3話
~町子視点~
ここは、いつもの屋上。
庄内くんが私に付き合ったというニュースは瞬く間に広がった。
転入生が質問攻めに会うというのは別に珍しいことではないが、このことについて、クラスメイトはおろか、別のクラスの人、3年生や1年生、挙句に教師の一部にまで質問攻めをくらうことになった。
なかでも多かったのは、大須先輩か鶴舞さんが庄内くんと付き合っているのではなかったのかということ。
そんな質問攻めにあっている私を、大須先輩が助け出してくれて、今ここにいる。
「災難だったわね。でも私も驚いてるのよ。桂が誰かと付き合おうと考えるなんて」
「びっくりしましたよ。クラスメイトだけならわかりますけど、クラスや学年が違う人までくるんですから。アイドルでも来たのかという騒ぎですよ」
「ごめんね、私のグループのメンバーはどこか特殊だから」
「私のグループ?」
「私を中心とした所謂仲良しグループね。桂と千代と颯斗の2年生クラスメイトトリオに、1つ下の栄子。そして、あなたにそっくりだという金山南、彼女は名誉会員だから、今は5人だけね」
「あなたがそのグループの会長というわけですか」
「そうね、だから、皆の面倒は私が見なくちゃいけないわけ。みんなどことなく心配なのよ。頭が悪いわけじゃないんだけど……」
そう言って大須先輩は嘆息する。その片鱗は転入2日目にして痛感している。
「だから1つだけ気になることを聞いておくわね」
「なんです」
「あの桂が暴走した時に、あなた颯斗を知っている素振りを見せたわね。颯斗とはどういう関係なの?」
「金山くんですか。別になんでもないです。ただ、転入前日に危ないところを助けてもらったんです。同じクラスでびっくりしましたけど」
「あいつにしては珍しいわね……、いや、あなたが妹に似てたからかしら」
「それがなんなんですか?」
質問の意図が掴めず、思わず強めの発言になってしまった。
「いいえ、私は気になったことは聞く性分なの。そんなことがあったんならむしろ颯斗のことが好きになりそうなものだけど、そういうことはないの? 颯斗は颯斗で心配だから、今なら乗り換えを許可します」
この人はなんてことをいうんでしょうか。
「そうですね、あの教室のドタバタがなくて、普通にあの人と接してればそういう感情もありえたかもしれませんけど、今はそんなことはないです」
「まぁそうよね。颯斗も自分の妹に似てる子に付き合ってと言われても困るでしょうし」
ごもっともだ。
「じゃあそれはそれとして本題に行きましょうか」
「本題?」
「私たちのグループのことを紹介しておこうと思って。桂と付き合うんだったら、皆のことを知っておいたほうがいいわ」
確かにこれだけ影響力のある大須先輩のグループメンバーを知っておくのは、庄内くんと付き合う以上必要なことではあると思う。
「その前に1ついいですか?」
私も気になることは聞いておきたいタイプ。物事がある程度進む前に質問をしておかないとややこしい話になる。
「なにかしら?」
「南さんという子とは私はあっていませんけど、どういう人なんですか? 名誉会員って言ってましたけど、どっか違う学校にでも通われてるんですか?」
「……この写真を見てくれるかしら?」
栞那先輩が写真を差し出したので私はそれを見る。
「え? 私の小さい頃の写真? 何で大須先輩が持っているんですか?」
そこには私が映っていた。いや、私じゃない。私はこんな写真をとった覚えが無い。
「その子が金山南って言うの。私達のグループにいた幼馴染。そして、桂とは小さい2人の関係とはいえ恋人関係にあったわ」
「今は……」
「事故でなくなったの。中学生になってほんのすぐのときに」
「私たちも幼馴染として、過ごしていたし、颯斗と栄子に至っては肉親だったからね。本当に悲しかった。それでも1番悲しんでいたのはやっぱり桂よ」
「…………」
「そして、みんなの中で心の整理がつきつつも、桂はまだ引きずっていた。そんなところに、あの子がそのまま高校生になったみたいなあなたが現れた。ここまで話せば、皆のいろいろな反応が分かるでしょ」
なるほど、それでいきなり初対面での告白やら、栄子ちゃんの暴走やらがあったわけか。
「ここまでそっくりさんが出てきたら、桂の気持ちも分からなくもないわ。そして、他の子は、あなたをそのままはいどうぞ、と受け入れるかといえるかというとそうじゃない」
「栄子ちゃんですか」
「ええ、あの子ね。あの子は桂と南の本人達以上に、あの2人の関係や思い出に深く思い入れがあるの」
「なんかいろいろ面倒ですね」
楽しそうに毎日を過ごしてそうなメンバーに見えたんだけどな。
「じゃあ私は桂君とは付き合わないほうがいいと、それについてリーダー格のあなたが釘を刺しにきたということですね」
「いいえ、逆よ。むしろうまくいってほしい」
「え?」
「いい加減に面倒ではあるの。桂はいつまで経ってもあの子の思い出から離れない。だから、栄子もそのまんま。もう1回言うわ。面倒なの」
「面倒とか言うんですね」
「だって面倒じゃない。あの悲劇の主人公ぶってる感じがさー。周りが頑張ってフォローしてんのに、4年も経ってまだ吹っ切れないんだもん。普通はそうだとしても、もう少し回りにそうは見せまいとするべきでしょ」
「けっこう溜まってるんですね」
「ええ、だからこれを気にあの子が立ち直ってくれればとてもいいと思うの」
「本音は?」
「面倒になってきた荷物を押し付けたい」
「本音すぎです」
「今ならまだいいわよ。告白を受けたのを後悔してるなら、私がなんとかしてあげる。物理的に」
「怖いです」
「でも私がフォローするから、付き合うこと事態に興味があるなら、してほしいかなって気持ちはあるわ」
うーん、1個気になることがある、これは答えてもらえるのか?
