表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/69

第十六話 砦

 そんなこんなで、移動農園を手に入れた俺とマリア(おっさん)、それに使い魔たちは、しばらく森に滞在したあとようやく森を抜けたのだった。

 

 遠くに、(とりで)の壁が見える位置に立っている。この大陸に連れ去られてから、1ヶ月が経過していた。

 

 ここ2週間ばかりは、ゴーレムビニールハウスの実験をしていたのだ。ハウス内部の時間を100倍にして、穀物(こくもつ)を育てて増やしたりしていたので、時間が掛かってしまった。ある程度、穀物の苗が増えたので、ようやく見切りを付けて砦にやって来た。

 

 何があるかわからないので、使い魔たちを武器形態にして、俺とマリア(おっさん)の2人で砦の門を潜るつもりだ。肩車の形で、俺の後頭部にへばりついている幼竜のクロールミアは、仕方ない。何か言われたら、子供のワイバーンの使い魔だとしておこう。

 ルミアには街の事情がわかるまでは、あまり飛び回らないでくれと言ってある。へばりついていた方が、勾玉(マガタマ)から魔力を吸いとれるので文句はいわない。

 

 森には人が立ち入った形跡が無かった。人が立ち入らないのだろう。本来、人が来ない方向から俺達が来たら、門番も怪しむかもしれない。

 俺とマリアは、入念に打ち合わせをしてから砦へと向かった。

 

 (ちな)みに、使い魔が変形した武器は、刀と拳銃だ。腰のホルスターも使い魔の一部である。刀は、刃に高周波振動している風刃の魔法を(まと)わせている、超振動ブレードだ。

 そして拳銃は、火薬の爆発では無く魔法で発射される風弾だ。引き金を引くと発射されるように、魔法陣が組んである。普通の魔法と違い連射が可能になっている。

 魔法はイメージや数値の書き換えで、飛ぶ速さを設定できる。火薬を使わなくても魔力が変化して、弾丸並みの運動エネルギーが得られるのだ。

 だがここはファンタジー世界、拳銃などは無粋(ぶすい)なので、使うつもりは全然ないけどね。

 

 

 中天(ちゅうてん)にある太陽が、今日もまぶしく輝いている。俺達は、まぶしさに目を細めながら砦を見上げた。

 何とも言えない感慨(かんがい)()ける俺達。やっと文明の痕跡を()の当たりにして、妙にセンチな気分になってしまうのは仕方がないことだ。

 俺は、(つら)く厳しかった前半の森での生活を思い出して、涙がちょちょぎれる感情を噛み締めた。

 

 砦の壁は木製で太い丸太を地面に打ち込み、何本も隙間無く並べて、5mほどの高さの壁としている。

 門が見当たらないと思っていたら、山が邪魔して森からは見えない位置に小さな街があり、そこに門があった。

 

 門は、頑丈な落とし戸になっている。左右に門番がいるが、他には誰も見当たらない。しかし壁のこちら側に街があるとは思わなかった。壁は森からの魔物の進行を(はば)むためにあるから、街は壁の向こう側にあると思っていた。

 そんなことをマリアと話していると、門番の一人が近づいてきた。長いひげにガッチリした体躯(たいく)だが背は低い。もしやドワーフか?

 

「おう、あんたら、森の方から来たように見えたがどうしたんじゃ。頭の上のは魔物か?」


 この大陸の共通言語だ。マニュアルから言語パックを脳にインストール済みなので、意味もわかる。この大陸に来て、初めての現地人との会話だよ。感動もひとしおだ。言葉の壁がないのは、ありがたいことだ。

 虫の支配する世界じゃ無くて良かったなー。実際に見るまで心配だったよ。

 

「あら、こんにちは、立派な体躯のお兄さん。確かに、あちらの方角からきたのだけれど、何かマズイことでもあるのかしら?」

「いや、マズくはない。ただ人の立ち入らない森じゃからな。どうしたのかと思ってな」

「俺達は、海で船が難破(なんぱ)してな。幸か不幸か、この森の外れの浜辺に流れついたんだ。頭の上のはワイバーンの子供だ。妙になつかれてしまってな」

「浜辺って…、ここまで何日かかったんだ?」


 俺達は、ここまで10日ほど掛かったこと、山と森の境を歩いて来たので、さほど魔物に会わなかったこと、食糧と水は収納庫にあったので何とかなったことなどを、ドワーフ体型の門番に話た。

