第三十話 BBQ
日が中天に差し掛かり、暑さが厳しくなってきたが、子供たちは元気いっぱいだ。地引き網の興奮が、まだ覚めていないようだ。俺みたいな、もやしっ子と違い、この大陸の子供はタフだな。
俺は、ゴーレム海の家を出す。柱と屋根以外はほとんどが窓だ。中は、畳風の床で、温度調整してあるから涼しい。おばば様に休憩を進めたら、辺境の女を馬鹿にするでないと怒られた。
子供たちや魔物さんたちに、暑かったり眠い人は、使ってくれと説明する。
「そろそろお昼の準備するぞー。今日はバーベキューだ。ハルナ、精霊たちとかまどを作ってくれ。豚汁とかの鍋物を温めるやつと、上に石板を載せた奴だ」
「あいあい、了解でし」
「アロロクとマリアは、子供に『分解』の魔法を教えて、魚を捌いてくれ。アラは、残しておいてくれよ。あら汁にするからな。『解体』だと肥料になるから、間違えるなよ」
「よぶちゃん、あら汁って聞いただけで、お腹が鳴るわぁ」
「マリア、例のものは用意出来てるか?」
「ええ、大量に作ったわぁ」
「良し、エルゴはカジキとマグロを捌いて、刺身の準備だ」
「呼人様、醤油の出番ですね」
「残りの大きい子供は、野菜を洗って調理の準備だ」
「「「おおー!」」」
小さい子供たちには、熊手を渡して、潮干狩りだ。俺は、貝取りジョレン(大型の熊手、刃先の後ろに引き上げた際に、砂だけ抜けるようカゴが付いている)を使って、砂浜をゴリゴリ掘っている。
シジミとハマグリは結構大きい。抽出の魔法で砂を抜けば、すぐに酒焼きに出来そうだ。
そうこうしている内に、かまどが出来たようだ。煙が出ている。
「じゃあ子供たち、ごはん食べるよー」
「「「はーい!」」」
潮干狩りを切り上げて、かまどに向かう。
俺が深皿を子供達に渡して、ハルナがごはんを盛る。マリアがカレーを掛けたら準備OKだ。ごはんもカレーも昨日の内に作っておいた。
俺は、飲み物が入ったピッチャーを、精霊たちが作った石テーブルに並べる。
「この白いつぶつぶは、米と言う穀物だ。君たちが収穫したものだ。上に掛かっているのが、この前食べたカレーだ。この料理をカレーライスと言う。準備出来た人から食べて良いぞ」
「「「いただきまーす!」」」
「むほー! これがカレーライスか! ごはんがあると、一味も二味も違うのじゃ。それにこの飲み物は何じゃ。美味いのじゃ。美味いのじゃ」
「ヘーデ、飲み物、好き」
「おで、イエロー、カレー大好き」
「アロンは、カレーも飲み物も好き。お婆ちゃん美味しいね」
「そうじゃな。たくさんお食べ」
「あたちもー! 呼人さんの作る物は、何でも好きでし」
「ラッシーが、スッキリとした甘さで、カレーに合うわぁ」
魔物たちにも、使い魔たちがカレーライスを持っていく。飲み物は、桃ラッシー(桃、ヨーグルト、牛乳、砂糖、レモン汁を混ぜた飲み物)だ。大人や精霊、魔物にはビールが注がれる。飲み物はセルフサービスだ。
「刺身も食べてみてくれ。醤油を掛けてある。大豆から作った調味料だ。わさびは辛いから気を付けてな」
「呼人殿、さっきの生魚とは違って、格別な旨さだ。これが発酵食品の力か」
「ああ隊長、主任と一緒に頑張って作ったんだ」
「ぼきも、刺身を食べてびっくりでし。醤油は偉大でし。ヨーグルトも爽やかなのどごしでし。頑張って醸した甲斐があったでし。生きてて良かったでし」
「そうだな、醤油は偉大だ。サラダの和風ドレッシングにも、焼き肉のたれにも醤油が使われている。俺達は毎日、これが食べられるんだ。苦労してでも作って良かっただろ?」
「イエスでし。もっと美味しくなるように頑張るでし。主任の名にかけて!」
刺身の皿は、周りを氷で囲んでいる。すぐに腐ることは無いだろう。
