表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/151

平凡なソロ探索者による灰ゴブリン狩りの場合



灰ゴブリンの体長は人間と比べて小さいが決して侮ってはならない。


彼らはその見た目からは信じられない程の高密度の筋肉を宿している。


狩りの時や、外敵との戦闘時はその体は筋肉で膨らむ。


優れた瞬発力で襲いかかってくるだろう。



[一層の生物について] より抜粋ー

 




 さあ、まだまだいるんだろう?早くでてこいよ。




 足元には頭から胸元にかけて青い血に染まった幼体が仰向けで倒れ伏している。



 自分の身に何が起きたかも理解せぬまま逝ったんだろうな。開いた瞳はまだ瞼が痙攣していた。



 舌が飛び出ているその死に顔はお世辞にも綺麗なものとはいえなかった。




 南無阿弥。次は出会うことがないことを祈るよ。





 俺が死に顔を見下ろしていると、そいつが飛び出してきた入り口の煙が不自然に揺らめいた。





 来たな。ラウンド2だ。





 そいつは左手で口元で抑えながらゆっくりとした足取りで出てきた。



 右手には鈍い銀色をした鉈を持っている。



 落ち着いているな。さっき殺した個体とはかなり違う。


 飛び出してくることもない。まだバルタンの煙が回りきっていないのか? 足取りもしっかりしている。



 そいつは、煙の範囲から抜け出すと立ち止まった。



 体長は大体130センチぐらいか?先程の奴よりも大きい。首もとにあるのは…首飾りか?





 装飾品をつけていることもそうだが、あの瞳。金色の瞳、あの成体の戦士長クラスと同じ瞳だ。




 下瞼がほんの少し痙攣した。



 ああ、いざとなれば用意していた()()が使えそうだな。



 俺はヤツから目線を逸らさずに、足元のすぐ後ろに置いている黒いビニール袋を足で探って確認する。


 ガサっと音がした。


 よし、準備は万端だ。


 その幼体は立ち止まったままだ。瞳を逸らさず俺を見つめていた。



 ふとそいつが俺の足元に視線をやる。





 先程殺した個体のほうをじっと見つめている。


 金色の瞳が、一度瞼の向こうに隠れた。







「ギ、ギギギギギ、あア、アアアア!」


 そのサイズからは考えられない大きな叫び。仲間意識の強い個体らしいな。


 ああ、家族だったのか? 灰ゴブリンの一部は群を家族として認識しているらしいな。




 小さな体を震わせ始めた。


 2メートル程離れていても、そいつの灰色の筋肉が隆起していくのが分かる。肩の筋肉が丸くなり、鉈を体の前で構えて、体を屈める。





 ネットの動画でみたヒョウが獲物に襲いかかる寸前のような姿勢だ。



 あれはお前の親父だったのか? きちんと戦いの教育を受けていたようだな。


 そっくりだ。その姿勢。




 俺は斧の柄を短めに握る。ほとんど刃の位置に近いそこを右手できちんと握りしめる。



 左足を前に、右足を肩幅ほど下げて重心を前に傾け、体を斜めに構える。


 右脇を締め、左手をリラックスした状態で軽くつきだす。



 落ち着いた足取り、通常の幼体よりも大きな体。そして成体の戦士階級個体と同じ構え。




 間違いない。コイツは戦える。



 危険な敵だ。先程の獲物とは違ってな。俺が殺されるかもしれない。


 そう思った瞬間に、後頭部の中から何かが広がっていく。


 頭の中の血管が破れてそこから血が広がっているのか?


 とにかくその何かが全身に広がる。心臓の鼓動が驚くほど静かだ。




 手袋をしているにもかかわらず、斧の柄、加工されたヒッコリーのツルツルした感触までが指紋に伝わる。




 この感覚が好きだ。もっと欲しい。



 俺はその後頭部から広がる、感覚。衝動を抑えながらそれを爆発させる機会を伺う。






 左の掌を上向きに返し親指以外の指を立て、二度ほど、くいっくいっと前後させる。




 意味が伝わるか? かかってこいよ。





「ギアアアアア!」





 来た!

 地面を沿うかのような低さ。そして地面から飛び立つカラスのような速さ。



 鉈を突き出し、襲いかかってくる。



 俺は動き出そうとする足を止め、タイミングを待つ。

 襲いくるそいつにカウンター気味に脳天へ斧を振り下ろそうとー



 低っ。

 蹴れるわ。


 振りかぶらずに後ろに下げていた右足を振り抜く。


 ゴッ。


 鈍い音がして。それから。


 ミシッ。


 何かが軋むようなそんな音。

 たしかに聞こえた。





 厚い灰トカゲの成体の革と、軽いダンジョン由来の金属製の鋼鈑先芯で守られたコンバットブーツのつま先が、ちょうど足元に飛び込んできたそいつの右こめかみを捉えた。




 柔らかなものと硬いものの感触が、一瞬足に濡れつくがそれを蹴り抜く。





「オラア!」




 そのままそいつを蹴り飛ばした。


 サッカーは昔から苦手だったが、人間命かけの時はなるようになるもんだな。



 結構飛ぶもんだな。なんとなく小学生ぐらいのサイズだから少しハラハラするけど。



 でも、今ので終わりじゃないだろう?

  そいつはふらつきながらもすぐに立ち上がっていた。



 その手にはしっかりと鉈が握られている。



 その切っ先はぶれることなく、俺のほうを向いていた。



最後まで読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