表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/69

第九話 殲滅

 俺の3m先には炎の壁が燃え盛っている。ゲル状ガソリンの炎だ。高温なだけでなく、飛び込んできた者にまとわり付き、燃え続けダメージを与える。更に酸素を欠乏させる作用もある。

 

 ガウッ。吠え声と共に炎から狼の魔物が飛び出してくる。だが魔物は、顔にへばり付いて離れない炎に苦しんでいるようだ。それと同時に炎壁の横合いから、別の魔物が踊り出てくるのが見えた。

 

 炎に飛び込んだのは後回しだ。

 

 俺は炎の壁の横に向けて魔法を数発撃ち込む。狙いなどつけていられない。正に下手な鉄砲だ。

 幸い初めの落雷で小物は一掃されたらしく、大型の魔物しかやってこないので、狙わなくても魔法が当たってくれる。

 

 数匹倒したところで攻撃が止まった。最初の100匹を倒したのだろうか? ずいぶん少ないぞ、どういうことだ? 俺は油断無く辺りを見回してから、額から流れる汗を拭った。

 先程いた100匹の魔物の中に、既に立っているものはいない。森から追撃の魔物も出てくる気配はない。


「初めの落雷がずいぶん効いたようだな。森の中にいる後続もためらっているのか? ならこっちから行かせてもらうぜ」

 

 (つぶや)いた俺は森に向けて立て続けに3発、広範囲に散らばらせた落雷を放つ。森の中に爆音と閃光が(きら)めき、煙が立ち込める。

 そして落雷に弾かれるように、森から次々と魔物が転がり出てきた。やはり隠れていたか。さぁ第2陣の始まりだ。

 

 それからは無我夢中だった。


 炎壁を盾に上や横をすり抜けてくる魔物に、風弾を撃ちまくった。魔法はマシンガンのようには連射が効かない、「風弾」「風弾」と唱えた分は発射されるが、ダダダという感じでは無い。それでも散発的な攻撃には対処できる。

 ゴブリンや鳥など、小さな魔物は一発で行動不能にできるが、大型の魔物には炎弾などで追撃しなければならない。俺は時折、照明弾や落雷などを()り交ぜながら、攻撃魔法を撃ちまくる。

 

 どれくらい時間が経ったのだろうか。何回か辺りが暗くなり照明弾を追加したり、魔物の攻撃の合間を()って落雷を放ったりした。

 

 疲れたなぁ。

 

 と思って周りを見渡すと、魔物の攻撃が止んでいることに気が付いた。

 黒焦げの死体、煙を上げている死体、腹が(えぐ)れている死体、炎壁の明かりに照らされて、様々な魔物の死体が転がっているのが見える。目の前の河原や奥の森には、動くものの気配は無い。

 俺はいったん結界の外に出て休むのに調度良いと思い、マリアと精霊さんの方を(うかが)い見る。

 

 マリアは炎壁を盾に風弾を撃ちまくっていた。顔や腹がゴッソリ削られた死体が山積みだ。

 精霊さんの方は、まさに火祭りだ。倒れた魔物が盛大に燃え盛っている。それを見下ろす形で、中学生くらいの少年が空中に浮かんでいる。

 

 2人ともまだ敵に対応しているようだ。俺の周りにも魔物の死体が山積みだが、攻撃は止まっている。

 

 マリア(おっさん)も戦えているから大丈夫だと思った俺は、森からの追撃を絶つように、広範囲に散らばらせた落雷を数発森に放つ。ゴロゴロガシャーンという、轟音と閃光を受け流しながら、オマケだとばかりに、更に奥に向かって落雷を放つ。

 しばらく様子を伺うが魔物の気配は無いようだ。あっちも休憩かな? まだ500には足りないよな?