大人組は、ビールを片手にバーベキューだ。石板の上で、ハマグリを焼き、酒と醤油を加える。
シャケでは無いが、魚のぶつ切りと野菜を共に焼き、味噌とポン酒を合わせた物で味を付ける。ちゃんちゃん焼き風の料理だ。これは旨い。ビールが進むぜ。
「ビールは格別じゃな。今までのエールは、何だったのじゃと思えてくるわい。しかし豚汁は旨いのう」
「おばば様、俺の求めていた物が、少しはわかって貰えた様で良かった。豚汁は、味噌を使ったスープだ。今、石板で焼いている、ちゃんちゃん焼きも味噌味だ」
「旦那、このハマグリの酒焼きは旨いなぁ」
「ああ、ポン酒に合うだろう。飲み過ぎるなよ」
「酔っても、魔法があるから大丈夫さ」
子供たちが、バーベキューにもやってくる。ちゃんちゃん焼きや焼き魚、サイコロステーキに、野菜を皿に取り分けて、渡してあげる。
「どうだい、自分たちで捕った魚の味は?」
「美味しい。飲み物もカレーも魚も大好きー」
「兄ちゃん、俺達、頑張って働けば、また連れてきてくれるのか?」
「ああ心配するな。箱庭は気候が変わらない。農園は過ごし易いし、海はいつも暑い。いつでも来れるさ」
「そうか、ありがとう」
「仕事は辛くないか?」
「飢える方が辛い…」
「そうか、いっぱい食えよ」
「うん!」
こんがり小麦色に焼けた子供たちが、嬉しそうに顔を見合せて笑い合っている。大人たちも釣られて、顔が綻んだのは言うまでも無い。発酵食品で食テロを起こすより、嬉しい一幕だった。
食後は、みんなで片付けをして、ゴーレム海の家でお昼寝だ。子供たちは遊びたがったが、プリンとアイスクリームを餌に了承させた。
子供たちが昼寝している間、大人組は別室で雑談していた。
「それにしても、よぶちゃん、久しぶりにお刺身が食べられて良かったわぁ」
「旨かったよなマリア、頑張って醤油と味噌を作ったからな。これからは、和食もドンと来いだ。ダシも、昆布やカツオが手に入ったから、今までより旨くなるだろう」
「毎朝、お味噌汁が飲めるなんて夢みたいよぅ」
「納豆や塩サケなんかも欲しいけどな」
「あら? サケはルアーに掛からないのぅ」
「それがなマリア、今日持ってきたルアーは、水に浮くタイプなんだよ。表層にいる魚にしかアピールできない。サケは、もっと深いところにいるみたいなんだ」
「残念ねぇ、せっかくお酢があるのだし、サーモンのマリネとかも、食べてみたいわねぇ」
「夕食は、海鮮丼を予定していたからな、イクラも欲しかったのだが、次の機会までお預けだな。あと酢飯を作って持ってきたから、海苔があれば、手巻き寿司も出来たのに残念だよ」
そんな話をマリアとしていると、エルゴが提案してきた。
エルゴは、相変わらずブーメランパンツに、上だけ燕尾服を着た、変態ルックだが、真面目な顔で意見する姿は、イケメン紳士だ。
「呼人様マリア様、サケの件は、このエルゴにお任せを」
「ん? エルゴ、サケのいる場所が分かるのか? 午前中にアロロクに海に潜ってもらったけど、見つからなかったぞ」
「精霊が、居場所を知っているはずです」
「おおー! 流石エルゴだ。ルアーはどうするんだ」
「餌釣りでも行けますが、ひとつ案がございます。実は私もトローリングをしてみたいので、是非お任せ下さい」
「自信ありげだな、どんな案があるんだ?」
「魚ゴーレムルアーを作ります。動きは本物の魚ですし、獲物を探して近寄っていきます」
「天才かー! イクラの件はエルゴに任せた。この竿を持っていけ」
「ハハッ、有り難き幸せ」
サケとイクラが、手に入りそうで良かった。
「じゃあ、よぶちゃん、海苔は私に任せてちょうだい」
「マリア、海苔を集めるのは大変だぞ」
「魔法で、ちょちょいよ。抽出~ってねぇ。でも、海苔すき(板海苔にする作業)は出来ないから、手巻き寿司は後日ね」
