第二十七話 温泉
俺は、3つの源泉に架台を設置して、ポンプを取り付けた。架台もポンプもステンレス製で重い。1人ではとても運べない。だから俺は、重機ゴーレムを作った。3m大の大きなゴーレムだ。内部に人が入って操縦する。
ポンプはステンレス製で内部に、いくつかの魔石が仕込まれている。ポンプ内部に真空を作りお湯を吸い上げる魔法、吸い上げたお湯を送り出す風魔法、魔力を精製、蓄積するバッテリー代わりの魔石だ。
ポンプ設置後、起動のプログラムに魔力を流して、動作確認しているが問題はないようだ。ポンプの流量はかなりあるが、温泉溜まりからは、お湯が無くなることなく溢れ出している。
ポンプを止めて次の作業に入る。配管だ。
源泉のポンプから亜空間内部まで、パイプを繋がなくてはならない。山側のゴーレムハウスは、掘っ建て小屋タイプだ。ゴーレム温泉ハウスと、内部の亜空間を共有いている。この壁にパイプを通せば、亜空間に繋がるはずだ。
ゴーレム倉庫に置いてあるステンレスパイプは、内径が10㎝ほどの物と、20㎝ほどの物がある。細い方が給湯用、太い方が排水用だ。
長さは2mあり、パイプとパイプの接続や長さ調整なんかは、ステンレスゴーレムにやってもらう。ステンレス合金は、単一組織と認識されたようだ。ゴーレム魔法陣が使えた。
俺はゴーレムハウスの壁に、太いパイプを2本、細いパイプを3本突き刺してみる。パイプを壁に押し当て魔力を流すと、壁がウニュンと変形してパイプが埋もれていく。ハウス内部に入って確認すると、ちゃんと亜空間にパイプが来ている。
「ハルナ、こっちの細いパイプが、温泉のお湯を取り込む配管だ。あっちの3ヵ所の源泉に付けたポンプと繋いでくれ」
「任せろ、旦那」
「ゴーレム倉庫の中に、パイプと曲り接ぎ手がある。接続と切断は、俺が作ったステンレスゴーレムに、イメージを流せばやってくれるからよろしく。俺は排水パイプをやる」
ハルナは重いステンレスパイプを、軽々と扱っている。グリフォンさんに片側を持ってもらい、ステンレスゴーレムで魔法溶接している姿は職人のそれだ。
俺は重機ゴーレムで、排水ポンプやパイプを固定しながら、ゴーレムから降りて溶接するの繰り返しだ。排水パイプを温泉の川まで、配管しなければならない。
こうして四苦八苦しながら、ゴーレム温泉ハウス内外の配管が完了した。外の設備は、むき出しのままだと、獣に壊されるかもしれないので、別のゴーレムハウスで源泉ごと覆う。内部が亜空間ではない普通の奴だ。壁を高くして屋根の付近に、湯気を逃がす窓を大きく取る。窓は格子状になっていて、獣は入れない。
待てよ? この山は煙り吐いていたな。活火山ってことか? 火山が噴火して溶岩が流れてきたら、おしまいじゃないか。
(念話、班長)
(あいあい、あたち班長でし)
(班長、火山は、頻繁に噴火するのか?)
(ひと月に2~3度くらいでし)
(…危ないじゃないか!)
