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2話

「それでは今日皆さんに新しい友達を紹介します」


担任の一声で教室が反応する。いつの時代も転校生というものは、学校のイベントの1つである。

 

特に大きな行事が少ない頃は、ややマンネリ化した学校によくも悪くも刺激をあ絶えてくれるものである。 

「颯人、すげーな。不良5人を1人で全員倒したって?」


本来は そうなるはずなのだが、もう1つ面白いエピソードがあったため注意の半分以上は颯人に向かっていく。


「ハハハ! 女性が愚鈍な男に絡まれていたのでな。つい手を出してしまったよ。5人もいた上に皆格闘技を嗜んでいたらしく少々苦戦してしまった」


颯人は運動能力もチート級である。彼の父親の友人にアメリカ軍人がおり、近接格闘術を嗜んでいる。

 彼はそれを共に学び護身術として我が物にしている。


 近接格闘術は、柔剣道に代表されるスポーツ格闘技とは異なり、ルール無用の殺人のための格闘術。多少普通の格闘ができる程度では相手にもならない。

「しかし、颯人が人助けをするとは珍しいこともあるな。しかも女の子か……」


 颯人はこういう唯我独尊タイプには珍しく、友人を大切にし、思いやりも持っているが、1人の時に自ら厄介ごとを抱え込むタイプではない。


「何? 好みだったとか?」



これはあくまでも冗談で言ったつもりだった。


「ん? んん……、ああ」


しかし明らかに颯斗の反応はいつもと違った。


はっきりしていて自信過剰な彼は、基本的に嘘やごまかしはしない。だから、ここの答えは『そんなわけ無いだろう』か『実はそうなんだ』の2つしかない。


ほかに選択肢が仮にあったとしても、少なくともこんなお茶を濁すような感じの対応は絶対にしない。


「なんだよ。颯斗らしくないな」


「いや、ちょっと長い話になるんだが……、もう少し経てば説明しやすくなる。それまで時を待つのだな! ハハハハハハハハハ!」


途中からいつもの彼の話し方にはなったが、回答を得ることはできなかった。


「は~いそれでは、入ってきてください」


話をしているうちに、HRが進みいよいよ転校生のお披露目のようだ。颯斗の疑問はあとにするとしてとりあえず新しい友人を歓迎しよう。


ガララッ。

 

ドアが開いて1人の女生徒が前に立つ。

「どうもはじめまして。私の名前は浅間町子あさままちこです」


セミロングの髪を少しだけ後ろに止めている。まるで南のようだ。


大きな意志の強そうな瞳。まるで南のようだ。


優しそうなほんわかとした笑顔。まるで南のようだ。


というか、南が成長したらああなるのだろう。というくらい似ていた。


「席が空いてるのは……「好きです! 結婚を前提に結婚してください」


担任の言葉を遮り、自分の意思の赴くままに声を発する。


「ちょ、ちょっと、庄内く……「ダメならせめて付き合ってください」


「な、なんだ」「なんだよ」「あの会長(これは颯斗のこと)との朴念仁コンビが」「誰も好きにならないんじゃ」


 ガラララ。「あっ、大須先輩だ」ガラララッ!「あ、1年の伏見さんだ」


「やな予感がしたから来てみれば……。暴走してるじゃん……」


「おねえちゃん……、おねえちゃんなの」


「わー、こっちは幼児化してる! ていうか、1年の栄子がなんでここにいるのよ!」


 あんたも3年だろうという周りの無言ツッコミがあふれる。


「フハハハ! やはりこうなってしまったか」


「あんたはあんたでなんで報告しないのよ! 知ってれば対策できたのに! あの子も困っちゃうでしょう!」


「いや……、多分それは大丈夫だ。俺の計算では」


「何を……」


なんか周りが騒がしいが、そんなものはどうでもいい。数年前に失われたはずの運命の相手が目の前にいるのだ。


「こら~、冷静になれ~」


後ろからわたあめのように軽いものに伸し掛られ、少しバランスを崩す。


「確かに似てるけど、あの子は南ちゃんではない。付き合いを求めるにしても、節操はあるべきだ。何よりこんな形では成功しなさそうだ。成功しないと君が落ち込んで私が面倒くさくなる」