「すき枠ならあるぞ」
「ええー、いつの間にぃ?」
「発酵食品作りにも、巻きす(竹ヒゴを糸で編み連ねた、調理用の小型のすだれ)が便利だから作ったんだ。竹ゴーレムで竹ヒゴを作って、蜘蛛さんに縫い付けてもらった」
「本当、蜘蛛さんは器用ねぇ」
「ああ、たくさん作ったから、ついでに、紙すき用の枠を付けたやつがいっぱいある。子供の勉強にと思っていたんだが、海苔すきでも良いな」
「任せてちょうだい。ちゃんと教えるわぁ」
「マリア、ついでにウニを採ってくれ、エルゴに頼もうと思っていて、忘れていた」
「エルゴちゃんは、サケ係だから仕方がないわね。午後は子供たちと磯遊びしながら、採っておくわぁ」
「この箱に、手袋と熊手が人数分入っている。こっちが海苔すき用の道具だ。任せたぞ」
いやあ、頼りになる仲間がいると、問題がポンポンと片付いていくなぁ。
いつもは、2時間昼寝タイムをとるが、今日は1時間だった。ヘーデが起き出して、早く釣りに連れて行けと、うるさいのでみんな起きてしまったのだ。と言うか半分くらいは寝ていなかったようだ。興奮して眠れなかったのだろう。
浜辺でヘーデと3人の男の子に、小振りな竿を渡して使い方を説明する。ルアーも小さいのが付いている。なぜかアロンと精霊たち、黄色いあいつも熱心に聞いている。仕方がないのでアロンと五郎にも竿を渡す。
うちの使い魔はみんな器用だ。五郎は指も無いのに、竿を使いこなしている。ルミアはやらないのか? と思ったら、すでにドラゴン形態でスタンバッていた。アロンと五郎を乗せるようだ。
グリフォン隊長に、男の子3人が乗り、順番に釣りをする。指導は俺とグリさんだ。子供たちは、トンキ、シンベ、タンタと言う名前だとか。
アロロクの魚雷には、ヘーデリアが乗る。アロロクが指導だが、片言同士で大丈夫か、心配なところだ。
そしてクロールミアに、アロンと五郎とハルナが乗り、ハルナが指導する。
精霊たちは、リールに乗ったり竿にしがみついている。何が楽しいのか理解不能だが、精霊の加護があれば良いと思う。
俺達は、3方向に別れて海に散った。みんな凄い早さで、浜辺から遠ざかっていくのを、小さな子供たちが、手を振って見送っている。
男の子3人組は、グリフォン隊長に後ろ向きに乗っている。空の散歩に大興奮で、落ち着きが無い。俺は落ちないのか心配でならない。
「隊長、子供たち落ちないかな?」
「大丈夫だ、呼人殿。我が『騎乗』の魔法を掛けている。我から離れることはない」
「凄いな、そんな魔法があるのか。魔法は便利だな」
「わははは、呼人殿の方が何倍も凄かろう」
「あなた、こういうのを天然と言うそうですよ。ハルナが言っていました。呼人殿を見て、あなたも治した方が良い」
「わははは、愉快だ。気を付けよう」
グリさんや? サラッと毒を吐かないでくれるかい? 子供たちまで、天然天然言ってるじゃないか。
「隊長、そろそろ速度を緩めて、下に降りよう。海面スレスレを飛んでくれ」
「了解した」
「トンキは、ルアーを落として良いぞ」
「兄ちゃん、わかった」
「アタリが来たら、思いっきり竿をあおるんだぞ」
「きたー」
ルアーを投入して、数分でアタリがきた。トンキが竿をあおると、竿がしなってビクビクと震える。完全にヒットしたようだ。スレていないせいか入れ食いだな。
「隊長、速度落としてくれ。トンキはどんどん糸を巻いていいぞ。そうそう切れないからな」
「了解した。子供たち頑張るのだ」
「わ、わがっだー」
「うわー、跳ねた」
「すげぇ、TVで見るより迫力ある」
「凄いでし、大きいでし」
シイラだ。結構デカいな。50mほど先で魚が跳ねた。トンキはリールを巻くのに苦労しているようだ。だからまだ早いって言ったのに。まあ、疲れたら他の子に変われば良いか。