(岩石も火山灰も溶岩も、海側に流れるようになってるでし。陸側は安全でし。うまく出来てるでし)
(ほう、それは凄いな。わかった。ありがとう)
火山は大丈夫らしい。いろいろあったが、いよいよお湯を流す。うまくいけばゴーレム温泉ハウスの完成だ。ポンプを動かして2階に上がる。
ザーザーと獅子の口からお湯が出ている。やった! 成功だ。コバルトブルーのお湯、透明なお湯、乳白色のお湯、全てちゃんと出ていた。
因みに、給湯口の獅子の顔は、温度管理もしている。源泉は熱いので温度を適温まで下げるのだ。獅子の顔に、水魔法の魔石を仕込み、魔力を流せば、温度を変えられるようにしてある。一定の温度より上の温度にならないように、安全面も魔法でやっている。風呂掃除の時にお湯を止めるのも、ここで操作可能だ。
湯船にお湯が貯まると、排水口からお湯が流れて1階に落ちる。そして排水ポンプで外の川に排出される。川に設置したパイプから、排水が出ていることを確認して湯船に戻ると、ハルナとグリフォンさんが湯に浸かっていた。
「旦那、気持ちいいぜ」
「疲れが癒されます」
「お前らなぁ。他のみんなは働いているんだぞ。のんびり、風呂に浸かってるんじゃないよ。まったく」
「旦那、かてえ事言うなよ。ハゲるぜ」
「スライムボディは、熱を通さないじゃないのか。温泉に入っても気持ち良いわけないだろ」
「旦那はわかってねぇなぁ。通さなくても感じることは出来るんだぜ。痛みもあれば気持ち良さもあるってもんだ。がははは」
「おっさんかよ! まあ、いいや。休憩室の使い心地も確認しといてくれ」
「呼人殿、任された。フーッ極楽」
「本当、極楽だなグリ。旦那も早く入れよ」
「俺は、最後の仕上げがあるの!」
まったく呑気な奴等だ。
俺は風呂場を抜けて脱衣場を出た。廊下の端に扉があり、外に階段が付いている。この扉だけは、誰でも開けられるようになっている。1階の扉は、俺と使い魔とマリアしか開けられない。子供が入らないようにしてある。
ゴーレム温泉ハウスの2階から、階段を降りて農園に出ると、俺は子供たちが暮らすゴーレムハウスに向かう。
子供ハウスをいったん魔石に戻し、温泉ハウスの隣に移動する。2つのハウスを繋いで、いつでも温泉に入れるようにするためだ。
ついでに倉庫ハウスも出して重機ゴーレム出動だ。子供ハウスと温泉ハウスの2階に、渡り廊下を作るのだ。
ハウスの近くで手をかざせば、変形させられるのだが、変形箇所に近い方がイメージし易い。重機ゴーレムは梯子代わりだ。
俺が重機ゴーレムを良い位置に固定して、ゴーレムによじ登り、渡り廊下を作っていると子供たちが集まりだした。重機ゴーレムが、自分たちの家を壊していると思ったのかな? 精霊たちは興味深げに、重機ゴーレムをペタペタ触っている。
「よぶちゃん、あなた何やっているのぅ?」
「マリアか。何って温泉を作ったんだ。だから子供ハウスと繋げて、いつでも入れるように改造していたんだ」
マリアと話している間に渡り廊下も完成して、全ての作業は完了だ。
「なに、呑気なこと言ってるの! このロボットは何! 子供たちがびっくりしているじゃないのぅ」
「ポンプを運ぶための重機だけど?」
「ロボットや重機が簡単に作れるわけ無いでしょ! あなたって子は次から次へと、少しは自重しなさい! 『だけど何か?』みたいな言い方しても、ダメなものはダメ!」
「ダメってなんだよ。せっかく作ったのに。マリアは温泉入らないんだな?」
「それとこれとは話が別でしょ。もー大人しくしてると思えば、コソコソとロボットなんか作ってー」
「男の浪漫じゃないか」
「魔法乙女戦隊が、目立たないじゃないのー!」
「……」
そっちかよ! そっちかよおお!
