18話
「いやー、楽しかったな」
「最後まさかのダッシュとは思わなかったけどね」
遊園地デートがいい感じに終わりそうになって、最後ゆっくり帰ろうと思ったら、思い切り千代と栄子が目に入った。
まさか監視されているのか? と思った瞬間遊園地からダッシュしてしまった。
「悪いな。せっかくデートしてるのに、空気を壊したくなくてさ」
「この様子を見られたら、栄子ちゃんなんか怒っちゃいそうだもんね」
そう言われてふと手を見ると、思い切り町子と手をつないでいた。
「あ、悪い」
慌てて手を離す。遊園地からここまで普通に電車とかも乗ってたのに、今までつなぎっぱなしだったんかい。
「別に気にしないわよ。何か逃避行みたいで面白かったし」
けっこうノリがいいので、トラブルやミスも気にせず受け流してくれる。こういうところは彼女のいいところである。初心者に近い俺はミスも多いのでありがたい。
デートの最後でランニングをしたのに、笑顔で許してくれるとは、いい子というか、器量がでかいんだな。
「でも、途中で抜け出しちゃったから、まだ少し時間があるわね」
時間がすごく中途半端な時間だ。解散するにもちょっともったいない。
「それじゃあ喫茶店にでも行きましょ。まだお話したいし」
そして町子は俺の腕を取ってくる。顔も近い、吐息がかかって、俺のまつげが揺れているような感触である。
どきどき、雰囲気だけでなく、なんとなく香る女の子の香りも南……、違う違う違う!
俺はどうしても出てくる南の幻影と戦いつつ、町子と喫茶店に入った。
「それにしても、本当にそっくりよね。私と南ちゃんっていう子」
あえて触れないようにしていたのに、喫茶店に入って注文してすぐにまさかの町子サイドから話を振られた。
「ま、まぁな。会長が教えてくれたのか」
「ええ、この前写真を1枚もらったの。これだけど」
町子の持っていた写真は、今は付き合いのないメンバーを含めて、1番会長グループの人数が多かった頃の写真だ。
「皆小さいわねー。あ、でも千代ちゃんと栄子ちゃんはあまり変わってない?」
「栄子はあれでも小学生のときはそこそこ大きかったからな。あの頃から伸びなくなった。千代はまぁいろんな意味で変わってない」
しかし南がいなくなってから、改めて南の写真を見るようなことはしなかったので、久々にこの写真を見ると懐かしさと物悲しさの両方を感じる。
「……改めて言っちゃうけど、私に桂太郎が告白してきたのって、やっぱその辺だよね」
うーん、改めて言われると心苦しいものがある。
「い、いや、それだけってわけじゃないけど……」
とは言っても、はいそうですね。とは言えず、候答えるしかない。
「へー、じゃあ他にどんな理由が?」
「え、えーと」
「簡単な理由じゃないよね。告白ならまだしも、求婚してきたんだから、ね?」
「えーと、……イエス、フォーリンラブ的な?」
「わー、抽象的な上にてきとー」
すっげぇ無表情だ。いかんな。町子は悪い子ではないが、ごまかしが適当に聞くわけではない。
素直になろう。あの時の俺はただ町子に南の面影を重ねて暴走しただけだ。
「悪い。町子の言うとおりだ。怒られても仕方ない」
「別に怒ってないよー。別に私は相手が超イケメンでも、石油王でもメジャーリーガーでも、いきなり求婚されて結婚しようとなんて思わないから。でも、求婚はともかく、告白は嬉しかったって、言ったじゃん」
「…………」
「焦らなくてもいいよ。せっかく縁あって、こういう付き合いができるようになったんだから、私が桂太郎の彼女である理由は跡付けになってもいいし、今のところ、致命的に合わないところとか、生理的に無理なところはないし、気軽に付き合ってこ」
俺と町子の出会いからの告白は、もし出会いから告白までのタイムを競う競技があれば、世界トップクラスを競えるような速さ。つまり、勢いもいいところである。
その流れでの付き合いということもあるから、南のことを抜きにしても、周りが俺のことを気にしてくるのは分かる。
しかし、この出会いをやっぱり奇跡と感じるのは間違っているのだろうか。運命という浅くも意味のある言葉に昇華できるものではないのか。
「ふふっ」
「え? おい町子」
喫茶店の席はもちろん四人が座る席で、向かい合って座っていたのだが、俺が運命やらなんやらと考えているうちに、町子が隣に座っていた。
「ぴとっ」
「ま、待て待て、こんなところで」
比較的周りに人が少ないとは言え、喫茶店という店内で町子が俺の肩に頭を乗せてきた。これは慌てる。
「なぁに? イヤ?」
「い、いやじゃないが」
むしろ嬉しい。ちょっと肩に感じる重みに一切の不快感がない。
「だったらいいじゃない……。私達恋人同士なんだから……」
うぉー、ちょっぽり頬を染めてその発言は反則だろ。
体が熱を帯びるのが分かる。
ここが公共の場ということも忘れて2人の世界に入ってしまいそうだ。
「……皆がうらやましいわ」
「え?」
「だって、皆は桂太郎と長い付き合いがあって、固い友情で結ばれてて、私にだけそれが無いのが少し寂しくなっちゃった」
「…………」
これは俺の落ち度だ。俺は町子と話すときに、割と今のメンバーの話をすることも多い。俺にとって会長グループのメンバーは、切っても切れない関係。それだから、付き合う彼女相手でも、そのことは話していた。
「いいの。あなたと会長さんたちのグループに関係って素敵だと思う。きっと大人になっても、確かな関係をつないでいけるんだろうなって、思っちゃう」
「そうか? あんな感じの関係ならいくらでもあるだろ」
「いいえ、小さい頃長い付き合いがあっても、ひょんなことから関係は崩れてしまうものなの。なぜかって? 皆なんだかんだで、自分のことが大事になってくるから。友人っていうのは、楽しいことを共有するだけ、辛いことも共有できる友人はそんなにはいないものよ」
「町子、なんかあったのか?」
「うーん、ちょっとなくもなかったかな? でもその程度で崩れるなら、その程度ってこと。でもあなた達はそうじゃない。皆自分のことより他人のことを気にしてる。会長さんは、みんなのまとめ役としてそうしてるし、千代ちゃんもできることは少ないけど、いろいろケアしてる。栄子ちゃんは一見暴走してるけど、結局はあなたやグループのためのこと颯斗君もあなたのために本気で注意したりしてる。そしてあなたも、栄子ちゃんや、千代ちゃんのことを本当に気にしてるし、会長さんや颯斗君のこともなんだかんだで頼まれれば断らない。そういう関係が素敵って事」
俺にとっては、その関係は当たり前だし、千代や栄子のことも俺がやりたいからやっているだけではある。でも、俺達のグループが男女一緒で残り続けるのは、そう言う意味もあったのか。
「だから、私と桂太郎の関係もそうでありたいと思ってる。お互いのことを大事にして、お互いのことを助け合えるそういう関係。そういう関係が築けることが、きっと恋人として、そしてそれ以上の関係を続ける上で大事なこと。私、桂太郎とそう言う関係になれるかな?」
「……できるだろ。俺達ならきっと」
「私もそう思ってるよ」
喫茶店で本当にいい雰囲気になった。今日のデートはこれで。
「じゃあ今から桂太郎の家に行きましょ」
……どうやらまだ続きがあるようだ。ここからは一歩上のデートだ。




