第二十二話 服
俺は五郎たちが助けた魔物と友達になったのだが、その中に蜘蛛の魔物がいて、「機織り」という魔法を持っていた。この蜘蛛自体は糸を吐かないのだが、共生関係にあるイモムシから糸をもらって蜘蛛が巣を作ったり、布を織るという。
イモムシの糸は鋼糸、粘糸、麻、綿、絹など種類が多彩だった。
試しに糸になる前の、綿状の繊維は出せるのか聞いたら、ふわふわの綿が出てきた。これで布団やクッションも作れる。
この蜘蛛の魔物が、ダンジョンにいた頃に暇にまかせて織った布を大量にもらった。鋼糸で編んだ防刃布だ。最初は1枚1枚別れていたが、繋げて反物にしてくれた。魔法糸なので魔法で繋げられるらしい。
そして森で戦った大蜘蛛の糸も渡して、反物にしてもらった。
俺はこれらの布で、早速服を作ることにした。使い魔たちはスライム組織の変形で、いくらでも姿を変えられるので服はいらない。
しかし俺はオレンジ色のパーカーという、目立つ格好を隠したいのでローブが欲しい。
マリアにも防具代わりのローブを作りたい。なんと言っても蜘蛛さんが作った布は、イモムシさんが出した鋼糸という丈夫な糸でできているので、防刃性に優れている。魔法耐性も高いらしいのだ。
おばば様に店を教えて欲しいと言ったら、「ドワーフの村の職人に頼んでやる」と言って、アロンに職人を呼んでるように言いつけた。呼び出さなくても俺が出向くのに…。
俺達がお世話になっているのは、ドワーフの集落なので職人がたくさんいる。鍛冶、木工、細工、革加工、裁縫、酒造など何でもござれだ。集落で作った物を、エルクの街にある共同経営の店で、売っているのだとか。
ドワーフは国を持たない種族らしく、小規模の集団に別れて、人間の街の近くに村を作り、鍛治仕事や酒造などで、生計を立てているらしい。この集落はそのひとつというわけだ。
ドワーフ達は、おばば様には病気や怪我の時に世話になっているので、頭が上がらないらしい。
そうこうしている内に、アロンがドワーフを連れて帰ってきた。髭もじゃの頑固そうなおっさんだ。俺の苦手なタイプだ。ガッチリした体躯に、150㎝くらいの低い身長。寸詰まり感が、俺のドワーフのイメージにピッタリだ。
エルゴがガラスのコップに、冷やしたハーブティーを淹れてくれた。
「おばば様、仕事だと聞いたが何じゃ」
「この者は、わしの弟子の呼人殿とマリア殿じゃ。彼がローブを作りたいそうじゃ。話を聞いてやっとくれ」
「はじめまして呼人といいます。この布を使って、俺とマリアとアロンのローブを作りたいのですが可能ですか?」
俺は蜘蛛さんからもらった布を、何反も収納庫から出してテーブルに置いた。
かしこまった喋り方は好かんと言いながら、ドワーフの職人は布を手に取って眺めている。ドワーフはだんだんと目を見開いて、終いには俺と布を交互に見比べている。そしてそれを見た、おばば様がニマニマと笑ってお茶を啜っている。
「あ、あんた、この布はキングクローラーの布じゃないか? それを反物で…。こっちの布は見たことも無いが、キングクローラーよりも素材が良い」
イモムシさんは、キングクローラーと言うのか。何でもキングクローラーの布は、ダンジョンでしか手に入らない貴重品らしく、絹ほどではないが十分に上品な滑らかさがあり、強度も魔法耐性も高い人気の品だとか。
でもキングクローラーを狩るのは難しいらしい。キングクローラーに対峙している間に、いつの間にかウエイバースパイダーに噛まれて毒にやられるのだとか。蜘蛛さん、毒持ってたのね。
「そっちの布は、タイラントアラネグアの糸で編んだ布だ。どちらもたまたま手に入ったものなんだ。この布でローブを仕立てたいんだが。裁断や仕立ては出来るかな?」
「馬鹿にするな、出来るに決まっておろう。おばば様の依頼と思ったから来たが、若造が舐めた口を叩くと許さんぞい」