 

「それにしてもお前ら、よく無事だったな」

「何か、あったのか?」

「このところ森が騒がしくてな。わしらは警戒を強めていたんじゃ」

「騒がしい?」

「ああ、森から狼煙(のろし)みたいな煙が上がったり、魔物の叫び声が頻繁(ひんぱん)に聞こえたり、夜中なのに昼間みたいに明るくなったり、凄まじい音と目も(くら)むほどの光が、何度も何度も……

 こんなことは今まで無かったからな。砦から見ていて、そりゃー生きた心地がしなかったぞい。

 それでな、森の主が暴れてるんじゃないかって、上に報告したんじゃ。そうしたら領主が、領内の軍を呼び集める算段をし始める始末でな。てんやわんやなんじゃよ」

「そ、それは大変だわねぇ。森に主がいるの?」

「ああそうじゃ、デッケー泥のお化けみたいな奴でな、たまに現れるのさ。何年か前には砦に突然突っ込んできてな、壁が傾いたくらいじゃ。何度か壁にぶち当たって飽きたのか、それで森に帰ったから良かったが、壁が突破されたらどうなっていたかと思うと…」

 

 門番の話を聞いて、俺とマリア(おっさん)は顔を見合わせる。思い当たる節があったからだ。

 森を騒がせていたのは俺達でしたー、ごめんなさい。狼煙じゃなくて焚き火です。魚を焼いてましたー、すみません。泥のお化けを怒らせたのはマリアですー、申し訳ございません。

 

「あ、ああ、それは恐いわね。わ、私達が来たのは(さいわ)いこちらからだったから、魔物にも会わなかったわぁ」

 

 動揺してるぞ、おっさん。

 

「ところで、この街は何という街なのかしらぁ?」

「正式な街じゃないからな、この街には名前は無いな。みんなダンジョン街って呼んでおるわい」

「ダンジョン?」

「ああ、あそこの山の(ふもと)にダンジョンがあるんじゃがな。冒険者が攻略するのに便利なように、ギルドや商人が整えたのがこの街じゃ。一般人はこの壁の向こう側を3時間ほど歩いた、エルクの街に住んでおるよ」

 

 門番は気の良い男で、いろいろなことを教えてくれた。今は、森の騒ぎで街の人間が避難しているので、人が少ないこと。宿屋は一応開いていること。冒険者やギルド支部の職員はいること。砦の門を通るには、身分証と初回だけ銀貨1枚必要なこと。

 それと魔物の使い魔がいるなら、冒険者ギルドに登録しておいた方が良いと教えてもらった。

 

 

 

 それから俺達は、ダンジョン街を散策(さんさく)した。家は、ほとんどが木製のチープな家だ。冒険者相手の娼館(しょうかん)のようなものまである。

 屋台が数件出ていたので買ってみる。この大陸に連れてこられた時に支給された金貨が10枚と、精霊さんにもらった分がある。金額的に多いのか少ないのかはわからない。ただ屋台の串焼きくらいは買えるだろう。

 

「新しい料理かや? なかなか良い匂いなのじゃ」

 

 しゃべっちゃダメだろう。何種類か串焼きを買うと、クロールミアが器用に串から肉を外して食べている。

 ルミアが食事すると手がベタベタになるのだが、食後にきちんと水魔法で手を洗うところは、流石(さすが)お姫様という感じだ。

 

「マリア、やはり醤油味、味噌味は無いな」

「味付けは基本的に塩ね。ゴマだれ、トマトだれなんかも少しはあるけど、作るのに手間の掛かる、醤油、味噌、ソースなんかは無さそうだわぁ」

「まあ、エルクの街の方が大きいし、そっちに期待だな」

「それはそうとよぶちゃん、金貨は減らないわねぇ。意外と大金なのかしらぁ」

 

 屋台で金貨を出したら嫌がられたが、それなりに大量に購入したら、ホクホク顔でお釣りをくれた。金銭感覚が分からないので、お釣りが合っているのかも分からないが、受け取るしかない。

 

「お釣りを見ると、金貨1枚=銀貨10枚=銅貨100枚みたいだな。串焼き1本が銅貨8枚だったから、銅貨1枚が10円として、俺達の持っている金はそこそこ大金だな。金貨1枚が1万円ってところか?」

