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20話

「ふふーん」


「あのー、町子さん?」


「何かしら桂太郎さん?」


「いや、俺の言い方にあわせなくていいから、じゃなくて、密着しすぎて歩きづらい」


喫茶店から家に向かっているが、喫茶店で隣の席に座ったときくらいから、やったら距離が近い。


「あら、問題あるの?」


「いや、問題はないんだけど」


ここら辺は完全にご近所だからやや居心地的に厳しい。


「これからのことを考えたら、ムードがほしいじゃない、ムードが。今私けっこうドキドキしてるよ」


……俺もやばいな。いろいろ急展開だけど、決して流されているわけではない。



というわけで家に到着した。


現在家は暗く、基本的には誰もいない。


だが、1つだけ気になることがある。


栄子はこの家のカギの在り処を知っているのだ。


家の玄関の横の植木鉢の下にある暗証番号がついたキーケース。この暗証番号は会長と栄子だけが今は知っている。栄子は金曜日と土曜日に俺の家に来るので、俺の都合と合わなくても家に入れるように。会長はいろんな意味でである。


つまり、今日何らかの情報をとか、あいつのたまに発揮する野生の勘で、今日家に乗り込んでくる可能性もなくもない。


ガタガタ!


ドアは開いていない。


そしてキーケースチェックだ。


カランカラン。


植木鉢を持ち上げ、キーケースを揺らすとカギが入っている。つまり家に今は入っていないか。


「どうしたの?」


「いや、ここにな、スペアキーが入ってて、この番号を栄子が知ってるんだ。今日は邪魔されたくないから、このカギは隠しておこう」


とりあえず今は家に誰もいなさそうである。となると、邪魔されるとしたら、この後だから、ここは一旦カギを隠そう。


「へー、合いかぎかー。私も番号教えてよ」


「ああ、そうだな」


今後彼女が家に来る機会は増えるだろう。教えておいてもいいかな。


「靴もない。冷蔵庫が開いた気配もないし、トイレも触られてない。よし、今日は来てないな」


栄子は細かいことをするのは難しい。あいつはやたら冷蔵庫の飲み物を触るし、お手洗いに入った後のドアは閉めない。


「じゃあ、今日は絶対邪魔が入らないわね」


「ああそうだな」


「…………、今日、いいよ」


「え、でも初日だし、お試しだしさ」


具体的なことは何1つ言っていないが、つまりはそういうことだろう。しかし、付き合って1週間も経ってないわ、お試し期間だわ、今日初デートだわいろいろ早い気がする、いや、そういうもんなのか。経験値がないからわからん。


「いいの……、今日1日私のためにいろいろ考えてくれたのが分かったし、いい付き合いができるんだと思う」


「で、でも……」


「ダメ?」


「ダメじゃないです」


あ、しまった。


「じゃ、まず部屋に行って、準備して、シャワーを浴びて、そのあとは……ね」


やばい、これは本気だ。すっげぇドキドキしてきた。童貞的なものを卒業する平均年齢っていくつくらいなんだろう。17歳なら早いんじゃないだろうか。


そして、俺はいろいろ覚悟して部屋を開ける。


「へー、結構きれいにしてるんだね」


彼女を部屋に入れるというのは緊張する。いつもの自分の部屋なのに、妙な緊張感があって、いろいろ感じない。


「なんか女の子の香りがするね」


「まぁ結構家に栄子や千代がいるからな」


栄子だと柑橘系の香り、千代だとちょっと和服の香りがする。千代の家は代々続く呉服屋さんだからな。


会長も甘いお菓子みたいな香りがよくする。南の香りは太陽みたいな優しい香り、そして町子も同じ香りがする。


颯斗以外の友人を家に呼ぶと、女の子の香りがよくするから、いろいろ疑われる。何にもしてないけど。


「最近千代ちゃんが来たの? いつも千代ちゃんからする香りが強いけど」


そういわれると確かに千代の香りが強いな。最近家に来たっけ? 


