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田村秀夫の見た光景

探索者法により、探索者がダンジョンへ携行できる武器には制限がつけられている。


特に銃器の類は難しい試験と厳しい認定基準を合格した一部の探索者にしか所持許可は下りていない。


これはダンジョン酔いによる同士討ちを防ぐ為に設定されているルールである。


特に、銃はその殺傷能力の高さと、殺意のハードルが低い事から一部の上級探索者と、国から認められた指定探索者しか持ち得ないものとなっている。

 

 田村秀夫はその時何が起きたのかわからなかった。


 一瞬の出来事だった。探索者の男。田村の保護対象だった味山という探索者が茂みから飛び出してきたと思うと、信じられない行動に出たのだ。


 あの小さな斧でアレに挑みかかっている。田村はこの探索者の正気を本気で疑っていた。


 なぜ挑める? この探索者の男には銃所持許可は出ていない。だが、それでももっと武器らしいものも選べたはずだろう。よりにもよってなぜそんな小さな斧を選んだのかと田村は思わず口元を手で覆った。あまりにも無謀過ぎると。


(いや、待て、何だあれは。)


 同時にその無謀な探索者の異様にも気づいた。味山が眩い黄緑の光に照らされている事に。


 ガキァ!


 田村から視線を外し、振り返った耳の化け物が探索者の一撃を受け止める。


 斧を弾かれた探索者がすぐさま態勢を整え、横薙ぎに振るう。田村のすぐ目の前で人間が化け物に戦いを繰り広げている。


(ダメだ、なぜ逃げなかったんだ…勝てるわけがない…)


 田村は踏み折られた足から昇る激痛を歯をくいしばることで耐えていた。V字に曲がった足から目をそらす。余計に痛む気がしたからだ。ドロドロとした脂汗がひっきりなしに顔の表面を撫でる。


 そして、すぐに戦いの天秤は化け物に傾いた。探索者が横薙ぎに振るった一撃の一発目は怪物のあの悍ましい耳の中に食い込み、一瞬ではあるが動きを止めた。


 探索者が斧を引き抜く体を振るい二撃目を繰り出す。


 しかしその二撃目は怪物がしゃがむ事で容易に躱される。


 瞬時にしゃがんだ怪物がその大きな耳を振るうと、探索者はまるでおもちゃのように3メートルほど吹き飛び、地面に揉みくちゃに転がりながら仰向けに倒れた。


(まずい…)


 田村は自分に背を向けて、吹っ飛ばされた探索者に歩み寄る。その姿を眺めることしか田村には出来なかった。


 化け物が、探索者に近づく。


(ん…?)


 田村は目を瞬いた。探索者味山が仰向けのまま動いたからだ。痛みで視界がぼやける事や、大きな耳が邪魔ではっきりとは見えないが、ポケットに手を入れたように見えた。


 そして、ゆっくりとポケットから出した手を仰向けのまま味山は上に掲げた。


(何をしているんだ…?)


 瞬間、辺りが闇に包まれた。太陽が分厚い雲で隠されたが、月に追い出されたかと思うほどの唐突な薄暗い闇。だが、ここに太陽はない。あるのは。


 田村が辺りを見回す。

「なっ…あっ」

 そして、上を向き絶句した。


 歪。


 100メートル以上ある大森林の巨木たち。その全てが歪に歪んでいる。いや歪みながらさらに大きく伸びているように田村の目に写った。


「嘘だろう…」


 田村はこの薄暗さの原因を上に見つけた。


 その生育していく巨木たちが枝を伸ばし、葉を増やす。まるで早送りをしているようにみるみるうちに濃くなっていく緑の森が天井にある光石から灑ぐ光を遮っていたのだ。


いつのまにかゆらりと探索者が立ち上がっていた。その探索者の足元から何かが地面から生えていた。


ゆらゆらと蠕くそれは、木の根のようなー





最後まで読んで頂きありがとうございます!

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