閑話 その後の五郎
魔物騒動のあと、五郎達はダンジョンに向かった。
幼竜のクロールミアが、ダンジョンに入ってみたいと言い出したので、エルゴ達と共にダンジョンに入ったのだ。
ダンジョン街は、山裾に位置している。その山裾に大きな洞穴が開いており、その中がダンジョンとなっているらしい。
ダンジョンの通路はうっすらと光っていて、人間でも歩くのに問題無いようだ。3人がダンジョンに入って通路を進み始めたときに、クロールミアが感嘆するように言った。
「これがダンジョンか。なかなかの魔気が出ておる」
「なんでもこのダンジョンは、入ってきた者の力量を見て、魔物をけしかけてくるらしいですよ。だから初っぱなから、ボスクラスの魔物が出てくることもあるとか」
エルゴがダンジョンの情報を、みんなに説明する。
「なかなか面白いのう、雑魚相手に時間を掛けている暇も無いので好都合じゃ」
「そうですね。そろそろ帰る時間ですから、一匹だけお相手することにしましょうか」
「おで、イエロー、頑張る」
そんな事をしゃべりながら五郎達が歩いていると、通路の先が開けた広場に行き着いた。
歩いてきた通路は薄暗かったが、その広場は壁に多くの松明が燃えており、存外明るい。広場の外周には、いくつかの穴が開いている。どうやら道が続いているらしい。そして広場の中央には魔物が一体、興奮した状態で唸っているのが見える。
こうして広場広場で戦闘しながら、先に進むのがダンジョンのルールなのだろう。敵わない魔物であるなら逃げることも可能なようだ。
かなり広い広場の中央には、体高が3mほどの、牛の体駆に恐竜の頭を付けた魔物がいた。前足で砂を後ろに蹴りながら、興奮したように「ウゴォオー」と吠えている魔物は、額や肩から太い角が生えており、背中にはたてがみのように長い毛が生えている。脚には牛の蹄を持ち、尻尾はトカゲのように太く長い。
これを見たクロールミアがエルゴに問う。
「ベヘモスかの?」
「そのようですね。物理攻撃に対する耐性が高く、魔法も効きづらい魔物です」
「なかなか強そうじゃ」
「しかし攻撃が効かないわけではありませんから、時間は掛かりますが、ダメージを積み上げていくしかないですね。五郎が正面で受け止めている間に私達で攻撃しましょう」
エルゴが作戦を伝え終わる前に、五郎がトテトテと駆け出す。すぐにその身体が大きくなり、体高がベヘモスより少し小さいくらいになる。五郎が「グオーッ」と叫びながら、ドテッドテッと駆ける様は体長3mほどで、以前のかわいさと相まって、どこか滑稽である。しかし迫力は大人の熊のそれであった。
ゴッ!
重量物同士がぶつかる音がして、ベヘモスと五郎が額をぶつける。ぶつかった反動で離れた額がすぐに勢い良く戻されて、再びゴンッと鳴った。どちらもダメージは無いようだ。
五郎はベヘモスの角を両手で掴み、ギリギリと首を捻り始めた。ベヘモスは五郎に角を突き入れようと、前足を踏ん張っている。
「なんじゃあやつ、甘えん坊の割りにやるではないか。五郎だけでも大丈夫そうじゃが、妾も行くぞ」
「ええ頼もしい限りですが、折角なので私も参加させて頂きますよ」
そう言って駆け出す二人。クロールミアとエルゴも、ようやく五郎の後に続くようだ。
五郎の怪力で捻られたベヘモスの頭は、既に横を向いており、首がミチミチと音を立てている。ここでベヘモスが、恐竜の太い顎をパカリと開けて、炎のブレスを吐き出した。
五郎の黄色いTシャツが瞬時に燃え落ち、体毛がバチバチと音を立てて焦げている。だが五郎は気にせず手に力を込める。「メリッ」とまたベヘモスの首が音を立てた。
そんな灼熱のブレスを吐くベヘモスの顎に向かって、横合いからギュンと唸りを上げて、ぶつかった物体があった。赤い弾丸と化したその物体は、勿論クロールミアである。
クロールミアのぶち当たりにより、ブレスを吐いていたベヘモスの牙だらけの口がガチンッと閉じられ、隙間から黒煙がブスブスと燻っている。
そして、ぶち当たりの勢いそのままに、五郎がベヘモスを横に押し倒した。
更に、押し倒したベヘモスの首にエルゴの大刀が突き刺さったのは、すぐその後であった。
見事な連携と言えよう。
「刀を変形して地面に縫い止めました。五郎はベヘモスの体を抑えなさい。ルミアさんも、五郎と共に腹を裂いて下さい。私は尾を切り離します」
エルゴの指示に、五郎が暴れるベヘモスの胴体に馬乗りになり、その横腹に爪を叩き込む。五郎の爪は、まるで何かの工具のように太い。そしてそのぶっとい爪に、風魔法を纏わせているので切れ味も鋭いのだ。