 

「照明弾」「照明弾」「照明弾」

 

 一瞬暗くなった周囲がまた明るくなる。右側でも照明弾が上がっている。どうやらマリアも余裕があるようだ。

 

 右側で落雷が鳴り響く、俺と同じように見えない敵に向かってのようだ。

 俺も、もう少し撃っておくか。森の入り口や更に奥に向かって、数発の落雷を広範囲に散らす。

 また轟音と閃光が入り交じる森に視線を向けて、魔物が飛び出てこないか待ったが出て来なかった。

 

 

  

「マリアー、精霊さーん、生きてるかー!」

「…」

「…」

 

 返事が無い。もう一度声を掛けようとした時に、左右から声が上がった。

 

「私は大丈夫よぅー」

「こっちも問題ないよー」


 すっかり静かになった森に、俺達の声が響く。

 

「魔物の追撃はあるかー」

 

 いつの間にか近くに来ていた、マリア(おっさん)と精霊さんが答える。

 

「今は静かねぇ」

「そうだね」

「いったん結界外に出て休まないか?」

「よぶちゃんの意見に賛成ー」

「僕も良いと思うよ」

 

 俺達は結界から出て流木を集めて、焚き火を焚いた。川を渡ると、また暗闇の世界だった。遠くに先ほど戦っていた場所の焚き火の炎が、揺れているのが見える。

 こちらの焚き火も本格的に燃え始めて、マリア(おっさん)が自慢のハーブティーを()れてくれた。

 

「俺は500匹には全然足りてないと思うけど、どうだ?

 何か随分(ずいぶん)と手応えがなかったし、これから一気に襲ってくるのかなぁ」

「呆れた、よぶちゃん。本当にそう思っているの?」

 

 両手の平を上にして、やれやれというように首を左右に振るおっさん。どういうこと?

 

「ん?」

「あはは、僕が説明しようか?」

「なんだ? 俺だけ分かってないのか?」

「呼人、最初に出てきた魔物は、ほとんど中央に集まっていたんだ。つまり君の前さ。君の最初の2発の落雷で、あの100匹のほとんどがやられたんだよ。僕の方には10匹も来なかった」

「私も落雷を撃ったから、せいぜい5匹ね」

 

 ええー! そうだったの? 落雷でホワイトアウトして、全然見えなかったから分からなかったよ。

 言われて見みれば、落雷のあとは襲撃が少なかったな。必死だったから気にしてなかったよ。

  

「俺のところにも数匹しか来なかったな。オーガとムカデ、あとは狼だったか。残りはみんな左右に散ったのかと思って、申し訳なく思ったよ。

 だからせめて追撃を断とうと、森に落雷を撃ちまくった」

「あの100匹と、そのオーガとムカデが、魔物の最大戦力なんだけどね。呼人には物足りなかったみたいだね」

「そして、あなたが追撃で放った落雷が、凄まじい威力だったから、後続も半減したみたいよ。同じ落雷なのに威力が違うって、どういうことかしら?」

「そうだね、第2陣は散発的だったね。あまり強い個体もいなかったから、楽に戦えたよ」

 

 マリア(おっさん)(いわ)く、落雷を2発も撃つと、虚脱感(きょだつかん)が凄いらしい。俺みたいに連発するのも無理なんだとか。同じ魔法陣をインストールしたのに違いがあるみたいだ。作成者だからかな? うん、きっとそうに違いない。

 

 チーターなんかじゃないんだから!

 

「呼人からは、閃光で見えなかったかもしれないけど、君の落雷だけで、500匹のほとんどがやられていたというわけさ。(ちな)みに、魔法の威力の違いは習熟度合いだね」

「へ?」

「まだ、わからないかしら? 今の森には邪気にやられていた魔物は、ほとんど残ってないわ」

「終わりってこと?」

「僕は、それを説明したつもりなのだけどね」

「ええー、そうなのか精霊さん。俺はこれから、第3段、第4段が来るのかと思ってたよー」

「……」

「なんだいマリア、こういうのを人間は何て表現するんだい?」

「天然って言うのよ精霊ちゃん。覚えておきなさい」

「うん、分かったよ。マリアと話すと勉強になって助かるよ」

「はいそこ、失礼な物言いは止めてくれないかな? 泣きそうだから」

 

 なんだい! なんだい! なんなんだい! みんなして俺を馬鹿にして!

