第十三話 追試
使い魔の御披露目の後、俺とマリアと使い魔たちは、急に人が増えて寝る場所が無いということで、今のゴーレムハウスをしまってエルゴハウスに移った。
生まれたばかりの使い魔たちは、外に出るのは初めてだ。少し散歩しながら川辺を歩いてみた。
石の感触、せせらぎの音、太陽のまぶしさ、全てが新鮮で楽しそうだ。
今はエルゴハウスの広さに驚きながらも、全員がリビングのソファーに落ち着いて、ハーブティーを飲んでいる。
フレッシュハーブティーは、生のハーブをお湯で蒸らして淹れたお茶で、精霊さんも一押しの一品だ。
ヘーデは、お馬さんゴッコと称して、2m大の五郎に股がり遊んでいる。
因みにエルゴは、家とは別に存在している。家の内部や周辺なら、家+人型も維持できるらしい。俺は流石エルゴだと思いながらも、エルゴが家から離れられないのはまずいので、ゆくゆくは先程のゴーレムハウスを整備して使う方がいいのでは、と悩み始めている。
「ところでマリア、明日からの事なんだけど」
「砦を目指すのよね?」
「ああ、その予定だったのだけど、もう何日かここにいないか? 食事や日用品の問題で、不便を掛けているのは分かっているし、危険があるのも承知の上だが…」
「いいんじゃないかしら。魔物相手に戦闘訓練もできるし、よぶちゃんも、生まれたばかりの使い魔達の様子見とかもあるのでしょう?
やはり、いきなり人前に出すのは少々不安よねぇ」
「そうなんだよマリア。様子を見て必要なら微調整したいけど、人前では出来ないしな」
こうして俺とおっさんは、新たな仲間を得て賑やかな生活となった。
次の日の朝、俺達は森へ出掛けて魔物退治をした。
初めはゴブリン1匹に、ヘーデが全力で「超広範囲落雷ビリビリ~」と、やりそうなのを止めたり、五郎が、爪に風魔法をまとわせて、木々諸とも薙ぎ倒そうとしているのを止めたりと、ふたりの非常識さが露呈した。
注意&加減を教えるのに苦労したが、徐々に常識的な行動を取り始めているので、問題児2人も何とかなるだろう。
俺の使い魔達は危なげない。過剰戦闘することも無くて、安心して任せられる。
外皮が固い大ムカデ相手に、エルゴは手を刀に変形して地面に縫いとめて、光線の魔法で頭部を焼いていた。
ハルナは、竹箒の先端を尖らせて、地面に縫いとめて、頭部を踏み砕いた。
アロロクは、手から魔法糸を飛ばして木に縛り付け、風針(風弾の細長いタイプ)の魔法で頭部を串刺しにしていた。
アロロクの魔法糸は、大蜘蛛から得た魔法だろう。彼等は自分に都合の良い技や、魔法を開発して戦っているようだ。使い魔は寝る必要がないので、研究時間が俺より多くある。
うん、頼もしいじゃないか。数日前まで魔物にビクビクしていたのが、今や懐かしいくらいだ。俺も着々と成長していると言っていいしな。生存率もずいぶん上がったことだろう。
こうして使い魔の戦闘や、行動に問題は無いか確認しながら、河原で何日か過ごした。
今日は、もう辺りも暗くなったので皆で家に帰る。夕食まではまだ間がある。
マリアは、ヘーデと五郎を相手に空手の型を教えている。なんでも心身共に鍛えないと悪は倒せないらしい。
「セイッ!セイッ!」とマリア、ヘーデ、五郎、アロロクが横並びで 正拳突きを打っている。アロロクさんや、いつの間に三馬鹿教に入信したんだい?
俺がハーブティーを飲みながら、これからのことを考えていると、マリア達がやってきて唐突にお願いが始まった。
「ほらぁ、魔法乙女戦隊って、世の人々にとって大切じゃない?」
「ああ、大切じゃないな」
「違うじゃない、よぶちゃん。大切でしょ、必要不可欠でしょ」
「……」
「だからぁ、カッコカワイイ衣装を作ったら良いと思うのよぅ」
ガチムチ乙女のマリアが、かわいく見える衣装なんて無いと思うぞ。
「ああ、良いんじゃないか」
「そう、じゃあお願いねぇ」
「こらこらマリア、ちょっと待てい。なんで俺にお願いする? 自分達で作れよ。面倒臭い」
「布が無いじゃない。それに一瞬で変身しないと意味がないわ。スライムの変形機能で何とかしなさいよぅ。男でしょ! レッドはリーダーなんだからぁ」
「リーダー。シッシッシッ」
「楽しそうだなぁ、旦那がうらやましいよ。ククク」
「呼人様、ご立派になられて、執事として鼻が高こう御座います」
男関係ないし! レッドじゃないし! お前達までニマニマすんな!
