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佐藤くんに聞いていた収録日は土曜日で、今日は日曜。
つまり翌日。
私は、朝から部屋で「うまくいったかな?」って、そればかり考えていた。
土曜も土曜で気が気でないほど落ち着かなかった。
佐藤くんから連絡もなくて、翌日の今日。
目が覚めてから、親に「そそろに食べるな」なんて注意されながら朝ごはんを食べた。
それから部屋に戻ってからも、無駄に部屋の中をうろうろしている時。
携帯のメッセージアプリの通知音が鳴った。
画面に表示されたのは佐藤くん。
<今日、空いてる? 少し会えないか?>
私は、すぐに返事をした。
<空いているよ!>
<よかった。じゃあーーー>
そうして、近くのカフェで会うことになった。
私は慌てて、身だしなみを整えて、カフェまでの時間に備えた。
*
*
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お気に入りのカフェは電車を乗り継いだ場所にある、ちょっとした隠れカフェ屋さん。
ビル街にあるにも関わらず、口コミでの人気で、客足は絶えない。
楽しそうな会話があちらこちらからこぼれ落ちてくる中、私たちテーブルに向かい合って座っていた。
「鈴木さん、ありがとう。収録はちょっと時間かかっちゃったけど、マネージャーには”良かった”って言われた」
「ほんと!? 良かったー!! はぁー。私の事みたいにドキドキして眠れなかった、とは言わないけど、ずっと佐藤くんのことばかり考えてた」
約2日と言ってもいいほど、確実に24時間以上、佐藤くんの事が気になっていた。
その考えことが消えて、心のつかえがなくなりホッと息をついた。
「えっ・・・それって・・・」
「ん? どうかした?」
何か言いかけた佐藤くんの言葉がよく聞こえなくて、聞き返した。
頑張ったのは佐藤くんなのに、ちゃんと話を聞かなくちゃ。
「いっいや。なんでもないっ」
・・・なんか挙動不審な佐藤くん。どうしたのかな?
「そう?」
「あ、うん。それで、心ばかりのお礼といいますか、どうぞ、ここは俺のおごりです」
不思議に思って確認したはずなのに、佐藤くんの最後の言葉にその気持ちはかき消えてしまった。
「ほんとに!? じゃあ、デザートも頼んじゃおうっと」
おごりと聞いて、ここぞとばかりにデザートメニューをチェック。
デザートは別腹ですからね。
豊富なメニューにあれやこれやと悩んでいると、佐藤くんが何も喋らないことに気づいた。
「・・・」
目線を上げると暖かい目で微笑まれていて、いつもと立場が逆転してるような気がして、ちょっと頬に熱が集まる。
「さ、佐藤くんは食べないの?」
その熱を散らすように、メニューを広げる。
「俺はいいよ。このあと、久しぶりに写真でも撮ろうかと思って、歩く予定なんだ」
そう言って、カバンから出してきたのは思ったより小さなカメラ。
「? 意外と小さいのね。どんな写真撮ってるの? 見せて見せて」
私の手のひらに収まるカメラ。
もっと大きいカメラをイメージしてたので、そのまま口にした。
「あぁ、これは一眼とかじゃなくて、コンデジなんだ」
「コンデジ?」
佐藤くんの口にした言葉が理解でしず、首をかしげた。
「コンパクトデジタルカメラの略。一眼は趣味にしてはちょっと高いし、
あ、でも、一応、このコンデジは、絞りとかシャッタースピードどか操作できるんだ」
「しぼり?スピード???」
より専門用語っぽい言葉に、理解がついていけない私はただオウムのように言葉を繰り返す。
そのことに気づいた佐藤くんは、一度、言葉を区切った。
「えっと、簡単にいうと、一眼。鈴木さんがいう大きいしっかりしたカメラが一眼って言われるものなんだけど、これはデジタルカメラって言われる一般的に気軽に持ち歩けるようになったコンパクトなのが特徴なんだ。