「布団もキレイだし、男の子の部屋ってもっと散らかってるイメージあったけど」


「まぁ家事やってりゃさ、散らかすとかえって面倒なことが多いから」


「へー、布団も清潔そうだし……、え?」


「どうした……え?」


町子から声が聞こえてきたので、振り向くと、俺の目に信じられない光景が広がっていた。


「むー……」


「……千代? 何してんだ」


千代が俺の布団にいた。


まぁそれは百歩ゆずっていいとしよう。栄子と違って、千代は基本的に家に泊まることはないが、家に来て、このベッドに横になっていることは割とある。


だが、その状況に問題がある。


なぜか千代は新聞とかを閉じるビニル紐で縛られていて、口元はタオルで縛られていて、なぜか胸元には、『桂太郎様贈与』と書いてある。


「…………、えーと、私はこういうプレイでも受け入れなくもないけど……、ちょっと縛られるのは」


「待て、いろいろ説明をさせてくれ!」


しばらくの沈黙の間に町子がひきつった笑顔で、俺にそう言ってきた。違う、きっと違う。


「む~」


「と、とにかく千代から説明をしてもらわなくては! 千代おい!」


俺は千代のタオルをとった。


「や、やぁ、今日はお愉しみだったかい?」


「きちんと説明をしないと、さすがに千代でも手を出すぞ」


逃げられては困るので、一応紐は解除しない。


「ま、待ってくれ。私はこう見えて被害者だ。今日はいろいろ動いていて、疲れていたから、抵抗できずこうなった」


「贈与って何だ?」


「当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与えることを内容とする契約のことだ」


「誰が意味を訪ねた」


「れ、冷静になってくれ。私が自分で紐をこのように結べるわけがないだろう」


「……、栄子か」


「はーい、栄子ちゃんでーす。はっはっは、デート帰りのいいムードを、部屋にまさか縛られているチー先輩がいて、ムード台無し作戦、略して、縛られチー先輩は先輩の趣味作戦です!」


いつの間にか栄子がどこからか表れて、作戦を発表してきた。略してないし。


「えーと、これは趣味なの」


「…………」


趣味でなくもないので、否定できない。


「人の趣味を大声でばらすんじゃない」


「あ、、やっぱりそうなんだ……」


嘘はつけないので、正直にキレる。


「はっはっは、ざまぁみろー。これでいろいろ台無し……、くはぁ!?」


「え?」


栄子が調子に乗って自分の作戦を説明していると、急に栄子が白目をむいて倒れてしまった。


「いいから……、出てけー!」


その犯人は町子だった。栄子を手刀で気絶させて、縛られたままの千代と一緒に両手で持ち上げて、部屋の外に追い出す。そして部屋に鍵をかける。


「あー、もー、めんどうめんどい。なんでいいムードになるたびに、うまいこと邪魔が入るのよ。もういいわ」


「え? あのー、なんかキャラ変わってません?」


「女の子はいろいろキャラを持ってるものよ。さっきまでのは優しい私。もうそのモードは面倒くさいからやめやめ。優しいモードはもう終わり。ここからは難しいモードならぬ、気難しいモードよ」


「えーと、俺はどうすれば……」


「私はもう私のやり方でやるからね。会長さんの思惑とか細かいことはもういいわ。私があなたをもらうわ」


あわあわしている俺は、町子の勢いに抵抗できず、押し倒される。


「ま、待て。いろいろ話し合おうじゃないか。こんなに急展開でいいのか?」


「いいのよ! 話し合っているうちに、またいろいろな邪魔が入るわ! あなたのペースに乗ってたら、あと10年経っても結ばれないわ」


「落ち着けって、別に今日処女を失わなくても、死ぬわけじゃないだろうが」


「いいえ死ぬわ!」


「死ぬのかよ!」


「……イヤなの……?」


「嫌じゃないです」


「ならいいわね」


ガタン!


しまった、急に優しいモードになったから、気を抜いてしまった。


完全に馬乗りになられてマウントポジション。これでは男女の差があっても、抵抗できない。


「……うふふ、ここまで来たら、女の子に恥をかかさないでね」


俺は観念した。









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