第十一話 御披露目
河原での生活を始めて3日目の午後、早い夕飯を食べて少しマッタリした時間を過ごし、俺は満を持してマリアに話を持ちかけた。
俺達は魔法で照明を作り少しは快適になった室内で、ソファーに対面して座りお茶を飲んでいる。
「マリア、話がある」
「あら、告白なら答はNOよぅ。よぶちゃんは可愛いけど、少~し魅力が足りないわぁ」
ガチムチ乙女のマリアは、結構この手の冗談が好きだ。俺的には神経を削られるので、全てスルーしているのだが、一向に堪える様子がない。おっさんなので、オヤジギャグが大好きみたいだ。
「いや、これを渡そうと思って」
俺は、テーブルの上に2つの腕輪を置く。勾玉で作ったスライムゴーレムの腕輪だ。
「あらあらぁ、嬉しいわぁ。指輪じゃないのが残念だけど、バングルでも十分によぶちゃんの気持ちは伝わったわよ。今夜、お部屋の鍵は開けておくわねぇ」
クネクネすんな! 部屋に鍵なんか付いてないし、行かないし!
「勾玉の改造が終わったんだ。ちょっと着けてみてくれ。まず手に持って魔力を流して使用者登録したら、手首のところに押し当てれば良いはずだ」
「じゃあ、さっそく着けてみるわね。…あっ、ミョンて変形したわ」
「スライムゴーレムだからな」
「うーん、なかなかお洒落じゃない」
その後、俺は、はしゃぐマリアに使い方と注意事項を簡単に説明した。聞いてるのか? おっさん!
魔法はイメージに魔力を混ぜて、物品や現象を具現化できる。脳内でイメージして発動することもできるが、大抵は魔法陣に頼って発動する。いちいちイメージするのは、時間が掛かるからだ。
魔法陣はプログラムのようなものだ。ルールが分かれば切り離したりくっつけたり、威力や範囲を変えたりと改造ができる。
魔物の魔石には、魔法と同じような魔法陣が内包されていて、魔物特有の機能を持っている。
ゴーレム:単一組織の変形、動作制御
スライム:体組織の変形(ゴーレムより緻密で素早い)
オーガ:身体強化(骨、筋肉、皮膚)
狼の魔物:夜目、遠視、念話
熊の魔物:体内時計
例えばこんな感じだ。当然それぞれの魔物の動きや、生活情報なんかも魔法陣の中にデータがある。
俺達は自作した魔法の他に、これらから有用なものを選んで、脳内にインストールして使っているのだ。
またそういった魔石の魔法陣を改造して、俺は独自のゴーレムを作った。使い魔として、護衛として、一緒に旅する為だ。
「じゃあ、俺のゴーレムから紹介するぞ。みんな出て来てくれ!」
俺の掛け声と共に、両腕の腕輪と右手の指輪が、ニュ~と変形して人型となる。俺の左側に燕尾服を着た20代の男性、右側にメイド服を着た同年代の女性が2人だ。
3人とも西洋人形のように美形で表情もある。ネタをバラさなければ、人外だとは誰も気付かないだろう。
マリアは、目を見開いたまま眼球だけを動かして、俺を含めた四人を代わる代わる見ている。
「びっくりしたか?」
「びっ、びっくりしたわよ! 何なのよこれは? もー、心臓飛び出るかと思ったわよぅ」
「俺の使い魔のスライムゴーレムさ」
そうさ、これが世紀の大発明スライムゴーレムなのだ。ゴーレムの魔法陣を魔改造して実現した、素早くしなやかな動き、スライムの体組織を利用した形状、硬度、大きさが自在に変えられるボディ。
まるで映画に出てくる、未来からきた液体金属で出来たロボットのようではないか。すばらしい。
「よぶちゃん、使い魔って? 武器を作っていると聞かされていたのだけれど!? どういうことかしらぁ?」
「せっかくのゴーレムなんだ、ゴーレムらしくないと勿体ないじゃん。それに武器にもなるぞ」
「らしくない! らしくないわよぅ、あなたの倒したゴーレムと、全然違うじゃないのぅ」
「その辺は、臨機応変ってことで」
「……もー、これ以上考えたら倒れそう」
勝った。マリアは俺のビックリドッキリゴーレムに相当驚いたみたいで、俺は御満悦だ。この調子で機能紹介でもビビらせてやる。ククッ
「じゃあ、紹「待って!」」
「私の腕輪も同じ仕様なのよね? 私も出していいかしらぁ?」
「いやいや、ダメだろ! 番組構成上マリアのは来週だから、ガマンしてくれよ」
「番組ってなによぅ!」
「マリアも視聴者とか言ってただろ」
「視聴者なんか知らないわよ! 早く私も使い魔達に会いたいの!」
いやいや、待ってくれ俺の計画がぁー
「マリア様、私の話を聞いて頂いても宜しいでしょうか?」
突然、執事風の男がしゃべりだし、マリアの目が再び見開かれる。
「しゃっ、しゃべった?」
「当たり前だろ! 旦那が作ったんだから。舐めんなよおっさん!」
「おっさん、シッシッシッ」
メイド達もしゃべりだし、マリアが更に驚く。どうやら動く人形のような者と思っていたようだ。エルゴ、グッジョブ!
