備は終了だ。
「「「いただきます!」」」
子供も魔物も精霊も、食べるのに一生懸命だ。相変わらずクロールミアが「むほー」だの、「酢飯とは奥が深いのう」だの、「このスープのダシは絶品じゃ」だの、と偉そうな寸評を挟んでくる。
大人組は、ビールで乾杯して、刺身や鍋をつついている。鍋は、子供に配ったアラ汁と同じもので野菜や魚がいっぱい入った味噌鍋だ。みんな楽しそうに、今日の出来事を語っている。
エルゴは、キングサーモンの他に、大きなクエを釣り上げたらしい。元の世界では高級魚だ。
ハルナは、サメが取り込み寸前に逃げたのを、海に飛び込んで捕まえたことを、自慢している。
「隊長、魔物さん達は、料理に満足しているのか? 草食とか肉食で、味覚の違いとか無いかと思ったんだが」
「呼人殿、魔物に草食も肉食も無い。それに味付けなど気にせん。何でも食べる。だが料理の味には、みんな満足している。我も含めてだ。ありがとう」
「そうか、それならいいんだ」
「漬物美味しい」
「グリ、それはあたいのだぞ」
「早いもの勝ちだ。ハルナ」
残った酢飯と食材で、子供たちに手巻き寿司を教えたら、みんなそれぞれの食材を巻き始めた。
「妾のは巻けぬのじゃ」
「ルミア、欲張り過ぎ」
「仕方がないのじゃ。このまま食べるのじゃ」
「おで、カレー巻き食べたい」
「アロン、こんなに楽しい食事は初めて」
「あたちもー」
ルミアは、サンドイッチみたいな海苔巻きだ。のじゃのじゃうるさい。ヘーデは、ワサビがお気に入りのようだ。五郎は、マリアにカレーをもらっている。酢飯に合うのか? アロンは、自分で釣った魚を、エルゴに捌いてもらっている。精霊は、みんなが巻いた寿司を分けてもらって、お礼を言っている。
大所帯だから、それぞれの個性が出て面白い。大人組には良い肴だ。ニマニマしながらその光景を楽しんだ。
食事のあとは温泉だ。俺は、新たにゴーレム温泉ハウスに繋がる扉を出した。亜空間転移で、いったん温泉ハウスに帰るのだ。魔物と男の子は、半々に別れて順番に風呂に入る。日に焼けた肌がヒリヒリすることだろう。これも経験だ。
子供が温泉に入っている間に、俺と使い魔はフルーツポンチを作る。マリアが作った寒天を食べてみたかったからだ。具材はこんな感じだ。
・寒天
・牛乳寒天(プレーンを戻して、砂糖と牛乳と果物を入れた)
・白玉もどき(もち米が無いので、普通の米粉で作った)
・果物各種(一口大に切り分ける)
・シロップ(砂糖+水)
・サイダー(冷水に砂糖と酢とレモン汁を混ぜ合わせたものに、重曹を加える)
重曹は、魔法で具現化した。学生の頃にやった、理科の実験を思い出したら、出来上がった。塩化ナトリウム(塩)溶液の電気分解で、得られた水酸化ナトリウム溶液に、二酸化炭素を反応させるやつだ。
相変わらず魔法はイージーだ。現象や化学式、製造工程などがイメージできれば具現化できる。
全員温泉から帰ってきた。眠そうな子供もいたが、フルーツポンチを出したら眠気が覚めたようだ。
「シュワシュワして、美味しいでし」
「本当じゃ、呼人よ、これはどんな魔法じゃ」
「ルミア、これは魔法じゃないぞ。大人が飲むビールに入っているのと同じ、炭酸だ」
何とか寒天の磯臭さは、誤魔化せたようだな。子供も魔物も夢中で食べている。
大人達は、チーズと漬物を肴にビールを飲む。ポン酒、ウイスキー、ワインも出している。
魔物さんたちは、甘味も好きだがビールも好きだ。カーバンクルが深皿に注ぎ配っている。グリフォン達は、ウィスキーが好みの様だ。おばば様は、ポン酒の瓶を抱えている。マリアもポン酒を飲んでいる。ハルナとアロロクは、ワインとチーズでセレブ気取りだ。俺は当然ビールだ。