そのあるかないかの感触ですぐにわかる。千代だ。めんどくさがりやの彼女が自発的に動く時というのは、より物事が面倒くさくなると彼女が感じたとき。


「はっ、す、すいません」


自分は我に返り、相手に謝る。それでも真正面から見るとまた虜になってしまいそうだ。


「すいません、本当に申し訳ないですきですつきあってくだごめんなさい」


「本音と建前が混ざりすぎでしょうがー! でも、千代グ・ジョブ。すいませーん。この子は一旦引き取り

ますー」


「なにやってんの! いきなりデリカシーってものはないの!」


「あんなのは偽物です! 勘違いだ! 冤罪だ! ドッペルゲンガーだ! チクショウ、あんなのをお姉ちゃんと間違えるなんて、私の人生初の不覚!」


「もう今日は動けない……」


いつもの屋上に連れてこられて、女性3人に説教タイムである。後半2人はただの文句だが。あと栄子の初の不覚は納得いかない。


「あの後大変だったのよ……」



『颯斗、とりあえずこれを屋上に持ってって』

『ふっ、俺を雑用で使おうとは……』

『はよしろ』

『えっ、栞那先輩が庄内くんと付き合ってるんじゃなかったの?』

『NTRキタ━(゜∀゜)━!』

『あいつはおねえちゃんのフリをした偽物だ! 著作権法違反だ! 裁判起こしてやる!』

『ちょっと! なんで栄子が暴走するのよ』

『ククク、こうなるであろうことはわかっていたがな』

『あっ、あの時助けてくれた人ですね、ありがとうございます。まさか同じクラスだなんて』

『おい、違うフラグが立ってるぞ、どういうことか説明して』

『皆さん落ち着いて! 伏見さん! どこに電話してるの!』

『110です』

『馬鹿! 没収』

『あっ、私の携ちゃんが!』

『なんで携帯電話に名前が付いてるのよ』

『それは聞いちゃいけねえぜ、お約束ってもんだ』

 ゴン!

『ズビバセン』

『ホントすいません、このバカ2人は連れてくんで、自己紹介から続けてください』



 そしていまここ。もう誰が何しゃべったのかわかりゃしない・


「おい、栄子は自分を怒れる立場か? 後半お前が暴走したのがいけないんじゃないか」


「だってあんなんずるですよ。私のお姉ちゃんはもういないんです。将来的におねえちゃんになる可能性があるのは、会長か、かなり譲ってもチー先輩までです。あんな史上最低の出来損ないのぽっと出のインチキに先輩を取られるわけには」


「言いすぎだ」


「2人とも反省が足りないようね……」


 ガタッ。


 会長による粛清が入ろうとしたところで、屋上のドアが開く。


「あ、浅間さん」


「す」


ゴン! 会長の正拳突きが入った。


「まだ、『す』しか言ってないじゃないですか」


「好きですって言うつもりだったんでしょう」


「すいませんかもしれないじゃないですか!」


「すいませんって言うつもりだったの?」


「好きですって言うつもりでしたよ」


 バキッ! 今度は会長の上段前蹴りが決まった。足の長い会長の得意技だが、スカートでやるのはどうかと思う。


「本当にごめんなさい、びっくりしたでしょう。本人もこの通り反省しているから許してあげて」


 どの通りなのかはわからないがいい加減に反省しないと許させないレベルになりかねない。


「何言ってるんですか先輩、この肖像権侵害女にまた告白するつもりだったんですか! 早くそいつを殺してください! きっとこいつはお姉ちゃんの体を乗っ取って地獄からきた悪魔なんですよ。もともと居るべき場所に返さなきゃ!」