「お前達、マリア様に失礼な物言いは止めなさい。マリア様、失礼をお詫び致します。」
「ゆっ、許すわ」
「私共も、早くマリア様とお話したいと思っております。まず私共の紹介から先にさせて頂いても、よろしいでしょうか?」
「そっ、そうね。ものには順序があるわね。順番は守らなければいけないわ。
よぶちゃん、あなたのパートナーを紹介して下さるかしらぁ」
ちょろいぜ! しかし、マリアを手玉に取るとはエルゴ恐るべし! こんなに動揺したおっさんを久々に見たよ。エルゴ2点目ゲットー!
「今話した執事風の男がエルゴ。まぁ、執事もメイドも、彼らの好みのロールプレイだ。俺が強制したわけじゃないから勘違いするなよ」
「エルゴちゃん、よろしくね」
「よろしくお願い致します」
握手をかわすエルゴとマリア、おっさんの目がハートだよ、まったく。
エルゴはイケメンな上に紳士だからなぁ。世のご婦人や、特殊趣味なおっさんにモテモテだろう。
西洋風の顔立ち、流れる銀髪、透き通るような白い肌、190㎝の長身に細マッチョな体躯、穏やかな性格に明晰な頭脳、俺が自分に欲しいと思った要素を、これでもかと詰め込んだのがエルゴなのだ。
俺の欲望の具現化だよコレ! 妥協はしないぜ。エルゴよ、俺の代わりにモテまくるのだー! ただしご婦人にだけな。
「それで、こっちの口の悪いメイドがハルナ」
「おいおい、そんな紹介は無いだろう。旦那」
「ハルナちゃん、よろしくね」
「おう、よろしくなおっさん」
「おっさんは、止めてもらえないか・し・ら」
「分かったよ、マ・リ・ア」
握手に必要以上の力が入る二人に、呆れる俺とエルゴ。うわ、ゴリゴリ言ってるよ手が! 二の腕がボコッって膨れたよ…。
2人の関係は、先が心配だなぁオイ。
ハルナも顔立ちは西洋風の美人さんだ。赤髪ショートに肌は健康的な小麦色。身長が180㎝で出るところが出た、ボリューミーなわがままボディに、猫耳&尻尾付き、これまた俺の別方向の欲望を詰め込んだ外観をしている。
うーん、メイド服が良く似合う。眼福だなぁ。でも何故か竹箒を担いでるんだよなぁ。
ハルナはデザイン的に少々無理がある。人間ボディに後から思い付いた猫耳と尻尾を追加したので、頭髪と猫耳と尻尾だけ赤い毛が生えているという点だ。
顔、手足、身体は、ツルツルの小麦色の肌なのに、猫耳と尻尾には毛があるという、後付け感が半端ない。
あと人間耳と猫耳が両方ある点も、より後付け感がある。髪がショートなので人間耳を隠せないのだ。でも本人が良いと言うのだから良いか。
「最後の、ちっこいメイドがアロロク」
「アロロクちゃんも、よろしくね」
握手しながらアロロクが「イワさん」ってボソッと呟き、「シッシッシッ」と口を押さえて笑ってる。ツボに入ったみたいだ。何でその呼称を知ってる? 俺の心の叫びだったのに。こっちはこっちで問題だ。頭が痛い。
アロロクは、和風美人の ちみっ子メイドがコンセプトだ。長いストレートな黒髪(前髪パッツン)、白い肌、150㎝の細身な体躯、胸はそこそこ、うーん俺の趣味丸出しだ。
「よぶちゃん!」
「はひっ?」
「何か私に対して思うところがあるのかしらぁ?」
「…」
「メイドの無礼は私がお詫び致します。我らは生まれたばかり、いわば赤子同然です。呼人様に責はございません。今後の教育にて改善されることでしょう」
「エルゴちゃんがそう言うのなら、そうなのでしょうね。私が間違っていたわぁ」
うわー、エルゴ、ハットトリック。同じように作ったのに、何でこんなに違うかなぁ。不思議だなぁと、つくづく思う。
「エルゴ達の機能を簡単に説明しとくよ」
まずエルゴの攻撃は魔法特化、形態を腕輪、人型、家、武器などに変形できる。
魔法は俺が使えるものは大抵使えるが、力はさほど強くないので、近接戦闘プログラムは簡単なものしか入れていない。