「ああ、すまない。あんたの腕を馬鹿にしたわけじゃないんだ。防刃素材なのに切れるのかと、疑問に思っただけだ。素人発言だから許してくれ」
これだから、頑固な職人って厄介なんだよと思っていると、おばば様が援護射撃してくれた。
「ゴンゴス、お主こそ舐めん方が良いぞ。先に配られた流行病の薬は、呼人殿に提供してもらった物じゃ。あれが無かったら、この村でも何人死んでいたか分からん。感謝こそすれ、怒鳴り散らすのは筋違いじゃ」
「なんと、ウォータードッグや貴重な素材を、無料でおばば様に渡したと言う奴か。それはすまなんだ、あんたのおかげで村は安心できた。無礼を詫びよう」
「そうじゃ、この村は、この先何年も薬の素材に困ることはない。有難いことじゃ。呼人殿とその仲間に無礼を働く者は、わしが許さんと村人にも伝えておけ」
「わ、わかった。村長として責任持って伝えよう」
ただじゃなかったけどね。そして服の話に戻るかと思いきや、ドワーフのおっさんは、コップに興味を持ち始めた。「これはどこの職人の作品じゃ」とか「こんな透き通るガラスは見たことない」とか「均質で素晴らしい腕じゃ」とか、俺達を無視してはしゃいでいる。
「ゴンゴスさん、このコップは俺が作ったんだ」
「なんと、呼人殿は工芸の腕も凄いのじゃな。ドワーフは、人間でも腕の良い職人は敬う。この村にお主を馬鹿にするものはおらんじゃろう」
「ああ、それは助かるけど違うんだ。技術で作ったわけではなく、魔法で作ったんだ」
「魔法でじゃと、おばば様本当か?」
「ゴンゴス落ち着かんか。わしも初耳じゃ。そんな魔法、今まで聞いたこともないわ。呼人殿それは誠なのか?」
「おばば様は、ゴーレムって知っているか?」
「岩や鉄で出来た、動く人形の魔物じゃろ」
「俺はゴーレムが召喚できる。そのゴーレムを操って作ったんだ。ゴーレム工芸って呼んでるよ」
俺は、裏庭で集めた鉄の塊をテーブルに出す。これも魔法で集めたものだ。水魔法で、水がジャバジャバ出せるのと同じように、イメージさえ合えば鉄も出せる。ただし水ほど大量には出てこない。なぜか時間が掛かるのだ。
だが不思議なもので、イメージで種となる鉄を作り、アイアンゴーレムにして魔力を流すと、鉄がすぐに増えるという裏技を、俺は発見してしまった。鉄でなく金でやったらどうなるのか。ぐふふ、今は置いておこう。
俺がテーブルの上の鉄塊に、魔石(ゴーレム魔法陣を組み込んである)を乗せて魔力流すと、鉄塊が手の平ほどの人形となり歩き出す。おばば様とアロンが「おおー」と驚き、ゴンゴスは声も出ない様子だ。
そして俺は、鉄の人形に手をかざして、イメージと魔力を送る。すると人形の手がニュ~と伸びて、ナイフの形を取る。俺は、人形の手からパキンとナイフを折り取って、ゴンゴスに渡した。
「これがゴーレム工芸だ。勿論ガラスでも出来るが、種ガラスを作るのに、火がいるからここでは出来ない。他には木や土、銅や銀なんかでも応用できる」
そう言いながら俺は、収納庫から今まで作った食器をいくつか出した。ゴンゴスは、木の皿や銅の鍋、ガラスの大皿を食い入るように見てため息を吐いた。
「呼人殿が商売を始めたら、わしら職人のおまんまは食い上げだわい。がははは」
「こんなに簡単に作られたら、確かに堪らんのう」
「いやいや、自分達の分しか作らないよ。他人の食い扶持を、奪うような真似はする気はないから、安心してくれ。それに職人が作った物には、敵わないだろ?」
「何を言うとる。ガラス職人は少ないから、技術も未熟じゃ。多分このコップを見ただけで、卒倒するぞ。大皿なぞは作れんじゃろうて。このナイフも鍋も、下手な職人より全然上だわい」
「呼人殿は、少しは自分の特異性に気が付いたらどうじゃ。ファーファファファ」
「おばば様の言う通りだわぁ」
「アロンも、お婆ちゃんの言う通りだと思う」
ええー、アロンちゃんまで…、魔法ってこうやって便利に使うものじゃないの?
