プロローグB
この学校では3年生を除く生徒に何かしらの委員会の役割が与えられる。体育委員や保健委員という至って普通のものばかりである。そんな自分が入っているのは図書委員。図書委員のしい事は週に1回、本の貸し借りを担当することと、月に1回の本の点検である。
比較的楽な委員会で、受付をするとき以外は基本的にのんびりしていていいので楽である。
楽なので求められる最低人数は全体で12人とかなり少ない。それだけに競争率も高いが、自分がこの委員会に入れたのは、ジャンケンで勝ったとか、くじを引いたとかそういうことは一切ない。1日2人で担当する図書委員で、もう1人の相方がどうしても図書委員である必要があり、その相方が、自分を指名したので
ある。
「で、お前はなぜここにいる?」
「やだなぁ先輩もぅ。先輩の送り迎えは後輩の義務じゃありませんか。お気になさらず」
学校内で送り迎えもなにもあったもんではないと思うが、栄子はやたら自分を送り迎えしたがる。放課後に限ったことではない。
腕を組んで引っ張ったりしていれば恋人らしく見えそうなものだが、会長と比べるとじゃれている感が強く、仲のいい兄と妹という感じにしか見えないし、自分もそう感じてしまう。
「では、図書室につきました。頑張ってください!」
「栄子も気をつけて帰れよ」
「私はまだ用事ありますので」
「何かあったか?」
「私も委員会です」
「お前が頑張れよ」
「へへーん。では、補修が終わったらまた来ます~」
元気に手を振って走っていく。委員会の何が楽しいのか。
この学校は進学高だが、公立高校であり、図書室が極端に広いわけでもなく、普通の教室より少し大きいという程度だ。
図書室にはきちんと自習室という場所が提供されているため、図書室で勉強するという人も少ない(参考書などはそちらの自習室におかれている。しかも自習室ではある程度の飲食や私語が禁じられていないため明らかに自習室の方が心地よい。
そのため、純粋に本を読む人だけが集まる場所であり、基本的にはものすごく落ち着いた場所である。
そんなところで本も読まずに突っ伏している生徒が1人いる。
「おい、図書委員が寝てどうする」
「むむぅ、やぁケーくんか。今日も朝が早かったんだ。仕方ない」
彼女の名前は、鶴舞千代。同じく会長グループの一員だが、彼女は自分が誘い入れた。
会長は基本的に自分でメンバーを引き入れ、ほかの人の推薦を滅多に許可しないが、彼女はその例外の1人である。 俺のことをケー君と呼ぶ。桂太郎だからである。
腰まで届く黒髪ロングの和風美人。スレンダー体系でおっとりとしている。
彼女を示す特徴はとにかく弱そうということである。
いつもフラフラしていて周りにフォローされまくっている。
小学校時代の最後のクラス替えのときに彼女を初めて見たときに、なんと危なっかしい子だと思った。
その時に主に彼女をフォローしていた1番の友人が親の都合で転校。ほかの友人に頼んでいたが、その子ほどの成果は上がられず、よく廊下で倒れていた。
その子とは自分も少し友人関係にあったため頼まれていたこともあり、彼女を世話好きの会長がいる会長グループに誘ったのである。
会長、自分、栄子含め世話好きが多いこのグループにおいて彼女は完全な立ち位置を確立し、今に至るのである。
「私5時起きなんだよ~、おばあさんになったら1時起きくらいになってしまうね」
「千代が5時起きなのは朝食と登校に3時間もかけるからだろう」
彼女は異常なほど体力が足りず、行動が全体的にものすごく遅い。ただ、弱そうというだけで、病弱ではないので、思い切り叩いたりしても大丈夫だし、病気にかかったこともない。
彼女が会長グループにい続けられたのは、とにかく面白いエピソードが多くあるからである。会長は楽しいのが好きなのである。
「まぁいいや。また会長が女の子に告白されたらしいぞ」
「ほほぉ、今回はどんな感じなんだい?」
「ややこしい感じ。自分が恋人役をやらなきゃいけないみたい」
「それは面白い。私に厄介事がこなさそうなところがなお良い」
「少しは本音を隠せ」
ひょろひょろしく大人しそうなその見た目から意外とお調子者でマイペースというギャップ。その受けがよく、クラスに友人も多いいろいろ不思議な子である。
彼女が図書委員である理由は、唯一ずっと座ってても良いからであり、彼女の面倒をみれるほどの生徒が自分を除いていないため自分も必然的にそうなったのである。
「しかし、そんな私でも嫌なことはあるわけだ。昨日はやけ食いをした」
