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入れ替え猜疑王の非日常 6

「分かっているのなら、早く助けろ!」



 レヴィン陛下が少女らしい甲高い声で叫ぶと、アトキンス公爵はわたしを持ち上げてソファの端に移動させた。そして、紙袋の中からコップとサンドイッチを取り出す。



「はーい、これ。厨房からホイップたっぷりの蜂蜜ドリンクをもらって来たよ。あと、食料をいくつか」



 わたしはそれらを奪い取ると、蜂蜜ドリンクを一気に飲み干した。


 甘くて、高カロリー。普段だったら避けるものだが、栄養が足りていないこの身体にはまさに効果てきめんだ。



「……ぷっは~、身体に染み渡る」



 おっさん臭く言いながら、わたしはモソモソとサンドイッチを食べ始める。それを見て、レヴィン陛下がジロリと睨んだ。



「そんなにがっついてどうする。毒が入ってても知らないぞ」


「失礼ね。毒が入っていたらさすがに食べないわ。そこまで馬鹿じゃないもの。というか、レヴィン陛下も食べて。わたしを餓死させないでよね」


「や、やめろ!」



 この人に自分の身体の管理なんてさせてられない。わたしは自分フェリスの小さな口にサンドイッチを半分ねじ込んだ。


 レヴィン陛下は嫌々それを咀嚼する。随分とご立腹のようだが、まあいいだろう。彼に気を遣っても無駄だと、短い付き合いの仲で十分理解した。


 わたしはレヴィン陛下から、アトキンス公爵へと視線を移す。



「……あの、アトキンス公爵はわたしとレヴィン陛下が入れ替わっているのを知っていたのですか?」


「うん。一応、幼馴染だしね」



 さらりと言うアトキンス公爵をわたしは疑問に思う。


 ……なんか、胡散臭いのよね。



「おい、カルロ。この部屋の鍵をどうやって開けた」



 レヴィン陛下はサンドイッチを飲み込むと、尊大な態度でアトキンス公爵に問いかけた。



「そんなの……コレさえあれば一発さ!」


「針金、ですか?」



 アトキンスは針金を持った手をクルクルと回しながら、少年のように無邪気に笑った。



「ピッキングとか、拘束とか、得意なんだ」



 この男、ナチュラルに物騒なこと言いやがる。完全に危ない奴だ。




「カルロ……俺とフェリスの会話をいつから盗み聞きしていた」


「うーん。初めからかな」


「この腹黒め」



 レヴィン陛下は諦めたように溜息を吐く。


 

 幼馴染と言っていたし、二人は仲がいいの、よね?



 いまいち図れない二人の距離感にわたしは首を傾げる。



「えっと、アトキンス公爵は――――」


「カルロって呼んでよ、フェリスちゃん」


「……カルロ様は信用のおける方なの?」



 わたしはレヴィン陛下の身体に入っている。だから、野太い男性の声のはずなんだが……そんな声に名前を呼ばれて嬉しいのだろうか。


 色々と疑問に思うが、アトキンス公爵――――カルロ様は満足そうに微笑んだ。



「もちろんだよ!」


「……信用するな。まあ、入れ替わりの術に関わっている可能性は低い。今のところ、カルロは俺に王でいて欲しいはずだからな。だが、内心は分からん」


「幼馴染を信用しないなんて酷い男だよ、レヴィンは」



 そう言いながら、アトキンス公爵はフェリスの手を取った。



「どさくさに紛れて触るな。この身体に入っているのは俺だぞ。気色悪くてかなわん」


「少しぐらいいいだろう。ケチだな」



 カルロ様はやれやれと手を振ると、わたしとレヴィン陛下の顔を交互に見る。



「ところで、君たちはこれからどうするの?」


「無論、常に一緒に行動する。フェリスが俺の身体にいかがわしいことをしないか、監視しなくてはならないからな」


「する訳ないでしょ!」



 レヴィン陛下は、わたしのことを痴女かなんかと勘違いしているんじゃないのかしら! 本当に失礼な人!



「ということは、食事もお風呂も睡眠も一緒ってことなんだね」



 カルロ様の言葉に、わたしはハッと息を呑む。



「さすがにそこまではしないですよ」


「致し方ない」


「……え?」



 はあ!? 今、なんて言った! 専属侍女だからって、四六時中一緒にいる訳ないじゃない。寝るときも一緒だなんて……それ、国王陛下の恋人だって思われるようなものよ!



「そっか。じゃあ、これプレゼント。これで寝ている時にどちらかが勝手に行動することができないよ」



 ガチャンという音と共に、わたしとレヴィン陛下の手に金色の手枷が嵌められた。

 わたしの顔から一気に血の気が引いていく。



「ちょっと、今すぐ外してください!」


「それじゃあ、つまらないよ」



 つーんとそっぽを向くカルロ様に怒りが湧いてくる。



 ……やっぱりこの人信用ならないわ。力尽くで拘束から抜ける!



 おそらく、手枷の鍵はカルロ様が持っているはずだ。わたしはカルロ様の意識を奪うべく、彼の鳩尾に膝蹴りを食らわせ――――られなかった。



「この! ――――ひゃんっ」



 ガクンと膝が落ちて、わたしは四つん這いで絨毯を握る。

 今……腰からやばい音が聞こえた気がする。ジンジンと痛みが全身に広がり、脂汗が出た。よ、腰痛が爆発した!



「おい、俺の身体でいかがわしい声を発するな!」


「いかがわしくない! あなたの腰痛のせいよ! 座り仕事は程々に……って、そんなことはいいから、カルロ様から手錠の鍵を奪って。わたしの身体で侍女長と庶務統括長を拘束したんだから、できるわよね?」



 そのためだったら、痛む腰に鞭を打って立ち上がってやるわよ!


 そんなわたしの決意とは裏腹に、レヴィン陛下は首を横に振る。



「……無理だ」


「なんで?」


「あれは身体の防衛本能で勝手に動いた結果だ。攻撃されないと身体は動かない」


「ぷふっ。レヴィンは武術が下手くそだからね」



 カルロ様はそう言ってポケットから金色の鍵を取り出すと、それを持ったまま部屋を出て行く。



「じゃあ、二人とも。明日の朝、鍵を持って来るから。仲良くしなよ」



 パタンと扉が閉まるのと同時に、カチャリと鍵が自動で閉まる。国王の仮眠室だけあって、ここの部屋は魔術式のオートロックだったようだ。


 ……本当に、針金一本で開けられるものなのだろうか。



「あの軟派男め。絶対に信用したりしないんだから」



 何にせよ、あの男は信用に値しないことが分かった。

 変わらずわたしの中で容疑者第一候補だ。



「まあ、掴まれ」



 レヴィン陛下には珍しく気遣った声音だ。彼はわたしの肩を支えながらベッドに運ぶ。


 わたしがベッドに俯せで寝転がると、側にあったキャビネットからレヴィン陛下が湿布を取り出した。そしてわたしの腰に慣れた動作で貼り付ける。


 とても効能が高い湿布なのか、じんわりと腰の痛みが引いていく。



「ありがとう」


「俺の身体のことだ。礼はいらない」


「……そう」



 今日は色々とありすぎて疲れた。


 起きていなきゃと思うのに身体は正直で、重い瞼は閉じていく。意識が夢に旅立つ前にふわりと頭を撫でられた感触がしたが……それはきっとわたしの気のせいなのだろう。


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