「桂、あれがあなたの我を忘れた姿よ、客観的に見てみなさい……」


あんなにひどくはないと思うが、人が我を忘れた姿というのはあんなにみっともないものなのか。


「会長、本当にすいませんでした」


「いいのよ、後は浅間さんにもちゃんとあやま……「てめぇ、先輩をそそのかすとはどういうことだ! ビジュアルがよくて、胸もあるから調子乗ってんのか! それじゃ会長と一緒じゃねぇか。自分の見た目に自信あるからって堂々と威張り散らしやがって」


栄子がかなり起こっているが、これはやばいやつだ。


「桂……、私は大事なお話があるから、きちんと謝っておいてね」


「はい……」


「は、離してください会長。私には、先輩をゾンビから守る使命が」


「私があなたをハザードするわ! さっき私の悪口を言ったわね……。死んだほうがいいくらいの粛清をさせていただこうかしら」


「」



 ガタン!

栄子が何か言う前に 屋上のドアが閉められ、一気に静かになる。


「あ、あのその、いきなりご迷惑をおかけしてすいませんでした」


「ううん、それはいいの。ただ理由を知りたくてここに来ちゃっただけなの」


 ああ、おっとりとした口調。間延びするような感じだった南とは違うかもしれないけど、大人になって落ち着いた南はこういう感じに……、じゃなくて。


「いきなり告白とか頭おかしいですよね」


「ふふふ、でもいいよ。付き合ってあげても?」


「ヴァ?」


 あまりの驚きに声にならざる声が出た。


「おお~、これは急展開過ぎて驚きだね~」


「千代まだいたのか」


千代の姿が途中から見えていなかったので、一緒にいなくなっていたと思っていた。


「千代です……、いつからいたんだと言われましたが、最初からいました……」


「また古いネタを……、あといつからいたとは言ってない」


「今日は君を止めた分でかなり力を使ったからね~。屋上で仮眠というわけさ」


「すいませんでした」


 それを言われるとものすごく困る。


「全く気にしていないんだがね。しかし、君にとってはいい展開じゃないか。南ちゃんに似てる女の子と付き合ってもらえるなら、これ以上の喜びはないではないか」


確かにそうである。自分の理想の女の子が自分と同じ学校に転入して来たというだけでもかなりの幸運。おまけにあれだけの醜態を晒したのにもかかわらず、告白(プロポーズ?)を受け入れてもらえるというのであれば、これ以上のことはない。


「どうかな?」


「どうかなって……、浅間さんはそれでいいの?」


「いいんじゃない? 高校生のする恋愛なんだからもしダメならやめちゃえばいいんだし、あの熱烈な告白は女の子として悪い気はしないしね。君はいい人そうだし」


「それはそうだけど」


「ダメなの?」


 うっ、理想の女の子が泣き顔上目遣いとかずるい。顔も似てるからか声もそっくりなのである。


「いいじゃん、付き合ってみれば。どうせこのままじゃ誰とも付き合わないんだし、南ちゃんと似てる子から付き合ったほうが慣れるし」


「あの~、これ一応告白シーンなんですよね。第三者がいる時点でまずおかしいのに、それに茶々入れるのやめて頂けませんか、鶴舞さん」


どうも緊張感がなくなる千代の割り込みに浅間さんがたまらずツッコミを入れる。


「そうは言っても、私は会長にここに連れてこられて、そのあと会長やら、栄子ちゃんやらが帰ってしまったんだ。私が退く義理はあるまい」


「空気を読んでください」


「大切なのは空気ではなく、善悪や倫理性さ。私は空気など読まぬ! 戦争中でも『君死にたまふことなかれ』と言える!」


「どうしよう、この人会話になってるようでなってない!」


「千代の話はまともに聞かない方がいいよ、千代は空気を読む以前に、千代の周りには空気がないから」


「火星でも生きれるぜ!」


「鶴舞さんと伏見さんの2人を管理してる大須さんに同情するわ……、じゃなくて、付き合ってくれるのかな?」


「そうだな……。とりあえず、ちゃんとお互いを知ってからでよろしいですか?」


「うん、それでいいよ。私急かさないから」


こうして俺に4年ぶりの彼女候補ができた。

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