「おおう、珍しい。1週間に1回しか食事せず、160センチあるくせに38キロしかなく、光合成してんじゃないか疑惑もある千代が」
彼女は本当に軽い。グループメンバーでは栄子以外なら片手でもてるほど軽いのである。基本的には人望があるのだが、この点だけは女性の敵になりやすい。
「で、何を食べたんだ」
「ドーナツが1個あって、それを昨日半分食べて、今日はその残りを食べた!」
「おお、千代が2日連続で何か食べるなんて、ってどこがやけ食いやねん」
一応突っ込んだが、彼女が2日連続で食事をしているというのは本当に珍しいことなのである。骨粗鬆症かなんかにならないか不安なのだが、彼女が健康診断で引っかかることは1度もなかったし、病歴もない。おそらくグループメンバーで1番健康なのは彼女なのである。
「そのドーナツは自分が推薦した1個300円のやつだろう。1日おいても美味しかったか? あれは一応当日期限だぞ」
「かまへんかまへん。2、3日なら過ぎてもいける」
彼女は余り食べないが異常にグルメなのである。好物が大田原牛のステーキ(最も厳選された部分で100グラム10万円を超えることもある日本でおそらく1番高い肉)と、ズワイガニ(地元流通で1匹3万~5万)なのである。彼女は完食もほとんどせず、水分は取るが水とお茶と紅茶のみ。食事にも何もかけずに食べるため、舌がかなり肥えているのだ。別に普通のものも文句言わずに食べるので、わがままというわけではないが。
「君の勧めてくれるスイーツは実に上手い。どこで見つけてきたんだい」
「ああ、それは……」
「おっと触れてはいけない部分か、失敬失敬」
重い話も彼女にとっては軽い話。変に気を使われるよりはいいが軽すぎる。
図書室の仕事は少なく、いつもどおり適当な雑談をして終わる。
「先輩! お勤めご苦労さんでした!」
図書室の外に出ると栄子が待っていたので3人で帰宅をする。
自分は自転車で来ているが、その後部座席に(荷物を置けるところのこと)千代を乗せて帰る。
朝方はのろのろしていてもあまり問題ないが、彼女をほっとくと帰宅が夜になってしまい少し危ない可能性があるためいつも送り迎えしている。15分もかからない。
栄子の家は自分の家から近いが、自分の家を経由すると少し遠回りになる。本来なら2つめの信号で別れるのが良いのだが、彼女は家までついてくる。
「毎回言うけど、家までこなくてもいいんだぞ」
「何言ってるんすかー、先輩たちの送り迎えは私の役目ですよー」
「いやーご苦労さんです」
水を飲みつつ自転車に座る千代。周りから見ると彼女は何様なのかと疑いをもたれそうである。
「しかし、チー先輩(千代のこと)は本当にそんなんで生きていけるんですか?」
「いやーなんとかなるんじゃないのかい?」
「まぁ本当になんとかなりそうだもんな」
飲み水さえあれば彼女が単純に一番長生きできるだろう。細く長く生きるを体現できそうである。
「まぁそんなに長く生きようとも思ってないさ」
「チー先輩!」
「栄子。大丈夫だから」
千代を家に送り届けると栄子と2人になる。
「ったく、なんでチー先輩はあんなにデリカシーってもんがないんですか! 先輩の前で長生きしたくないなんて言うなんて!」
「いいんだ。あれくらいの方がいい。変に気を使われない方がいい」
「むー。なんで先輩はチー先輩にあんなに優しいんですか?」
「お前にも優しくしてるつもりだが」
「違うんですよー。会長に優しくしてくださいよー」
少し怒った顔で栄子がいう。
「会長? なんでここで会長が出てくるんだ?」
「先輩は会長とひっついてくれないと困るんです。あんなひ弱なチー先輩とひっついた日には私も心労で先輩の新郎姿を見たとたんダウンですよ。1RKOですよ」
「もしかして毎回お前が帰りについてくるのは……」
「チー先輩と2人きりにさせないためですよっ」
真面目な顔で言ってはいるが1つ思う。やっぱりこいつは馬鹿である。
「あいつと自分にそんな関係があるように見えるのか?」
「見えないっすけど……、チー先輩と先輩はなんかお似合いなんすよ。会長と比べても遜色ないです」
タイプは違うが会長と千代は確かにかなり話しやすい。この年になっても普通に男と女が友人関係でいられるというのはすごいことだと思う。
しかし、会長にしても千代にしても、もちろん栄子にしても自分がそういうことを考えるにはまだ時間がかかると思う。自分にとってあの子は特別だった。
「先輩、ではまた明日! 明日こそ会長とひっついてくださいねー!」




