第二十三話 こぼれ話
◆ルミアの服の話
俺は今、悩んでいる。魔法乙女戦隊の服の件だ。
戦隊の全員がスライムゴーレムで、人間形態であれば簡単だ。外観イメージを登録しておけば、好きな時に変身できる。アロロクとヘーデリアは問題ないのだ。
しかし現状の戦隊には変身の際の問題がある。
①人間形態でない者が2名いる。
ルミアは竜だし、丸々太った五郎にゴスロリ服を着せるのはどうなのだろう。そして顔バレ防止のアイマスクがあまり意味がない。
②スライムゴーレムで無い者も2名いる。
スライムゴーレムでは無いマリアとルミアが、瞬時に変身するのは物理的に不可能である。
乙女レッドに、めでたく就任した幼竜のクロールミアは、ドラゴンであるため人間形態でなく、スライムゴーレムでも無い。しかも通常の体長が、1mであるのに最大5mに巨大化する。
普段の裸状態、変身後の戦隊服、巨大化後の戦隊服の、3パターンを一瞬で変形しなければならない。
その上、元々の体色が赤いので、赤い服が映えないという問題まである。
厄介だ。俺は、肩車状態で後頭部にへばりついているクロールミアに話し掛けた。
「なあ、ルミア。お前は人間に変身できないのか?」
「今は出来ぬな」
「今は?」
「竜族は元々、精霊と同じ霊体じゃ。今は肉体を持つとはいえ、魔物の中では変化の術が得意な方なのじゃ。妾が小さくなっているのも変化の術じゃ」
精霊さんが前に言ってたな。太古の昔、竜族は霊体だったが受肉して人間界で暮らすようになったと。
「大人のドラゴンは人化の術が使える。お婆様達は人化して、たまに人間界に行っておるのじゃ。ドラゴンのままでは人間が驚くのでな」
ほう、人間とも関わりがあるのか。
「大人にならないと使えないのか?」
「そうでは無いのじゃ。人間と絆がなければ使えないらしい。妾には絆が何なのかわからん。今まで人間になりたいとも思わなかった」
「は? そんなことなのか? 今は俺やマリアと絆があるじゃないか。ルミアは俺達が嫌いなのか?」
「お主達は好きじゃ。一緒にいて楽しいし料理も美味い。ただ、なりたい人間の形態が思い浮かばんのじゃ」
「こんなのはどうだ?」
俺は、お姫様風の縦巻きカールをした少女の絵を描いて、髪を赤く塗ってみた。目はきつめのドリルヘアー美少女だ。
「おお、良いのう」
「これで変身できそうか?」
「呼人よ、この絵をくれるか? これをイメージしながら寝るのじゃ。慣れればすぐにその姿になれるようになる」
「そうか、少し頑張ってみてくれ」
これでルミアが人化できれば、五郎以外はデザインが揃うから、戦隊として格好がつくだろう。五郎もいっそ人間形態にするか? マリアが承知しないだろうなぁ。
結局、五郎の戦隊服も、基本的にみんなと同じデザインにした。四足歩行だし体型が太っているので、同じに見えないのは仕方がない。
あと顔バレ防止のアイマスクは、顔と頭を覆う普通のマスクにする。五郎の鼻と口が外に出ているタイプのマスクだ。
巨大化に関しては、五郎はスライムゴーレムなので、服も変形は自在であるからいろいろと誤魔化せるし、服も一緒に巨大化するので問題ない。
クロールミアの巨大化は、専用バージョンを用意しよう。顔はマスクより、顔と首まで覆う金属の兜が良いだろう。
マリアとルミアの戦隊服は、やはりゴーレムハウスで作るしかないな。ゴーレムハウスは、スライムの体組織で出来ているので、イメージを焼き付けておけば、魔力を流して変形出来る。色や質感も思いのままだ。スライム服という訳だ。これで瞬時に変身できるだろう。
◆ルミアの人化の話
