第二十四話 戦隊デビュー
◆戦隊の話
馬鹿息子お仕置き事件のあと俺は、エルゴに貴族の馬鹿息子の足取りと、近隣の街の情報を探らせた。
馬鹿息子は、エルクの街を逃げるように出て、隣街に行ったようだ。都に帰っていないということは、まだ何か仕掛けてくるかもしれないな。とエルゴと話していると、おばば様が、それは無いじゃろうと言っていた。
あの事件後、エルゴが事情聴取のため警備事務所に残ったが、おばば様が話を聞いてすぐに出向いたので、エルゴは揉めることも無く、事情を話して解放された。
警備事務所には、都や近隣の街との通信魔法整備があるらしく、おばば様はそれを使って、今回の件を都の人間に説明したと言う。
勿論「カプドヴィエル」の名も、正直に話したのだろう。おばば様は、クロールミアのドラゴン形態を見ているので、疑う余地はない。都との話の内容までは、話してくれ無かったので、王族がどう受け取ったかはわからないが、問題ないのだろうと思う。
今回は、他人のふんどしで相撲をとる形となったが、上手く収まってくれると良いなと考えながら、俺はお茶を飲む。
「ああいう馬鹿貴族って、実在したのねぇ」
とマリアは、相変わらず呑気だ。
「エルゴ、近隣の街を偵察して他に何かあったか?」
「私達には、関係ないと思いますが、その貴族が逃げ込んだ隣街で、近々孤児狩りが行われるとの噂が立っております」
ちょ、ばっ、エルゴ、子供の話題は、マリアがいるところですると面倒だ。俺がエルゴに目配せすると、エルゴがニヤリと笑った。わざとかよー! 勘弁してくれ!
「そ、そうだな。俺達には関係ないな」
「あら、よぶちゃん。どういうことかしらぁ」
はい、やはりきました、マリアの男気スイッチ。子供が絡むと、すぐに暴走するのは止めてくれよ。聖母マリア様でも狙っているんじゃなかろうか。
「だって関係ないじゃないか」
「子供が困っているのに見捨てるの? よぶちゃんが許しても魔法乙女戦隊は許さないわよぅ」
こうなると「戦隊出動です」と、胸を張るおっさんには、俺の言葉は届かない。目立ちたく無いって言ってるだろう? 聞いてくれよおっさん! などとジト目でマリアを睨んでいると、エルゴが追加情報を話し出した。
「呼人様、狩られた孤児は、どうやらあの貴族の坊っちゃんが、買い付けるようです」
「この前の馬鹿息子かエルゴ。しかしこの国では、子供の奴隷売買は禁止じゃなかったか?」
「公爵の息子だから問題無いと、息巻いているそうです」
「まったく貴族は、ろくでもないな」
「孤児狩りをするのは、隣街に拠点を置く犯罪組織だとか。前にグリフォン隊長たちを捕まえた組織の、敵対組織らしいです」
「魔物に襲わせようとした事件か」
「ええ呼人様、あの事件でライバル組織が潰れたので、今は力を得てやりたい放題だとか。我々の身内を害そうとした貴族の馬鹿息子と、魔物事件の後始末を、まとめてできる良いチャンスです。クククッ」
おいおい、楽しそうだなエルゴ。俺は目立たず楽しくがモットーだと言ったはずだぞ。エルゴもマリアも、わかっているのだろうなぁ。
隣街の犯罪組織は、潰された組織よりかなり大きな組織らしい。そしてバックに貴族の馬鹿息子。テンプレだなぁ。
数日後の朝、俺がモーニングティーを楽しもうと居間に行くと、おばば様がソファーに座って新聞を読んでいた。
「呼人殿よ。今日の新聞には面白い記事が載っておるぞ。ククッ傑作じゃ」
見ると、キック○アスのヒッ◯ガール並みに、格好良いポーズを決めた、乙女ブルーがデカデカと1面を飾っていた。アロロクもやる時はやるもんだ。
端っこには、赤いドラゴンの写真や、魔法乙女戦隊が5人揃った写真もある。赤いドリルヘアー、筋肉ムキムキのおっさん、そして黄色いあいつ、知ってる奴が見たら正体バレバレじゃないか。いかんいかん、遺憾ぞう。敵が増えるばかりだ。