 

 狂暴な魔物が500匹だぞ、500匹。もっとバンバン攻めてくると思うじゃないか。しかし「落雷」には助けられたなぁ。作って良かったよ。あの魔法がなければ、結構ヤバかったんじゃないか?

 まあでも、なんとか無事に終わってよかったー! 俺は死を覚悟していたんだぞ。みんな軽る過ぎだぞ。

 

 

 

 

 戦闘が終了した後は、夜食を食べながら少し話した。焚き火がバチバチと音を立てている。水の流れる音に混ざって、森からたまにゲーだのホーだの聞こえてくる。

 

 マリアは、落雷が効いたおかげで序盤が楽に戦えたこと。それで戦闘にも慣れて、怖かったが危なげなく戦えたことを、興奮しながら話していた。

 俺はぐったりしながら、精霊さんはニコニコしながら、それを聞いていた。みんな余裕だね。

 

 

 その日は河原で寝ることにした。精霊さんの土魔法で、ベッドを作ってもらい寝たのだ。魔物などの外敵の見張りも精霊さん任せだ。基本的に精霊さんがいれば、魔物は近寄ってこないらしい。

 精霊さんは睡眠が必要ないので寝ないと言う。下位の中級精霊や下級精霊に指示を出して、死んだ魔物の処理や、火災の有無を確認するんだとか。

 

 

 戦闘から一夜明けて、硬いベッドから起きた俺とマリア(おっさん)は朝の挨拶を交わす。

 戦闘のせいか、ベッドが固かったせいか、身体のあちこちが痛いが、木の上で寝るよりはマシだ。魔物に怯えることもなかった。

 

 森の精霊たちは、一晩中、死んだ魔物の処理をしていたそうだ。魔物の処理には「解体」と言う魔法があるのだとか。

 残したい魔物の部位(魔石、牙、肉など)を思い浮かべて、「解体」を使うと必要な部位は残り、それ以外は肥料になると言う便利な魔法だ。後で魔法陣をインストールさせてもらおう。

 

 解体した魔物の素材は報酬としてくれると言う。精霊さんが持っていても使い道がないとのこと。ありがたい。

 

ムカデ(ジャイアントセンチピード)甲殻(こうかく)毒腺(どくせん)、牙、魔石など

蜘蛛(タイラントアラネグア)の糸、毒腺、牙、爪、魔石など

大蛇(ヒヒイロクチナワ)の肉、牙、毒袋、皮、魔石など

(ペアハウンドグリズリー)の肉、爪、胆嚢(たんのう)、毛皮、魔石など

◆青い大鬼(オーガ)の肉、皮、睾丸(こうがん)、魔石など

(ファンキーレッグウルフ)の心臓、毛皮、爪、魔石など

◆豚頭の魔物(オーク)の肉、魔石など

 

 その他、多くの素材が取れたらしい。小鬼(ゴブリン)は使える素材があまりなく、魔石以外は全て肥料だとか。

 前にもらったゴーレムの魔石や、宝石と共に有効活用させてもらおう。

 ウォータードッグは、全てが素材として有用なので、解体しないでそのまま売却するのが良いと、教えてもらった。

 

 他に報酬として精霊の加護をもらった。これは森や木々の多い場所で、加護を持つものに危険が迫ると、下級精霊が教えてくれるのだとか。教えると言っても虫の知らせ程度らしい。

 ラノベなんかだと加護持ちは、チート能力を得たりするが、この大陸では加護は曖昧(あいまい)で、自分に加護が有ることに気付かずに、一生を終える人も多いらしい。

 例えば鍛冶神の加護を得ても、たまに調子が良くていい作品が作れるくらいの曖昧な恩恵だとか。

 