「大須先輩や鶴舞さんはいいんですか?」
「いいというのは、私たちが桂のことがいいのかってことかしら」
「そうです。付き合いの長さでは先輩たちの方が上なんですから、先輩たちが庄内くんのことを好きなら、そういうことは処理しておいてください。後になって取られたりするのは嫌ですから」
これは是非聞いておきたかった。とにかくこの2人に関する噂があまりに多すぎた。どちらかが2人と庄内くんが付き合っているという話を聞く。
「そのことなら心配ないわ。少なくとも私に関しては桂との恋仲はありえないの」
「どうしてです、聞いた話によると、ショッピングモールで演技とはいえキスをしたって」
「キスして何か変わるなら良かったんだけどね……」
急に目の色がくすんだ大須先輩に私は動揺が隠せなかった。
「自分で言うのもなんだけど、私って高校3年生にしては大人っぽくて、美人でスタイルもいいと思うの。女の子含め毎日のように告白されるし、ナンパされることもあるわ」
大須先輩はそれを自分で言ってもイヤミではないほどの高レベルではある。
「そんな私に演技とはいえキスをされたのに、次の日にいつもどおり『会長! おはようございます~』と言ってきたの。昨晩は一睡もできませんでしたとか、気まずくて目を合わせられないとかそこまでは求めないけど、せめてちょっと話しづらそうにするとか、顔を赤くするとかくらいはあってもいいと思うの。それなのに、いつもどおりにあいさつしてきたのあれはいつもどおりに」
「それは、ご愁傷様です……」
「私は自分に自信があったんだけど、それをかなりぶっ壊されたわ。そのせいで、今日告白してきた男の子をイライラして裏拳で殴って気絶させちゃったし」
「えらいとばっちりですね」
「もう私では無理なのよ。桂はすごくいい男の子に育ったし、十分スペックもあるし、可愛い弟分だからあの子に本気で告白されたらOKしちゃうとは思うくらいには好きだけど」
「そんなにですか」
この姉貴分丸出しで皆のお姉さんという感じの大須先輩にはそういう要素は見られなかったのだが。
「桂は私たちがまだ5、6歳くらいのときに当時の私のグループにスカウトしたの。まだその時はまだ栄子しかいなかったんだけどね。私が栄子と遊んでいるときに、いつも桂は南と一緒にいて、南は面倒見のいい子だったから、いつも桂が怒られたりしてて、見てて微笑ましかったわ。それで、ある日、南が男の子のグループに絡まれて、いじめられそうになってた時に、桂が全力で南をかばってたの。それを見たとき、『ああ、この子いい子だな』とちょっと思ったとたん手をだして助けちゃった。その後、2人を自分のグループにしたら、どんどん人数が増えていったわ。そのあと栄子と南の関係も知ったけどね。でもちょっと思春期になった時に、私が桂を見る目が変わっちゃったんだ。あの時私が桂をグループに誘ったのは、私も南みたいに守ってほしいと思ったからだって気づいちゃってからは大変だったわ。だって、この恋始まる前から終わってるんだもの。あの2人に入り込む余地は0だったから」
「めちゃ乙女チックというか……」
ベタ惚れじゃないすか。
「だから、南が死んでしまった時には全力で桂を助けたの。南のことは本当に私も悲しかったけど、それ以上に桂をたすけなきゃと思って……」
そこで大須先輩はバツの悪そうな顔をする。
「チャンスとか思っちゃったんですね……」
「ええ、本来なかった席が空いた。そこに座れるかもしれないと思っただけで心が踊って、南の死を喜んでいるみたいな自分に嫌気がさしたわ。だから、桂の中できちんと整理がつくまでは絶対にこの気持ちは伏せようとしてきたの」
庄内くんの事を語る大須先輩の顔をほんのりと赤くなっていた。
「でも、私が桂にとってグループの会長以上にはならないことは今回わかったわ。私がダメなら、せめて桂には本当に好きな人と結ばれて、幸せになることをのぞんでるの。そこにあなたが来たんだから、これは押し付け……、もといまかせるチャンスだと思ってるの」
なんか台無しな言葉が聞こえた気はするが、大須先輩の発言は本気だろう。
「じゃあ鶴舞さんは……」
「あの子はもっと大丈夫よ。あの子は面白くなるか自分が面倒にならなければ何も口出しはしてこないわ」
「そうですか……、でもいつもべったりですよ。ちょっとあれは居心地が悪いです」
「まぁ、今後は私たちでフォローしていくわ。多少は多めに見て」
「分かりました……」
釈然としないが、彼女の存在は気にしたほうが負けなのだろう。
「まぁとにかく、桂含めて私たちに付いて知っておくのは、マイナスにはならないわ」
「でもきっついですよね。死人と比べられるのって、いつまでも美しい思い出が相手って、アイドル好きとか2次元だけしか好きじゃない人を相手にする以上に厳しいかもしれないですよ」
平々凡々だった人生が、突然の告白で面白そうとは思ったけど、実際にこうなってみると確かにちょっと大変そうだなって思ってしまった。