その後、ドワーフの職人のゴンゴスは、俺達3人を採寸して帰って行った。おばば様もローブ作らないのかと聞いたら、「いらん」と言われたので3人だけだ。
俺は今、自分の部屋で絵を描いている。
俺は元の世界にいるとき、ソロキャンプが趣味だった。ソロキャンプ中に風景画を描くこともあるので、ノートと色鉛筆をバックパックに入れて持ち歩いていた。その画材を使って俺は絵を描いている。
魔法乙女戦隊の戦隊服を描いているのだ。正直馬鹿らしいのだが、ヘーデリアが「服はまだか」とうるさい。横でニマニマしているマリアもウザい。子供を使って要求を通そうとするとは、なんと卑劣なんだ。
魔法乙女戦隊は5人だ。基本的には、みんな同じ形のゴスロリ風のドレスアーマーが良いだろう。ウォンバットの五郎は後で考えるから、一先ず置いておく。
俺は、何種類かのドレスアーマーをデザインして、一番気に入った絵を決めた。そのデザインで、5人分の戦隊風のポーズを取った絵を作り色鉛筆で色を塗る。
なかなか良いじゃないか。
「アロロクいるか?」
「呼ばれて飛び出てシッシッシッシッシー!」
「まったく、余計な知識は削除しろよ。まあ、いい。ちょっとイメージ流すからオデコ触るぞ」
「呼人、セクハラ。シッシッシッ」
俺の影から、ニュ~と現れたアロロクの冗談は無視して、オデコに手を置き、先程のデザイン画のイメージを流す。アロロクは、乙女ブルーなので色は鮮やかな青だ。
「よし、変身してみてくれ」
アロロクがニンニンのポーズで、クルリとトンボ返りを打つと、先程のデザインの服に変わっている。うーん、良いねぇ。動きにも問題ない。よしこれで行こう。
その日の夕食後、おばば様の家の居間のソファーに、うちのメンツを集める。なぜかアロンと精霊が2人いる。おばば様は隣の部屋でお茶を飲んでいる。
最近は、毎食ごとに交替で精霊がやってくる。会話に花が咲いて嬉しいのだが、戦隊服の御披露目を見ても、面白くないだろ? まあ良いか。
「これから、戦隊服のデザイン会議を始める」
「まあ、よぶちゃん素敵。やっとやる気になったのねぇ」
「呼人、えらい」
「おで、イエロー」
「あたち、班長」
「ア、アロンは弟子?」
「じゃあアロロク、変身してみてくれ」
アロロクが、先程と同様にニンニンのポーズで、クルリとトンボ返りを打つ。ピカッとアロロクの全身が光り、ブルーのドレスアーマーに変身した。
ドレスアーマーは、ゴスロリ風で幾重にもフリルを重ねてある。足にはニーハイソックス。勿論青色だ。靴は動き易いスニーカーを履いている。
頭には髪飾りが煌めき、首にはチョーカーがつけられており、手には当然、魔法のステッキだ。
そして顔バレ防止のために、目元にはアイマスクがつけられている。こまかいレース編みになっているアイマスクは、顔にピタリと張り付き、まるでタトゥーのようだ。仮面舞踏会に参加した貴族のイメージだ。
「とりあえず基本はこんな感じだ。衣装の形はみんな同じで色違いにする。頭の飾りやステッキ、アイマスクのデザインは、個々に変えるつもりだ」
