第二十六話 重機
「じゃあ、少し早いけど、そろそろ昼食の準備を始めようか。エルゴ、昼食を作るから全員集めてくれ」
しばらくして、大人も子供も魔物も精霊も全員が集まる。朝と同じ状態だ。みんな汗を拭いながら集まってきた。子供たちもまだまだ元気ハツラツのようだ。
「えー、これからみんなで昼食を作ります。俺達が教えるから、自分で作ってみて下さい。昨日までは、マリアたちが作って食べさせてくれたと思うけど、今日からは食事も自分たちで作ってもらいます」
(コクコク)
「朝に俺は、君たちに衣食住を与えると言ったけど、あれは半分は嘘です」
(ええー!)
「寝るための家は与えますが、掃除は自分でやってもらいます。衣服は与えますが、洗濯は自分でやってもらいます。食べるための食材は与えますが、調理は自分でやってもらいます。出来ない人には教えます。ただしサボったり、やる気の無い人には与えません。分かったかな?」
「「「わかりましたー!」」」
「よろしい。では担当に別れて調理を開始しよう」
男の子たちにハルナとアロロクを付けて、野菜の収穫にいかせた。女の子は朝の残りの野菜を洗ったり、火を焚いたり、お湯を沸かしたり、包丁の使い方を教えたりする。
みんな、おっかなびっくり作業をしているが、楽しんでいるようで何よりだ。
しかし今日は良く晴れていて、気持ち良いなぁ。こんなに大勢で野外作業なんて学生以来だから、俺も心が弾んでくる。
子供に刃物を持たせるのは不安だけど、そうも言っていられない。指を切ろうが火傷しようが、良い経験だと笑えるくらい、逞しくなってもらわないと、今後、生活が出来ないのだ。頑張れ子供たち。
「うーんマリア、小さい子供に刃物はやはり不安だな」
「そうね、よぶちゃん。下拵えは大きい子供に頑張ってもらうとして、小さい子供は配膳かしらねぇ」
「そうだな。小さい子供はピーラーにしよう」
俺はゴーレム工芸で作ったピーラーを出す。Y字の木片に金属の刃を付けたものだ。
「小さい子供は、こっちに集まってくれるかな」
10人くらいがこっちにくる。
「お兄ちゃん、これは何?」
「これは、こうやって野菜の皮剥きに使うんだよ」
「わあ、私でも剥ける。凄~い」
「これで君たちもお手伝いができるね。ここに刃が付いているから、気を付けて使うんだよ」
「「「はーい!」」」
ピーラーの使い方を教えて、野菜の皮剥きをやってもらう。年少組の女の子がわいわいやっていると、その内男の子たちが野菜や玉子、牛乳をリヤカーに乗せて、魔物と共に帰ってきた。すでに魔物とも仲良しだ。男の子たちには野菜を洗ってもらい、ピーラーで皮を剥いてもらう。
全員合わせて150名近くいる大所帯だ。各自、分担して大人に見守られながら、料理を作る。
野菜スープ、ステーキ、目玉焼きをメインに、付け合わせの枝豆、サラダ、そして飲み物は牛乳だ。
小さな子供もカップに牛乳を注いだり、配膳したりして手伝っている。精霊たちも火を付けたり、焼け具合を見たり、子供たちに付いて右往左往している様がかわいい。魔物はのんびり寝そべっている。
食事が冷めるといけないので、食べる班、作る班、片付ける班に別れて、順番に交代しながら食べる。
肉がジュウジュウいっている横で、「いただきます」と元気な声がする。戦争か? というくらい騒がしい。
早く覚えて手が掛からなくなると良いのだが、当分無理だろう。
みんな食事が終わったようなので、片付けをいったん中止してデザートを配る。普通のプリンと牛乳プリンだ。昨日マリアとエルゴが作って冷やしていた物だ。
「プルプルで甘いのじゃ」
「ヘーデ、満足」
「おで、カレーの次に好き」
「アロンも好きです」
うちの年少組にも好評だ。子供たちは冷たい甘味に驚いている。精霊は一つのプリンを取り囲んで食べながら、「美味しいでし」と涙を流している。
いやー、この光景を待っていたよ。マリアと顔を合わせて、ニマニマしたのは言うまでも無い。
片付けが終わったらお昼寝だ。子供たちは、2時間ほど仮眠をとる。魔物や大人はそれぞれ自分の時間を過ごす。精霊は花畑で遊んでいる。精霊の間で戦隊ごっこが流行っていた。
昼寝も終わり、午後からまた農作業だ。俺もまた温泉ハウス作りを頑張らねば。
さてさて温泉だ。午前中は湯船を作った。午後は、細かいところを作り込んでいこう。午後はアロロクに変わって、ハルナが付いてきた。
