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1話

ここはどこにでもあるフードコーナー。このあたりでは一番大きいショッピングモールである。


15時頃に亀島さんを説得する来いと会長に言われたのはいいのだが、15時を過ぎても会長が来ず、亀島さんと2人なので非常に居心地が悪い。


「栞那先輩と庄内先輩は本当に噂通り付き合ってるんですか?」


どうしよう。会長が来ていないのに向こうから話をし始めた。


「ああそうだよ」


しかしここで否定することはできないため、肯定するしかない。


すると明らかに亀島さんの表情が不機嫌になる。女の子がというか人間がしてはいけない顔になっているためとてもお見せできません。万が一彼女の顔が映像化されることがあるとしたら、これは何とかして隠していただきたい。


「どうして大須先輩は私じゃなくて、あなたと付き合ってるんですか!」


「それは君が女の子だからじゃないのか?」


「そういう問題じゃないんです。私は本気です! 先輩をオランダかどこかに連れて行って、同性婚して事実関係を作って監禁して1日中見つめていたいくらいには好きなんです!」


わー、帰りたい。あとで会長に締められる方がこれ楽だ。


「ふむふむ、あれが会長を今回狙っている猛者ですか」




「容姿はそこまで悪くはないだろうが、会長には及ぶまい。格が違う。この俺の傘下に入ることもあれでは厳しかろう」


「zzz……」

 

近くのテーブル席で、颯斗、栄子、千代の3人(事実上2人)で監視していた。


「会長遅いっすね、颯斗、なんか聞いてる?」

「いや、しらんが、この俺の予想ではろくでもないことを考えていると思うぞ」

「zzz……」


「おまたせ!」


 会長が来た。というより、会長たちが来た。


 会長と会長の母親と神父さん(颯斗の父親)が来た。


「会長! ちょっとこっち来いや!」


「なんでおばさんと、神父さんがいるんです?」


「だって恋人ってことは結婚をする前提で付き合うってことでしょ」


「どう考えてもこの組み合わせは前提じゃないです。確定です。さすがの亀島さんもドン引きしてます」

「あの子はおそらく私が付き合ってきた中で上位を争うレベルでしぶといわ。これくらいしないと」


「あの感じだとそうかもですが」

 

とにかく賽は投げられた。流れが出来てしまった以上はやるしかない。


「桂くん、うちの栞那をもらってくれてありがとう……。これ以上に嬉しいことはないわ」


おばさん、演技オーバーです。まじの涙はNG。


「私は神を信じますか?」


 あなたは信じてください。あと本物の神父のくせに演技下手です。本物だからこそ、偽物の演技がぎくしゃくするのか?


「私たちは愛し合っています。日本一、いや県内一、いえ世界一!」

 

妙に曲線を描いた上昇の仕方ですね。なぜ一回下がった?

 

ほら、亀島さん明らかに疑いの眼差しを……。


「なるほど、少なくとも栞那先輩は本気みたいですね」

 

恋は盲目!? 目が曇ってる。

「しかし庄内先輩はどうでしょう? 栞那先輩ほどの本気は感じられません。ほかに好きな人がいるのでは?」

 

曇ってなかった。女の勘は恐ろしい。


「そんなことはないよ。これだけ愛情を示してもらってるんだ。好意を寄せないわけがないだろう」


これは嘘ではない。仮に南がいなければ、自分は会長のことを好きになっていてもおかしくはなかった。いや……、南とあっていなければが正解だといえる。

「庄内先輩にも何か証拠を示してほしいです! ここまではすべて栞那先輩からのものです」


 おっと厳しいのが来た。この手の質問が1番困る。


どうするか、告白をこっちからもするか、栄子を使うか……。


「その必要はないわ。これで十分」


「!?」


会長にキスされた。会長とのキスは初めてではない。俺のファーストキスは南だが、会長のファーストキスの相手は俺である。しかし、それはあくまでも小さい頃の話。高校生になってからこんなことはなかった。


周りはとても静かになった。亀島さんは絶句。おばさんは恍惚の笑顔。神父さんはガン見(仮にも親父のくせに)。

ふと目を向けると、栄子、颯斗、千代の3人が見えて、2人と目があった。(千代は除く)


にやにやが2人と、ぐーすかが1人。千代は本当に何しにきた。


それは一瞬のことなのか、あるいは1時間以上のことなのか。会長が離れる。


「はぁ……」


 小さい頃にされるものと今されるものは明らかに意味合いが異なる。


距離が近くてお互いの吐息が触れあう。


「う……、うわぁあああああああああん。栞那先輩! 本気で好きでした! お幸せに!」


亀島さんは泣きながら出ていった。良くも悪くも(ほとんど悪い)彼女はまっすぐだった。


「いい子ね」


「いい子ではないと思いますが」


「あんなに真っ直ぐな思いを向けられた嫌だったわけじゃないわ。そういう方向を私が受け入れられれば、彼女とのハッピーエンドもあり得たのかもね」


「いろんな人がバットエンドになりそうですがね」


「イヤッホーイ! 私の時代ktkr。ついに既成事実を私に見せてくれましたね。保存保存」


「何録画しとんねん。しかもスマホなら可愛げがあるのに、わざわざビデオカメラで撮りやがって。しかもそれこの前14万円するから諦めたやつだろうが。どうやって手に入れた?」