そう言いながら俺は、5人揃った戦隊のイメージ画をテーブルに出す。
みんなが真剣な表情で、アロロクやテーブルの絵を見つめている。マリアは目をキラキラさせている。ヘーデリアは、口に指を置いてウンウン唸っている。五郎は、イエローの絵をスンスンしている。アロンや精霊まで、腕を組んで真剣な表情だ。アロロクは視線に動じていないのか、たまにポーズを変えている。
どうだ? ダメか? デザインはあと何種類か用意したけど、揉めるので出したくない。これで決まれば、あとはレッドの問題と、五郎とマリアの服をどうするかだけだ。
「良いわー、良いわー、私は気に入ったわー。よぶちゃん相変わらず天才ね。みんなはどうかしらぁ」
「ヘーデ、感激」
「おでも、着たい」
「流石、旦那だな」
「清楚と強さの融合、美しいと思います呼人様」
「呼人画伯。シッシッシッ」
「良いのう、妾も着てみたいのじゃ」
「アロンも着てみたい」
「あたちもー」
みんな、ウンウンと頷いている。どうやらデザインは決まりのようだ。
「じゃあ、デザインはこれに決まりだ。それとひとつ問題がある」
「なにかしら?」
「俺は、戦隊やらんぞ!」
「ガーン!」
「ガーンじゃないよ、マリア。わざとらしい。俺は戦隊もレッドもリーダーもやらないからな」
マリア曰く、魔法乙女戦隊とは、
乙女レッド:俺が担当。戦隊リーダー
乙女グリーン:ヘーデリア担当
乙女ピンク:マリア担当。戦隊ヒロイン
乙女イエロー:五郎担当。カレー大好き
乙女ブルー:アロロク担当
の5人で悪を撃つ、超絶乙女ユニットらしい。
冗談じゃない。乙女とついてる時点で俺は関係ないだろ? まあ、マリアはおっさんだし五郎はオスなんだけど、やりたい奴はやれば良い。
だが俺は嫌だ。いい年こいて誰が戦隊なんかやるもんか。
「よぶちゃん、レッドがいないと戦隊が成り立たないじゃない。わがまま言わないの!」
「わがままはどっちだよ」
「試験に受かったのだから当然だわぁ」
「試験に受かったら、服は作ると言ったが、俺が戦隊に入るとは言ってないぞ。それに今後わがままはなしだと言ったよな?」
「横暴よぅ、暴君だわ、独裁者よぅ」
三馬鹿トリオがギャーギャー騒ぎ出した。
「じゃあマリア、レッドなんだからハルナがやれば良いじゃないか」
「ばっ、旦那、あたいも嫌だぜ。恥ずかしい。服は着てみたいけどな」
「ハルナちゃん、恥ずかしいってなに! 失礼ねぇ」
「だったらアロンだな」
「よぶちゃんダメよ、危険なことはさせられないわぁ」
アロンが一瞬、目をキラキラさせたが、今はショボンとしている。
「だったら、クロールミアなら良いだろう。ルミアも赤だしピッタリじゃないか」
「ダメダメ、人間じゃないじゃない」
ルミアが一瞬…、以下略
「五郎だって、人間じゃないだろう」
「ぐぬー」
結局、話し合いの結果、クロールミアが乙女レッドをやることになった。マリアがリーダーとヒロインを兼任すると言う。ルミアは「仕方ないのう」と言いながら嬉しそうだ。
お前は、前に「暑苦しいから服などいらん」って言ってよなぁ?