クロールミアは大きく口を開き、太い顎で横腹に喰らい付き、首を左右に振るっている。
エルゴは、収納庫から大刀をもう一本出して、暴れる尻尾の根元に斬りかかった。
五郎が何度も魔物の腹を叩き、裂けて血が吹き出たところに、ルミアがブレスを吐く。いくら耐性の高い魔物でも、内側から焼かれたら堪らない。
やがて、さしものベヘモスも観念したように大人しくなり、ピクピクと痙攣する頃には、皆攻撃を止めていた。
しばらくすると、ベヘモスの体が素材に変わる。どうやら勝手に「解体」されるようだ。
戦闘が終わって、一息ついたクロールミアが感想を漏らす。
「流石に物理耐性が高いだけあって、なかなか噛み破れんかったが、ほとんど魔法も使わずに倒せたのじゃ。御の字じゃな」
「おで、力出せてうでしい」
五郎は、強敵と戦えたことが嬉しいらしい。そんな五郎をクロールミアが褒める。
「五郎の爪は凄いのう。エルゴの刀も一発で首を縫い止めるとは、侮れんのじゃ」
「首の皮の柔らかいところですから、大したことはありません」
エルゴは謙遜しながら、服の汚れを叩いている。
「そうかの。しかし呼人に良い土産ができたのじゃ」
「おで、褒められる」
「ええ、そうですね。呼人様もお喜びになるでしょう。五郎はお腹が焼けただれていますから、すぐに治して下さい。服を元に戻したら帰りますよ」
「子供の願い~♪ほい!、子供の祈り~♪ほい!、影で!さ~さ~える~♪ご~に~ん組~♪、魔法!乙女せ~んたい~♪、あ~く~を討つ~♪や~みを討つ!
帰り道、いつものようにトテトテと歩く五郎が、何を思ったか突然歌い始めた。エルゴとルミアは、ギョっとして五郎を注視する。いつも片言で会話が少ない五郎が、流暢に歌い上げている様に、言葉も無い様子だ。
「五郎よ、なんじゃ、その歌は?」
「おで、マリアに教そわった」
「魔法乙女戦隊の歌ですか。良い歌ですね、流石マリア様です」
「でへへ、マリアえらい」
「あはは、マリアに感謝せんといかんのう」
「おで、マリア好き」
「五郎、我々を生み出してくれた。呼人様にも、感謝しなくてはなりませんよ」
「おで、呼人も好き」
3人は、ひとしきり笑った後、また宿への道を歩き始めた。
「互いに抱きあ~う~♪こ~ど~も達~♪おと~め~、黄色いカレーと~おお~ぉ、は~ぶ~てぃ~♪、だい~好き~~♪
お~で~が♪五郎だ~♪るるららるう!」
五郎の歌は続く、ルミアもエルゴの後頭部にへばりついたまま、リズムに乗って首を左右に振っている。エルゴも楽しそうだ。
姿形の違う3人が、まるで親子のように歩く様は、異様に見えるかもしれない。だがそんなことは、彼らにとっては些細なことなのだろう。
大きな月をバックに3人は主の待つ宿へと急ぐ、そこには、いろいろとやり遂げたことを誇るように陽気に歌う、黄色いあいつがいた。
満足気な3人は、ダンジョンでベヘモスを倒したあと、エルゴがベヘモスの素材を回収して、五郎が魔物のブレスで焼かれた腹を戻してから、主のいる宿屋まで帰ってきた。
そして、部屋の窓の下についたところで、エルゴが考え事をする素振りをして、こう言った。
「私は、用事を思い出しました。お二人は先に戻っていてください。五郎は窓の隙間から中に入ったあと、窓を開けてクロールミアを招き入れるのを忘れないように」
「おで、わかった」
「なんじゃエルゴ、魔物の件の後始末か? 妾たちも付き合うぞ」
「おでも、やる」
「こういう仕事は私が適任です。一人で十分ですよ。クククッ」
「楽しそうじゃの。それならば邪魔するのも野暮じゃな」
こうして五郎達と別れたエルゴは、倉庫の借り主を調べ、魔物を使って敵対組織を潰す計画を 企てた組織を探り出した。そしていとも簡単にその証拠を掴んだのだった。
次の日、エルクの街の隣に位置する、とある街の警備隊上層部は騒然となった。自分の住んでいる街が壊滅しかねない計画の、全貌を記した書類が密かに届けられたからだ。
上層部は、この計画を危険と判断して早急に動いた。計画を企てた組織のある街の警備兵とも協力して、件の組織に踏み込んだのだ。
街も騒然となった。いくつかあった組織の拠点は、全て家捜しされ、取引先の商人や関連組織も、そこにいる人間全てが捕らえられた。組織に関連ある他の街にも、直ちに早馬を飛ばし、同様の処置が取られたのだ。
そして、組織の倉庫に捕らえられた魔物は、動かぬ証拠として処分された。勿論、ダンジョン街以外の魔物だ。
商人達は、即座に魔法により尋問され、関係の薄い者は釈放されたのだが、表の取引しかしていない商人にとっては、たまったものではない。
