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第十二話 昇天

 使い魔で執事でもあるエルゴが、ハーブティーを()れてくれたので、俺とガチムチ乙女(おっさん)のマリアは、(しば)し休憩を楽しんでいる。

 生まれたばかりの魔物のエルゴだが、教えなくても出来てしまうところが素晴らしい。

 

 窓から暖かな日差しが差し込む、長閑(のどか)な室内にいると、危険な森にいることを忘れてしまいそうだ。

 

 ハーブはマリアが森で採取したもので、おっさんは植物の知識が豊富だ。

 ティーカップは俺が作ったものだ。木製だが、作ったと言っても大した苦労はしていない、ゴーレム技術を応用してウッドゴーレムを作り、コップや急須(きゅうす)の形に変形させて切り離すだけで出来る。

 お湯は当然、水魔法だ。キッチンで火は使えるが、魔法が断然便利なのだ。生活魔法の水は常温のみだが、水魔法では温度設定も自在なので便利だ。風呂も楽に湯が張れそうなので早く入ってみたい。浄化魔法だと疲れまでは取ってくれないので、やはりお風呂は偉大だ。

 

 俺の使い魔の3人、スーパー執事のエルゴと戦闘メイドのハルナ、隠密メイドのアロロクは、ゴーレム技術で作り出したスライムゴーレムだ。彼等は生まれたばかりなので、やることなすこと全てが新鮮で、楽しいと言っている。

 

 今は初めてのお茶に興味津々のようだ。彼等は人間の造形をしているので舌はあるのだが、味覚を味わうのはどうやら舌ではないらしい。人間のようにお茶を飲んだ後、体内で吸収して初めて味がするのだそうだ。俺の脳内情報を一部転写しているせいか、味覚は俺と大きな違いは無いようなので、今後、彼らの作る料理に期待が持てる。

 

 そんな彼等との一時を楽しんだ後、本日のメインイベント、マリア(おっさん)の使い魔の御披露目(おひろめ)を行うこととなった。

 

「マリア、腕輪を渡した時に説明したことを覚えてるか?」

「えぇ、両腕の腕輪に魔力を流しながら、『出でよ』って唱えるのよね?」

「そうだ」

「そして、名付けを終えれば契約が正式に完了して、名前を呼べば出て来てくれる。だったかしらぁ」

 

 あれ? 聞いて無さそうで意外と聞いてた? マリアちゃん優秀? おっさん、しっかり者? 只の脳筋じゃなかったのね~。

 

「どんな子が使い魔になってくれるのかしら? 楽しみだわぁ」

「俺デザインだからな。気に入らなければ、後で外観形状の変更は自由にできるから、安心してくれ」

「よぶちゃんを信じてるから大丈夫。じゃあ、いくわよぅ」

 

 これでおっさんが出てきたら、ウケるだろうな。そんなことはしないけどね。

 

 マリアが腕輪に魔力を通して、「出ていらっしゃ~い、私がママよぅ」と言うと、俺の時と同様に腕輪がニュ~っと変形して、形を成していく。

 そしてマリアの右側には、白いワンピースを着た10才位の幼女が、左側には黄色のTシャツを着た、子熊のように丸々と太った動物が現れた。

 

 幼女は片手でマリアの(そで)(つか)み、指を自分の口にあてた状態で、俺やマリア、他の使い魔達をジーッと見回しており、子熊のような動物は、スンスンとマリアの手の匂いを嗅いでいる。

 

 当のマリア(おっさん)は、「まー、かわいい。まー、かわいい」とひとしきり騒いだ後、感無量(かんむりょう)で固まっている。どうやら、俺プロデュースの使い魔を気に入ってくれたようで一安心だ。

 


 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 私の名前はイワさん。

 …いえ違うわ、確かに本名は岩男で、高校時代はイワさんて呼ばれていたのだけれど、今はマリアよ。

 

 私の名前は、マリア。

 

 今、私の両隣に天使がいる。 

 

 何て幸せな事でしょう。

 

 このまま昇天したい気分だわぁ。

 

 フォーーーッ!

 

 思えば苦節うん10年、ツラい日々ばかりだったわぁ。学生時代は「オネェ、オネェ」と(さげす)まれ、親にも見放され、ようやく特殊バーのママの座を得たのに、裏切られて投獄、何処(どこ)とも知れない大陸に置き去られ、魔物と戦う日々、枝に股がって寝る荒行(あらぎょう)………

 

 でもやっと、やっと私にも神の恩恵がー!