それにしてもルミアの奴、大きくなると竜族に見つかるぞ。それにドラゴンは、伝説に近い生き物じゃなかったのか? こんなに堂々と、新聞に映って大丈夫なのか? 心配だぞ俺は。
「写真は誰が撮ったんだ」
「TVの魔法みたいなものじゃ。報道関係者のみに使える魔法じゃ。被写体を見据えれば、適当な静止画が撮れるらしいのう」
記事には、隣街で「魔法乙女戦隊」と名乗る集団に、犯罪組織が潰されたと書いてある。ご丁寧に、インタビューまで受けているとはマリアめ、目立つなって言っただろう。……まあ無理だな。
マリアが作った魔法乙女戦隊とは、
乙女レッド:クロールミアが担当。
乙女グリーン:ヘーデリア担当
乙女ピンク:マリア担当。戦隊ヒロイン兼リーダー
乙女イエロー:五郎担当。カレー大好き
乙女ブルー:アロロク担当
の5人で悪を撃つ、超絶乙女ユニットだとか。
街には組織の拠点が7つあって、魔法乙女戦隊がそれぞれに別れて向かったらしい。残りの2つは、黒い紳士と赤い猫娘が対応したと書いてある。なんだそれ? 魔法乙女戦隊以外にも馬鹿がいるのか?
記事は、赤い少女がドラゴンに変身してブレスを吐いたら、拠点の一つが爆発しただの、緑の少女が手を挙げたら、神の鉄槌(雷)が降り注ぎ、拠点が潰されただの、桃色の女戦士が~、黄色い熊が巨大化して~、青い少女が~、黒い紳士が~、赤い猫娘が~、と実況風にまとめられている。
ピンクはおっさんだし、イエローは熊じゃないぞ。
そして黒幕の貴族や組織の上層部の人物が、首だけの状態で、街の広場に晒されている写真もある。黒幕の例の馬鹿息子だけ、顔の上半分が黒く塗りつぶしてあるが、生首が晒されている写真は、かなりショッキング画像で、元の世界だったら絶対まずいだろうと思う感じだ。
この大陸では普通じゃと、おばば様が平然と言っている。
そして例の如く、犯罪の詳細が記された書類が、警備兵団に送られたので、生き残った関係者も、軒並み捕まったらしい。街では魔物事件の時も、魔法乙女戦隊の仕業だったのではと噂させているとか。
魔法乙女戦隊は、インタビューの後に「孤児たちは、頂いていくわぁ」と言って、飛び去って行ったとか。街では、犯罪組織と孤児の問題が無くなり、魔法乙女戦隊は、英雄のように持て囃されているらしく、近々演劇化も検討されているとのこと。
尚、黒い紳士と赤い猫娘に関しては、写真もインタビューも拒否されたと書いてある。
まさか黒い紳士ってエルゴじゃないだろうなぁ? すると赤い猫娘はハルナか?
丁度、エルゴ達が居間に現れたので聞いてみた。
そのことですかと言いながら、エルゴが変身する。レイピア、つばの広いトップハット、アイマスク、マント、まるで怪傑○ゾロじゃないか。
ハルナも自慢気に変身してくれた。ハルナはキャット○ーマンかよ。全身テカテカのボンデージ、口の部分が開いたマスク、猫耳と尻尾は自前だ。
君たち、俺の脳内情報を使って何をやっているのかな? いるのかなぁ?
因みに、孤児たちは事前に救出していたらしい。犯罪者どもを生首にしたのは、エルゴとハルナで、マリアの指示では無いとのこと。そして戦隊が飛び去ったのは、「飛翔」の魔法だ。グリフォン隊長やクロールミアが持っていた。竹箒に乗らなくても、人間単体で飛ぶことが出来る。ただし練習が必要だ。
「しかし馬鹿息子を殺しちゃって、公爵家に恨まれるのは面倒だな」
「呼人殿そうでもないぞ。あの馬鹿息子は、公爵家でも手を焼いていたと、有名な御仁でな、この前の件もあってか、事件直前に縁を切られておったらしい。都合の良い事じゃな。事件を報道することにも、公爵家は反対しなかったらしくてな。実際、喜んでいるのではないかと噂されとる」
「そうなのか? それは良かった」
「ただ家名が傷つくので、関連貴族の名は情報規制されとるようじゃの」
公爵家が折れたか。おばば様の話しが本当なら、面倒が無くて良い。それにしても、竜族の王家「カプドヴィエル家」の名前は凄いな。そう言えば俺達も最初、ルミアをボコっちゃったけど忘れてくれてるかな?