「2人合わせて80万! これなら魔物の素材も、当分売る必要もないわねぇ」

「そうだなマリア、でもギルドは見ておきたいな」

(から)まれるのじゃないかしらぁ」

「その前に宿屋を探すか」

 

 宿はすぐに見つかった。宿屋(けん)食事(どころ)の「迷宮の女神亭」という店に入ると、すぐに食堂があり、2階が宿のようだ。恰幅(かっぷく)のいいおかみさんが対応に出てくる。

 

「部屋は空いてるかい。広めの2人部屋があると良いのだけど」

「あるよ。素泊まりで1人銀貨3枚。食事は1食、銅貨50枚だよ」

 

 この大陸の物価はかなり安いようだな。料理は少し高いか? でも自慢の料理らしいから楽しみだな。

 

「それで頼む。それとペットは大丈夫かな」

「小さいから良いけど、暴れないかい?」

「大丈夫だ」

「フンは外でしておくれよ」

「問題ない。夕食分と合わせて銀貨7枚だ。確かめてくれ」

「じゃあ、これがカギだよ。2階の1番奥の部屋だ。夕食には、あと(かね)2つはあるからね」


 この大陸には時計がない。マニュアル情報では、2時間毎に鐘を鳴らして、時を(しら)せるらしい。朝の6時が1の鐘、昼の12時が4の鐘、夕方の6時が7の鐘という具合だ。時計も無いのに、正確な時間をどうやって知るのか不思議だ。

 実は、俺は時計を得ている。魔物の魔石の魔法陣を解析中に、体内時計の魔法を発見したのだ。早速、みんなにインストールして活用している。やっぱり時間がわからないと不便だからね。

 

 宿には風呂は無かった。浄化魔法か、裏の井戸で身体を拭くそうだ。

 トイレはあった。勿論(もちろん)、水洗ではない。所謂(いわゆる)ボットン便所だ。収納魔法の応用らしく、排泄物を亜空間に()めて、定期的に所定の場所に捨てにいくとか。

 

「あら、広くて快適ね。大きなベッドが2つもあるわ。久しぶりにお布団で眠れるわねぇ」

「そうだな、生活必需品はエルクの街で買おう。夕食までにギルドに行こうか。クロールミアと五郎の使い魔登録をしておく」

「よぶちゃん、他の子たちは?」

「みんな出てきてくれ」

 

 ベッドに座る俺の横に使い魔3人が現れる。ヘーデは、マリア(おっさん)のヒザの上にちょこんと座り、更に五郎を抱えている。

 

「街にも宿にも、俺とマリアで入ったから、お前たちは人前に出せない。ヘーデと五郎は、夜寝る時まで腕輪型で我慢だな。エルゴはエルクの街を先行偵察してきてくれ。ハルナは腕輪で、アロロクは影に擬態(ぎたい)して俺の護衛だ」

「私達は、ギルドに行ったあとは宿の食事ねぇ」

「ああ、楽しみだな」

 

 使い魔たちは食事や睡眠は基本必要ない。ずっと腕輪型でも問題ないのだが、何せ初めての人間の街だ。興奮が隠せていない。だが明日までは我慢してもらおう。

 

 今日は冒険者ギルドで、クロールミアと五郎だけ使い魔登録して様子を見ようと思う。

 俺とマリアは、市民証(ドッグタグ)があるので身分証となるが、エルゴたちには無い。明日、エルクの街でみんな一緒に冒険者登録して、身分証を得ようと思う。

 

 エルゴは影などに擬態できるので、先行してエルクの街に行って情報を集めてもらう。飛行魔法も試してもらおう。

 情報は、生活必需品を買える店や服を買える店、街の雰囲気、噂などだ。あと冒険者の服装のイメージ登録をお願いした。燕尾服(えんびふく)じゃ目立つからな。冒険者パーティーに見えるような服に、変装できるようにしないと困る。

 ハルナとアロロクにも、自分で気に入った服装に変装できるように、イメージ登録するように言っておいた。

 ヘーデと五郎は、自分ではできないので俺がやるがあとでいいだろう。

 

 

 俺達は冒険者ギルドのカウンターにいる。ギルド事務所と言っても支部なので小さな建物だ。内部は窓からの光で明るい。

 

