第十七話 街
俺とガチムチ乙女のマリア、それと愉快な使い魔たちは昨日、この大陸に来て初めて人の住む街にたどり着いた。
昨夜は、このダンジョン街のとある宿屋に泊まったのだが、なぜか朝起きたら俺のベッドの中にハルナとアロロクがいて、ハーレム状態となっていた。
そんな俺は、朝からマリアに散々嫌味を言われることとなり、やれ教育に悪いだの、助平だの、私のベッドには一度も来てくれないのにだのと、罵られた。
「……勘弁してくれ本当に」と、窓から差し込む朝日のまぶしさや、周りの喧騒にうんざりしながら俺は呟いた。
ヘーデたちが、助平という言葉を気に入ってしまい、「呼人、助平」「おで、助平」と連呼している。
当のハルナは「見られちまったか。がはは」と、おっさん口調で嬉しそうだ。アロロクは知らんぷり、エルゴはどこか冷たいという、ギクシャクした中で、クロールミアが「妾は、布団から追い出されたのじゃ」と拗ねている。
収拾つかんよ、まったく!
「とりあえず服装チェックする。エルゴ、ハルナ、アロロクは昨日、冒険者風の外見に変形できるようにお願いしたが大丈夫か?」
「任せてくれ旦那」
「変な格好だったら、一緒に連れていかないからな」
「……」
ハルナなぜ黙る! …まあ、良い。「じゃあ、見せてくれ」と言うと、3人が瞬時に変形した。
んー? はい問題児発見、事前チェックは大事です。
エルゴは、戦士風の銀色の軽鎧だ。胸、腕、腰、足に金属があり、他は革のような質感でとてもセンスが良い。腰には大振りな刀が差してある。和洋折衷カッコいい。合格~
アロロクは魔女ッ子風だ。黒に近い灰色のローブ、黒くてつばが広いとんがり帽子。腰には魔法のステッキが差してある。かわいいです。合格~
さてさて赤い問題児ハルナは、さっき寝ていた時の黒い下着姿でサンダルを履き、尻尾を揺らしながら、いつもの竹箒を担いで立っている。これで街中歩くつもりじゃないだろうなぁ。正気か?
「ん? ハルナはそれだけか?」
「これだけだ、フンスッ!」
何か問題が? みたいな態度のハルナに、マリア達が「まあ大胆」「ハルナ、破廉恥」「おで、毛皮貸す」「服など要らぬ、暑苦しいだけじゃ」などと騒いでいる。
俺は、無言でハルナのデコにアイアンクローを咬まして、変更イメージを叩き込む。「いだだだ」なんて言っても無視だ。
「余計な時間を食ったが、今日の予定を説明します。まずはエルクの街に行く。このあと、みんなは腕輪に変形な、俺とマリアとルミアで砦の門をくぐる。
エルクまでは、飛行魔法で行く。エルクでは、まず冒険者ギルドで全員が冒険者登録して身分証を得る。それから何班かに別れて、生活必需品の買い出しだ。わかったか?」
(コクコク)
俺とマリアは、砦の門で昨日の門番に挨拶して、ドッグタグと銀貨2枚を渡して確認を受けている。
今日も快晴で、絶好の散歩日和だ。空気の美味さに深呼吸しながら、門番のチェックを待つ。
「良し、問題は無いようだわい。エルクの街は道なりに歩いて、3時間もあれば着くじゃろう」
「ああ、ありがとう」
門から、30分ほど歩いて使い魔を出す。
ハルナは、ヒザ上のロングブーツにホットパンツ、革の胸当てを着けた出で立ちに、強制的に変更したので、下着姿では無い。竹箒はそのままだ。
ハルナは、頭髪と猫耳&尻尾には赤毛が生えているが、顔や手足、体はツルツルの小麦色の肌が露出している。ヘソ出しルックは非常に刺激的だが、本人は気に入っているようで良かった。
「初めての飛行魔法なので、少し練習時間を設けるから。それじゃあ、竹箒配るから並んでー!」
飛行魔法は、何かに股がらないと発動しないそうだ。
マリア達に、スライム組織を魔法で変形させた竹箒を渡す。マリアには太くて長いやつ、ヘーデには子供用の小さいやつを渡す。五郎はマリアと2人乗りだ。
俺はルミアと一緒に、普通の大きさの箒に股がる。ハルナは、自前の箒に股がるかと思いきや、サーフボードの上に立って飛んでいる。エルゴは、ハルバード(槍のような武器)を出して股がり、アロロクは、なぜか魚雷に股がっている。俺の脳内情報を活用しているようだが、いつの間に作った?