そして3日後には、中央の指示により多くの者が処刑された。この事件に深く関わる者、組織の重鎮などだ。勿論、魔法により情報を吐かせた後だ。また他の者は犯罪奴隷となり鉱山送りとなった。
因みに、中央からは、情報をもたらした者を探すよう指示が出されたが、手掛かりは皆無だとか。
◆黄色いあいつの後日談(何話か先の話です。現状では登場していない人物も登場します)
その事件の数日後の話、呼人達は、エルクの街の薬師ギルドの顧問をしている おばば様の家に滞在していた。
居間で、何か真剣に読んでいるおばば様を見て、呼人が言った。
「おばば様、何を真剣に見ているんだ」
「新聞を読んでおる」
「印刷技術もあるのか。この大陸は」
「印刷? 新聞など原稿さえ作れば、魔法ですぐに出来るであろう。驚くほどの事ではないわ」
「ああ、そうだったな。何か面白い記事はあったのか?」
因みに、紙はサトウキビから作っているらしい。砂糖を搾った後の搾りカスから作っているとか。
おばば様の話では、久しぶりの大事件に街が浮わついていると言っている。
「昨日、隣街に拠点を構える、ある犯罪組織が壊滅したと書いてある。裏で善からぬことを企んでいると噂されていた組織じゃ」
「あら、怖い話ねぇ」
おばば様の説明にマリアが間延びした口調で答えている。
「何でも、魔物を集めて、敵対組織にぶつけようとしていたらしい。そうなれば敵対組織どころか街も壊滅していたじゃろう」
「ほう、それは本当に怖いなぁ」
「じゃがの呼人殿、ここからが面白いのじゃ。隣街の警備隊がな事前に情報を掴んで、直前でそれを防いだのじゃ。警備隊に、匿名で情報を流した者がいるらしくてな、その情報が無ければ、警備隊側は全く気が付いてなかっただろうと、噂されておる。どうじゃ痛快じゃろ?」
「魔法乙女戦隊の他にも、正義の見方がいるのねぇ。わくわくするわぁ」
そう答えるマリアを横目に呼人は、マリアが戦隊服の話をしだすと面倒だと思ったのか、話を変えにかかる。
「内部告発じゃないのか」
「さあ分からん。内部の裏切り者の仕業とも、神の御業とも言われておるの。警備隊では、情報提供者も探しておるのじゃが痕跡が掴めんらしい」
おばば様は、たった3日で沙汰が下るのも、異例の速さだと首を傾げている。確かに、これだけの事件が早期解決したのは喜ばしいが、街ではいろいろな噂が飛び交っているらしい。
その時、おばば様の話を、ここまで呼人の後頭部にへばり付いて聞いていた幼竜のクロールミアが、「ハァー」と大きなため息をついた。
そして「何か知っているのか?」という呼人の問いに、「あやつめ、そんなことをしておったのか」と、ダンジョン街での夜の事を話しだした。
「では、情報提供者はエルゴちゃんなの?」
ダンジョンで魔物を倒したあと、エルゴが別行動を取ったという話をするクロールミアに、マリアが問う。
「妾は、実際見てはおらぬが、多分そうじゃろう」
「へえ、やるもんだな。流石はエルゴだ」
「五郎ちゃんも、魔物を解放してあげるなんて、製作者に似て優しいわねぇ」
「呼人殿の何処が優しいと? わしはその本人に散々罵られたがの」
「まあまあ、おばば様。あの件は誤ったじゃないか。貴重な素材も渡しただろ? 許してくれよ」
「許しておるが、呼人殿が優しいと言うのには、賛同できんだけじゃ」
おばば様の剣幕に呼人はタジタジだ。
ほどなくして、おばば様の孫と遊んでいた、ヘーデリアと五郎。畑を見ていたエルゴとハルナとアロロクが、おやつを食べに帰ってきた。
事件の話を聞くと五郎は「おで、頑張った」と胸を張り。エルゴは、「そんなことになっていましたか」と冷めた態度だ。そして五郎のママを自称するマリアは、
「乙女イエローとして立派な働きだと思うわぁ」
と大はしゃぎで五郎を撫でている。五郎は嬉しそうだ。
ヘーデリアは、五郎達が自分を置いてダンジョンに行ったと聞き、大層ご立腹のようだ。
「ルミア、ずるい」
「ずるくないじゃろう」
呼人に肩車され後頭部にへばりついているルミアが、ヘーデリアに答える。
「ヘーデ、何故連れて行かない」
「お主は、大いびきをかいて寝ておったではないか」
「ヘーデ、いびきかかない」
ルミアの冗談に、真っ赤な顔をしたヘーデリアが、「ムキーッ」と言って両腕をあげながら呼人に詰め寄り、ポカポカと呼人の頭を叩いている。
なんで俺? と呆れている呼人は、たぶん「ルミアを叩けよ!」とか「まあ、痛くはないんだけどね」とか考えているのだろう。
そして最後に呼人は、「あたいもダンジョン行きてー!」だの、「私も活躍したいから早く戦隊服を~」だのと、ハルナとマリアに攻められるのだった。




