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平凡なソロ探索者による〇〇の場合ー2

怪物種15号の集落への単独強襲は基本的に推奨されていない。


頑丈な住居に多くの仲間と一緒に行動している。


5匹以上に囲まれれば、無傷で切り抜けるのは至難の技だろう。



バベルの大穴ガイド P18より抜粋ー


 

 コッ、コッ、コッ。



 斧の柄から痛みと錯覚するような強い手応えを感じる。


 右手を斧の刃に近い位置で握りこみ、左手をを柄の下の端近くで握りしめ、斧を打ち付ける。


 滑り止め付きの革手袋をつけていなければとっくに斧の柄を手放していただろう。


 俺は腰を据えて、ゴブリンの住居テントの扉へ斧を食い込ませる。


 ティピー式テントのように三角錐に多数の木材が折り重なる住居テント、それの入り口扉の部分にあたる木の板を


 ぶち破るためだ。


 振り下ろしたり、振り上げたり、真横にぶつけたり、角度を変えながらひたすら無心で幹を切り倒す木こりのように打ち続ける。


 やつらは特別な技術を使ってこの住居を建てる。西地区の大森林から樹齢の高い木を厳選し、それを木材にするらしい。


 特別な技術というのはやつらは木材の形を道具を使わずに湾曲させたり、木材から根っこを生成させることが出来るのだ。


「文字通り、根が生えたように丈夫な家ってか?」


 斧を打ち付けながら、根気のいる作業に対し、愚痴の1つでも出るってもんだ。


 おかげで150センチほどにも満たないこの小さな住居をどかしたりすることは大型の怪物種でも困難だ。


 普通に生えている幹を根こそぎ薙ぎ倒すのと同じ意味になる。


 ゴブリンは小さな集団を作り生きている。住居を構え、集団で子を育てる。


 戦士階級と呼ばれる比較的サイズの大きい雄の個体が外に狩りにでて、それ以外は住居での作業を行う。


 ゴブリンは家族を形成しているって事だ。まったく羨ましいものだ。

 やつらはやつらなりの幸せな家族生活があるのだろう。


 ばきゃっ。




 木が割れる音とともに手応えが急に変わる。


 先程まで痛みのように感じていた手応えは柔らかいものになっていた。




 俺は更に握力を込めて斧の柄を握り、ゴルフのスイングのように下から斧を掬い上げるように振りかぶる。



 もう一発。


 バキャ!


 分厚い扉の板に俺の斧の刃が完全に食い込んだ。


 扉の役割をする板に多数の亀裂が入り、おじぎをするようにへしゃげている。完全に食い込んだ斧を板から外そうとするが、なかなか外れない。


 既に木の自己修復が始まっているらしい亀裂が歪な形に変化しつつある。このままではせっかく新調した10万もする万能薪割り片手斧がヤツらの家の調度品として飲まれてしまう。


 ゴブリンの扱う木材は、壊れてもすぐに生き返る。天然の防犯設備満載の素材だ。


「ステキな家だ、なっ!」


 へしゃげている板に右足をかけてブーツの底で蹴り抜く。その勢いを利用して食い込んでいる斧を引き抜くことが出来た。



 くの字に曲がっているところから更に力を入れて蹴り抜いた為、扉は完全に割れ吹き飛んでいた。


 暗く小さな入り口がぽっかりと空いている。



 俺の胸の位置ぐらいの小さな入り口だ。ゴブリンどもはここから這って住居を出入りしている。俺は三歩ほど後退し、じっとその入り口を見つめる。



 流石のゴブリン製自動修復扉も完全に破壊されれば形無しだな。


 それと同時に俺の心配事も大丈夫みたいだ。


 何も出てこない。待ち伏せはなさそうだ。用心に越したことはない。今は1人なのだから。


 以前同じような住居を探索した際に、気合いの入った個体が入り口を破壊した瞬間に奇襲を仕掛けてきた事があった。



「あれはびびったなー」


 今思い出してもよく死ななかったものだ。


 しゃがんだ体勢からその瞬発力のある筋肉を駆使して飛び上がってきたゴブリン。


 俺の首を噛みちぎろうと大口を開けている奴のその鋭い犬歯がゆっくりと迫ってくるのをただ見ていることしか出来なかった。


 瞬時に一緒にいた仲間が背後から俺を押しのけて、やつの首元にサーベルを突き立ていなかったらと思うと、背中から汗が止まらなくなってしまう。


 気をつけないといけない。


「もう幸運は俺にはない」


 思わずそんな独り言が口から漏れる。俺以外には誰にも聞こえない独り言が。




 拾った命の事を思い出すと、なくしてしまったものについても思い出してしまった。



 俺は深く息を吐き、先程殺したゴブリンの元へ歩き始める。



 右手に握ったままの斧の刃先を見つめる。手荒く頑丈な頭蓋骨を割ったり、扉に食い込ませたりしたのだが、一切の刃こぼれはなく、鈍い銀色を携えている。




「流石はスウェーデン産」


 刃の腹をぱしぱしと左手で確認するかのように叩きながら死体の元へ戻っていく。




 まだまだ仕事は終わらない。


 ここからが本番さ。










最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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