因みに、クロールミアはドラゴンなので自力で飛べるのだが、俺の後頭部にへばりついている。ルミアが本気を出せばとても速く飛べるらしく、「今度乗せてやる」と言っていた。
乗せる? 大きくなれるのか? と聞いたら「当たり前じゃ」と言った。ワイバーンくらいに大きくなれるとか。
5m級かよ! 凄いな。でも身体を大きくすると魔力が膨れるので、お婆様にバレるから嫌なのだそうだ。
箒に股がり「フライ」と唱えると、スーッと10mほど浮かび上がった。あとは「ゴー」と掛け声をかけると、視線の方向に動きだす。「ストップ」で停止だ。曲がる時は、視線と体重移動で操作する。バイクみたいだ。
30分ほど練習して、危険が無さそうだと判断した俺達は、エルクの街に向かって飛び立った。「ゴーゴーゴー!」とスピードを上げるハルナはまるで暴走族だよ。
空から見ると、広い平原が続いている。天気も良いし最高の気分が味わえる。
草原ばかりでなく森や林も多い。遠くに小高い丘があり、小さな城が建っている。エルクの街は、街全体を塀で囲うタイプの街ではない。城の周りに塀と堀があり、有事の際には、街の住人は城に立て籠る。平時は、近辺の畑で農業を営んでいるようだ。
城の周りに商業地区があり、街の中心地となっているようだ。更に周囲は畑や穀倉地帯が広がっている。
しばし空の旅を堪能し、エルクの街に到着した俺達は冒険者ギルドに向かっている。
先頭は身長170㎝の俺、右後ろに身長190㎝で細身のエルゴが、「そこを右です」と説明しながらついてくる。左後ろに身長180㎝の竹箒を担いだハルナ、その横に普段は影に隠れている、身長150㎝の魔女ッ子アロロク。
そして更に後ろに三馬鹿トリオだ。身長190㎝のガチムチ乙女のマリア、マリアと手を繋いだヘーデリアは、幼い容姿で身長は120㎝だ。その後ろをトテトテとついてくる黄色いあいつ。ウォンバットの五郎は、立ち上がると100㎝ある。
幼竜のクロールミアは、安定のへばりつきポジションだ。勿論、俺の頭にだ。ルミアも全長100㎝だが、尻尾を抜かすと半分だ。
普通のパーティーに見えているか? 違和感ないか? あるだろ! 絶対!
ダンジョン街の支部と違い、大きな建物の冒険者ギルドに入ると、中は少し薄暗い。酒場が併設された内部は、どこかどんよりとしている。
入って正面のカウンターには若い男性がいた。ギルドの受付けは綺麗なお姉さんじゃないの?
「冒険者の登録をしたいのだけど、ここで良いですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。書類をお渡しするので記入してください」
全員分の書類を書き終えて、俺とマリアのドッグタグと、五郎たちの使い魔の書類とを一緒に提出する。
しばらく待つと、ジャラジャラと全員分のドッグタグを持って、おっさん職員が現れる。
「全員まとめてギルドの規約や、注意事項を説明するから、会議室まできてくれ」
会議室に移動すると、各人にドッグタグが渡された。俺とマリアのは、元の身分証と冒険者ギルドの身分証の2枚になっていた。俺は商業ギルド、マリアは薬師ギルドに登録するつもりなので、ゆくゆくは3枚になるのか?
その後、「規約が~」「ランクが~」と説明を受け、講習が終わる頃には、俺とエルゴ以外は舟を漕いでいた。当然だよね。
講習が終わり、晴れて冒険者となった俺は、会議室を出るときに職員に聞いてみた。
「俺達は、田舎から出てきたばかりで金がない。早速、素材を売りたいのだが大丈夫かな?」
「ああ、カウンターに申し出てくれ」
職員に言われて、俺達がぞろぞろと再びカウンターに行くと、「大きな素材は、解体カウンターへ」と言われて再度移動する。そこには偉そうに睨み付けてくる、ハゲた中年がいた。
「新人か? 物はなんだ?」
「これなんだが買い取れるか?」
大きなテーブルの上に、収納庫から出したウォータードッグ(大山椒魚)の死体を乗せる。
「な、ウォータードッグじゃねーか。しかもデカイ」
「いくらで買い取れる?」
「金貨20枚だな。文句あるまい」
オイオイなんだ? 偉そうに決め付けて。鑑定で見た相場の半分以下じゃないか。あれは捌いたあとの末端価格か? いくら何でも安過ぎるだろう。それともこのおっさんが騙しているのか? なんにしてもここで売るのは無しだな。
おっさんがそそくさと、魔物を奥に持ち運ぼうとしているので、俺はいったんウォータードッグを収納庫に仕舞った。
「な、何をする!」
「別に、ここで売る気がなくなっただけだ」
「ま、待て、ギルドに逆らったら、この街で冒険者としてやっていけなくなるぞ」
「別に逆らっちゃいない。今ここで売らないとダメって規約でもあるのか? それに冒険者は他の街でも出来る。じゃあな」