そんなことを考えていると、当の魔法乙女戦隊が起きてきた。新聞を見せると、みんな嬉しそうにはしゃいでいる。俺は褒めて良いのか、怒った方が良いのかわからない。喜ぶみんなの顔を見ていると、俺も嬉しい気持ちで、顔が綻ぶのを抑えられないのだ。
そんな俺達に、ポカポカと温かな日差しが降り注いでいる。この幸せがいつまで続くのかな? と思った俺は、つくづく小心者なのだと実感した朝であった。
◆孤児の話
孤児狩りにあった子供たちは、マリアが引き取った。40名ほどいるらしい。今は脅えているので、ゴーレムハウスでパン粥などの、消化の良いものを食べさせて養生中だ。
ついでにエルクの街と、ダンジョン街の孤児も引き取ったらしく、全員合わせて70名も子供がいる。マリアたちは、風呂や食事など子供の世話に忙しい。
ほとんどの子供が、衰弱しており、無気力だったが、事件から数日経った今は、栄養状態も改善されてきて、徐々に元気を取り戻しているとのこと。
ゆくゆくは箱庭で農業を教えて、独り立ち出来るようにしていくつもりだ。
余談だが、俺も凄く忙しかった。食器やら調理器具やらを作っていたからだ。孤児だけで70人、魔物や精霊、仲間を合わせると、総勢150人もいるのだ。
これらが生活する為の諸々(もろもろ)を、作らなければならない。ベッドなどの家具は、ゴーレムハウスを改造すれば良いが、食器や服はそうもいかない。
しかも魔物の体格や精霊たちに合わせて、大きさを変えなければならないので大変だ。
皿、深皿、大皿、お椀、コップ、スプーン、フォーク、鍋、フライパンなどを、大量に作らなければならない。ゴーレム工房大忙しだ。
そして蜘蛛さんとイモムシさんも大忙しだ。蜘蛛さんは機織りだけでなく、裁縫も出来るらしい。シンプルな子供服にタオルやタオルケット、布団にクッションなどを大量発注した。すぐには数が揃わないけど、蜘蛛さんが頑張って順次生産中だ。
孤児の件は、マリア達が勝手にやった事なのに、ごめんね。
因みに、タオル生地は街に売ってなかったので、蜘蛛さんの機織り魔法を改造して作った。フカフカのタオルは、気持ちが良くてみんなに好評だ。蜘蛛さんありがとう。
◆ウォータードッグ事件のその後
冒険者ギルドの買い取り職員のガルドは、俺が持ち込んだウォータードッグ(大山椒魚)の買い取りの件で俺と揉めていたところを、ギルドマスターとおばば様に見られてしまった。
彼は前々から、新人冒険者の買い取り金額を誤魔化していると、噂があった人物だ。
今回、俺と揉めた事、命に関わる薬を作る為の素材を 仕入れ損なう事態を引き起こした事を、重く見た冒険者ギルドは、過去の不正も含めて、徹底的に彼の行動を洗った。
その結果、ガルドは同僚職員と結託して、悪事を働いていたことが判明したのだ。
これにより、過去2人が共謀して、隠していた悪事も明るみになり、犯罪者として取り調べを受けたあと、2人の財産は没収され、身柄は犯罪奴隷として鉱山行きが決まった。
因みに、今回の件については、薬師ギルドから冒険者ギルドに対して、強い抗議があったことも付け加えておく。
俺には、冒険者ギルド側から改めて謝罪があり、慰謝料として金貨50枚が支払われた。
◆育毛剤の話
俺は冒険者ギルドで、ウォータードッグの買い取りで揉めたことがあった。
その際に、俺が育毛剤を販売する予定があることを話したら、たまたま居合わせた冒険者3人に、育毛剤を売ってくれと頼まれた。
俺はまず試供品を渡して、効果を確認して欲しいとお願いした。
それから俺は、家の整備やら何やらで忙しくしていた。
そんなある日、道端で冒険者から声を掛けられた。
