表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/151

平凡なソロ探索者による〇〇の場合ー3

探索者には「侵入許可日数」が定められている。


これはいわゆる「ダンジョン酔い」のリスクを可能な限り避けるためだ。


一般的な探索者パーティには5日の猶予が与えられ、やむを得ない理由で1人で探索を行う場合は3日が限度とされているー


探索者組合 日本支部発行 [探索者の心得]


P85より抜粋ー



 

 ゴブリンの死体が散らばっている場所に置いていた灰色のナップザックを探る。


「たしかに入れたはずなんだけどなー」


 と言いつつも俺は自分の記憶にあまり自信が持てなかった。


 目当ての灰ゴブリンの集落を見つけたのが今から半日ほど前で、灰色の荒地に到達してからを考えるとすでに2日が経過している。


「でもなー、流石にアレを忘れるとかないと思うんだけどなー」


 1人の探索はどうしても独り言が多くなる。まあ昔からそうだっけか?


 お、あった。ザックの中が荒れることを承知で縦横無尽に手を突っ込んで探していると、硬くて冷たい感触を感じた。


[バルタン 大容量]


 真っ赤なスチール缶に白いロゴで書かれたそれを取り出す。これがないと何のためにここまで来たのかが分からないからな。


 それとあとは……あった、これもだ。爆竹の詰め合わせだ。害獣対策花火セットと銘打たれたシールが貼られたビニールに真っ赤な爆竹が連なるように入っている。


 あとはマッチ、マッチ、マッチ、マッチ。


 よかった、あった。


 必要なものを全て取り出した俺は最後にナップザックの外ポケットから黒い大きめのビニール袋を取り出した。


 さて、やるべき事をやっておかないとな。俺は振り向き、辺りを倒れているゴブリンの死体を眺める。


「一番強そうなのは、やっぱり最後のやつか…」


 俺は頭が半分潰れている最後に殺したゴブリンをじっと見つめ、それから手を合わせた。


 お前は死んだ。そしてまた殺して、俺は生きる。

 それだけだ。ただ、それだけだ。手を合わせながらも特別この死体を偲ぶ気持ちは湧いてこない。


 だけど俺は手を合わさずにいられなかった。


 これから自分がする事を考えると、何かの言い訳のように手を合わせたくなったのだ。


 10秒ほど手をあわせる。決して目を瞑ることはしない。


 ゴブリンは家族を作る。それは生存戦略の元に進化した結果、それが生き残ることに適していたからに過ぎないのかもしれない。


 だがそこにはきっと愛があるはずだ。人間には分からない、ヤツらにしかわからない愛が。俺はそのことを思いながら死んだゴブリンを見つめ、斧とは別の腰のホルスターに付けているものに手を掛けた。


 唇が痙攣している。それを抑えようと人差し指で触れてみるが何も変わらない。俺は今からやろうとしていることが愉しみで仕方ないのだ。


 右端につり上がり笑顔の形に歪んだ唇に手を当てる。


 ダンジョンは人をおかしくする。


 いやすでにこのバベルの大穴にいる人間は人ではない。


 探索者だ。様々な言い訳を宣いながら俺たち探索者は大穴に侵入(はい)っていくのだ。


 それは何故かって?


 人類のため、仲間のため、家族のため、友達のため、恋人のため?


 いいや、きっとみんな俺と同じだ。


 ただ愉しいからやっているだけだ。


 やるべき事をするため戦士長のゴブリンの死体に近づきしゃがみこむ。


 手を伸ばし斧とは反対側のホルスターから折りたたまれた棒のようなものをとりだす。


「ウィアーザワー♪ウィアーザ、チードレ、ウィアーザ、フーフフフフー」


 棒についてあるスイッチを親指で押しそれを展開する。

 鼻唄を歌いながら俺は手に握っているものに力を入れる。それの刃を死体の首に当て、前後に動かし始めた。


 青い血がまた、灰色の荒地に染みついた。







最後まで読んで頂きありがとうございます。


楽しんで頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