 俺の後頭部にはクロールミアが貼り付き、五郎はマリア(おっさん)に抱えられている。

 ギルドは酒場も兼ねているようだ。何人か昼間から酒を(あお)っている冒険者が、新顔の俺達を胡乱(うろん)な目で見つめている。

 カウンターには美人のお姉さんではなく、中年の怖そうなおっさんが立っている。

 

「門番に使い魔の登録をした方が良いと言われたのだが」

「ほう、なんだ? ワイバーンか? それにしちゃあ赤いな」

「ああ、ワイバーンだ。色については俺も良くわからん」

 

 使い魔の登録と言っても、何か魔法的な契約をするわけではなく、書類を作成しただけだ。使い魔が暴れた場合は、あなたが責任持ちなさいよ的なことが書かれていた。登録しないと警備兵に捕まるらしい。

 

 宿屋に帰ると夕食だ。今日のメニューは「鶏肉のトマトスープ煮込み」と「パン」だった。追加の金を払い、クロールミアの分と酒を頼む。ルミアは美味いのう美味いのうと、小声で言いながら食べている。

 

「あらこのビール、泡が立ってないわね。炭酸が弱いし(ぬる)いし、酸味も強いわ。正直、美味しくないわねぇ」

「マリア、元の世界のようにはいかないさ。トマト煮は美味しいぞ。パンは、やはり固いんだな。スープにつけないと厳しいぞ。しかし炭水化物は久々だなぁ」

 

 酒は、エールと呼ばれるビールに似たお酒だ。この大陸には、耐圧容器など無いので、酒の発酵中に発生する炭酸で(たる)が爆発しないように、ある程度抜いているか、保存中や運搬中に抜けてしまうのであろう。炭酸が弱く泡立ちが無い。ビールとは、似て非なる物だった。

 

 

 

 夜になり宿屋の部屋は、使い魔も総出で騒がしい。エルゴも帰ってきている。ヘーデと五郎とルミアは、串焼きを頬張(ほおば)っている。

 大陸での街デビューに俺達は興奮していた。ハルナはエールが飲みたいと言い。アロロクは「トマト煮がー」と言っている。

 

「エルゴ、飛行魔法はどうだった?」

「簡単でしたよ。人単体では飛べないようで、ハルナの竹箒(たけぼうき)のような、棒に股がらないと発動しませんでした」

「あら、魔女みたいで風情があるわぁ」

「ええ、棒を用意するのが面倒ですが、操縦というか操作は簡単で、視線の先に自然と進みますし、安定感もありました。あれなら子供でも大丈夫かと」

「早く試してみたいわぁ」

「門番は、街まで歩いて3時間って言ってたけど、飛ぶとどれくらいだった?」

「20分ほどで着きました。魔力もあまり減らないので、1日くらいは飛べると思います。帰りは騎獣召喚を試してみましたが、1時間ほどでした。どちらも便利ですね」

「楽しみだな。でもワイバーンとか襲われないかな?」

呼人(よぶと)様、ワイバーンは山からあまり離れないようですね。大きな鳥とかも見かけませんでした」

 

 騎獣も早く出してみたいなぁ。あとTVも検証しないといけないな。

 

 エルゴから、エルクの街の情報を聞いた。市場の様子、酒場の様子、街の規模、領主の噂などだ。

 

 夜も()けて、俺は1人でベッドへ、マリア(おっさん)はヘーデと五郎と一緒に布団に入る。元の世界だったら逮捕案件だ。

 クロールミアが寂しそうだったのでベッドに誘ったら、ツンデレ状態で布団に入ってきた。エルゴは、いろいろ研究するので寝ないらしい。ハルナとアロロクは散歩に行くと言っていた。

 

  

 そして次の日の朝、俺が起きると、俺の横ではハルナが黒い下着姿で俺にしがみついて寝ていた。尻尾が足に(から)んでいる。いつの間に?

 ハルナと反対側には、パジャマ姿のアロロクが「旦那成分、シッシッシッ」と寝言を言っており、窓際の机で研究していたエルゴが(うらや)ましそうに、こちらを見ている。

 勘弁してくれ。

 

 そして隣のベッドでは、なぜか上半身をおこして口に指を(くわ)えたヘーデが、ジーッとこちらを見ていて、目が合ったらプイッと横を向いて布団に潜り込んでしまった。

 

 

 せめて何か言ってくれー。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「わりのん、おもれ~!」と思う方がいらっしゃいましたら、ポイント評価と↓下をポチっとして頂けたら幸いです。

小説家になろう 勝手にランキング

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