「それで、よぶちゃん、温泉は完成したのぅ?」
「ああマリア、たったいま完成した」
「まあ、素敵。今日から入れるのねぇ」
「現金な奴だな。それより温泉の前に、食事の準備をしてしまおうか」
大分、日も傾いている。そろそろお腹も減っている頃だろう。
俺は、子供と魔物と精霊を4班に分けた。食材を採りに行く班、料理をする班、温泉に入る班、食事を食べる班だ。順次交代する。それぞれにやることを伝えた。
班の代表が、じゃんけんして初めの役割を決める。じゃんけんに勝って、温泉班になった子供は大喜びだ。
「じゃあ、マリア達と温泉班はついて来てくれ。説明する」
4班に分けても40人近くいる。男の子が多いので男湯は混むだろう。女湯は逆にガラガラだ。バランスが悪い。
小さい子供も多いし、今日は男女区別無く半々に別ければ良いか。そんなことを考えながら、みんなを引き連れて2階に上がる。
廊下を進み、入り口の暖簾をくぐる。蜘蛛さんの力作だ。こんな使い方をするのかと、蜘蛛さんとイモムシさんが、まじまじと見ている。
「ここで男湯と女湯に別れる。小さい子供も多いから、今日は男女区別なく半々に別れよう。靴を脱いで下駄箱に入れてくれ」
「どっちが女湯かしらぁ?」
「両方とも泉質が違うんだ。だからその日によって、男女入れ換える。女の子は20人くらいだから、一度に入れると思う。女の子が終われば、両方男湯にすれば良い。その辺は子供たちと決めてくれ」
「そうね、両方入りたいものねぇ」
脱衣場の使い方を子供たちに説明して、休憩室に入る。
「まあ、驚いた。いつの間に鏡を作ったのぅ」
「ゴーレム工芸でいろいろ試して、ようやく出来上がった」
「嬉しいお知らせだわぁ」
子供たちが鏡の前に座って、首を傾げている。自分の顔を初めてはっきり見た子も多いのだろう。魔物たちも驚いている。
「妾の人間形態の顔を見るのは初めてじゃ。なんとも不思議な感覚じゃのう」
「ルミアちゃんは、かわいいから大丈夫よぅ」
「ええと、時間も無いから説明を進めるぞ。この魔石に魔力を流すと、濡れた身体が乾くから使ってくれ。まだクシとかは用意していないけど、そのうち配るよ」
「あら、便利ねぇ。あの大きな箱は何かしら?」
「あれは、冷蔵庫だ」
「冷蔵庫が2つも?」
「黒いのは大人用だ。子供は開けられない。コーヒー牛乳とお茶が入っている。その内ビールも入れることになる」
「良い考えだわぁ」
「白いのは子供用だ。フルーツ牛乳やプリンが入っている。中は亜空間で広い。子供が閉じ込められないように、安全装置も付けた」
「毎日、牛乳を入れるのも大変ねぇ」
「仕事に温泉係りを増やすしかないな。使う以上、掃除や補給は必要だ。子供たちに、順番でやってもらうしかない。乳絞りの訓練にもなるし、これも勉強だな」
そしていよいよ風呂場だ。風呂場に入った途端に視界が開ける。壁が透明だから遠くの山まで見渡せるのだ。
「いよー! みんなお揃いで見学か?」
「まあー、ハルナちゃん、破廉恥よぅ!」
「ハルナ、まだ入ってたのか? 仕事しろよ。それにフルーツ牛乳を、風呂で飲むんじゃないよ。子供の教育に悪いだろ。手拭いなんか頭に乗せて、呑気か!」
「まだ、そんなに時間経ってねぇだろう。なあグリ?」
「呼人様、ハルナはあとでお仕置きしておきます」
「お前まで何をしておる…」
エルゴの目がキラリと光り、グリフォン隊長が呆れている。彼女たちは知らんぷりだ。
「魔物さんたちは着替えとかないから、このまま入っていいよ。この階段から降りるんだ。中は段々深くなっているから気を付けて。浴槽についている、赤い線が段差のある場所だから、足を踏み外さない様に注意してくれ」
「呼人殿、魔物は溺れたりせん。心配するな」
グリフォン隊長が彼女の近くに寝そべった。他の魔物も思い思いのスタイルで、お湯に浸かる。ダンジョン産の魔物は、お湯に浸かるなど初めての経験だから、感慨深げに、温泉を満喫しているようだ。あれ? 蜂さんも入ってるの?
