平凡なソロ探索者の遺骨捜索ー2
髑髏(どくろ、されこうべ、しゃれこうべ、しゃりこうべ - 英:Skull)とは白骨化したヒトの頭部の頭蓋骨である。「されこうべ」(しゃれこうべ)は「晒され頭」の意味。一般に死の象徴とされる。
2018年 wikiより抜粋ー
「ぃよいしょおお!」
軽い感触に軽い音。密度のスカスカの灰色の廃材のような住居に穴があく。もうほとんどバルタンの煙は霧散している。
このまま作業を進めよう。
穴を広げるようにまた斧を打ち付ける。縦に、横に、斜めに。
面白いように斧が木を砕き続ける。発泡スチロールを切りつけているようだ。
斧を振るたびに住居自体が揺れ始める。
バッキャ。と木がその繊維ごと砕ける音が響き続ける。折り重なるように捻りながら壁をなしている木が完全に砕け、そこに大きな穴が出来た。
穴の端に斧を引っ掛けてと。
そのまま力任せに引っぺがすように斧を引き込む。
バキバキバキっ。と音を上げながら穴がさらに広がる。皮が剥がされたように壁は崩れた。
外からでも中が丸見えだ。
俺は外れかけの木の壁を掴み、強引に引っぺがしていく。
時折、複雑に絡み合うように形を成している強度の強い部分がある。そこは斧でなんども叩いて、断ち切る。
残骸を後ろに投げ捨て、次々と木の壁を崩していく。
10分ほどそうしていると、あれだけ堅牢だった木の住居は見る影もない。
その面接の半分を占めるほど大きな穴がぽっかり空くようになっていた。
車なら全損だな。これだけ壊れちまうと。
俺はその大きな穴からその住居の中を確認する。
穴は光を通し、暗いヤツらの住居の中を露わにしていた。
ぼんやりとした濃い影が見える。それは山のように何かが積もられているようだ。
その中にあるものを目を凝らして見つめる。立ったままではよくわからない、俺はその穴に足を踏み入れ、奴らの住居に侵入する。
しゃがみこみ、そのうずめられたものをはっきりと見る。
一発目で当たりのようだな。
それは生き物の骨の山だ。
小さなものから大きなものまでそこに集められ高く山のようになっている。
しゃがんだ俺の膝の高さぐらいまで積まれたそれはヤツらの食欲の高さを証明している。
灰ゴブリンはなんでも食べる。この灰色の荒地に生きる生物は全てがヤツらの舌に収まる。
無論、俺たちも。
俺はそのままその骨の山。骨塚を漁り始める。手袋をつけた両手で、その中に突っ込みかけ分ける。
魚の骨のように薄いものから、文庫本ほどの厚さがあるもの。はたまた山を突き抜けている俺の斧より長い棒状の骨などありとあらゆる形状のものがある。
灰トカゲがほとんどだろうな。ヤツらの好物らしいし。
地上のコモドオオトカゲよりも一回り大きなサイズのそれをヤツらは狩りの対象にしている。
ヤツらは優秀なハンターだったらしい。
よく生き残れたな。俺。
そのまま骨塚を掻き分け続ける。恐らくあるのならここだろう。
板、棒状、小骨、トカゲの頭蓋骨 砕けた骨。大腿骨。
棒状、小骨、小骨、トカゲの頭蓋骨。砕けた骨。髑髏。
髑髏。やっぱりあった。
人の頭蓋骨だ。それは骨塚に埋もれていた。周りの小骨やトカゲの頭蓋骨ではない。
人間の頭蓋骨だ。うわ。冷静に考えるとすごい不気味だな。
片手でむんずと掴んでいるそれと目が合う。暗い眼窩の部分には本来あった眼球はなく、代わりに底の見えない闇があった。
背筋が粟立つ。
それは本能的なものか。はたまた倫理的なものか。
空いた手で思わずポケットの中の数珠を探していた。
この頭蓋骨…、
頭蓋骨と聞くと真っ白なそれをイメージするが、これは違う。
そもそも真っ白な骨とはつまりは火葬されたもののイメージだ。
残念ながらこの頭蓋骨の主は丁寧な炎によって人として葬られたわけではないらしい。
頭蓋骨の上部は割られ、ひびが各所に入っている。そして下顎の部分はない。
なによりも、恐ろしいのはその色。白い頭蓋骨ではない。
所々が、赤かったり、黒かったり。血の塊がこびりついていることだ。
ここに捨てられてあまり時間が経っていないようだ。
ヤツらは火を扱うことが出来ない。獲物は常に生食のはずだ。
灰ゴブリンは獲物を巣に持ち帰ったあと、徹底的にそれを生きたまま甚振る習性がある…とされている。
それはヤツらの本能が成せることだと言う説や、獲物の肉を柔らかくするためだとか諸説あったはずだ、
この頭蓋骨の主はどんな最期を迎えたのだろう。血の滲むその頭蓋骨から考えるに人としては死ねなかった事が予想できる。
探し当てた数珠を左手に引っ掛ける。頭蓋骨を慎重に地面に置き、目を瞑って手を合わせる。
災難だったな。きちんと家族の所に送るよ。だから休んでくれ。
南無阿弥陀仏。
……さて、残りのパーツが残っていればいいんだけど。
そのあとも、骨塚を探ると人間の骨らしきものが出てきた。
砕けた骨盤。半分におられ、血に染まった大腿骨。歯型のついた…肋骨か? うわ、これ血の塊じゃなくて肉片かよ。
欠けて、血に染まるその人骨が次々とでてくる。
生きたまま喰われたか。
骨の損傷具合から抵抗しながら折られ、齧られ、捻られた後が見える。
探索者の末路としてはありふれているが、人としては哀れすぎる死に方だ。
俺は骨塚から取り出したその人骨を揃えるように脇に置く。
とても数が足りない。残りは恐らくヤツらに喰われたのだろう。
そこから20分ほど骨塚を漁り続けたが、それ以上新しい人間の骨が見つかることはなかった。
頭蓋骨のサイズや、骨盤の大きさから見ると、専門家ではないので確証まではないが恐らく女性の骨だろう。
骨についている血などからあまり時間も経っていない。
あとは端末や、武器が見つかれば確実なのだが、十中八九は依頼の行方不明の女性探索者で間違いないだろう。
その骨を見つめながら思う。
灰ゴブリン。
深い知性と仲間や家族への愛情。優れた身体能力に、人類への残虐性。
恐ろしい化物だ。
仮にヤツがどれだけ互いを大事にして、どれだけ深い愛情をもっていたとしてもそれが人間に向くことはないのだろう。
俺たちとヤツらがわかり合うことなど出来ない。
ヤツらと俺たちが交わることがあるとすればそれはただ一つ。
殺すか殺されるか、その一瞬のみなのだろうな。
血に染まった頭蓋骨の割れた部分、朱が濃く、まるで潰れた牡丹の花がはりついているようにも見える。
あー、死ななくてよかったー。
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