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「おーい」

 

 返事がない。

 

「おーい、息してるかー」

「おっさん、()っちまったんじゃねーか?」

「裸王昇天、シッシッシッ」

「マリア様、大丈夫でございますか?」

 

 天井を見上げ、目を(つむ)ったまま固まっていたマリアの目から、一筋の涙が流れ出た後、ゆっくりと目を開くマリアを俺達全員が注視する。そしてマリアが口を開いた。

 

「おっさんは、止めてちょうだい」

「そっちかよ! マリア、急にフリーズしたから、みんな心配してたんだぞ」

「あら嫌だ。よぶちゃん、私は何日くらい逝ってたかしら?」

「30秒位じゃないか?」

「…走馬灯を見たわ」

「はぁ?」

「この子達の、あまりの可憐(かれん)さに衝撃を受けて、昇天しかけたのよぅー!」

「マリア落ち着けって、子供の前で恥ずかしぞ。それより早く名前を付けてやれって」

 

 うーん、マリアの奴、何か変なスイッチ入っちゃったなぁ。やっぱり、ウケ狙いの出オチタイプの使い魔の方が良かったのかな? しかしおっさんタイプの使い魔なんて、イメージするの嫌だし、スリーオッサンズとか最悪だぞ。今更やり直せないし、まあいいか。

 

「じゃあ、あなたの名前は、ヘーデリアにしましょう」

「ヘーデリア?」

「そうよ、ヘーデちゃんよ。気に入らないかしらぁ?」

「……うーん? 大丈夫。ありがとうマリア」

「ちゃんとお礼が言えるなんて、お利口さんね。これからよろしくねぇ」

 

 幼女のヘーデリアは、頭を(かし)げて少し考えた後、名前を受け入れた。それにしてもヘーデは、表情が(とぼ)しいし、知性も年相応の幼い感じなのには驚いたな。

 俺の使い魔と同じ作り方だし、脳内情報も、エルゴ以外は変わらないはずなのに不思議だ。俺の使い魔もそうだが、3人共に性格が違う。外観は俺のイメージで作り上げているが、性格はノータッチだ。いったい彼らの個性とは、どんな理屈で形成されているのか?

 

「おでは?」

「あらあら、あなたもおしゃべり出来るのね。えーと、あなたの名前はねぇ。五郎にしましょう」

「おで、五郎。マリア守る」

 

 五郎は、すぐに受け入れたようだ、2本足で立ち上がって、ゴリラのドラミングのように胸を叩いて、嬉しさを表現しているのがかわいい。

 ん? 動物タイプもしゃべるのかよ。作った俺が、まったく予想してなかったよ。驚いた。しかし「おで」ってなんだよ、俺の脳内情報に無い呼称って、どういうことだ? 本当、不思議魔法生物だよゴーレムは。

 

「マリア、抱っこ」

「あらあら、甘えん坊さんねぇ。ヘーデちゃんは」

「おでも、おでも」

「はいはい、ちょっと待っててね」

 

 なんだ? この絵面?

 ガチムチなマリア(おっさん)がソファーに座り、その両足にヘーデと五郎が乗っているという、シュールな光景に、俺はホッコリした気持ちになった。ちょっと(うらや)ましいな。

 

 何となく一段落付いたところで、エルゴがハーブティーを()れてくれた。流石はスーパー執事だ。五郎の分は深皿に入っている。

 マリアの足に股がったまま、手だけテーブルについた状態で、お茶をスンスンしている五郎は、やはりかわいいなぁ。ヘーデはマリアに体を預け、口に指を置いたまま五郎を観察している。こちらもかわいい。

 

「では、名付けも無事に終わったようなので、ヘーデと五郎の説明に入る」

 

 俺は、まずヘーデリアの説明から始めた。

 ヘーデは、パステルグリーンのくせっ毛で、10才位の幼女だ。耳は尖ってないがエルフの幼女をイメージしている。今は白いワンピースを着ているが、時間があればゴスロリ服とか着せようかと、秘かに思っていることは言わない。

 

 形態は腕輪、人型、武器となる。

 攻撃は魔法特化で、武器や格闘系の動作プログラムは、いっさい入れていない。同じ魔法特化のエルゴの場合、家変形や執事の仕事の為に、余計なリソースを使っているのだが、ヘーデの場合、余計なリソースを削って、広域殲滅魔法などの大きな魔法に特化させている。()わば殲滅(せんめつ)天使だ。

 

 流石に自衛の為の身体強化やバリア、魔法の基本セット、生活情報などは、他の使い魔と同様にインストールしてあるので、あそこまで幼女幼女しているとは思わなかった。

 

 俺的には「のじゃロリ」を目指していたんだけど、どこで間違ったのだろう?

 

 言い忘れていたけど、ヘーデには勾玉(マガタマ)を2つ使用している。つまりダブルコアだ。高密度な魔法陣を、素早く展開できるところが、他の使い魔と違っている。

 

「よぶちゃん! 殲滅天使って何かしら? こんなにかわいらしい子供に、なんて事してるのかしら?」

「いや~、高火力の『のじゃロリ』ってテンプレじゃん? そっちをイメージしてたんだけど、まさかこんなに弱々しい感じの外観になるなんて思わなかったんだよ」

「呆れた、突っ込む気も起きないわぁ」

呼人(よぶと)、ダメッ!」

 

 お姉ちゃんぶるヘーデに怒られた。

 