ウィスキーとワインは、まだ熟成が足りていないが仕方がない。エルゴは、花火の準備をしている。
辺りが暗くなってから大分経つが、照明の魔法で辺りはそこそこ明るい。
そこでヒューッと甲高い音がした。海の方から光の筋が高くまで上がり、ドンッと弾ける。色とりどりの火花が広がり、夜空に大輪の花を咲かせる。広がった花は、バチバチーッと弾けたあとで消えていく。
海は、また暗くなり波の音が聞こえている。子供たちがザワザワと、不安そうに騒ぎ始めている。俺は、攻撃じゃないから安心するようにと、説明したあと、照明の魔法を移動して、花火の邪魔にならない様に、調整する。
俺が、花火と言う娯楽だと話たら、子供たちは安心した様だ。
ヒューッ、ドンッ、…バチバチーッ。さっきと違う花が夜空を彩る。
「綺麗じゃのう、あれも呼人殿の仕業か?」
「おばば様、あれは『花火』と言う魔法だ。今は、エルゴが放っている。あとで俺も行くけどな」
「花火とは、言い得て妙じゃな」
「わははは、夜空に咲く花とは雅だ。今日は愉快だ」
「一瞬で消える儚さが美しい。私のよう」
「グリさん、消えちゃダメでしょ」
「がはは、旦那、上手い事言いやがる」
ヒューッ、ドンッドンッ。今度は、2発同時に打ち上がった。やるなエルゴ。
子供たちは、全員が立ち上がって、空を見上げている。夜空を彩る大きな花火に、圧倒されている様だ。
俺とハルナとアロロクは、こっそり抜け出してエルゴに合流した。ここからが本番だ。
しだれ柳のように、長い尾を引きながら落ちて広がる花火、
ウニの様に立体的に広がる花火、
広がったあとにバチバチと弾ける花火、
不規則な、流星雨が交差する花火、
色とりどりの小さな花が、何百と咲き乱れる花火、
ギュルギュルと回りながら弾ける花火、
ハートの形に広がる花火、
五郎の顔の形に広がる花火、
滝の様に、広範囲で流れ落ちる花火、
水の中で弾ける花火、
そして最後は乱れ撃ちだ。
どうだ? 少しは度肝を抜けたかな?
俺達が浜辺に帰ってくると。子供と精霊が、興奮しながら飛びついてきた。凄いでし、感動したでし、綺麗だった、私にも出来る? 俺もやりたい、お兄ちゃんありがとう、と口々に感想を伝えてくる。
困まり顔で使い魔たちを振り返ると、同じ状態で困っているのが見えた。子供たちは楽しんでくれたようで何よりだ。
俺は、子供たちを落ち着かせてから、閉会の言葉を述べる。
「ええーと、みんな楽しんでくれたかな? みんなのおかげで、無事収穫が終わりました。みんなありがとう。
今日は、農園のオーナーとして、みんなの苦労を労うために、俺や大人達が頑張って準備しました。少しでも君たちの思い出に残ってくれたら、嬉しく思います。
次の収穫の時にも、こうやって集まれる様に、これからも仲良く頑張ろう」
パチパチパチパチ。
「兄ちゃん、俺達、絶対忘れないよ!」
「俺も頑張って働く! また釣りがやりたい」
「私も、また花火が見たいから、頑張る」
「あたちも、フルーツポンチのために、頑張るでし」
子供たちが口々に「花火が~」「釣りが~」「地引き網が~」「カレーが~」「バーベキューが~」と言って俺に詰め寄る。魔物も何を言っているかわからないが、鳴き声を上げている。
大人達は、うんうんと頷きながら子供たちの頭を撫でる。頑張れ子供たち。
俺は呼人、ある日突然拉致されて、何処とも知れない大陸に、船で連行された不幸な男。
船の中では、ボーイミーツオッサンしてしまうという、不幸のズンドコを噛み締めながら、新大陸と呼ばれる場所で、世界樹を目指せと言われた。
だが断る。
俺は、ゴールなんか目指さない。新大陸で、一生懸命になんか生きてやるもんか。俺は、楽しく生きるんだ。ほのぼののんびりのほほんライフを満喫してやるんだ。