マリア曰く、魔法乙女戦隊は、
乙女レッド:俺が担当。戦隊リーダー
乙女グリーン:ヘーデリア担当
乙女ピンク:マリア担当。戦隊ヒロイン
乙女イエロー:五郎担当。カレー大好き
乙女ブルー:アロロク担当
の5人で悪を撃つ、超絶乙女ユニットらしい。
相変わらずのマリアクオリティーだな。もー、どんどん盛られていくじゃないか。君達には、もっと大事なことがあるだろう?
「嫌だよ。俺は戦隊には入らないし、服も作らないぞ」
「呼人、ケチ」
ヘーデリアさん? ケチじゃないでしょ。ケチじゃ! マリアは責任持って教育するって言ったよね。
何、余計なことばかり教えているのかな? いるのかなー!
「おで、イエロー。カレー大好き」
「私はブルー。シッシッシッ」
「五郎はカレーなんか食ったことないだろ? 乙女じゃないし、魔法もほとんど使えないじゃないか?
アロロクは俺の護衛だから、余計なことしてる暇はないぞ。
マリアはスライムゴーレムみたいに、一瞬で変身なんかできないぞ。物理的に無理だろ?」
床に「の」の字を書いて落ち込む五郎を囲って、「ひどいわーひどいわー」と騒ぐおっさん。シクシクと嘘泣きする毒舌メイド。手を目に当てながら、チラチラとこちらを伺う幼女。
なにこれ? オイオイ面倒くせーなぁ!
「よぶちゃんが、こんなに薄情だったなんて、お姉ちゃんショックだわぁ」
「呼人、薄情」
「おで、イエロー」
ええー! 俺が悪いのかよ! 俺が悪いのかよー!
それから、おっさんお得意のゴネまくりが始まって、ヘーデと五郎が便乗して散々ゴネる。
オイオイ精霊の時といい、今回といい、1週間に1度、こんなのがあるんじゃないだろうなぁ。
やれ悪が蔓延るだの、庶民の味方だの、やれ訓練が辛いだの、ご褒美が必要だの、このままじゃ、訓練ボイコットも辞さないだの、俺にとってどうでも良いわー!
子供の教育より先に、おっさんの教育がいるんじゃないか?
「まあ、落ち着けよ。子供を教育する立場のマリアが、率先してわがまま言ってどうするんだよ」
「だってー、戦隊服が欲しいじゃないのぅ」
「呼人、いじわるダメ」
「おで、カレー食う」
「そんな余計なことばかりやってて、訓練はちゃんとやっているのか? 子供の教育はどうだ?」
「勿論よぅ。問題なんか有るわけないわぁ」
「じゃあヘーデと五郎のテストを行う。合格したら、乙女戦隊の服を作ってやる」
「「「やったー!」」」
面倒臭くなった俺は、適当に誤魔化すつもりでテストを提案した。まず常識テストだ。簡単な俺の質問に、ヘーデと五郎が答えるだけだ。勿論、マリアは手助け禁止だ。
「問題です。子供がゴブリンに襲われています。どうしますか?」
①子供に当たらないように風弾で戦う。
②超重力子爆弾で、森ごと素早く殲滅する。
③無視してハチミツをなめる。
「さあ答えは何番?」
「ヘーデ、2番。間違いない」
「おで、3番。ハチミツ食べる」
……ダメじゃん。
「マリア、ヘーデと五郎に常識を教えないと街に出られないぞ。全然ダメじゃないか」
「ぐぬー!」
マリアは、もう一度チャンスをちょうだいと言う。じゃあ次は戦闘テストだ。マリア達と俺の使い魔との模擬戦闘だ。
しかし、このテストも呆気ない。マリアは、ハルナに竹箒で足を掛けられ、転んだところを組伏せられる。五郎はエルゴが作った蝶々を、楽しそうに追いかけ始め、ヘーデは、アロロクの手から噴き出した糸で、がんじがらめになっている。
「……」
「分かったか、マリア。戦隊の前にやることが沢山あるだろう?」