その日、俺達はエルクの街に買い物に出た。買いたい物があった訳ではない。
幼竜のクロールミアが人化の術に成功したので、人の街を人間形態で歩いてみたいと言い出したからだ。
俺は普段、クロールミアと一緒に寝ることが多い。勿論ドラゴン形態だ。マリアはいつも、使い魔のヘーデリアと五郎とベッドを共にしている。
俺の使い魔は大人だし、俺と一緒に寝ることは無い。たまに朝起きるとハルナとアロロクが、「旦那成分の補充」だと言って、ベッドに潜り込んでいることはあるが、俺は基本独り寝のつもりだった。
しかしクロールミアが寂しそうだったので、ベッドに誘ったらツンデレ状態で布団に入ってきた。ドラゴンとはいえやはりまだ子供だ。
先日、ひょんな事からルミアに人間にはなれるのか? と聞いてみた。今は出来ないが、練習すれば人間形態になれるのだとか。
そして何日かイメージ図を枕元に置いて寝た結果、見事に今朝、人間になっていたのだ。
朝、マリア達が俺を起こしにきたら、知らない女の子が俺に裸で抱き付いて寝ていたので驚いていた。俺は即刻叩き起こされて、嫌味を言われている。やれ不潔だの、破廉恥だの、助平だの、ロリコンだのと女性陣(おっさん含む)から、散々罵られた。
「だから、不可抗力だって言ってるだろう」
「いたいけな少女に抱き付かれて、ニヤけているようなロリコンの言葉は聞こえません。ルミアちゃんは、今夜から私達と寝ますから。これは決定です。
本当、男子って油断も隙もないわぁ」
「マリアだっておっさ「聞こえません!」」
まったく、聞けよおっさん! ニヤけてなんか無いだろう!
因みに、ルミアの人化はまだ慣れていないので、今解けば、すぐに人型に戻れないらしい。人化にまた一晩掛かるとのこと。慣れればすぐに切り替え可能とか。
ドラゴンのクロールミアは、俺が描いたイメージ図のように、目がきつめで赤髪が縦巻きカールの美少女に変身している。所謂ドリルヘアーだ。背丈はヘーデリアと同じくらいで色白だ。
服はスライム服を着ている。スライム服はゴーレムハウスと同じ、スライムの体組織の変形機能を利用した服だ。
白とパステルピンクを基調にした上品な服装は、正にお姫様という感じで、フリルがふんだんにあしらわれた、ドレス風のワンピースは、パニエ(スカートを広げるための下着)を履いて、大きく広がったスカートが、優美さを感じさせる。袖がラッパ状に広がったボレロを羽織り、フリルのついたカチューシャを頭に乗せている。
うーん、俺の「のじゃロリ」願望が、こんな所で叶うと思わなかったよ。
おばば様の家からエルクの街まで歩いて30分、いつもは飛行魔法を使うのだが今日は歩いた。クロールミアが歩きたいと言ったからだ。だが10分も歩くと「疲れた」と言って肩車をねだる。普段歩き慣れてないから疲れるようだ。
エルゴの方が、背が高いから見晴らし良いぞ。と言ったらエルゴに飛び乗っていた。ドラゴンは「飛翔」の魔法が使えるので、ホウキに股がらなくても飛べるらしい。執事に肩車される姫様は、案外絵になるものだ。
街についた俺達は、ルミアと俺を先頭にみんなで連れだって歩いている。エルクの街は辺境の街なので、目抜通りもそれほど長くない。俺はすぐに飽きてしまうのだが、女性陣(勿論おっさん含む)は、あっちにフラフラ、こっちにフラフラしている。
クロールミアも、人間視線でものを見るのが新鮮なのか楽しそうだ。
そんな中、ルミアに突然話し掛けてきた老人がいた。エルゴと同じ執事風の老人は、上品な仕草でルミアに近より、「どちらのご令嬢でしょうか?」と問い掛けてきた。