「颯斗がくれた」


「颯斗!」


「仕方がない。急になんとか25とかいう日本で1番有名なクイズ番組にださされて、その商品でもらったのだ。俺は応募した覚えはないのだが、おそらく俺の力を知った番組プロデューサーが俺を見つけて」


「栄子?」


「ワー、さすがハヤト。そんなフシギなこともあるもんだなぁ」


 ピー。


「ああっ私のビーちゃんのメモリーが!」


「何ビデオカメラに名前つけてんだ。しかもセンス!」


「うう……、結婚式で流す予定だったのに」


「説明がややこしくなるわ!」


「よし、帰ろうじゃないか。今日はカニを食べる日なんだ」


 最後になぜが千代が仕切るという結果になった。


「あら、今日もありがとうね庄内くん。是非カニを食べてって~」


千代が週に1回まともな食事をするとき、それは自分が彼女のうちに呼ばれる日でもある。


「ほんとにうちの子は見てて心配なの~。庄内くんがいてくれなきゃ、私が毎日送り迎えしなきゃいけないし、学校にいても大丈夫か心配で仕方なかったと思うの~。ホント安心できるわ~。ずっと千代のことをお願いね」


会長のお母さんもそうだが、なぜか自分はおばさんにプロポーズされる傾向にあるようだ。


「もしゃもしゃ、かにうめぇ。まぁ、私としてもケーくんがいてくれたら安心っちゃあ安心だね。ああ、別にくっつくのは会長でいいんだけど、ついでに面倒見てくれれば。会長に飽きたら時々私も相手するから」


「なんてことをいうんですか」


つい敬語になってしまうほど衝撃的なことをいう。


「もぅ、ほんとに千代ったら! 女の子ならまだしも、男の子でこんなに面倒を見てくれる子はそういないんだから、ちゃんと狙ってよ~。私も庄内くんなら大歓迎なんだから」


しかし、いつ見ても若いな。実際に若いんだから当然だけど。千代に似てるから美人だし、話し方も若い。


「しかし、いつ見ても若いな。実際に若いんだから当然だけど。千代に似てるから美人だし、話し方も若い」


あ、全部口に出しちゃった。


「あらあら、庄内くん? 私でもいいのよ~。うちに来て千代と一緒にいてくれれば、形はどうでもいいから」


やはり千代のお母さんである。言ってることはほぼ一緒である。


「お疲れ様です! お風呂にします? それともトイレ?」


 千代の家を後にし、帰宅すると栄子が家にいた。あと選択肢!


別に栄子がいるのは珍しくない。栄子は金曜日と土曜日はうちに泊まりに来る。

栄子の父親が去年亡くなっており、母親が1人で栄子を育てている。母親の仕事は週末が忙しく金曜日から日曜日まで帰ってこないことも多い。そうなると、本来であれば従兄妹関係である颯斗の家に泊まるべきなのだが、非常に大きな豪邸に住んでいる颯斗の家では彼女は落ち着いていられず、気も使うためかえって疲れてしまうらしい。


そこで、同じく両親が海外にいるため基本的に1人暮らしの自分の家に来たいと栄子自身が言いだしたのだ。


まぁ止められるだろうと思っていたのだが、

『桂くんなら安心して任せられるわ。娘をお願いね。なんなら、そのまま持ってってもいいのよ』

 

とまさかのOKが出てしまったため、自分も断りきれなかった。

 

3人のおばさま達は自分を信用しすぎでは?


「お風呂に入るよ。それでさっさと寝る。今日は会長のせいで疲れた」


「お背中お流ししましょうか?」


「やらんでいい」


「おトイレお手伝いしましょうか?」


「なにを手伝うんだ!」


「ナニをでしょうね~」

 

ニマニマしながら下ネタをいう栄子。ほかの2人と比べて女子力が低すぎる。というか、1位が千代という時点で低レベルすぎるが。


寝るときももちろん部屋は別であり、時たま夜這いが発生するため、深夜は戦闘状態になる。


「おっはようございますー。早く起きてくださいよ~。起きないと、絵的にアウトなことしますよ~」

 そして、休みなのに早く起こしてくる。自分は夜型なのに。




 と、自分の1日を見てもらえばわかるとおり、自分の周りには南がいなくなっても、魅力的な女性が多くいる。中身はまぁ目をつぶるとしても、パートナーに選べば、それなりに楽しく過ごせそうな子ばかりだ。

 

この3人の誰かが自分のことを好きだとしよう。それでも自分の中にはやはりときめきがない。南のことを裏切ってもいいのか。自分にとってやはり南の存在は大きすぎた。

 

時間が経てば解決するかと思っていたが、全く癒える気配がない。

 

このまま、誰ともパートナーになることなく、一生南のことを思って生きていくのだろう。

 

本当にそれでいいのか。


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