迸る
貴方は彼の足跡を辿る
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木の根が化け物に迫る。八メートル程先の化け物を牽制するように鋭く太い木の根達が鞭のようにしなる。
耳の化け物は、木の根を交わしたり、掴んでは砕き、木の根を迎撃していく。
八メートル。この距離が俺の死線だ。この八メートルを守れるかどうかで勝者が決まる。
木の根達は俺のその考えに応えるように耳の化け物を穿ち、貫き、ヤツの前進を止めている。
強化された木の根の破壊力は凄まじい。耳の化け物が避けた木の根はその勢いのまま地面に突き刺さる。固いはずの地面を容易に抉り、穴を開ける。
その威力を無視してはこちらに近付けないらしい。ヤツはうっとおしそうに木の根の相手をしている。
(このまま、持久戦に持ち込むか……。)
田村は確か救援チームが後十分ほどで到着すると言っていたはずだ。それならばこのままの距離を維持すれば……
そう考えた瞬間、唐突に膝が折れた。力が抜けてしまいまったく動かない。頭痛がする。まるで二日間程徹夜をしたかのような倦怠感が体を包んでいた。
背後で田村が俺の名を呼ぶ。振り返らずに俺は親指を立てて健在を伝える。
木の根が迸る程、この倦怠感は俺の全身に拡がりつつある気がした。
(もしかしなくても、この力の代償か?)
だとしたならまずい。とてもこれは耐えられるものではない。既に少し眠くなってしまっている。
野郎、きちんと説明しろよ……。この力の供給源であるだろう存在に心の中で文句を言うが、今回はあちらからの反応はなかった。
絶え間なく迸っていた木の根達の動きが一斉に止まった。耳の化け物が瞬間こちらに駆ける。
ヤバーー
八メートルが一瞬で、詰められる。死線が超えられる。
耳の化け物が俺めがけて飛び上がる。あの腕か耳がふるわれれば俺は死ぬ。
その場から飛び退く暇もなかった。ミスった、敗ける。
あと一メートル。その時。
走馬燈、何故か頭に浮かんだのはあの恐ろしい灰色の一族との戦いだった。
ベキぃ。
渦巻くように突如俺の前の足元から、幾重にも重なるように木の根達が生える。それらは複雑に重なり、線ではなく面の形を取り、盾のようになった。
耳の化け物の攻撃を盾が受け止める。俺の目の前は木の根しか見えない。分厚い根の壁。根の盾。折り重なる盾の隙間から耳の化け物が見える。
それに食い止められた耳の化け物が根の盾にへばりつき、拳を振り上げた。舐めるな。
俺は薄い呼吸を整え、一瞬目を瞑る。この力は使えば使うほど体力を吸われる。
(ちんたらしてる余裕はないか)
目を開き、眉間に力を入れる。俺の脇から木の根が二本、太い物が生まれる。体から体力が抜け落ちていくのが分かる。だが、それでも今はこれに縋るしかない。
日本の木の根が、盾を砕かんとする化け物に両脇から迫る。化け物は瞬時にその場から飛び退き根を躱す。
化け物が離れた瞬間に、目の前の木の盾が解かれる。ぼとぼとと地面に落ちていく。木の根がそのまま化け物を追尾して行き、距離を作る。
八メートル。仕切り直しだ。
大丈夫、戦えている。必ず勝つ。生き残るのは俺だ。
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