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入れ替え猜疑王の非日常 5


 あれこれ理由をつけ、謀反の後処理はアトキンス公爵たちとアラベルに押しつけた。

 わたしとレヴィン陛下は個人的な話し合いがあると言って、朝目覚めた仮眠室に二人だけで入る。



「漸く二人きりになれたな。忙しくて困る」



 執務室と仮眠室の扉の鍵を閉め、レヴィン陛下はソファーに足を組んで座る。横柄な態度と口調の自分が存在していると思うと、わたしは頭が痛くて倒れそうだった。



「お前の名前はなんだ?」


「……フェリス・ガードナーです」



 渋々名乗るとレヴィン陛下は眉間に皺を寄せる。



「それだけでは信じられんな」


「フェリス・ガードナー、17歳! 家族構成は父・母・兄。職業は王宮侍女です! 好きな食べ物はロールケーキ。特技は武術と掃除。調査資料の隠し場所は机の隠し棚です!」


「……ふむ。まあ、少し信じてやろう」



 この男、想像通りに面倒くせぇ!



「……レヴィン陛下、侍女長と庶務統括長の拘束なんて強攻策を行ったですか? これでは入れ替わりを行った術者に怪しまれてしまいます。わたしはこれでも、大人しい侍女で有名なのですよ」



 罵詈雑言を放ちそうになる心をどうにか落ち着かせ、わたしはレヴィン陛下に問いかける。



「大人しい侍女? まあ、それはどうでもいいが……俺の身体を俺以外の誰かに預けるなんて恐ろしい。だから早急に自分の身体を確認する必要があった。お前が暗殺者やストーカーの類いではないという確証など、どこにもないからな」


「ス、ストーカー!?」



 暗殺者は百歩譲って許そう。でも、ストーカーって……心外なんですけど!!


 わたしがいつレヴィン陛下に色目を使った。まともに話したのだって、今日が初めてなのに!



「その動揺ぶり……まさかお前、俺の身体にいかがわしいことをしたんじゃないんだろうな?」


「し、していないです!」



 確かにレヴィン陛下の裸は見たけど……それは、彼が全裸で寝ていたのが悪いのであって、ただの不可抗力よ!



「ますます怪しい」


「だ、だいたい、レヴィン陛下はどうなんですか? わたしの身体にいかがわしいことをしたんじゃ……」


「そんな訳あるか。お前の身体を見たところで、特に何も思わん。ぴくりとも興奮しなかったぞ。自意識過剰なんじゃないのか?」


「な、なななな! それって、わたしの身体を見たってことですよね!?」



 わたしは全裸で寝る習慣なんてない。ということは、レヴィン陛下はわたしの身体を自分の意志で見たと言うことだ。


 これはまごうことなきセクハラだ!



「そうだな。だが、お前だって俺の身体を見ただろう」


「見、ましたけど……男と女じゃ身体の価値が違いますから!」


「男女差別は好かんな」


「いや、わたしも好きじゃないですけど……って、そういうことじゃなくてですね!」



 突飛な発言と正論を混ぜてくるレヴィン陛下との会話はとても難しい。どんどん彼のペースに飲まれていく。



「お前の裸の話など、大した問題ではない。もっと有意義な話がしたいのだが?」



 わたしの顔で、尊大なことを言うレヴィン陛下に、わたしの怒りの糸がプツンと切れた。



「もう、我慢できない! わたしの磨き上げた身体に対する侮辱、到底許せるものじゃないわ。しかも、わたしの身体で好き勝手動いて……わたしがせっかく波風立てないように過ごしていたというのに……今までの努力が水の泡! 明日から嫉妬と仕事の嵐よ!」



 国王に対する敬意など忘れて、わたしはレヴィン陛下の前に立った。



「わたしは、今度こそエリートになんてなりたくないのよ!」


「それは無理だな。お前を俺の目の届かないところに置く訳にはいかない。どのみち、今の状態は確定事項だったんだ」


「ふざけないで! わたしは――――」



 くらりと眩暈がして、わたしはレヴィン陛下を下敷きにしてソファーに倒れ込む。



「お、おい! 重いぞ、どけ!」



 わたしの下でレヴィン陛下が暴れる。だが、成人男性の体重はかなり重い。現在、17歳の可憐な乙女の姿である彼はなかなか抜け出せないでいた。



「……お腹が空いて力が出ない」



 某パン型ヒーローのようなセリフを呟きながら、わたしはくったりと力を抜く。


 そういえば、朝から何も食べていなかった。てっきり誰か食事を運んでくるかと思ったが、そんな気の利いたことは一切なく、朝から夜までぶっ通しで仕事をしていたのだ。



「ああ、本当にやばい。空腹で死にそう」



 意識をすれば、腹の奥からきゅるきゅると音が聞こえる。もしかすると、朝からじゃなくて、昨日からこの身体は何も食べていなかったのかもしれない。


 このワーカーホリックめ!



「餓死なんて嫌だぞ!」



 レヴィン陛下が慌てた声で叫びながら、わたしの肩を叩く。だが、残念なことに身体は指先一つ動かない。



 ……誰か、わたしに食べ物を……!



 そんな祈りが届いたのか、パンの香ばしい匂いと共にここにいないはずのアトキンス公爵が現れた。



「侍女を襲うだなんて、女嫌いのレヴィンにしては珍しい行動だね。いいや、フェリスちゃんって言った方がいいのかな?」





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