なぜか隊長の彼女(多分)のグリフォンも一緒だ。
「おおー、木の風呂とは粋だな。旦那」
「良いだろう。眺めも最高だし、きっと気持ち良いぞハルナ」
「旦那、こっちの大きい方は何なんだ? 泳ぐのか?」
「そっちは魔物用の風呂だ。グリフォンさん、ここに寝そべってみてくれるか? こっちの階段から降りるんだ」
「こうですか?」
「おおー、バッチリじゃねぇか。旦那。それでこんなに深いのか」
「グリフォンさん、本来この中にはお湯が張ってあるんだ。そのお湯に、そうやって浸かるのがお風呂さ。身体が温まって気持ち良いんだ」
魔物用の風呂に入ったグリフォンは、湯を張ったら背中が出るくらいの位置だ。広さも2頭入っても余裕がある。良い感じだ。
魔物用の風呂の確認も終わり、午後の作業の始まりだ。
人間用の風呂の間には、檜の壁がある。この仕切りを挟んで、両側に脱衣場や休憩室、下駄箱、トイレを作る。部屋には、照明や水を流すための魔石を設置する。
下駄箱には棚を作る。扉やカギなど無い。脱衣場にも棚を作り、事前にゴーレム工芸で作っておいた脱衣カゴを並べる。
休憩室は、グリフォンさんから「乾燥」の魔法をインストールさせてもらい、いくつかの魔石に仕込む。この休憩室に配置した魔石に、子供たちが魔力を流せば身体が乾くのだ。
そして、ソファーや椅子や鏡も配置する。クシとか小物は後回しだ。
忘れちゃならない冷蔵庫も配置する。水魔法で冷水を循環させて冷やす、冷蔵庫だ。中にはフルーツ牛乳、コーヒー牛乳、お茶などを、瓶に詰めた物が入っている。ゆくゆくはビールも冷やしたい。
鏡もゴーレム工芸で作った。グラスゴーレムでガラス板を作り、銀ゴーレムで、銀を蒸着したのだ。
蒸着は、金属を加熱蒸発させた霧を吹き付けて、メッキする技術だ。
空気魔法で箱を作り、ガラスと銀ゴーレムを入れ固定する。箱内部の空気を押し出して、箱内を真空にする。銀ゴーレムに魔力とイメージを流して、熱した霧状に分離させる。この霧をガラスに吹き付けると鏡ができる。
今後は休憩室にはドライヤー、扇風機、マッサージチェアーなんかを作って設置したいと思う。
「旦那、綺麗な鏡だな。あたいも綺麗だ」
「私、かわいい」
…グリフォンの感性がわからん。
それは置いといて、風呂場の改造をしよう。
風呂場には洗い場を作り、蛇口、シャワー、獅子頭の出湯口、小さな滑り台を付けた。
蛇口の横に赤と青の魔石を配置する。魔力を流すと、普通のお湯と水が出るように、魔法陣を組んである。ここにも鏡を配置して、その横にシャワー用の魔石を付けた。シャワーは、ホースなど無い。頭の上の辺りに、ゴーレム工芸で作ったシャワーヘッドが飛び出ているだけだ。頭の方を動かして使う。
あとはゴーレム工芸で作った、風呂桶、椅子を置いて完成だ。
「呼人殿、これは何?」
「グリフォンさん、それは滑り台と言って、子供が遊ぶためのものだよ。ここから子供が登って、スルーっと滑り降りてくるんだ」
「かー旦那、情けねぇ。風呂はプールじゃないんだぞ」
「そう言うなよハルナ、存外楽しいものだぞ」
シャンプー、石鹸はマリアに任せた。元の世界でも、オーガニック石鹸を作って、使っていたらしい。
石鹸は、オリーブオイル、大豆油、大豆の煮汁、ココナッツオイル(海の近くに生えていた)、苛性ソーダ(俺が魔法で出した)、ラベンダー精油(魔法で抽出)、魔法水などから作るそうだ。
シャンプーはココナツミルク、ハチミツ、アロエ(海の近く…)、オリーブ油、ラベンダー精油、ローズマリー精油などから作るのだとか。
肌や髪が、アルカリに傾いた場合に使う、クエン酸やアップルビネガーのコンディショナーも作っていた
シャンプーなどの容器は、ポンプなど無い。落としても割れない硬質ガラスの瓶に、入れている。
バスタオルや手拭いは、イモムシさんと蜘蛛さんに作ってもらった。垢すりはヘチマだ。
これで内装はひとまず完成だ。あとは温泉を引くだけだ。
俺達は温泉ハウスの1階から、源泉のある山の麓に出る。湿気と暑さでムワッとくる。
「旦那、臭いぞ」
「鼻が曲がる」
「無理して付いて来なくても良いぞ」
午前中に選別した、3つの源泉から出るお湯が貯まっている池を、それぞれ土魔法で掘り下げる。深くしてお湯を多く貯め、ポンプを設置するのだ。