エルゴが即座に進み出て、「お忍びですので、ご容赦を」と返している。それに対して老執事は、後ろをチラ見しながらこう言った。
「よろしいので御座いますか? 我が主は、位高き貴族のご子息に御座いますよ。社交に傷がつく可能性が…」
老執事は暗に言うことを聞けと遠回しに脅してきた。これに対しクロールミアは冷めた口調で執事を叱責する。
「無礼であろう。人間の地位など興味ないわ。疾くと去ね」
「無礼はそちらであろう、僕は公爵家の長男だぞ」
老執事が手こずっているのを見て、主の貴族がこちらに近づいてきて宣った。
高校生くらいの年齢だろうか、良い身なりだが、太った体がだらしない。後ろには、護衛が3人控えている。4人共にニヤニヤしているのが、非常に不愉快だ。
「お主は馬鹿か? 妾は他国の姫であるぞ。この国の公爵など、とるに足らぬ存在じゃと知れ」
「嘘をつくな! ならば証拠を見せろ」
「本当に阿呆じゃな。カプドヴィエル家を知っておるか?」
「そんな名前は、聞いたことも無いわ。余程の弱小国家であろう。僕に逆らったことを後悔させてやる」
「カプドヴィエルの名を知らぬとは、国から重宝されておらぬ証拠じゃ。お主こそ後悔するで無いぞ」
真っ赤な顔で怒りだした馬鹿息子に、後ろから老執事が耳打ちをしている。
「う、嘘に決まっている。そんな家、実際に見たものなどいないではないか」
「そこの執事よ。早く馬鹿な主殿を止めた方が良いぞ。今ならそなたらの首だけで話しが終わるかもしれん。すぐに都に帰り王族に相談せい。カプドヴィエルに喧嘩を売ったとな」
老執事も馬鹿息子も、王族という言葉に冷や汗をかいて、押し黙ったままだ。
クロールミアは竜族の姫だと言っていた。カプドヴィエルとは、竜族の王家の名前なのだろう。ドラゴンはすでに伝説と化しているが、未だに一部の人間と交流があるとのこと。国のトップには、この家名が知れているようだ。
ドラゴンは1匹でも、国を滅ぼす力を持っていると聞いた。一国の公爵家、しかも息子など敵う相手では無いのだろう。
「早く妾の目の前から消えねば。お前の家どころか、この国ごと滅ぼしてしまうぞ。良いのか?」
「……」
「ええーい! 構わん斬れ、斬り殺せ!」
「坊っちゃま、いけません」
老執事が狼狽えているのを見て、後ろの護衛は及び腰になっている。馬鹿息子は、焦りながらも「証拠が無いではないか」と強気だ。そんな名前を知っている時点で、地位の高い人物だとわからないようだ。
3人の護衛が、おずおずと前に出て来て、剣に手を掛けると、こっちはメイド服のハルナが、余裕の表情で一歩前に出てきた。竹箒で肩をトントンと叩いている。
「よう馬鹿息子。こいつらじゃダメだ。後ろに活きの良さそうなのがいるじゃねーか」
いつの間にか、馬鹿息子の斜め後ろに、軽鎧を身に付けた、冒険者風の男が立って、こちらを睨んでいる。目付きが暗く、微かにニヤけている。殺しが得意な用心棒といったところか。
不意に用心棒が、ハルナ目掛けて動く。まるで疾風だ。俺の目には消えたと思ったら、「ドンッ」と音がして、ハルナに体当たりしているのが、確認できただけだった。
ハルナは用心棒のぶち噛ましに、微動だにしないで尻尾を揺らし、冷めた目で用心棒を見下ろしている。ハルナの首と胸には、用心棒が両手に抜き放った、ナイフが刺さっている。
用心棒は「勝った」と思ったのだろう。ニヤリと笑った途端にハルナの張り手に張り飛ばされた。
ハルナはスライムゴーレムなので、ナイフで刺してもダメージはない。本当はナイフも刺さらないほど、体表を硬く出来るのだが演出かな?