「隊長、蜂さんは、風呂に入って大丈夫なのか?」
「わははは、心配することはないぞ、呼人殿、魔物の羽根は水を通さぬ。問題はない」
「そうなのか? 少し焦ったよ」
「フーッ極楽だ。呼人殿の作るものは、箱庭、料理、温泉、どれも素晴らしいのだな」
「隊長、俺は元の世界にある物を真似しただけさ」
「ほう、その言い様だと呼人殿は迷い人だったのか」
「ダンジョン産の魔物も、迷い人を知っているのか?」
「この世界の基礎知識は魂に刻まれておる」
人間の赤ちゃんが、生まれたばかりで泣いたり、息をしたりするのと同じなのかな? 魔石の魔法陣に情報があるのかもしれない。神代文字は読めないけど、勉強すればいろいろ分かりそうだな。
他の魔物たちも、目をつぶって気持ち良さそうだ。黄色いあいつもなぜか混じっている。
「魔物さんたちが入っている乳白色の湯は、殺菌力が高い。皮膚病の子供とかに良いだろう。ハルナが入っている透明な湯は、美肌効果がある」
「あら嬉しい。どんどん美しくなっていくわぁ。それにしても、こんなに眺めの良い温泉は素敵だわねぇ」
「屋根も透明だから星空も見れるぞ」
「それは良いでし。あたち達は、花畑と星空が大好きでし」
「それは良かったよ班長、今夜から堪能してくれ。精霊も温泉に入るのか?」
「当たり前でし。肉体は無くとも温泉は好きでし」
当たり前だそうです。
「呼人よ、あれは何じゃ」
「ルミア、あれは子供用の滑り台だ。滑って遊ぶのさ」
「まあ、遊び心満載で良いわねぇ」
子供たちが、興味深げに覗いている。
「もう一つのお風呂も同じ感じかしらぁ」
「ああ、魔物用の風呂が無くて、人間用の風呂だけだ。あとは基本同じだよ。だけど見たら驚くぞ」
「同じなのに、驚く要素があるのかしらぁ?」
「見てのお楽しみだ」
そして最後の風呂に移動した。コバルトブルーの湯が目に鮮やかだ。湯船の底から照明を照らして、幻想的に仕上げている。夜はさぞ綺麗だろう。時間が空いたら、ジャグジーも付けたいな。
「まー素敵。まー素敵。よぶちゃん、どうなっているの? 魔法かしら?」
「いやマリア、魔法じゃないよ。こういう珍しい色の温泉なんだ。驚いたろう?」
「びっくりしたわよぅ。本当、素敵なサプライズだわぁ」
「そうかそうか。しかもこの温泉も美肌効果があるそうだぞ」
「呼人様、素敵な温泉を作って下さり。ありがとうございます」
「「「ありがとうございまーす!」」」
苦労した甲斐があったよエルゴ。この一言で報われた気分だ。
それから洗い場の使い方を教えて、子供たちは半々に別れて入浴した。子供たちは滑り台が楽しいらしく、順番に並んでいる。湯冷めするなよ!
魔物たちがいる方にハルナがいるので、今日はあっちが女湯だ。精霊たちと子供たちは、あっちに行ったり、こっちに来たり自由に楽しんでいる。フリチン小僧が走り回っている絵面は、特に必要ないぞ。転ぶなよ!
マリアは、当然のように女湯に入っていった。おっさん、まずいだろう。まさか、もっこり撤去済みなのか?
俺もコバルトの湯で子供たちと一緒に、1日の疲れを癒す。収穫が終わればビール作りに取り掛かれる。早くビールが欲しいと思う、夕暮れの一時であった。




