男子の浪漫、三つ子の魂は永遠に。
おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ
ニーチェ
「約定を、ここに。秘された物語を語るは腕の翡翠が担い手」
辺りの巨木が一斉に軋んだ。俺は脳内で声が伝える言の葉をそのまま、自分の意思で言葉にだす。
「秘された物語は示す。其が為した偉業はまさに人類の業なり」
左手に握る翡翠が胎動する。なにかの心臓を手に収めているようにも思えた。
「其はまずはじめにその腕で木々を薙いだ」
100メートルもある巨木の一本が瞬間ねじれに捻れる。
そのまま軋み曲がり、駆ける耳の化け物の直上に槍のように迫る。
耳の化け物はその場で急停止して、真上から迫る巨木の槍に耳を打ち上げるように振るった。
まるで鉄と鉄がぶつかりあったような硬質な音。それが響いた思うと、耳の化け物は後方に吹き飛ぶ。巨大な質量を持った槍は粉々に砕けちった。
俺はその場から動かない。微動だにせず言葉を続ける。
「薙いだ木々を其は己が手を操り削り尖らせ己の武器とした」
「尖りし木々は数多の命を奪う其の始まりの武器となった」
後方に吹き飛んだ化け物が空中で回転して、受け身を取る。野郎、わざとふき飛んで……!
受け身を取った耳の化け物が、両腕と両足で地面を掴む。四つん這いのソレの姿はより化け物らしい。
化け物が四肢を踏ん張り、弾け飛ぶ。宝石を通じて物語の節が伝わる。俺はギリギリまで自らが語るべき物語を叫ぶ。
「腕よ、腕よ! 人の歴史を切り開きし其の偉大なりし両腕よ! 今は失われし其に変わり我が新たにその腕の奇跡の一端を担う事をここに顕す!」
「ここに新たなる人間の物語を祟る!」
木の根が弾け飛ぶ耳の化け物を、撃ち落とすべく翻り、伸びる。
左手を握り締めたまま、眼前に持ち上げた。
「業人認定」
物語が終わる。
「樹心限界」
*行け、全ての部位を一つにする為に。
空中の耳の化け物に向かう木の根達がびくっと震えた。そのまま、耳の化け物に迫る。大耳を化け物が体ごと縦に振り回す。
ズン。
全ての木の根が化け物を刺し貫いた。回転を止められた化け物が空中に縫い止められた。
なんだ? 今のは? 今までの木の根の威力の比ではない。つーかなんだ最後のは。まさか俺は無意識に……
「技名までつけてしまったのか……?」
後ろの田村をおそるおそる振り返る。ポカンと口を開けた田村が俺と目を合わせて、何も言わずに親指を立てた。
後できちんと弁明をしよう。
ブチブチブチ。縫いとめられた耳の化け物がめちゃくちゃに暴れまわり力づくで木の根を抜き取り、引きちぎる。
早めに田村と話さなければならない。その為に
「さっさと、死ね。」
左手で地面を殴る。瞬く間に新たな木の根が眼前の地面を突き破り蠢き、血まみれの化け物に迫る。
同時に周りの樹々が変形を始めていた。やれる、この力なら必ず殺せる。
俺は今までに感じた事のないような高揚感に気付く。
ああ、なるほど。俺は、割と対等な殺し合いが嫌いではないらしい。酔いが覚めた後はどうかは知らないが。
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