さほどと言っても、マリア以上のパワーはあると思うし、防御面でも魔法でバリアや身体強化(スライムボディは、魔力を流すと硬化し力も増す)もできるので心配ない。
脳内情報として、マニュアルの情報と俺の脳内情報の一部を抽出して転写しているので、元の世界の料理などはお手の物だ。
脳内情報の抽出は、「鑑定」の魔法をいろいろいじっている時に手に入れた。鑑定の魔法陣に手を加えて、自分を鑑定したら、脳内情報まで見れるようになった。その情報を持ち出して、エルゴの魔石に転写したのだ。
バリアは、風魔法というか空気魔法というか、空気中の分子を強固に結合して固体にする魔法で作ったものだ。
エルゴの立ち位置は、俺の執事として料理を作り、参謀として情報をまとめ、家として癒しを与え、戦闘においては後方支援とメイドの指揮をする。つまりスーパー執事なのだ。
「家って…」
「今いる家は3部屋だけど、エルゴが家に変形すると、より豪華な家になる。外観は今と同じく、スペースを取らない小綺麗な掘っ立て小屋だけど、内部は9LDKの豪邸だ」
「あらエルゴちゃんは、優秀なのねぇ」
「全室、家具付き、バス、トイレ完備、簡易キッチン付きだから、後で楽しみしにしてくれマリア」
「後でなのね、残念」
「ああでも、街で布団や布とか、石鹸なんかの日用品、雑貨、食器、調理具、食糧、調味料などなど、生活必需品を揃えるまでは、まだまだ不便だと思うから、あまり期待しない方がいい良いかもな」
「確かに、いくら広い家があっても、今の食事じゃ悲しいわよねぇ。それに石鹸やタオルが無いとお風呂も入れないし」
「マリア、この世界にタオル生地なんか、無いんじゃないかなぁ」
「えっ?」
元の世界のタオル生地は、表面にループ状のパイル糸が密集した吸水性の良い生地だけど、平織りと違い簡単には織れないと思う。
まあ、太い糸で平織りした、厚めの布はあるだろうから問題ないかな。
「織り方が特殊だから、普通の機織り機には無理なんじゃないかと、ふと思っただけだ気にしないでくれ。あくまで憶測だし」
「よぶちゃん、気になるわよぅ! タオルのフカフカ感が味わえないなんて、悲しいじゃない。シャンプーとかコスメも無かったらどうしよう。シクシク」
「まぁ、街の状態を実際に見たわけじゃないから分からないけど、ラノベのテンプレに近いんだろうな。
でも、これからこの世界の情報と物品を集めながら、徐々に生活向上していくしか無いんだよなぁ。いやはや先は長いよトホホー」
話が逸れたけど、次はハルナの機能だ。
ハルナはエルゴと違い物理特化だ。パワーとスピードで、近接戦闘をゴリゴリこなすのが特徴なのだ。パワーはエルゴの5倍はあるだろう。泥ゴーレムなど最早雑魚だ。
魔法は、身体強化や魔法の基本セットと呼ばれる、生活魔法(着火、給水、灯火、収納、浄化)、飛行、騎獣召喚、鑑定、治癒、TVが使える。
脳内情報はエルゴのような専門知識は省き、基本的な生活に支障が出ない程度の情報を、俺の脳内から転写している。
そして形態は腕輪、人型、馬車、武器などに変形できる。
言い忘れていたが、これはあくまで俺がイメージを焼き付けた基本形態であり、スライムとして本来の力を使えば、見たもの全てに変形が可能である。木や岩などの他に人間(俺とか)にも変形は出来る。
ただし、イメージが焼き付けられている形態に比べて、変形に時間が掛かるし、複雑な物は無理という制約はある。内部に複雑な機構を持つ機械の、外観は真似出来ても内部までは真似できない。
「よぶちゃん、馬車って凄いわねぇ」
「これは俺のイチオシだよマリア。この世界に慣れたら旅にも出たいじゃん。この森以外では、飛行魔法で移動は簡単みたいだけど、やっぱり旅は陸路でしょ。そこで旅を優雅にこなす為の必需品が、馬車ってわけだ」
「夢が膨らむわねぇ」