「よう、あんた呼人だったか? 冒険者同士だから、呼び捨てで構わないか?」
「ああ、構わない。あんたは育毛剤の試供品を試してくれた人だよな。どうだった?」
「ああ、これを見てくれ」
と言って頭を突き出してくるが、おっさんの頭など見たくない。
「凄いだろ。産毛が生えてきたんだ」
「じゃあ、効果があったんだな」
そう言いながら、俺がチラッと冒険者の頭を見ると、確かにツルッパゲのテカりはなく、うっすらと産毛が生えているようだ。
「まだ、5日しか経ってないのにこれだぜ。俺はもう嬉しくて、嬉しくて…グスッ」
いいおっさんが道端で泣くなよ! 俺がカツアゲしてるみたいじゃん。
「それは良かったじゃないか」
「ああ、ありがとう。あんたが神薬を作ってくれたおかげで、俺達は…、俺達は…」
感無量で声にならないようだ。しかし神薬って大袈裟だなぁ。
「他の人も効果が出たのか」
「ああ、みんな似た感じだ。酒場で会うたびに、髪の成長記録を紹介するのが、最近の俺達の楽しみになっている」
「酒場なんかで、そんな話したら笑われないのか?」
「いやいや、それを聞いて別の冒険者が驚いてな。どうしたんだと話題になっているくらいさ」
「へー、じゃあ売れそうかな?」
「ああ、結構買う奴がいると思うぞ」
「実は、まだ商業ギルドに登録していなくてな。店も持ってないし、どうやって販売しようか、迷っているところなんだよ」
「そうなのか? 実はこっちも冒険者仲間が、しつこく事情を聞いてくるんだ。俺も教えてやりたいのは山々なんだが、あんたの機嫌を損なうことはしたくねぇ。
だから教えても構わないか聞きにきたんだけど、販売の目処が立たないなら、教えない方が良いか?」
「いや物はあるから、あんたらの分3本は売っても大丈夫だろう。最悪、おばば様名義で売れば良いしな。初めての奴は、無料の試供品からだから問題ない」
「じゃあ、呼人。今からギルドの酒場に来てくれ。今の時間なら結構人がいるはずだ」
こうして俺は、冒険者ギルドの酒場に連れてこられて、禿げたおっさんにキラキラした目で迎えられるという、羞恥プレーを味わうことになった。
あの3人には育毛剤の製品版を売り、初めての客には試供品の小瓶を渡して、使い方と注意事項を説明した。因みに、初めての客の中に、ギルドマスターが混ざっていたのは言うまでも無い。
「ええと、みんな聞いてくれ。俺は今、おばば様の家に厄介になっている。だから育毛剤の販売は当面、おばば様の家でやる。おばば様の家の位置はわかるか?」
「ああ、大丈夫だ。冒険者は大抵、おばば様の回復薬の世話になっているからな」
「おばば様は、自分の家で薬を売っているのか?」
「そうだ、窓のところが店舗になっているんだ」
「そうだったのか、知らなかったよ。販売や質問はそういうことで、おばば様の家に来てくれ。それと一つ頼みがある」
俺は育毛剤の情報を人に教えるときに、噂も一緒に流して欲しいとお願いした。
①店主は偏屈で、へそを曲げると育毛剤を売ってもらえない。
②店主は、偉そうに権力を振りかざす者が大嫌いで、話もしない。
③店主は、気に入らないことが起これば街を出ると言っている。そうなれば2度とこの街で、育毛剤が売られることは無いであろう。
以上の噂を流してもらうことにした。面倒な客は来ないで欲しい。
「ああ呼人、任せてくれ。神薬のためなら何だってやるさ。なあみんな!」
「おお、任せろ!」
こうして育毛剤の販売が始まった。実際の販売は、アロンちゃんに知識を教えて丸投げなんだけどね。貴族とか厄介な客が来たら呼んでもらおう。