シイラがたまに跳ねる度に、後ろのシンベとタンタ、そして精霊たちは大はしゃぎだ。リールを巻いているトンキは、一人真剣だ。気を抜いたら竿が持っていかれるので、真剣にならざるを得ない。
30分ほどの格闘の末、何とか手元に引き寄せ、俺がギャフ(魚に刺して持ち上げるフック)を打つ。トンキはグッタリとして、グリフォン隊長に身体を預けている。こんなに小さいのに意外と根性者だ。
「ぜい、ぜい、ぜい、やったぜ」
「トンキ、良く頑張ったな」
「「トンキ、凄いぜ」」
「凄いでし、格好良いでし」
「ふむ偉いぞ、トンキ」
シイラは、薄っぺらくて長い魚だ。子供3人で持ってもまだ余る。銀色に黄色い線が美しい。なかなかの大物に、トンキは満足そうだ。肩で息をしながらも笑顔が絶えない。シンベとタンタは、早く変われと催促している。
こうして3人で、交代交代に、シイラ、カツオ、ヒラマサ、スズキなどを釣った。3人共に、疲労困憊だが満足気だ。
トンキ、シンベ、タンタの男の子3人組が、ひとしきり獲物を釣り上げたあと、念話で他のチームに声を掛けて、洋上で合流した。他の組も、なかなかの釣果だったらしい。
クロールミアのチームは、うちのチームの魚に加え、ロウニンアジやバラクーダまでいる。アロンが釣ったらしい。誇らしげに胸を張っている。
「どうじゃ、凄いじゃろう」
「ああ、アロンは頑張ったな」
「カッカッカッ、旦那参ったか?この勝負、あたいたちの勝ちだな」
「参るかー! いつ勝負になったんだハルナ」
「呼人よ、チームに別れた時点で、勝負と決まっておる。それに妾のチームはまだ、とっておきが残っておるぞ」
なんと五郎は、大きなサメを釣っていた。釣れた魚に食い付いてきたらしい。五郎は、「おで、フカヒレカレー食べる」と、聞いたことの無いカレーの話をしている。ハルナの入れ知恵か?
また難儀なものを、釣ったものだな。サメの刺身は、旨いと聞くが、フカヒレは、誰が作るんだ。かなり面倒だと聞くぞ。しかもカレーに入れたらどうなるんだ? 勿体ない結果しか思い浮かばないぞ。
「どうじゃ、参ったか?」
「旦那、素直に負けを認めたらどうだ」
「「「参りましたー!」」」
子供たちが認めちゃったよ。いつの間に勝負になったんだよ。また変な要求してくるんじゃないだろうなぁ。ゴリ押ししたって認めないぞ。
「五郎は頑張ったな」
「おで、フカヒレ食べたい」
「勝負なんて知らないし、フカヒレも作らないぞ」
「「「「ガーン!」」」」
「アロンまでなんだ。わざとらしい。いくらゴリ押ししても作らないからな」
ショボーンとしてもダメだぞ。面倒臭い。ん? 魔法使えば簡単かも。…黙っておこう。
ヘーデリアも意外にたくさん釣っていた。アロロクに聞いたら。俺と同じでズルしたらしい。ヘーデを魚雷に残して、アロロクが「飛翔」で飛び、止めを差したのだとか。
さっき「ズルはダメ」とか言ってなかったか? 俺がジトーッとした目で、ヘーデを見ていたら叩かれた。なんでやねん!
「ヘーデ、ズルしてない」
「なにも言ってないだろう。いきなり叩くなよ」
「目は口ほどにものを言う。シッシッシッ」
そしてヘーデが最後に出してきたのが、シマシマ模様の大きな魚だった。ヒレが足みたいに太い。シーラカンスに似た感じだ。
鑑定の魔法で調べたら、ギガントゼブラフィッシュと言う魚だと分かった。全身が薬の材料になるらしく、神の魚と言われる程に珍しい魚だとか。ん? ウォータードッグ再びか?
「「「「「「参りましたー!」」」」」」
「ヘーデ、優勝」
もー、勝手にしてくれ。片手を上げて、勝利を喜ぶヘーデリアを見ながら、俺は欲しいものしか作らないからな、と固く誓った。