 それと魔法だ。火、水、土魔法や解体、再生、解毒、回復などの魔法陣を出してもらい、インストールした。

 

 火、水、土魔法は生活魔法と違い攻撃魔法だ。水魔法は温度も変えられるので、風呂のお湯張りや、氷を作るのにも役立つ。土魔法は地面を変形させる。壁や落とし穴などが作れる。魔力を地底に飛ばして、鉱物探知機の代わりにもなるらしい。

 

 再生は治癒の上位魔法だ。主に怪我の治療をする。体組織の再生だ。

 解毒は体内の毒を無効化する。病原菌にも作用するらしい。

 回復は、病気、麻痺、魅了などの状態異常を回復する魔法だ。

 治療の際は、再生、解毒、回復をセットで掛けるのが良いとか。


 そして宝石の原石をまたもらった。中級精霊がお礼にと集めてくれたらしい。ありがたい。

 

 

 

 

 戦利品や報酬をもらいながら朝食を食べて、今は食後のティータイムを楽しんでいる。


 朝の柔らかい日差しが心地良い。昨夜の焦燥(しょうそう)が嘘のように晴れやかな気分だ。

 

 話は今後の行程についてだ。俺達は砦に向かう途中なのだが、精霊さんの話ではここから1週間も進めば、もう1本の川が流れているらしい。そこから砦までは更に2~3日だとか。

 これからは昼間も魔物が出るので、気を付けてと精霊さんから注意を受けた。

 

 ようやく人の住む領域に行けるのかぁ。自分の理不尽な境遇など忘れたかのように、(おだ)やかな感情が(あふ)れ出す。

 


 

 そして俺とおっさんは、最初の河原を離れ次の川を目指している。魔物や獣を狩り、薬草などを採取しながらだ。魔法にも慣れてきて、危なげ無く戦闘もこなせるようになってきた。

 さて昨夜は精霊さんに守られ眠った。その前は木の上で怯えて眠ったのだが、今夜はどうするか?

 

 マリア(おっさん)と相談して、ラノベのような野宿をすることにした。焚き火を焚いて、順番に見張りをしながら眠るやつだ。魔法も手に入れたから攻撃手段がある今、木の上で寝る気にはなれない。

 

 だがすぐに俺達は後悔することになる。この森は容赦が無い。魔物や獣が多いのだ。

 

 次から次へと、敵が焚き火目掛けて襲ってくるので、全然眠れない。焚き火を消しても、血の匂いで集まってくる。しかも暗闇が厄介だ。敵は夜目が効くのに、俺達には夜目などない。

 照明を点ければ、それを目指して魔物が押し寄せてくる。

 

 結局俺達は散発的にだが、一晩中戦う羽目になって、寝ることなど出来なかった。暗闇で移動してお互いにはぐれたら、余計に戦いにならないので、下手に動くことも出来ず、少しずつ移動して、休みながらの戦闘は大変だった。

 朝方、空が明るくなった頃、なんとか魔物たちを()いてホッと一息つくまで、生きた心地がしなかった。

 ボロボロの心と身体を引きずって、安全地帯となる木を見つけた時にはホッとした。そして枝に股がりロープで身体を固定すると、後先考えずに眠りに落ちた。

 

 あとから精霊さんに聞いた話では、この森が特別なのだとか。普通の森は、ここまで魔物は多くないので野宿も可能らしい。

 

 結果として俺とマリア(おっさん)は、朝まで眠れず戦うよりは、木の上で隠れていた方がマシという答えを得た。

 

 

 よって未だに、夜間の樹上生活からは卒業できていない。トホホー

 

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「わりのん、おもれ~!」と思う方がいらっしゃいましたら、ポイント評価と↓下をポチっとして頂けたら幸いです。

小説家になろう 勝手にランキング

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