「分かったわ、よぶちゃん。これから訓練や教育は頑張るから。後生だから、追試をしてちょうだいよぅ」
「ヘーデ訓練する。追試を所望」
「おで、ハチミツ我慢する」
「本当に反省しているか?」
(コクコク)
「追試に合格しなかったら、服はあきらめるんだぞ」
(……コクコク)
「二言は無いな」
(コクコク)
「合格しても、今後もう、わがままは無しだぞ」
(コクコク)
「約束破ったら、戦隊服はライブラリーから削除するからな」
(コクコク)
フフッ、言質は取ったぞ。
こうして追試が決まり。俺が出した課題はドラゴン捕獲だ。夕食を食べながら、みんなに発表する。
「よぶちゃん、ドラゴンって…?」
「精霊さんに聞いたんだよ。この森に小さなドラゴンが迷い込んでいるらしい」
「子供のドラゴンなら危険はないわね」
「マリア、ドラゴンを捕まえれば、素材にしても、ペットとして売るにしても、破格の値段で売れるらしい。
期限は3日だ。明日の朝食後から、3日以内にドラゴンを捕獲できたら合格とする。ただし、夜間の活動は無しだぞ。わかったな」
売るつもりないけどね。というか捕まえるの無理だろう。精霊さんでも見つからないのに。出来そうで出来ない課題を出して、あきらめさせる作戦なのだよ、君達。
まんまと引っ掛かったね。ククク
「呼人、悪い顔。シッシッシッ」
今日は朝からドラゴン探しだ。マリア達は朝食もそこそこに、勇んで飛び出して行った。俺と使い魔は、のんびり過ごすつもりだ。危険な森のはずなんだが住めば都だ。
ポカポカの日差しを受けながら、昼寝するのも良いかもしれない。
食後にハーブティーを飲みながら寛いでいると、「お邪魔するよ」と言いながら、壁から精霊さんが生えてきた。
突然、壁から少年が、スーッと出てくる様はシュールだ。
精霊さんは高位の霊体なので、俺の作った認識阻害の魔法など、まったく効かない。そして壁もすり抜け自在だ。うーん亜空間は、登録者以外入れないはずなのに精霊恐るべし。
「精霊さん、久しぶりだな。どうしたんだ」
「やあ呼人、久しぶりだね。君達のおかげで、邪気の件が片付いたからね。そろそろドラゴンの方も処理しようかと、こちらの森に来たのさ」
エルゴが精霊さんにお茶を進める。俺は精霊さんに使い魔達を紹介した。精霊さんは、ハーブの香りを堪能しながら聞いている。
「ゴーレムとは、相変わらず君の作るものは面白いね」
「精霊さんは、ドラゴンをどうするつもりなんだ?」
「この森の魔物やワイバーンが、ドラゴンを食べると力が強まるからね。そんなことは起こらないと思うけど、万が一もあるから。見つけて、家に帰るように説得しようと思っているよ」
「仮に、俺達がドラゴンと遭遇して、戦闘になったとして、ドラゴンを殺したり、捕まえて人間に売っても問題ないんだよな」
「僕の方は問題は無いよ。もっとも、子供でもドラゴンは強いから、人にどうにか出来る存在ではないのだけどね」
不意に精霊さんが天井を見上げて、「おや? ずいぶんと大きな力が、上空にいるようだね」と呟いた。
俺達が家外に出ると、空から赤い物体が俺の胸に飛び付いてきた。胸と言うか勾玉なのだが
「高位の魔力を感じて来てみれば、なんと香しい魔気なのじゃ」
「こらこら、他人の魔力を勝手に食べたらいけないよ」
「なんじゃ、妾は精霊などに用はないぞ」
ハルナが、全身真っ赤な、翼の生えたトカゲの首を鷲掴み、俺の胸から引き剥がす。
うーん、これがドラゴンか? ちっさいなぁ。喋るんだなぁ。魔力を食べて生きるのか?