「あぁ、楽しまないと損だー。くらい思わないとやって行けないよ実際」
「本当、この境遇って理不尽だわぁ。…ところで馬車に変形して、誰が引くのかしら?」
「それはだなマリア、魔法で出した騎獣に引かせても良いんだけど、実は馬とかいらないんだ。だって見た目が馬車チックな自動車なんだも~ん。しかも自動運転付きで内部は亜空間だから、宿泊にも最適だ」
そうなのだ。馬車と言ったが、エンジンが付いた馬車風の車なのだ。
この自走馬車のデザインには拘った。外観はヴィンテージのロンドンタクシーか、小さめのレトロなボンネットバスと言った赴きで、ガラス窓が広く取ってある。
馬車の前方には、ダミーのユニコーン(彫刻のように動かない)が2頭取り付けられていて、見た目だけは、洒落た馬車という感じだ。
車輪は、前輪が馬の腹の下にあり、馬車の後部に後輪がある。ダミー馬の前足の間にライトも付けたし、エンジンは馬車の下にあるから目立たない。
「あなた、初っぱなから飛ばしすぎじゃなくて? 技術的な面で。またチーターって言われるわよ」
「面目ねぇ…」
「自動車って、ガソリンはどうするのよ?」
「組成が判るから魔法で作れるぞ。だがこの馬車のエンジンは、ガソリンエンジンでも電動でもない。魔力で動く夢のゴーレムエンジンなのさ~。まいったか?」
「まいるかぁ! ……詳細は、どうせ聞いても分からないからもういいわ。よぶちゃん、早く自重ってものを覚えなさいね」
「度々面目ねぇ」
さて、また話が逸れてしまったが、気を取り直してアロロクの機能紹介をしよう。
アロロクは、索敵と速度に特化した隠密メイドだ。気配、動体、魔力察知の他に探知魔法が得意で、赤外線や音波、魔力を使った探知を行える。他に夜目、遠視、気配遮断、変形などを駆使して、索敵や情報収集をし、俺達への攻撃を事前に防ぐのが主な役割となる。
形態は指輪、人型、武器が基本で、俺とマリアの外観イメージも、ライブラリー登録してあるので、瞬時に変形して影武者にできる。
その他はハルナとあまり変わらず、バリア、身体強化、基本セットの魔法、生活情報の転写が行われている。
「隠密って、完全によぶちゃんの趣味じゃない」
「いやいやマリア、侮るなかれ。彼女は、スナイパー対策の為に必要なんだよ」
「1㎞先からライフルでってやつね? じゃあ、半径1㎞の索敵範囲があるってこと?」
「それがな、魔力って自分から離れれば離れる程に弱まるし、制御も難しくなるんだよ、だから1㎞は無理だった」
「でしょうね」
「現状の索敵範囲は、せいぜい半径50mだ。その範囲にライフルの弾丸が撃ち込まれたら、音や空気の揺らぎで察知して、素早くバリアを張る。ってのが今の限界だ」
「その為に感度を上げて、瞬時に対応できる速度を与えたと言うわけね。でも正直、心許ないわねぇ。音は遅れて来るって言うし、揺らぎをいち早く察知するって難しそう」
「まぁ、バリアは強化してあるから、弾丸にも負けない自信はあるけど、弾丸の探知とバリアが、間に合うかは五分五分かなぁ。今後時間を掛ければ、解決できることもあると思う。そこに期待だな。
後は装備で強化かな。俺のパーカーとマリアのジャケットに、魔石を仕込んでスライムボディで強化したり、フードは兜のように、頭と首をガード出来るようにして、胸と背中の部分も強化するとかかな」
「わかったわ、よぶちゃん。心許ないとは言ったけど、数日前に比べれば格段に心強いのも事実よ。彼女には出来る範囲で頑張ってもらいましょう」
「そうだな、今後有用な情報や、技術が得られることを期待しよう。以上がザッとだけど俺の使い魔の紹介だ」
「ええ良く分かったわ。みんな、これからは一緒に生活する仲間になるのだから、仲良くやりましょうね」
さて、次はマリアの使い魔の御披露目だ。まぁ、外観が違う位だからサクサク終わらせて、明日からの話をしないと。




