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22話

「本気なのか……」


現在完全なるマウントポジション。もう起き上がることはできない。


「ええ、本気よ。あなたはあなたが思っているよりも優良物件よ。顔がいいか悪いかは個人のこのみだからいいとして、勉強もできるし、家事もこなせて、何より千代ちゃんのことを見てれば、思いやりとか気遣いができるのはみんな知ってるわ。でもあなたのそばにはとても綺麗な女子がたくさんいたから、誰も手を出さなかっただけ。だから、相性がそこまで致命的じゃないなら、私はあなたをほかの人に渡したくないとは思ってるから」


俺の勢いのような告白を受け入れてくれて、俺のことを嫌いではないという。もうこれはけじめをつけるべきか。


「わかった俺も覚悟を決める」


ここまで来たら俺もけじめをつけよう。


ここで、町子と結ばれればいろいろとなぁなぁな全てのことに覚悟ができる。


南とのこと、会長とのこと、栄子とのこと、千代とのこと、もういろいろ考えなくてもいい。南のこと、南のこと、南のこと、忘れよう、記憶のかなたに。


「じゃあ行くわよ……」


もうすべてを任せよう。流れのままに。俺は目を閉じて観念した。


「ああ、来てくれ南」


「……………」


あれ? さっきまでのあったかい空気がどっかに飛んでった感じが?


ゴン!


「ふぁっ!?」


俺が目を開けると、とてつもない笑顔の町子が目に入った。


出会ってから1番の笑顔だ。だが、とてつもなく怖い。なんだ、なんだこの恐怖感は、そして、顔に感じるこの痛みは……、殴られた?


「…………にこっ」


ゴン!


え、また殴られた。


なんで? マウントとられてるから、抵抗もできない。俺はどんどん殴られる。


「あなた、ここまで覚悟の決まった女性の前で、違う女性の名前を呼ぶなんてどれだけ失礼なことかわかっているかしら?」


「え、え、? なんのこ」


また殴られる。


「あなた、おもいっきり南って言ったわよ」


「え、そんなはずは」


「……無意識なのね。なおさら問題だわ。とにかく南ちゃんのことを忘れるまで、殴ろうかしら」


「ま、待ってごふっ」


町子の容赦ない攻撃が俺を直撃する。


力はそこまで強くないが、それでも顔面への攻撃はつらいものがある。


「う……うぅ……。南はこんなんじゃ……ない」


「……プチっ」


ん? また俺余計なことを無意識に言った気がする。そして、何かが切れる音がした。


そして、俺はなぜか威力のあがったうえにげんこつでの攻撃を受ける羽目になり、いろいろな痛みで顔を覆って泣くしかなかった。


「はぁ……、結構優しいモードも疲れるの。でも溜まってたもの全部出せて気持ちよかったわ」


「……あそこまで入れることないのに……」


俺がさめざめと泣いていると、栄子たちが部屋に入ってきた。




「……、つまり、ベッドに一緒に入っておきながら、何もなかったってことね」


「はい、ごもっともです」


正座して女子に囲まれる姿の悲しいこと悲しいこと。


「というか、ずいぶんと南ちゃんに対しての幻想があったのね。それは私も読み違えたわ。というか、このへたれが」


この人顔面にそこそこダメージを受けた俺に対して一切の躊躇がないな。


「お姉ちゃん……、お姉ちゃん……」


まぁそれも無理はない。俺が傷つけた女の子が結果的に町子だけでなかった。栄子もそうだったのだ。


「今日1日私とえっちゃんはずっと2人をつけていた。でも、えっちゃんはケー君と一緒にいる町ちゃんを直視できていなかったんだ。その話を聞いた時点で、こうなることは予想しなければならなかった。私も悪い」


「いや、千代は頭を下げるな。俺も悪い。いや、俺が悪い。町子もごめんな」


「ううん、私は……、いいんだけど」


町子が布団から出て立ち上がった途端、栄子は涙を流し始めて、お姉ちゃん、お姉ちゃんといい続けていた。


そう。俺と同じくらい、いや、俺以上に俺と南の関係を大事にして、南になついていた彼女にとって、南のことは本当に特別だった。そして、今日の町子の格好は、昔の南に瓜二つなのだ。それを直視して、栄子は南との思い出をいろいろ思い出して、ずっと町子から離れない。


「……これならひたすら突っかかってるほうがましだったよな」


「ええ……。こうなることは私も想定できたのに、町子ちゃんに南の昔の服装を教えたのは私だから」


「ああ、会長でしたか」


「他にもいろいろ私が裏で動いてたのよ。これで、苦労はぱーね」


この人はどんな暗躍をされていたのか。


栄子の泣く姿なんて、いつ振りだろう。


もちろん、小さい頃泣いてたのを見たことはある。でも、南が死んだ頃は、俺は自分のことで精一杯で周りがどうなっているかなんて知らなかった。


でも、今の栄子を見て俺は初めて自覚したのだ。南が死んで悲しかったのは、俺だけではない。


きっと、俺の知らないところで、栄子はもちろん、会長も、千代も、颯斗も泣いていたはずなのだ。


だけど、俺がずっと立ち直れないから。俺を支えるためにみんな、その気持ちを俺に見せないようにしてくれていたのだ。


俺はそれなのになんだ。4年経っても南のことを吹っ切れず、南に悪いからという気持ちで女子を近づけず、周りにいる女子とも関係を持たず、あげくに見た目が似ているという理由だけで町子に告白し、肝心な場面で、名前を間違えて傷つける。



今のこのあまりにも痛ましい光景は、全て俺が原因だ。そして、こうしている今も、俺は南の面影から卒業できていない。最低だ。


「はぁ……」


栄子が泣きつかれて眠ってしまったので、町子がため息をつきながら俺を見る。


「栄子ちゃんが私を拒絶した理由が分かるわ。あの子はあなたと同じで、南さんのことを忘れられてないのよ。だけど、あなたと違うのは1つ。自分なりに吹っ切ろうとしてたの。栄子ちゃんは」


「ああ、俺よりずっと立派だ。栄子は」


俺は栄子がただ単に思い出に縛られているのだと思っていた。でも真実は逆。思い出を吹っ切ろうとしていたからこそ、瓜二つな彼女を受け入れなかったのだ。


「ねぇ桂太郎」


「なんだ?」


「ちょっとお話したいことがあるの。桂太郎抜きで」


「え? 俺無し?」


さすがに驚いた。この件については当事者も当事者だろう。俺を抜いて何話す?


「いいから、2階にいって、絶対に私が呼びに行くまで出てこないで、聞き耳も禁止! もし聞いてたら、殺すから」


「は、はいー、じゃあ終わったら読んでください」


俺は超特急で2階に逃げた。


いや、だって今のあいつには南の件抜きで逆らえないし。





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