ワイバーンは体長5m以上あったのに、この子はせいぜい1mだ。
全身が鮮やかな赤色で、顔はトカゲと言うより恐竜だな。鼻の上にサイのような角があり、大きな口には牙が生えている。
背中は、ワニほどではないがゴツゴツした鱗があり、腹側は割とツルンとしている。
足は太くて、手は細長い、指は太くて鋭い爪が生えている。尻尾は太くて長くて力強い。翼はコウモリのようだ。
女の子だからかな? シャープな感じだな。いやぁでも、体長が5mも10mもあったら大迫力だろうなぁ。
「なんじゃ、無礼な」
「無礼なのはそっちだ。旦那が困ってるだろう」
ハルナは、チビドラゴンを自分の顔の前に持ち上げて睨んでいる。チビドラゴンは、ぶら下がった状態でハルナを睨み返してから、おもむろに口を大きく開けて、ゴオオッとブレスを吐いた。
よほど高温なのだろう。ハルナの赤い髪が瞬時に焼け飛び、顔がブクブクと泡立つ。
しかしハルナは、尻尾を揺らし動じていない。俺は熱さに顔を背け、精霊さんは「大丈夫かい」と、緊張感のない声を出す。
何か、ドラゴンも精霊も、人と感覚が違うんだよなぁ。こんな状況で、そんな事考えている俺も、大概呑気だなと思っていると
ビタァァーン!
大きな音がした。
ハルナによってドラゴンが、石だらけの地面に思い切り叩きつけられたのだ。
気絶?したドラゴンは置いておいて、俺達は黒焦げのハルナに近づいた。高温で焼かれた顔の前面は、炭化しているようにガサガサだ。
「大丈夫かハルナ! エルゴ、治癒魔法とか掛けた方が良いんじゃないか?」
「大丈夫ですよ、これくらい。顔など、ただの造形です。核が破壊されなければ、どうということはありません」
「旦那が作ったこの身体で、どんな攻撃でも耐えてやるぜ。カッカッカッ」
サムズアップしないでくれハルナ、ターミネ○ターの最後みたいだから。
喋る度に、ボロボロと崩れ落ちるハルナの顔が痛々しい。すぐに治してくれよと言ったら。ミュン! って感じで顔が元に戻り、髪が生えてきた。
スライムであり、ゴーレムでもある彼女には容易い芸当なのだろう。
「ハルナ、良く耐えました。良いデータが取れたので感謝いたします」
「ヘヘんエルゴ、少し痛かったがな。表面が焦げただけだ。ダメージなんか無いぜ」
「おいおいハルナ、痛いってなんだ? ゴーレムに痛みなんか無いだろう?」
「呼人様、我々は少しでも呼人様に近づく為に、呼人様より頂いた情報から、味覚や痛覚などを作り上げて実装しております」
エルゴ達は、独自に進化しているらしい。
「ええー、じゃあ今のは凄く痛いじゃないか。普通に死ねるレベルだろ? 肌が沸騰していたぞ」
「ヘん、蚊に刺された程度さ。オタオタするなよ、旦那」
「ハルナ、無茶は止めてくれよ。心配じゃないか」
「旦那は、自分が作ったあたい達を信用してないのか?」
「いや、信用していたさ。だけどあまりに痛々しすぎて…」
流石に常識から考えて、ヤバいだろうと俺は思った。
「カッカッカッ、大丈夫だ。あたい達は誰にも負けねぇ。あたい達は、そういう意思を受けて産まれたんだ。誇りに思ってるんだぜ。
あたいが、旦那の脅威を全て退けてやる。エルゴが研究して、あたい達に新たな力を与える。アロロクが旦那を守る。
まあ、旦那は安心して見ていてくれよ」
「呼人、動揺し過ぎ。シッシッシッ」
「ハルナ、旦那愛がキモい。シッシッシッ」
「あ、愛じゃねぇよ! て、てめー!」
男らし過ぎるぞハルナ。スライムゴーレムは、思った以上に強いんだな。子供とは言え、ドラゴン相手に一歩も引かないとは頼もしい限りだ。
しかし何だ、このドラゴン。俺の使い魔に、いきなり攻撃しやがってムカつくなぁ。このまま捌いて素材にするか?
「このドラゴンはどうするかな? 精霊さんが連れていくのか? 身内を攻撃されたんだ。俺は、このままじゃ納得しないぞ」
「僕も別に、このドラゴンとは関係ないからね。君の好きにすれば良いさ。森に放置しなければ、僕は関与しないよ」
「呼人様、面倒事は我々にお任せを」