いきなり脅しつけてくる職員に、気分を害した俺は、さっさとギルドを出ようとするが、職員が俺の腕を掴み何か言ってくる。ハルナが殴り掛かるのを抑えて、外に出ようとするが、冒険者たちが騒ぎを聞きつけたのか、人が集まりだした。
そこに妙に迫力のあるおっさん職員と、杖をついた小さな老婆が奥から現れる。
「なんの騒ぎだ」
「ギ、ギルマス。ばば様まで…
いや、この新人が生意気言うものだから、ギルドのルールを教えていただけだ。あんたの出る幕じゃないよ。すぐに終わらせるから心配しないでくれ」
「ほう新人か? どう生意気なんだ」
「い、いや、こいつが俺の提示した金額が、不満だって言うから…」
「当たり前だろ? 俺の見立てより全然安いんだから、売るのは他の街にするさ」
ギルドマスターとおぼしき職員は、俺と買い取り職員を交互に見てから、「物はなんだ?」と言った。
俺は再びテーブルにウォータードッグを出した。それを見てギルマスは目を見張り、老婆が「奇跡か!」と呟きながら、俺に近づいてきた。
「小僧、これを売ってくれぬか。言い値で買い取るぞ」
「そのつもりだったけど、ここでは売らないよ」
「なぜじゃ」
老婆の目が真剣だ。俺は面倒事はごめんだと思いながら、理由を丁寧に説明した。
「この職員の査定が信用ならないからさ。俺の鑑定では、相場は金貨60~100枚と出た。こいつはデカイし、すぐに血止めもして収納庫にいれたから、新鮮だし血まで丸ごと使える極上品だ。俺の見立てでは金貨120枚は下らない」
「では、金貨150枚出そう」
「いや、いくら積まれても売る気は無いよ。ここは信用ならない。そこのおっさんは、最初に金貨20枚だと言ったんだぞ、安過ぎるだろう。
それで俺が売らないと言ったら、冒険者として活動できなくすると脅してきたんだ。そんなことされて、売る馬鹿はいないだろ?
それともあんたらの常識では、普通のことなのか?」
ギルマスがグッと押し黙り、件の職員を睨み付ける。
「ガルド、新人からぼったくるような真似はするなと、何度言えばわかるんだ!」
「い、いや……」
件の職員はガルドと言うらしい。こんな奴の名前は覚える必要ないけどね。それに、こんな職員がのさばっているギルドなんかに用はない。
「用事は済んだだろう、俺達は行くぞ」
「ま、待て。非礼は詫びるから…」
老婆が突然、土下座をして「どうしてもそれが必要じゃ。頼む」と頭を下げ始めた。ギルマスも続いて土下座だ。
ガルドは「もういいだろ?」と、俺の肩を叩こうとしたところをハルナにぶん殴られて、ギルマスの指示で何処かへ運ばれていく。ざまー!
「ガルドって奴、全然反省していないじゃないか。こんなところ信用できないよ。あんたらだって物が手に入ったら、手の平返すんじゃないのか? 俺は行くぞ」
「すまなかった。ガルドには厳重に注意するから、話を聞いてくれ」
「常習犯を見逃していたバチじゃないのか? こんなことが無ければ、同じようなことを繰り返しやるんだろ? あんたらは。
俺には関係ないし聞く耳も無いよ。冒険者の資格を取り消すなら、それでも構わないしな」
「……」
ギルマスと老婆が項垂れる。
ウォータードッグって、土下座する程の価値があるのか? 鑑定だけじゃ分からない事ってあるんだな。
「じゃあ、さよ「待ってくれ!」」
「小僧」
「俺は小僧じゃない。呼人だ。あんたもさっきから、大概失礼だぞ。何なんだ、横から出てきて偉そうに!」
「あいすまん、呼人殿。わしは、この街の薬師ギルドの顧問をしておる者じゃ。何とぞ話だけでも聞いてくれぬか」
「聞くだけなら構わないが、長いのは嫌だぞ」
「この国では今、ある病が流行っておるのじゃ。もう何人も人が死んでおる。その病に効く薬は、ウォータードッグからしか作れない。
しかしウォータードッグは、滅多に出回らぬ。わしは、冒険者ギルドと対策を話し合っていたのじゃ。
それにウォータードッグの身体は、どの部位も有用じゃ。他にも有用な薬が、数多く作れる良い機会なのじゃ」
ふーん、そういう訳だったのか。降って湧いたチャンスを逃したくないのだな。
だが断る。
別に、この国のどこで売っても、病に効く薬は作れるのだから、隣街で売っても問題ないしな。
「馬鹿な職員が、良い機会を潰しただけだろ? あんたら上の者にも責任があると思うぞ。こっちに、あんたらの事情を押し付けられても困るんだけどな。
正直、見ず知らずの人間が病に苦しもうが、俺には関係ない。自分たちの生活が大事だ。騙されて無一文になる前に、他の街に行くよ」
なっ! っと言って口をつぐむ老婆。俺の仲間たちも、「大人気ない」とドン引きしている。うわー、そんなに残念な子を見るような目で見ないでくれー!
