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メガネはしたままだけど、普段下げっぱなしの前髪を少し上げて、目元がよく見えるようにした写真だった。
写真”だけ”なら、佐藤くん演じる”桜木 伸”のような委員長に見える。
これもオーディションに受かった一つの要因なんだろうなぁ。
キャラクターと演じる声優の差異が少ないことが好まれるのも、最近の声優事情でもある。
「でもさ……?」
私は気になっていたことを実行してみた。
佐藤くんと話すようになって、イケメンではないけど、顔は悪くないと思っていた。
お前はどの目線なんだって言われそうだけど「私がマネージャーだったら、あーして、こーして……」という勝手に脳内プロデュースがはじめてしまうのも声オタゆえからかもしれない。
「えっ」
そうして、脳内でイメージしていた脳内プロデュースを実行すべく、佐藤くんの髪をあげたり、ちょっとしたヘアスタイリングもする。
最後に、メガネを外して・・・よし。
「うん、いい感じ! きゃーイケメン! なんてお世辞は言わなけど、私は佐藤くんの顔、結構好きだよ!
だから、自信持ちなよ!」
重めの前髪を横に流して、視界は良好! だけど、メガネを外しちゃったから不良なのかも?
でも、困惑した目線で、こちらを伺う姿は・・・まるで、子犬!
うんうん、いいねいいね。ワンコ系でいけるな。うん。
「あ、ありがとう……」
おずおずと目線を合わせてからの、はにかんだ笑顔をいただきました。
佐藤くんの顔見えスマイルなんて、超レアだよね!
いいもん見たわ。眼福。眼福。
「あーでも、こんな佐藤くん知ったら、一気に人気者になっちゃうかも
そうしたら、嬉しいけど、なんだが知って欲しくないような・・・ファン?失格よね」
声オタである私がキチンと応援しなくてはいけないのに、寂しくなっちゃうなんて、ダメだな。
自己反省の意味も込めて気持ちがつい溢れてしまった。
「そ! そんなことない!!!
事務所の写真は、もしかしたら、このスタイルに変えるかもしれないけれど・・・このことを知っているのは鈴木さんだけだし、他のクラスメイトになんて言うつもりないしっ、そのっえっと・・・」
すごい勢いで言葉を返されて、ダメかもしれないけど、そんな風にこの関係を感じてもらえてるってわかって、すごく嬉しかった。
「ふふっ。ありがとう。そうなら嬉しい」
「う、うん」
視界に入った時計を見ると、下校する時間が近づいていた。
「あっもう、こんな時間。おしゃべりが楽しくで長話しちゃった。練習しよっか??」
楽しいけど、収録まで時間がもうない。
息を吐く音、吸う音。深い深呼吸が聞こえて、佐藤くんが気持ちを切り替えているのがわかる。
「『マネージャーさん、僕のこと、好きーーっですか?』・・・どうかな?」
何度も聞いていたセリフのはずなのに、胸が高鳴った。
「いい! いいよ!! なんか気持ちがすごく入ってて、でも隠しているって言うか、そう言う熱い想いが見え隠れしている感じ!」
思わず、手を握ってしまうほど、佐藤くんの”演技”に、”成長”に、感激してしまった。
「っ! あ、ありがとう」
佐藤くんも嬉しかったみたいで、お互いに、握りしめた手を上下に振って、この気持ちを共有した。
「収録、明日、だっけ?? 頑張ってね」
「うん。鈴木さん、本当にありがとう」
こうして私たの、秘密のレッスンを終えた。
窓から覗く夕暮れを背に私たちは、自然と笑みが溢れていた。