一眼っていうのはレンズを交換しながら、撮影条件によって、細かな設定操作ができて、その中で主な設定が、さっき言った”絞り”や”シャッタースピード”って言われるものなんだよ。
逆に、コンデジはそう言った操作ができないのが一般的なんだけど、これは、一眼に近い細かい操作をすることができるタイプってこと」
写真撮影、カメラが好きという熱量が伝わる言葉量。
「へー……なるほど」
噛み砕いて説明をしてくれているのはわかるのだけど、やはり、興味がなかった私からすればクエッションマークの乱舞である。
自分なりに、噛み砕いて説明をしてもらった言葉を飲み込む。
つまり、私のイメージしてた大きいカメラと同じ性能を持った小さいカメラってことだけは理解しました。
とりあえず、今、保存されているデータを見る操作方法を教えてもらい、次へ次へと写真をみる。
「いろんな写真撮ってるねー」
風景はほとんどだけど、多数の人が交じ会う日常であったり、思うがまま自由に撮っているのがわかった。
そして、もちろん、写真同好会に入って活動しているから学校内の風景もあるわけだけど・・・
「あ、これは野球・・・って、あれ? わたし??」
小さな液晶画面に映されたのは、机の上に腕を組んで寝ている私の姿。
「あ! その、それは」
しまった、と顔をした佐藤くん。
そんな顔もレアだけど、ここはひとつしっかりせねばならない。
「コラー!」
「ご、ごめん!!」
我ながらこんなにも棒読みなんだと思う言葉なのに、佐藤くんは深く頭を下げて、謝罪を口にする。
その姿を見て、私は十分だった。
「・・・なんてね」
怒ったパフォーマンスをしていたことに気づいてなかったようで、私の言葉に驚いたようだった。
「え?」
その表情があまりにも呆然としているのでクスクスと声が漏れてしまう。
イラズラ成功ってこと!
え? 意地悪なんかじゃないからね。
乙女の寝顔を撮るなんて、由々しき事態ですよ! でも。
「怒ると思った? なんか、こんな自分じゃない、作品みたいに綺麗に撮ってくれてて。
もー怒る気にもなれないよ。」
そう、自分でも自分じゃないみたい。
絵画のような写真だった。
不細工な姿だったら、こんな風に笑えないし、グーでパンチをしてたかもしれない。
だけど、自分でも、素敵な写真になることに……少なからず感動をしてしまった。
「っ・・・」
「あ、他人には見せないでね。恥ずかしいから。まーでも。何かのコンテストに出したいっていうなら、それはモデルの許可をとって下さいね」
ちょっと恥ずかしいけど、コンテストに出るなら考えようじゃないか。
なんて、上から目線だけどもおどけながら言葉を口にした。
「そんなこと、しないとおもうけど・・・」
控えめな辞退。
ちょっぴり残念なような、そうじゃないような。
「もー。もし、よ、もーし」
本当に真面目だなぁ。と、吐息に混ぜながら、そんな佐藤くんは良い人で、好きだなぁーと改めて思った。
「あ、あのさ。これからも相談させてもらっても良いかな?」
それに、これからも佐藤くんとの声の特訓は続きそう。
それも嬉しいんだけど、佐藤くんとこうして喋れることの方がもっと嬉しかったりして。
「もちろん、これからもよろしくね」
そのことはまだ秘密。
シュガーボイス ~こんな推しごと最高です!~
ーーーーsee you next time?
ひとまず、完結(一区切り)です! ここまでお付き合いありがとうございました!
二人の物語ははじまったばかり! なので、色々と続きになる種(事務所の先輩とか、イベントの手伝いとか、某所でアルバイトとか!?などなど)はあるんですが・・・別作品を連載しておりまして(^^;
時間ができたら、続き書いてみたいなぁ。とフワフワ〜っと考えています。目指すは短編連作形式かなぁ。
と、言うことで、またの機会にお会いできますように(^^)