「国全体に病が流行っているなら、中央で売っても人が助かるんだから、別にここで売らなくても良いじゃないか?
あんたら妙にしつこいぞ、何か企んでるんじゃないのか? ガルドって奴もこの機会に、大儲けするつもりだったみたいだし、怪しさしか無いところでは売りたくないな」
「そんなことは絶対に無いと誓うし、謝罪もする。この通りだ。頼むから売ってくれないか」
「嫌だね。中央に持っていって売るよ。文句ならガルドに言うんだな。
俺は、『ここでは売らない』と意思表示したはずだぞ。俺の話は無視して、自分たちの都合ばかり並べ立てても、売る気にならないな」
「し、しかし…」
「大体、衆人監視の下で土下座されて、なんか俺がわがまま言っているみたいじゃないか。
交渉するなら、会議室で余人を交えずやるとかしないか? 普通。
俺に衆人の悪意を向けさせて、闇討ちでもする気なんじゃ無いかと疑いたくなるぞ」
ギルマスは、ぐうの音も出ない。ヤバいな、派手にやり過ぎたか? だが俺の文句はガルドに言え。
「中央には、それを捌けるだけの、経験のある薬師がおらん。中央で売られたら、素材の大部分が無駄になるのじゃ。それだけ薬も少なくなる。薬効も怪しいようなものしか、作れんじゃろう。
それに…、この辺境の取り分が無くなるのじゃ」
「結局、あんたらも他の地域なんか、関係無いんじゃないか。自分たちの取り分が大事なんだろ。
俺が『他人など関係無い』って言っているのと、変わらないじゃん。本音が今頃出てくるのも怪しいよな。本音を隠して、手玉に取ろうって魂胆が、見え見えだぞ。
これは俺の獲物だ。俺がどこで売ろうが、干渉される謂れはない。それともギルドは冒険者の自由を奪うのか?」
周りの冒険者が騒ぎ出す。「そうだそうだ」「自由だぁ」とヤジが飛ぶ。
だがここであきらめたら、おしまいだとばかりに、老婆が食い付いてきた。
「この地域は、病がまだ広がっておらん。今、手が打てるなら、被害が最小に抑えられるのじゃ。薬も多くは必要ない。
余った分は、責任持って他の地域に分配すると約束する。じゃから頼む。呼人殿、我々を助けてくれぬか」
「ガルドの態度を見た後で、いくら口で言っても信用出来ないって言っただろ。話は聞いたからな。俺達は行くぞ」
老婆とギルマスが茫然とするなか、俺は踵を返そうとした。その俺の前にマリアが立ち塞がり、首を左右に振っている。
「よぶちゃん、ご老人は労るものよ。そもそも悪いのはガルドって職員でしょ。ウォータードッグは売ってあげなさいな」
「ガルドを野放しにしていた、ギルド側にも責任があると思うぞ。ここで許したら、こいつらは反省しないんじゃないか?
使える薬師がいないって言うけど、それを自覚しているなら、どこで売ろうが経験豊富な薬師を探して、そいつに薬を作らせるんじゃないか? 何かこいつらに都合の良い話ばかりで、信用ならない感じだな」
俺は、もうどちらでも良いと思いながらも、考えを述べた。マリアの言葉に続いて、他のみんなも抗議の声を上げている。
「旦那、ドン引きだぞ。ひねくれ過ぎだ」
「呼人、メッ」
「呼人様、ご老人もギルドマスターも、嘘を言っているようには見えません。そろそろご機嫌を直されては如何でしょう」
「老人虐待、シッシッシッ」
「おで、腹減った」
「妾もじゃ」
動物組は、しゃべっちゃダメでしょ!
「ごめんなさいね、お婆さん。少し前に権力者に理不尽な目に合わされて、頑なになっているのよ。本当は困っている人を見捨てられない優しい子なの」
「いや理不尽な対応をした、ギルドの職員に責のあること。謝るのはわしらの方じゃ。すまなかったの」
「ほら、よぶちゃんも、いつまでも意地張ってないで、助けてあげなさい」
「仕方ないなぁ、わかったよ。おばば様もギルマスも立ってくれ。ここからは交渉だ」
俺は、マリアの言葉に折れた。正直、ガルドのやり方は許せない。それを見逃していた組織も、同罪だと思っている。意趣返しのつもりでゴネてやったが、ここまでのようだ。