面目(めんぼく)ねぇ」

「広域殲滅魔法ってどんなのかしら?」

「普通に、火炎大竜巻グオ~みたいなのとか、超広範囲落雷ビリビリ~みたいなのとか、超重力子爆弾(ギガグラビトンボム)ドカ~ンなんかだけど?」

「どこが普通なの! 語尾伸ばして誤魔化してもダメッ! 超重力子爆弾って何よ、もー。いやいや原理はいいわ。その魔法を撃つとどうなるの?」

「うーん、ヘーデが最大出力で撃てば、この大陸が無くなるかな~?」

 

 「「「……」」」

 

「お馬鹿!!」茶を吹き出すおっさん

「かーっ!旦那、ドン引きだぜ」でこに手を当て天を(あお)ぐおっさん風のメイド

「人類の敵、シッシッシッ」毒舌メイド

「流石にやり過ぎかと…」呆れるイケメン

「呼人、メッ!」お姉ちゃんぶる幼女

「おで…」分かってないプーさん

「だって、だってさ、一国の軍隊を相手にする場合に便利かな? って思ったんだもん」威厳(いげん)を失うゴーレムマニア

「もん? ってかわいくないから!」おっさん再び

「マリアに言われてる。シッシッシッ」毒舌再び

「ぐぬー!」ゴーレムマニア撃沈

 

 ヤバい、みんなジト目だ。話を変えなければ俺が残念な子になってしまう。超重力子爆弾、そんなにダメですか? (おど)しにちょこっと撃つだけで、効果抜群だと思うんですけどダメですか? ダメなんですね? わかりましたから、ジト目は止めて下さい。お願いします。

 

「話は変わるけどエルゴ、ゴーレムの個性は、どんな条件できまるんだ?」 

「製作者の目に見えない、マスクデータですね。契約者がいる場合は、契約者の求める性格が反映されると思います」

「マリアが子供を求めたから、ヘーデと五郎は幼い感じなのか?」

「多分」

「俺は、補佐を求めたからエルゴが生まれたと」

「まさに」

「しかし、おっさん口調のガサツな性格とか、毒舌見下し系とか求めてないぞ」

「隠れたドM願望かと」

()めるなよ旦那、がははは」

「呼人アウトー!シッシッシッ」

 

 ダメじゃん。もー五郎の説明始めるしかないか。

 

「えーと、五郎の説明いいかな?」

「よぶちゃん、話を変えようとしてもダメよ。爆弾は封印しなさいね」

「えー、せっかく作ったのに」

 

 ギロッ

 

「はい…」

「呼人、メッ」

 

 また幼女に怒られた。それからおっさんもギロ目は止めて下さい。泣きそうだけど、気を取り直して五郎の説明です。

 

 五郎は、元の世界の、とある大陸に生息する珍獣のウォンバットだ。

 灰色の体毛にずんぐりむっくりな体、短足、愛嬌(あいきょう)のある顔、人の後ろをトコトコついて来る(さま)はかなり愛らしい。

 黄色のTシャツ(胸に赤い熊柄)を着せているのは、俺の趣味だ。

 

 形態は腕輪、ウォンバット、武器となる。通常は、立ち上がっても1m弱だが、ウォンバット型で戦闘中は、3m位まで大きさを自在に変える。

 攻撃は物理特化で、ウチ1番のパワーファイターである。大体、ハルナの3倍位の出力が出せると思う。体の大きさとパワーで盾役も期待できるので、経験を積めば大陸最強も目指せるであろう。フンスッ

 魔法は身体強化と風魔法のみ、情報はヘーデと同じだ。

 

「おで、強い。マリアとヘーデ守る」

「急に大きくなるのは微妙ね。かわいさ半減じゃないかしらぁ?」

「まあ、その辺はマリアの教育しだいだろ。五郎の力も、ヘーデの魔法も、扱い方によっては凶器だからな。

 俺の使い魔みたいに大人ならまだしも、判断力が無い子供チックな性格にしたのは、マリアにも責任あるわけだから、しっかり教育してくれ」

「あ・な・たに責任とか言われたくないけど、かわいい娘と息子の教育は、ママのお仕事ね。頑張るわぁ」

「ヘーデ、娘?」

 

 ヘーデリアが指を口に置いたまま、コテンと首を(かし)げる。

 

「おで、息子?」

「そうだぞ、お前達は俺とマリアが作り出し、今日生まれた。そしてこれからは協力し合う仲間であり、俺達全員が家族だ」

「呼人、家族」

「おで、家族うでしい」

「マリアは?」

 

 ヘーデリアは、自分と俺とマリア(おっさん)の関係が、よくわからないらしい。俺もわからないが冗談のつもりで答えた。

 

「マリアは、おじいち「何かしら?」」

「おじち「お姉ちゃんよぅ!」」

「私は、よぶちゃんのお姉ちゃん。そして2人は私の自慢の子供達だから、よぶちゃんが叔父さんよ」

「よぶおじちゃん?」

 

 はぁ~、もうどうでもいい。

 

(五郎の喋り方について:おで、うでしい、だけ「れ」が「で」になる。他の「カレー」とか「それ」とかは「れ」のままです)

 

 

 

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