バシィィッ、ドンッ!
張り手の音のすぐ後に、近くの商家の壁に用心棒がぶつかる音が聞こえた。
ハルナが、道に横たわり、顔を擦っている用心棒に近より、首を足で踏みつける。用心棒は苦しみながらも、ナイフをハルナの足に突き刺した。だが今度は刺さらない。驚く用心棒の手が、ハルナの竹箒で地面に縫い付けられたのは、そのあとだった。
「ギャアアアッ」
ヤマアラシの背中のように、尖ったホウキの先が、腕を通り抜けて道の土に突き刺さっている。ハルナはホウキを持ち上げると、更にもう1本の腕を突き刺す。そして右足、左足と順番に突き刺す度に用心棒から悲鳴があがる。
「あとは、頭と腹しか残ってねーな。どっちを先にする?」
ハルナが聞いても答えは無かった。用心棒は、泡を吹いて気絶していた。相変わらず容赦ないなぁ。
馬鹿息子主従も、周りの観衆も、勿論俺達もドン引きだ。ハルナは「旦那、終わったぜ」と、揚々と俺に近づいてくるが、俺は他人の振りをしたいと、真剣に思った。だって俺が指示したみたいじゃん。周りの視線が痛いよ。
今度は執事服のエルゴが、腰の大刀に手を掛けながら一歩前に出た。護衛達は、一歩下がる。そして同じ執事に向かって、こう言った。
「あなたは執事失格です。こうなる前に主を諌めることが出来なかった」
老執事は、答えることが出来ない。
「えーい! うるさい。早く斬れ、僕の命令が聞けないのか」
貴族が喚き、護衛はあとが無いと思ったのか、剣を抜き放ち中段に構える。
エルゴが「愚かな」と言いながら、横薙ぎに一閃、大刀を振るうと、護衛の持つ3本の剣が真ん中から斬れて、切っ先が地面に落ちた。「ヒーッ」という護衛の叫びに被せて、更にエルゴが大刀を何度か振るうと、3人の護衛がストンと腰砕けに倒れた。血は出ていない、どうやら峰打ちのようだ。
エルゴの刀は、高周波振動ブレードだ。刃の部分に、高周波で振動する風刃の魔法をまとっている。普通の鋼の剣など豆腐も同じだ。斬るのに音さえしない。科学では難しい技術も、魔法では簡単に出来たりするのだ。
エルゴが、大刀の切っ先を馬鹿息子に向けて、「さて、次はどうなさいますか?」と問うが、貴族主従は下を向いて答えない。
エルゴが首を横に振りながら、また大刀を振るう。主従が、護衛と同じように倒れた頃、見計らったように街の警備兵が到着した。
警備兵が、事情聴取にご足労願いたい。と言うのに「お忍びだ」「カプドヴィエルの名を王家に尋ねよ」と、またやり始めて収拾つかないので、俺が残ると言ったら、使い魔達が「私が残ります」「いやいやあたいが」「おでが…」と始まり、結局エルゴが事情聴取に残ることになった。
こうして「馬鹿息子お仕置き事件」は解決した。
クロールミアの街デビューは、騒がしく終わったが、本人は「楽しかったぞ」と、ご満悦な様子で帰宅して、おばば様にその時の様子を話をしている。
おばば様は「公爵とは誠か」と驚き、「わしが説明に行く」と、街の警備事務所に向かって行った。
その際に、おばば様がルミアに「カプドヴィエルの名は、出して良いのじゃな」と確認して、ルミアが「この国の王家に問い合わせれば話は早い」とか、「公爵なぞ屁でも無いわ」とか、「お忍びじゃから、挨拶には来るなと伝えよ」とか偉そうに言っていた。お忍びという言葉が気に入ったようだ。
おばば様もこの家名を知っているんだな。おばば様も意外に偉い人なのかな?