俺は、大きな扉の付いたゴーレムハウスを出す。倉庫兼作業場にしているハウスだ。扉は、3m以上の高さがある。扉を全開にして中に入った俺は、そこにある大きなゴーレムを見上げた。
ゴーレム倉庫内には、ポンプやパイプがまとめて置いてある。ゴーレム工芸で作ったステンレス製の配管部品だ。
ポンプも、ステンレスでパーツ一つ一つを作り、組み上げてある。
ステンレスは、鉄にクロムを添加した合金だ。耐食性に優れ、錆びにくい金属として有名だ。
クロムの含有量を増やし、さらにニッケルや、モリブデンなどを加えると、耐食性が向上する。
この大陸では、魔法で水がジャバジャバと出るように、金属や薬品も魔法で具現化できる。組成や化学式、製造工程なんかを思い浮かべると、魔力と反応して生み出されるのだ。ただ水ほど簡単にジャバジャバと出てくる訳ではなく、金属などは時間が掛かる。
だが魔力とイメージで具現化した金属を、種にしてゴーレムを作り、これに魔力を追加すると金属が簡単に増えるという、裏技を発見したので問題無い。
ゴーレム倉庫の中央には、一際大きな物体が鎮座している。作業用のロボットゴーレムだ。スライムゴーレムで骨格や外装を作った、体長3mのロボットで、人が内部に入って操縦する。
元の世界では、人が搭乗するロボットなど、アニメでしか見たことがない。
関節部分の多軸モーターの大きさ、出力、関節の可動域、多数のモーターを制御するプログラムなど、ロボットを作るには、難しい要素がたくさんある。なかでも、人間のように歩く時のバランス制御は難しい。
だがゴーレムは魔法生物である。科学技術で出来ないことも魔法でなら可能なのだ。ゴーレムには、関節を動かすための機構など無い。単一組織を動作、制御するゴーレム魔法陣があれば、魔力を糧にイメージ通りに動いてくれる。
余計なギミックも、機械も一切無い。骨格と外装だけのロボット(に似た生物)が動くのだから、魔法は面白い。
このゴーレムは中身はスカスカだから、体型の割りに軽い。パワーもスピードも魔力を込めた分だけ、いくらでも出せる。骨格も外殻も硬く作った。音もしないし、指先まで滑らかに動く。
そして操縦は簡単だ。自分の手足を動かせば同じように動く。脳内イメージでも動く。「右足前に」とか「左手掴め」とか、心の中で唱えても良い。
正に俺の夢を載せた作業用重機ロボットだ。
ただ作るのには苦労した。この前もらった勾玉を2個使用して、ボディを大きく、そしたり、早く動かすためにいろいろと魔法陣を改造して、なんとかかんとか試作品が出来上がった感じだ。今後はエルゴと共同で最適化していくつもりだ。
「な、なんだこれは。旦那はまた、けったいなもん作ったなあ。マリアに怒られるぞ」
「仕方ないだろうハルナ、ポンプが錆びないようにステンレスで作ったら、重くて運べなくなったのだから」
「呼人殿は、どこか抜けている。彼も同じ」
「カッカッカッ、良く言ったグリ。旦那には、どんどん突っ込まないと、自重の欠片もないからな」
「ありがとう、ハルナ」
うわー、面倒なコンビが生まれちゃったなぁ。ハルナに自重とか言われたくないよ。まったく!
俺は重機ゴーレムの胸にある、ハッチを開けて乗り込んだ。ハッチを閉めると一瞬暗くなるが、すぐにモニターが作動する。
モニターは、「TV」の魔法の一部を抜き取り、ゴーレムの周囲を撮影した映像を、操縦席に写し出している。操縦席では俺の周り、全周360°にモニターが展開して、外の状況を見ることが可能だ。死角は無い。
俺は操縦席に座った状態で、自分の足を前に動かしてみる。するとゴーレムもそれに追従して、ズン、ズンと重量音を発しながら足が動く。ポンプを持ち上げてみるが、動きに違和感は無い。腰を落として重量物を持ち上げても、バランスを崩すことは無く、重心の移動は完璧だ。
うん、魔法最高~。
「どうだハルナ、外から見ておかしなところはないか?」
俺の声が、魔法で外部に流れる。
「旦那、おかしな所って言われても、あたいにゃ、さっぱりわからねぇが人間っぽい動きだぞ」
「オーガやトロールより動きは速い」
「旦那、グリもこう言ってるし、大丈夫じゃねぇか」
「了解した。それじゃあポンプを取り付けてくる。熱湯が飛び跳ねるかもしれないから、ここで待っていてくれ」




